ちい姫さまの恋事情
雪融け  9/11



「い、った……」


廂に出てはたはたと袿の裾を引きずりながら廊を駆け抜ける。無意識のうちに庭に出ようと階を降りようとした時、躓いて転んでしまった。
幸いにも外は雪が降り積もっていて、地面に受ける衝撃はない。

起き上がるために雪の上に手をつくと、じんじんとそこから熱が奪われていくのが分かる。
私の心の熱も、同時に冷やしていって。

冷たい。
冷たくて、痛い。


あぁ、あぁ。


「柾路さま……っ!」


冷たい空気が熱くなった目頭を冷やしてくれると、そう思ったのに。
余計込み上げてきて嫌になっちゃう。

柾路さまのことが本当にすきだった。
そのままあの場にいたとして。彼の口から何を聞けたのだろう。たとえ柾路さまが私のことを好いていてくださったとしても、決して結ばれることはないの。

それが理解できないほど、もう幼くはない。
もう“ちい姫”なんかじゃない。



「そんなところにいたら、冷たくはない?」


階の上から、声がする。
裸足のまま、雪の上に降りてきて私のそばで屈んで顔を覗き込んで。
心が打ちひしがれている時に手を差し出してくれるのは、いつだってこの方だった。


「宮さま……」


「ほら、僕の手を掴んで」


宮さまも外にいるのに、包み込んでくれた両手はじんわりと暖かい。
ううん。それほどまでに私の手が冷えていたということ。


「宮さま……」


「うん?」


「みや、さま……っ」


「うん、寒いね」


「みやさま……!」


「うん」


うわ言のように宮さまを繰り返し呼ぶ。宮さまはただただ寒いね、冷たいねと返し私の両手を自分の手で擦り合わせて温もりを生んでくれる。

先ほどまで血色のなかった指先が、ほんのりと色づいてきて。
それがあまりにも優しかったから。

私はとうとう泣くのをこらえることができなかった。





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