ちい姫さまの恋事情
路唯  9/16



「ちい姫……!そんなこと、そなたは言わなくていい……!」


兄さまが私の口を塞ぐ。私を傷つけないように優しく接してくれる、兄さまの気持ちが嬉しい。
でも、痛い。
兄さまが守ろうとしてくださるほど、私は傷ついてしまう。
だって、それが本当のことだと肯定されていると分かるのだもの。


胸の奥で恋を知った心が、恋をした相手に憎まれていたと知って、悲鳴を上げながら嘆いている。
とても痛くて、息が上手くできない……。

堪えていた涙も、私の言うことなんて聞かなくて、次々に溢れ出してきた。


「ふ……、ぅ……っ」


「すまぬ、ちい姫。すまぬ……」


兄さまは悪くない。


「ごめんね、ちい姫。よく言えたね……」


宮さまも、悪くない。
勝手に傷ついてしまった、私が悪いの。


「ちい姫には分かっていて欲しかったんだ。衛門督がちい姫を狙っていて、危険だってことを。皆、ちい姫を守りたいから、その理由を分かっていて欲しかったんだ」


私は小さく頷く。
私は捨てなければならないのだわ。柾路さまを信じる心を、柾路さまに恋する心を。
そうしないと、この場にいる、私のために尽くしてくれている皆を裏切ることになるのだもの。

柾路さまを想う気持ちを、捨て置くの。


「あーあ可哀想にお姫さん、泣いちまってるじゃねぇか。別に言わせる必要なんて無かったんじゃねぇの?」


道楽が茶化すように宮さまに言う。彼なりの慰めだと思うと、少し気が楽になる。
皆、とても優しいから。
傷つくことも必要だったと思える。


「だって、衛門督がふいに現れて攫っていっては困るから。ちい姫を危ない目に合わせないために、ちい姫にも衛門督が危険だって知って貰わなくては対処出来ないからね」


「そのままにしてたら、お姫さん簡単についていっちまいそうだもんな」


「だからだよ。ちい姫の心どころか命まで衛門督に奪われるなんて、僕がさせないから」


ただ、まっすぐに。
宮さまが私に向けてくれる想いも、きっと恋という気持ち。

柾路さまを忘れない限り、受け止めきれそうにないけれど。
気持ちを、捨てる。
柾路さまを、忘れる。


――私と、結婚して下さい。姫君。こののち、誰一人としてあなたに触れさせぬと約束致します――

あの時乱れた御簾の揺らぎは、柔らかい春の風みたいだった。

私を抱きしめてくれた温もりも、低い声音も、頼もしい腕の力も、全部。
全部ぜんぶ、この気持を捨てることが出来る……?


柾路さま――。





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