ちい姫さまの恋事情
雪融け  11/11



「宮さま……あの、わたくし……っ」


「ちい姫はあいかわらず、小さいね」


宮さまの腕の力が強くなり、温もりもとても近くで感じるから、胸が跳ねる。
指先が絡まり、逃げようとしても力が入らない。


「とても小さいから、一目見て、気になってしょうがなかった。あの塗籠にちい姫を引き摺り込んだのは、体が勝手に動いていたからなんだ。この子をちゃんと見ておきたいって」


宮さまが慈しむように私の髪を撫でる。


「髪が綿のようにふわふわしていて、真っ赤な顔をしていた姫君がとても愛らしく思えた。だから、その姫が持っている扇を少し借りたんだ」


それを返すことを口実にまた、ちい姫に会えると思ったから。
言いながら、宮さまはいたずら好きな子どものように目を眇める。


「そんな折、道楽から大納言家の姫君を助けてくれって頼まれて、これも縁だと思った。もちろんそんなことがあるのかって戸惑ったけど、ちい姫のことを知るたびに放っておけなくなったから、協力することにしたんだ。結果的に言えば、衛門督が一枚上手だったけれどね」


ちょっと悔しかったな。と宮さまが薄く笑った。

私、宮さまがそこまで私のことを気にかけてくださっていたこと、何も知らなかった。
そうだわ……最低だったのは、私のほう。


「宮さま、申し訳ございません……。本当に」


「気にしないでいいよ。ちい姫に謝られたら、僕がこれまでしてきたことが無駄になってしまうから」


「でも……宮さま」


「僕は衛門督を懸命に恋慕っていたちい姫が、好きだったんだよ。振り向いてもらえなくても、気づいてもらえなくてもただ真っ直ぐに、ちい姫が好きなんだ」


「わたくしは……」


まだ、宮さまのその想いに応えることができない。そんな資格だって持ち合わせていないのだもの。柾路さまをすぐに忘れられる自信だってない。


「分かっているよ。衛門督への気持ちを捨て去ることなんて、ちい姫にはできないって。僕のこの想いで苦しめることもしたくないから、今は何も考えなくていい。ただ心の傷を癒すことだけを考えて欲しいんだ」


なんて、優しい方。
今すぐにでも応えることができたらどんなによかっただろう。この力強い腕の中から、抱きしめ返すことができたなら。


まだ、だめなの。



だから私は、何も言えずに宮さまの胸を借りて静かに泣くことしかできなかった。







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