ちい姫さまの恋事情
移ろい  10/17



「お願い、ですか」


「そう。今夜は月が真上に登るまで、起きていてくれないかな」


月が真上に。
宮さまがそのころにここへ忍んでこられるということなのかしら……。


「ああ違うよ、そうじゃない。夜這いしようなんてこれっぽちも思っていないから安心して。そうだなぁ、あの釣殿からひとりで見る月が、一等きれいだと思う」


「ひとりで、ですか」


宮さまが視線を向けた先には、私からは見えないけれど東の釣殿がある。
私がいる東の対からはそれほど遠くないから、夜が遅くても一人で行ける距離と判断したのかもしれない。
ひとりということは、浮草やささらも側に置いてはいけないということ……よね。


「女房たちには近くに控えて貰って、釣殿にはちい姫がひとりで来てほしい。ひとりは怖い?」


「いいえ、大丈夫です。宮さまのお願いですから、そのようにいたします」


宮さまがこちらをじっと見つめていたかと思うとゆっくり立ち上がり、几帳を越えて私のいる茵の前まで踏み込んできた。
そして扇を持っている私の手に自分の手を重ねる。


「僕を信じようとしてくれて、ありがとう」

ふわりと香る、宮さまの甘い匂い。

「月を見ようが朝を待とうが、ちい姫が望むほうを選んでほしい。僕は有明の月だから」

目と目が合い、逸らそうと思っても逸らせない。
久しぶりに間近で見る宮さまのお顔が相変わらず美しいものだから、持っていた扇を奪われたことに気づかなかった。

僕は有明の月。それだけ言い残して、宮さまは去っていった。

月を見ようが、朝を待とうが。宮さまが何を示しているのかは分からない。
でもその答えが分かる頃にはきっと、このどうにも出来ない心苦しさからは開放されるのだろうと、扇が無くなった手元を見ながらぼんやりと思った。




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