ちい姫さまの恋事情
路唯  5/16






虚ろな意識の中で、兄さまの話す声が聞える。


「父上が言っていた。やはり衛門督と羽衣子を結婚させるべきではない、と」


お父さま?


「左大臣家と縁を持つべきではない、と」


お父さまはまだ、そんなこと言っているのね。


「父上がそう言っていたのが、やっと理解できた。邸が火事になるまで隠されていたのも、頑固と言うか、父上らしいというか……」


兄さまは何を言っているの?


「すべては――の母君に――のだな」


……良く聞こえない。もっと聞きたいと思うのに、兄さまの声が聞こえないわ。

母、君……?








「起きたか、ちい姫」


目を開けると、兄さまの私を覗く顔。
私はつい先程まで、兄さまの声を聞いていた気がするのだけれど。

……あら?
兄さまは何て言っていたのかしら。とても大事なことを話していたような――


「道楽が帰ってきているみたいだが、どうする?そなたにまだ無理はさせたくないのだが……」


「……大丈夫、です」


「分かった。ささらを呼んで準備をさせよう。私が呼びに行ってくるから、白湯でも飲んで待っていなさい」


私に用意してあった白湯を手渡して、兄さまが席を外す。
燭台に火が付いているのを見ると、どうやら今は夜みたい。
外はかなり冷え込んでいるように思えるのに、温かいのは浮草が縫ってくれた綿入れのおかげかしら。

一口白湯を飲んで、小さく息をつく。

それにしても兄さまはずっとついていてくださったのかしら。
兄さまも疲れているはずなのに。


――父上がそう言っていた――すべては――に。

兄さまの事を思うと、断片的に声が思い出される。

あれは兄さまの独り言だったのかしら。
きちんと思い出せないということはやっぱり夢?


膝を抱えながら考えたけれど、結論が出ることはなさそうだった。





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