ちい姫さまの恋事情
路唯  2/16




「姫さま、お目覚めですか……?」


妻戸が開き、ささらの少女特有の高い声が聞こえる。
私は慌てて宮さまの袍をその場にあった几帳の裏に放り投げる。
軽く砂埃が立つけれど、ささらにこの袍を見られたらなんて言い訳したらいいのか思いつかないもの。

こんな、男の方の袍を被っていたなんて知られたら。
まるで恋人……夫のものみたいじゃない。

考えるだけでも顔が熱くなる気がするから、私はささらに大丈夫よと声をかける。
するとひょっこり顔を出したささらは、私を見るなり駆け寄ってきた。


「姫さま?お顔が赤いですが、大丈夫ですか?お熱があるのでは……?」


「え、えぇ?そんなこと、ないわ」


「いいえっ!少し、失礼致します」


浮草の真似なのか、強い口調で私を押し切り、ささらの冷えた手が額に伸びてくる。
逆上せたような頭にはちょうど良い気持ちの良さだわ。


「姫さま!」


「なぁに?」


「お熱がありますよ!きっとこの寒さでお風邪を召されたのだと思います!そのまま横になっていて下さい!」


急に女房らしい態度になるささらに私は微笑ましくなりながらも、この熱は風邪のせいなのかと納得した。
そう言えば先程から息苦しくもあるし。

昨夜の宮さまのことなんて、何でも無かったのだわ。
そう自分に言い聞かせて、誰かを呼びに行くささらを見送り私は再び茵に横になった。






また目覚めた頃には、物見から入る日差しから考えると昼を過ぎていたように思う。
今朝よりは幾分かましになった気がするけれど、まだどこか意識が浮ついているのは抜け切れていない。
視線を動かすのさえ、少し億劫。


こういうのを気だるい、なんて表現するのかしら。


目の端に袴が見え、不思議に思いその主を見上げると、大内裏から直接こちらへ向かってきただろう深縹の束帯を着た兄さまの姿があった。
その視線に気づくと、傍らにいた兄さまが私の額、頬、首筋と手の甲で撫でるように優しく触れてくる。

くすぐったい。




しおりを挿む

[*前へ] [次へ#]

<213/298>


top

話題のイラストメタバース
バチャスペ
- ナノ -