ちい姫さまの恋事情
行 方  15/17







兄さまが明日の出仕のため、集まりの輪を名残惜しそうに離れていくのを見送ると、今日はもう遅いと解散することになった。


そしてあの埃っぽい部屋へ宮さまに送って頂き、宮さまが望んでいたとおり二人きりになってしまった。

ここには男女を隔てる役割をする御簾がない。
だから、隅に置かれた薄い几帳を申し訳程度に二人の間に持ってきたのだけれど、薄すぎるため燭台の灯りで透けてしまいあまり意味を成していなかった。

そもそもお互い顔を知っているのだから、何も隔てる必要なんて無いわ。
そう思うのに、自分が今どういう顔をしているか、変な顔になっていないか居ても立ってもいられないから、扇でも几帳でもいい。
顔を隠したいわ……。
いつだって綺麗なお顔をしている宮さまに、見られたくないのだもの。

目の端で几帳を挟んで隣にいる宮さまを見るけれど、緊張のためかあまり良く見れない。

宮さまと二人きりなんて、仮にも柾路さまの妻になろうとしている私なのに。
いけないこと……なのかしら。



部屋に移って暫くして後、ようやく宮さまが夜の静寂をその澄んだ声で遮った。


「きっと長い話になると思うけど、聞いてくれる……?」


囁くような、静かに響く声音に否の返事を返す余裕など、私にあるわけがなかった。
宮さまはありがとうと笑ったように薄く息を漏らしながら呟き、話し始めた。


「僕がこの盗賊たちと出会ったのは、ちい姫と衛門督を呼んで宴を開く前の夜の事だった。頭である道楽が正面切って僕の邸に乗り込んできたんだ。
”大納言家の二の姫が危険な目に会うだろう”ってね」


「私が……危険な目に?」


「うん。たったそれだけだったけど、僕はちい姫の事が気になっていたから、盗賊を信用することにした。あの少年……伸弘がちい姫を傷付けないように、宴の前に太刀を預かったりもした」


宮さまが言ったとおり、宴の夜を思い出す。
だから、伸弘に攫われそうになった時、太刀を履いていなかったのね……。
忘れていたのではなかったのだわ。


「ささらという女の童から文でちい姫が結婚をすると聞いた時、大納言家へ乗り込みもした。ちい姫の気が少しでも変わるように。でも、結果として大納言家の邸が焼失したから、僕はちい姫のために何も出来なかったんだ……」


事の有りを、事細かに話す宮さまの声を、私は黙したまま耳を傾けて聞く。

私は、この方をとんでもなく勘違いしていたのかも知れない。

私が危険に晒されてしまう。
その言葉を聞いただけで、この方は動いて下さったの……?

私のためだけに、親王である己を陥れてしまうかもしれない盗賊たちと手を組んで下さったの……?


私は右手を胸に当て、背を丸める。
呼吸はちゃんと出来るのになんだかとても、息苦しい。

どうして?


「ごめんね」


「え……?」


声に気を取られている間に、几帳の隙間からやや冷えた温もりが私の左手を覆うように包み込んできた。






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