ちい姫さまの恋事情
行 方  13/17



「衛門督についてまとめるけど、彼は実家の左大臣家にも戻っていないらしい。左大臣家の者も衛門督がこんなに邸を空けるのは始めてだと言って、捜索に協力してくれると言っていたよ」


「実家以外に衛門督が行きそうな場所はねぇのか?」


「柾路が行きそうな場所か……。左大臣家の荘園か、ゆかりの寺院くらいだろうな」


兄さまが顎に手を当て、難しそうな顔をする。
そしてすぐにはっと閃いたように表情を大きく変えた。


「確か柾路は年に二、三度詣でるという寺院があると言っていた。場所は……西郊(せいこう)だったか」


左大臣家ゆかりの寺院……。柾路さまに懇意にしている寺院があったのね。
そうだわ……私、柾路さまから寺院という言葉を聞いたことがあるわ。


――兄は、出家させられどこかの寺院へと連れて行かれたと聞きました――


柾路さまのお兄さまのお話。
"どこかの寺院"と言っていたけれど、柾路さまは知っていたのだわ。それが実家のゆかりである寺院で、詣でと称してお兄さまに会いに行っていたのかもしれない。

きっと、柾路さまはそこに……。


「ちい姫?何か気付いたような顔をしているね。衛門督から聞かされていることでもあるの」


宮さまが訝しげに私の顔を覗き、私はこくんと頷いた。
柾路さまにお兄さまがいたこと、柾路さまが左府さまの嫡男ではないこと。これは誰にも言ってはいけないことなのかも知れない。

でも、私は柾路さまに会いたいもの。
だから柾路さまの居場所が分かる手がかりならば、これは皆に伝えなければならないことなのだわ。


「宮さまの邸で伸弘に攫われそうになった夜、護衛として柾路さまに宿直をして頂きました。その際、柾路さまは夜伽話としてご自身に兄君がいたことを話されたのです」


「衛門督に兄君が……?」


「柾路は左大臣の嫡男ではなかったか」


「左府さまが兄君を出家させ、柾路さまをご嫡男としておいたとお話されていましたわ」


「柾路とは随分前から親しくしていたが、聞いたことが無いぞ」


驚きの色を隠せない兄さま。そうよね。柾路さまと、あんなに仲が良かったのだもの。
宮さまも、そして道楽までも驚いた顔をしている。

やっぱり、誰も知らなかったことだったのね。


「その兄君が出家させられた寺院が左大臣家ゆかりの寺院ではないかと思うのです。だから、柾路さまはその寺院にいるのかも知れない」


「……そうか。詳しいことは分からぬが、柾路がいそうな場所として探してみよう」


「お願いします、兄さま」


兄さまが頼もしく頷いてくれる。落ち着いて見えるけれど、兄さまも柾路さまが心配でいち早く探したいはずだわ。
ふと宮さまを見ると、何も言わないのに協力するという風に笑みを返される。

その傍らで、道楽が静かに口を開いた。


「言ってしまえばここも西郊だ。その左大臣家ゆかりの寺院なら俺が懇意にしている坊さんがいるから、明日にでも話を聞いてみるさ。確かそいつは阿闍梨と言ったかな」




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