ちい姫さまの恋事情
雪融け  10/11


宮さまに連れられて近くの塗籠へと入り腰を下ろすと、宮さまは鼻をすすっている私に「おいで」と両腕を広げる。
本来ならこんな軽率なこと許されないとは分かっているのに、なんの迷いもなく誘われるままその腕に飛び込んだ。
幼子をあやすようによしよしと背中を撫でる仕草をする宮さまは、ただ黙ってそれを繰り返す。

しばらくして落ち着いてくると、先程までいた部屋からさほど離れていないためか、兄さまや道楽、伸弘が話している声が聞こえてくる。
今後の柾路さまのことでどうするのか話し合っているのだと思う。

何を話しているのかまでは分からないのは、私の体を腕全体で覆うように宮さまが深く抱きしめて下さっているから。

どうしてこの方は、こんな私を受け入れてくれるの。

受け止めて、くれるの。

答えは分かっているけれど、それ以上に宮さまの心の広さに甘えてしまう私が許せない。
なんてずるい女。
まだ柾路さまのことで心が痛いのに、宮さまの胸で甘えてしまうなんて。

それでもきっと、宮さまは「いいよ」と言ってくださるのだわ。そういうお方だから。


「いつか、こんな風に塗籠に一緒に入ったこともあったね。あれがちい姫と初めて会った時だった」


宮さまの囁くような声が雪のように耳に優しく触れてくる。

いつかこんな風に、塗籠に。
そう。私と宮さまの出会いはこんな薄暗い塗籠の中だった。
姉さまの招きで参内していたとき、女房たちから逃げている宮さまとばったり出くわして。宮さまは私を塗籠に引き込んで、後ろから抱きしめて。それから……。
会って間もないのに、最低な人だと思ったの。

それが今や私のそばにいて、私を支えてくれる存在になるなんて思いもよらなかった。


『僕が……一度でもちい姫を守れていたら、僕の方を向いてくれていた……?』


宮さまが私を陥れようとしていると疑っていた折、私の部屋へ忍び込んで、去り際に言った言葉。

一度でも、なんかじゃないわ。
宮さまは出会ってからずっと、私を守っていてくれていたもの。
柾路さまのことばかりに気取られて、騙されていて何も気づいていなかった私を、ご自分のお立場も顧みず守っていてくれていたの。

今ならわかる。宮さまがあのときとても傷ついていたお顔をしていた理由が。
ああなんて、私はばかなの。



しおりを挿む

[*前へ] [次へ#]

<237/278>


top

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -