ちい姫さまの恋事情
雪融け  2/11




「なぜ、斬れない。兄上の代わりにこれを受け継いだその日から、どんなものでも斬れていたというのに、なぜ……!」


「なぜ、ねぇ……。弟がこうなってしまったのも俺に責任があると思って受け止めてみたが、なるほど元はただの飾太刀。正しい持ち主は斬らないとそういうことなのだろうよ」


「正しい……持ち主だと?」


「まぁ流石に峰打ちされたようなものだから、痛いことには痛いがな」


くっ、と笑いながら道楽は柾路さまの前で身を屈ませ、朧太刀を手にとった。
手首を器用に捻って太刀の状態を確かめる。


「ただの飾太刀がお前の大納言家への憎悪の念を吸って、妖刀になってしまったんだろう。俺を斬ることが出来ないのは、今のことでお前が一番分かっているんじゃないのか。柾路」


道楽は拾った朧太刀の切っ先を柾路さまに向ける。

不思議と、太刀の主は道楽だと朧太刀自身が言っているみたいに、その手に馴染んでいるように見える。
それを見た柾路さまの、その表情から覇気を無くしたのが見て取れた。


「あなたが、兄上……なのですか」


「すまないな。こんな成りでもお前の兄であることには変わりない」


道楽の顔は、弟に向けた情けと遣る瀬無いといった悲しい微笑みを湛えていた。


「ちい姫、大事ないか……!」


柾路さまがもうこちらに害を及ぼすことがないと判断したのか、兄さまが私の方へ駆け寄ってきて物凄い形相で私を上から下まで確認する。
念入りに見た後、どこも怪我をしていないことを確認した兄さまは大きく安堵の息をついた。
兄さまにもとても心配をかけてしまって、私があのまま柾路さまの手にかかってしまっていたらと思うと背筋が凍るような思いだわ。
とてもとても悲しんでしまう人がいるのだもの。

私が宮さまに抱きしめられているということについては気づいていないようで、安心したのも束の間、兄さまは柾路さまへ右腕を大きく振りかぶった。




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