ちい姫さまの恋事情
路唯  7/16



「それを言うなら、きっと兄君のことだと思いますよ」


「そうだね、右兵衛佐。衛門督は兄君が出家させられた寺院に籠もってしまった……と考えると、そなたの大納言家と左大臣家の因縁に何か関係があるように思える」


いや、左大臣家の嫡男……衛門督の兄君が直接関わっているんだろう。
宮さまが兄さまの顔を見ると、僅かに兄さまの表情が固くなったような気がした。

兄さま……?


「と、とにかく。柾路が見つかったのなら連れ戻すことが先決です。私が明日直接見に行くから、案内してくれ、道楽」


私を軽く見て、兄さまは話を逸らすように道楽に視線を戻す。
私には知られたくないことなのだわ、きっと。

柾路さまの兄君が、私達に何か関係がある……それは一体、どういうことなのかしら。



「その必要はねぇ」


「何?」


「俺が妙案でその場を納めてきたからな」


道楽が歯を見せて笑う。そして、私を見るように宮さまと兄さまを目で促した。
皆に見られ首を傾げると、道楽がその口からとんでもないことを言い放つ。


「"衛門督の兄君の所在は、大納言家二の姫が知っている。知りたくばここへ来い"と言伝している。聞く耳を持たなければ、文にでも記して渡して欲しいと阿闍梨に託してきた」


「……そんな!私は何も知らないわ!柾路さまの、兄君の所在なんて……」


本当に私、ただ柾路さまから兄君の存在を聞いたことがあるだけで何も知らないもの。
たったそれだけなのに、ましてやどこにいるか、なんて知るわけが無いわ。


「そりゃまぁ、そうだろうな」


何を無責任なことを、と問い詰めると、道楽が簡単に肯定するものだから拍子抜けしてしまう。
彼は一体何を考えているのだろう。


「すぐには衛門督も信じるとは思わねぇ。だが、左大臣家の嫡男として知られているのは衛門督のほうだ。兄君の存在を知る者が身近なやつ以外、他にいるとすればその情報に縋ってくるだろうさ。差出人が赤の他人の俺ということが信憑性を得るだろう」


「つまりはその情報を知っている者を、ちい姫ということにした、というわけだね」


「ああ。衛門督は一度お姫さんを……っと、これは言わねぇほうが良いな。……とにかくもう一度お姫さんの元へ現れる機会も狙っていたはずだ。奴にとっては一石二鳥だろうさ」


「そなた、ちい姫を囮に使うつもりか」


「否定はしねぇよ、右兵衛佐」


私が柾路さまの囮……?
柾路さまが会いに来るのに、そんな複雑な作戦がいるの?
柾路さまは、私の夫……になる方、なのに。


「――ちい姫。もう目を覚ましたらどうだろう」


兄さまの影が意味を成すことなく、宮さまの声音が鋭い刃となって私の胸の内を抉った。





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