ちい姫さまの恋事情
路唯  16/16



「そんな物騒なものを向けてくるくらいなら、ちい姫から離れてくれないかな。衛門督」


幾人かの足音が近づいてきて、部屋に入ってくる。その筆頭に宮さまの姿があり、いつもの穏やかな表情とは違いひどく険しい顔をしている。
その原因が私に向けられた刃だということに気付いたのは、こちらに駆け寄ってきた宮さまが私をかばうように抱き寄せた時だった。

宮さまの鼓動と薫りが私を包み込む。どこかほっとする、優しくて甘い匂い。
――あぁやっぱり、この薫りだったのだわ。

続け様に別の部屋で待機していた兄さまと伸弘、そして道楽までもが持っていた太刀を向けながら、対峙する形で柾路さまを追い詰める。
その隙に私は宮さまに抱き上げられながら、もといた場所から離れることができた。

三つの刃先を突き付けられている柾路さまは、さすがに抵抗できないためか壁に背を預ける形でずりずりと腰を下ろした。
でもまだ手には朧太刀が握られたままだから、油断はできない。


「衛門督源柾路。大納言家の姫さんに向けるには、ちぃと趣味が悪いんじゃねぇか」


道楽が視線を朧太刀へ向ける。


「刃先がぼろぼろで使い道もない飾太刀。左大臣家の嫡男にのみ代々受け継がれ今代はなぜか次郎君が持っている代物だな」


道楽の口から出たのは、柾路さまと私しか知らないはずの朧太刀の話だった。
柾路さまに兄君がいることは話したけれど、朧太刀の話はしていないもの。
どうして道楽がそのことを知っているの……?
柾路さまは震える手で朧太刀を握りしめ、道楽を睨んだ。


「なぜただの盗賊がそれを知っている」


「なぜって……俺のことが分からないのか、衛門督……いや、柾路」


道楽は道楽自身の顔に指を指す。
柾路さまは道楽の顔を訝しげに見るけれど、問いかけには答えない。私も道楽が言っていることが理解できなくて。
でも次に道楽が発した言葉はとんでもないことだった。


「あぁそうか。今は昔より髪が短いからな……兄の顔も、忘れたのか」


「兄上、だと……?」


「そう、俺こそがお前の兄。左大臣家嫡男の路唯(みちただ)だ」


そんなことってあるの……?


まさか、道楽が柾路さまの兄君だったなんて……!





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