ちい姫さまの恋事情
行 方  17/17




「お願いですから……言わないで……」


「……うん、分かった」


喉の奥が乾燥したかのように、声を絞り出して懇願する。
宮さまは続けて何か言いたそうにしていたけれど、すぐに言葉を飲み込んでくれた。

優しい。
宮さまは、本当にお優しい。
私が否と言ったら、そのようにしてくれる。きっと、これ以上追求してこないわ。

だから私は、その優しさに付け込んで、甘えるの。
ごめんなさい……。



「その代わり、だけどね」


触れている指先が、私の固く握られた手をこじ開ける。
一回りも二回りも大きい手を滑り込ませ、私の手と指を絡ませた。

そして、その手を引いて薄い几帳ごと、背後から腕を回されて抱きしめられる。


「み、やさま……っ」


「今だけだから、こうさせて」


片腕なのに力強く引き寄せられては、抵抗なんてできない。

むせ返るような宮さまの甘い薫りに、惑わされて。
嫌……なのに。



「ちい姫に、僕の気持ちを知って欲しい。その小さな胸に納めて、昂ぶる僕の情熱を燻らせて。ひとときでもいいから、僕をちゃんと見て欲しい」


絡ませた指から、宮さまの鼓動と、火照る温もりが伝わってくる。
掠れる声は、泣きそうなほど苦しくて。

今すぐこの腕を避けて、逃れたい。
この方から、離れなければならないのに。


僕を見て――


この声に、私は逆らえない。

ゆっくりと振り向き、顔をあげる。
燭台に灯された小さな火が宮さまの顔を映し出し、その輪郭を浮き立たせる。

恐ろしいほどに、美しくて、切ない色。


「ただまっすぐに、ちい姫がすきだよ」


短く、胸の内を明かして頬を緩める。






その瞳には、迷子の子猫のような私の姿が写っていた。








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