ちい姫さまの恋事情
雪融け  7/11




「柾路。俺のために大納言を、大納言家を陥れるのはもうやめにしないか。お前にはこれ以上間違って欲しくないんだ。分かるな?」


道楽が項垂れる柾路さまを覗き込むように視線を合わせると、ゆっくりと柾路さまが顔を上げる。そしてはい、と静かに頷いた。
その言葉を聞くや否や、道楽はこちらへ向き直り柾路さまの頭を床につくほど下げさせて、自身も同じように深く深く頭を下げた。


「我が愚弟ながら、それでも唯一血の繋がりがある弟だ。右兵衛佐、お姫さん。大納言家のためならなんでもしよう。この弟とともに償う」


「……分かった。ちい姫を救ってくれたそなたに免じて、そなたのことを信じよう。だが、私は柾路に問いたい」


兄さまが依然頭を下げる柾路さまに、強い口調で言葉を投げかける。


「そなたはもう、私たちに思うことはないな?ちい姫を手にかけようなど二度と思わぬな?」


「あぁ。思わない」


柾路さまが顔を上げる。
その表情は以前のような精悍な面持ちをしていて、先ほどよりも生気が戻っているような気がしたから。私は少しほっとしてしまった。


「兄上が言っていたことがすべてだよ。大納言家ではなく、父上を憎むべきだった。兄上に言われるまで気づくことができず、このような愚かな行為をしてしまったことを悔いている。本当に、すまないことをした。すまなかった……!」


「あい分かった。そなたがそういうのなら、また信じてやってもいい。だが左大臣家はおそらく、このままでは済まされないだろうな」


「主上には僕が奏上するよ」


二人の会話に宮さまが口を挟む。
そうだった。この方はそういうことができる方だったわ……。


「こうなった以上、左大臣家は過去の過ちを正す道しか残されていない。左大臣家は位を返上し参内することも出来なくなるだろうね。もちろん衛門督、そなたも」


宮さまの澄んだ声が事実を突きつける。まるで雪解け水のように冷たいようで、でも何かから解放されるような。
柾路さまもそれを待っていたかのように静かに同意を表している。


「分かっています。許されようとは思いません。それほどのことを私はしてしまった。この都を出て行くことになるでしょう」


「出て行く前にさ」


宮さまが柾路さまの言葉にかぶせるように、少し声を張り上げる。


「そなたにはまだ、向き合う相手がいるんじゃないかな」


ぐっと、肩を押されて私は宮さまの前に出される。柾路さまがはっとしてようやく私に視線を向けてくれた。
先ほどまで痛いほどの憎しみがこもった眼差しが、今は不思議と凪いでいるのが伝わってくる。

よかった、柾路さま。もう大丈夫みたい。
それが嬉しくて、私は何も言われていないのに少しだけ微笑んでしまったから、柾路さまは驚いた表情をしていた。





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