芥川慈郎の全豪オープン


☆オーストラリアンオープン1回戦☆

「試合中に寝るんじゃねぇと何べん言わすんだ」
「寝てねぇC〜!!」
「ボケっとしてただろうが。スロースタートなのもいい加減にしろよ?」
「何言ってんの跡部。勝ったでしょ、オレ」
「第10シードの試合とは到底思えねぇがな」
「なんだよぉ〜」
「だいたい、1ゲーム目からブレイクされてんじゃねーか」
「ま、そういう時もあるよね〜。でも次のゲーム、すぐブレイクし返したでしょ」
「そのままセット取られただろーが」
「んー。結構パワーあるヤツだしさー。打球が重いのなんのって」
「それでもあの程度の相手ならストレート勝ちできるだろ、いつものお前なら」
「んー。まぁ、テニスは何があるかわかんないじゃん。いい勉強になりましたー」
「お前の調子が悪いとか、相手がいいプレーをしてる、ならともかく寝ぼけて初っ端からダブルフォルト……ったく、心臓に悪い」
「ごめ〜ん。オレもあれ、びっくりした。ちょっとタイミング合わなくてさー」
「エンジンかかんのが遅ぇんだよ、相変わらず」
「跡部は1ゲーム目からフルパワーだったもんねぇ」
「ペース配分を考えてるなら何も言わねぇが、お前は単に寝ぼけてただけだしな」
「起きてたっつーの」
「髪に山ほど寝癖つけて、何言ってやがる。間抜けな顔が全世界に配信されたな」
「ぶー。酷ぇし。いいんですー、天使のようなふわふわエンジェルヘアーって言われてるから」
「物は言いようだな」

―年明けのオーストラリア、大会1回戦。
第10シード、芥川選手はまさかの1セット目を落としましたが、その後覚醒し3セット連取し2回戦へ進みました。
目標はもちろん優勝、打倒越前リョーマ!ついでにナンバー1の手塚国光!
今年の目標は、四大大会でいい成績を残すこと。
コーチ陣は、初夏のローランギャロスにチャンスありと睨んでいるようです。







☆2回戦前☆

「やっほい越前」
「あ、ジローさん。どうしたんスか?コートそっちじゃないっしょ」
「オレ今日試合ないもん」
「あぁ、そういや明日2回戦…ロッドレーバーですっけ」
「ううん。マーガレットコートで一試合目」
「朝か」
「越前は、これから?」
「そ。ナイトセッション」
「1回戦に引き続き、ストレート勝ちを期待してまーす」
「こんなとこでセット落としたら、跡部サンに何言われるかわかんないしね」
「……ぶー」
「あ、そうだった。1回戦、ファーストセット落としたんでしたっけ」
「うるさいC〜」
「いつも以上に寝癖爆発してたから、直前まで寝てたんじゃないの?」
「おーきーてーたー」
「あの試合、俺見てたよ。テレビで」
「余裕だねぇ〜」
「午前中は休養にあててたんで。ていうか最初のサービスゲームでいきなりダブル―」
「フォルトってんだろ?もう聞き飽きたー!コーチにも散々言われたし」
「そんでもって次のサービスゲームもしょっぱながフット―」
「フォルトってんだろ?跡部にも散々、ぐちぐち言われたからもういい〜」
「はいはい、2回戦は1ゲームから気合いれないと、足元すくわれるよ?」
「ガンバリマース」
「次の相手、アンタ苦手でしょ?ボレーが得意なタイプをバシっとしとめるヤツだし。考えなしに前出てきたら、やられるよ」
「対策は練ってる!何でもかんでも前になんて出ないよーだ」
「ま、期待してるから頑張って」
「てういかー、そっちがこれから試合じゃん!!」
「前の試合がちょっと押してるんで」
「だからって、何でこんなとこにいるんだよ。早くコート戻れ」
「はいはい。けど、ジローさんは何してんの?明日、朝から試合でしょ」
「隣のスタジアムでサッカーの試合が始まるから、観にいってこようかと」
「は?サッカー?」
「そ。日本代表の試合。今さー、岳人と宍戸がメルボルン来てるんだよねぇ」
「アンタの試合観に?」
「んー、そう言いたいところだけど」
「あぁ、サッカーの試合ね。そういや宍戸さん、ヨーロッパまでサッカー観るためだけに来ることあるんだっけ」
「そ。せっかくなら1回戦観てくれればよかったのにさー、休みの都合で弾丸旅行だってさ」
「向日さんも?」
「昼間到着して今夜サッカー観て、明日朝オレの試合みて、んでもって夜に日本帰国」
「すっごいタイトスケジュール」
「せっかく来るなら大会終わるまでいればいいのにさー。オレ、勝ち進むし」
「へぇ。じゃあ決勝、俺とやるんだ?」
「あったりまえ!」
「なら勝ち上がれば手塚さんか。ランキング1位撃破して、ジローさんが決勝あがってくるの祈ってるよ」
「おう。首洗ってまっとけ。そっちこそ途中で負けんなよ?」
「誰に言ってんの。今年も俺が優勝だから。で、これからサッカー?」
「うん。宍戸たちと一緒に日本代表応援してくる」
「それじゃ、その試合終わるまでに3回戦進出を決めるよ」
「おー、って無理でしょ。サッカーは2時間くらいだし。それに前の試合、まだ終わってないんでしょ?」
「1セット15〜20分で、1時間前後ってところかな」
「すっげぇ自信。さすが前年の全米、全豪優勝者。でも、今年こそハードコートで土つけてやるからなー!」
「クレーの方が可能性あるんじゃない?

―ハードコートが大得意の越前リョーマ選手は、今大会もナンバー1の優勝候補です。
今年こそ四大大会での優勝を狙う芥川選手は、翌朝に試合を控えながらも幼馴染たちと会うためお隣のスタジアムへ。
宍戸、向日とサムライブルーを応援し、そのまま夜は祝杯をあげてドンチャン騒ぎ。
さすがに慈郎くんはソフトドリンクだったそうですが、日付が変わる直前にホテルに戻り、部屋で待ち構えていた跡部様に大激怒されたそうな。
『てめぇは明日試合だとわかってんのか!?』
ガミガミ叱られ、とっとと寝ろとベッドに押し込められました。
1回戦1セット目のようなプレーをしたら、怒られるどころじゃないな……ナイトセッションの越前ではないけれどストレートで勝ってやる!と気合入れて、数秒で寝ついた慈郎くんでした。
ちなみに越前選手の2回戦目は、宣言通りのストレート勝ち。プレータイムも1時間とちょっと。
今大会の最速ゲームとして翌日の紙面を賑わせました。







☆2回戦☆

「ジロー、調子いーじゃん」
「あ、岳人」
「2回戦、楽勝だったな〜」
「んー、相手があんまりよく無かったからねぇ。いつものプレーと全然違ったC〜」
「今まで3回やってんだっけ?」
「うん。去年も対戦した。その時のほうが強かったよ。今回、何かあったのかな」
「ま、そういうのも運だろ」
「あれ?宍戸は?」
「パンフレット買いにいった」
「今?」
「お前の試合始まる前、混んでて買えなかったんだよ。あとでお前の頁、サインしてやれ」
「サインって……別にいーけどさ。今日これから帰るんでしょ?」
「おう。明日から仕事だしなー」
「ちぇ。せっかくだから決勝まで観てほしーのに」
「決勝まで残るの?お前」
「あったりまえだC!」
「じゃあ勝ち上がればベスト4で手塚だな」
「手塚ねー、どうかな」
「なんだよ、ランキング1位で優勝候補だろ」
「トップハーフはね。ボトムは越前が断トツ。アイツ、めっちゃくちゃ調子いいからなぁ」
「お前、トップハーフ側じゃん。トップ10の中でも評価高いぜ?」
「う?そうなの?」
「こっちついてから、テレビのテニス特集も結構お前出出てたし、雑誌、新聞でもお前の写真多かった。ベタ褒め」
「へぇ〜。色々取材はあったけど何喋ったか覚えてねぇな〜」
「ま、日本でお前のベスト4勝ち上がりを祈ってるよ」
「優勝願えっての」
「現実を見てるといえ。準決勝まで行けば、先が見えてくんだろ」
「へ〜い」
「それに…」
「うん?」
「フレンチオープンは、ぜってぇ2週間休みとって観にいってやる」
「全仏?」
「現実を見てるんでな」

―四大大会初優勝は、大得意のクレーコートで飾るに違いない。
幼馴染が圧倒的に力を発揮する赤土のコート、昨年の活躍と今までのクレー戦績を見れば期待せずにはいられない。
もちろん全豪も頑張って欲しいし今まで以上の活躍を見せるだろうと思っているけれど、絶好調の越前リョーマを観ていると、連続優勝を飾るだろう予感がひしひし。
このまま怪我も体調不良も起こさず、今の状態キープで調子をあげていくであろう越前を止められる選手はいない。
そう思えるほど昨年後半の越前選手の活躍は凄まじく、年明け一発目の大会でも優勝、そして全豪一回戦、二回戦ともに圧倒的な力で勝利。
けど、もちろん幼馴染を一番応援しているので、今の越前には歯が立たないだろうなぁなんて思いつつも芥川の今大会優勝にも期待する向日なのであった。







☆3回戦☆

大会5日目デイセッション
第2シード越前リョーマ セットカウント3-0で四回戦進出
大会6日目デイセッション
第10シード芥川慈郎 セットカウント3-1で四回戦進出
大会6日目ナイトセッション
第1シード手塚国光 2-0でリードするも3セット目、途中棄権により敗退

「手塚……大丈夫、かなぁ」
「………ちょっとおかしかったッスね、今日のプレー」
「何か聞いてる?」
「別に…けど、2回戦前に練習で一緒に打った時、ちょっと違和感あった」
「本大会始まって、調子悪そうだったもんね」
「らしくなかった。2セットでタイブレークまで持ち込まれたし。相手がいいプレーしてたのは確かだけど」
「怪我、かな…、やっぱり。去年もいくつか欠場してたから」
「あの人、ヒジがちょっとクセになってる」
「ヒジ?……あ、まさか中学の―」
「いや、アレはとっくに完治してる。手塚さんのショット、負担がかかるもの多いじゃん」
「でも、怪我するほど酷使はしてないはず」
「無意識にかばってんじゃない?結構無理な体勢でも、無難なショットで返さないし」
「確かに……アレ、返せないんだよなぁ」
「そのミラクルショットが、今日全然でなかった」
「ヒジ、か」
「それにこの暑さで、結構まいってたしね」
「でも今日の手塚の試合、ナイトセッションだから昼間よりは」
「前の2回戦が真昼間だったじゃん。14時過ぎで一番気温高いとき。手塚さんのゲーム、33度超えしたし」
「あー…そういや一昨日、すっげぇ暑かったね」
「もちろん体調管理もしてるだろうけど、もともと体調も万全ではなかったっぽいし」
「そうなの?」
「いつもなら大会中でも大食い系番組録画したやつ、持ってきて部屋で見てるのに」
「あー、そういや年明けにテ○東で放送してたんだっけ。岳人が言ってたなー」
「わざわざ手塚さんのチームスタッフが録画DVD、メルボルンまで持ってきてくれたらしいのに、まだ観てないって言ってたし」
「!めっずらしい。いつもならそっこー観るのに」
「でしょ。夜部屋に遊びに行ったらベッドで動かないしさ。休憩してんのかなーって思ったけど、やっぱ体調悪かったのかもね」
「キミは何しに手塚の部屋に行ったのかな?越前クン」
「手塚さんのスタッフに会ってさ、大会前に新作の大食い番組DVDを渡したって聞いたから」
「そろそろ観終わったかって?」
「そ。ヒマだったから部屋で見ようかと思って、借りにいった」
「…で、そのDVDは?
「俺の部屋。これからみよっかなーと」
「明日四回戦でしょ」
「へーき。午後からだし。午前中はゆっくりする予定。ジローさん、一緒に観る?明日試合ないっしょ」
「………観よっかなぁ」
「よし、決まりね。夕飯は部屋で食うから」
「部屋?」
「チームスタッフが用意してくれるからさ。今日は部屋でゆっくり食いたい気分」
「じゃ、オレ、どっかで買って―」
「いいよ、ジローさんの分も頼んどく。いっつも多めに用意するから余裕っしょ」
「さんきゅう」
「そんじゃ、移動しましょ」

―おい君たち、手塚選手の心配はどうした。
話題が手塚からそれて大食いDVDとなり、越前選手に至っては最近は手塚選手から大食いDVDを借りるため、大会で鉢合わせると『新作あります?』が定番なのだとか。
年に何回も試合はあるので勝った負けたは毎度のことですが、それでもランキング1位が3回戦で消えてしまうとは。
テニスファン、マスコミ、プレーヤーたちに衝撃を与えましたが、幸いにも重い怪我では無い模様。
手塚選手本人は越前選手の推測通り、ヒジへの違和感はあったようですが今大会不調の一番の理由は体調面だったようです。







☆4回戦☆

「いつもよりだいぶ汗が出ていたようだが、大丈夫か?」
「フルセットまでいって、真昼間の試合だから、そりゃ汗でるっしょ」
「それにしても、4セットの途中から急に動きが鈍くなった」
「ん〜……」
「最後は気力で持っていったな」
「そうだねぇ。ちょっと4セット目の最後の方、覚えてないかも」
「おい」
「5セット目はちゃんとしてたからだいじょーぶ。水分補給したら生き返ったC〜」
「これでベスト8か。全豪では初めての2週目だな。次は」

「―跡部。オレ、次も勝つよ。準決勝行く」
「…そりゃ頼もしいことだな。お前も、アイツも」

「越前?そういや4回戦もストレート勝ちだったね。さすがに何ゲームかとられてたけど」
「アイツは好調キープしてるようだな」
「ハードコートも、真夏の試合も、越前は大得意だもんねぇ」
「お前も元々はハードの方が好きだっただろ」
「オレ、何でも好きだもん。芝もクレーも、どれでも楽しいし」
「…まぁお前はそうだな。まずは明日、越前のナイトセッションか」
「順当に行けば勝つね。相手も悪くないけど、まだ越前にはかなわない、かな〜」
「特に今は絶好調?」
「そ。ストロークもサーブも、何もかも越前が大幅リードってカンジ」
「越前はこの調子なら決勝までくる。ボトムハーフは決定だな。トップハーフは」
「オレだってば。跡部、素直に応援してよ」
「一番に応援はしている。当たり前だろ?ただ、現実的に見て―」
「うーるーさーいーC〜」
「………ま、しっかりやれよ」
「フルスロットルで、1ゲーム目からブレイクする」
「最初レシーブなのかよ」
「うん。コイントス、外さないもんね〜」

―4回戦も危なげなく勝利した越前選手と、フルセットまで持ち込み粘り勝ちの芥川選手。
跡部グループがスポンサードする2選手は、無事にベスト8へ進みました。
優勝候補NO1の越前選手はこのまま決勝まで進むでしょうとは大方の見方。
もちろん、何があるかは始まってみないとわかりませんが、今回のオーストラリアンオープンにおける越前選手の絶好調っぷりはすさまじく。
対する芥川選手も好調ですが、さすがに4回戦ともなるとシードが相手で今までのようにはいきません。
次は上位のシードが相手なので燃えておりますが、果たしてどうなるものか。







☆準々決勝☆

『―…で、立て続けのミス連発でファーストセット落として、そこから冷静になれました。
ちょ〜っとコーチの顔は見れませんでしたね。きっと試合後、めちゃくちゃ怒られるんだろうなー。
え?あ、そうですね。勝ちましたけど、、まぁ試合に勝っても負けても、1セット目のミスはダメなやつなので。
ハイ、しっかり休んで、準決勝もいい流れでプレーできるよう、頑張ります』
『応援しています。頑張ってください!
―自身初の全豪ベスト4進出、ここ1年の活躍が目覚しい芥川慈郎選手のインタビューでした』

「ベスト4は結構厳しいと思ったけど、やっぱジロくん調子いいんだな」
「1セット落としたときはちょっとヒヤヒヤしたけどね」
「ほんっと。いきなりブレイクされるしさ」
「ビッグサーバーでパワープレイヤーだったし、どうしても芥川はパワーでは分が悪いから」
「基本的にテクニックと器用さと、ボレーか」
「フフ…ボレーのスペシャリストになったねぇ。どう?ブン太。昔を思い出すんじゃない?」
「ボレー、か。今の時代、サーブ&ボレーヤーなんて生き残れねぇけど、やっぱジロくんはボレーヤーだ」
「そうだね。効果的にボレー使うし、やっぱり芥川が前に出ると会場が沸くから」
「ネットつめればほぼ決めるし、予想外のところに落とす柔軟な手首は、ずーっと変わんねーアイツの武器だな」
「サーブも速くなってきたしね」
「だな〜。けど、ジロくんストローク主体ってワケじゃねぇのに、なんであんなにクレーだと勝つんだろ。サーブ&ボレーには向いてねぇじゃん」
「フットワークがずば抜けていいし、最近はライジング、スピンも磨きがかかってきてる」
「昔はスタミナぜんっぜん無かったのにな〜」
「練習試合で初めてブン太と戦ったとき、途中で寝ちゃったんだっけ?」
「アレはまじありえねぇだろい。エンジン切れでへばるならともかく、寝るって」
「さすが芥川。今回の一回戦も、ちょっと危なかったね」
「ぜってぇ直前まで寝てた。髪バクハツしてたし、コート入ってきたときも目が半分寝てたからな」
「四大大会の一回戦でも、芥川は芥川だって、見てて大爆笑だったなぁ」
「あのあと跡部にめちゃくちゃ怒られたらしい」
「連絡とったの?」
「大量の愚痴メールがきた」
「相変わらず仲いいねぇ」
「今年のローランギャロス期間中に、パリのケーキ食べ歩き約束してんの」
「全仏?大会中にかい?」
「そ。だからオレもちょっと休みの調整を上にお願いしとかねーと」
「…まぁ、生き抜きも必要だろうけど」
「さすがにバカみてーに食ったりはしないよ。お茶程度?ま、たぶん大会前か後になると思うけど」
「ブン太のところでお茶しないのかい?」
「オレんとこも寄るかな、きっと。だいたいいっつもヨーロッパ遠征だとパリかロンドン寄ってからアメリカ帰るって言ってたしなー、ジロくん」
「じゃあ俺も、全仏オープンの頃パリに来ようかなぁ」
「おー、来てよ。幸村くんも一緒に、ケーキ食べ歩きしようぜい」

―秋までは都内・丸の内の某有名店でチーフパティシエとして日々忙しく働いていた丸井くん。
店側の理解もあり、秋の終わり頃からパリの姉妹店へ修行にでております。そこでも大活躍し、早くも新人を脱却。
ここでチーフになるのも時間の問題のようです。
居住は日本だけれど芸術系の専門職についている幸村くんは職業柄海外出張も多く、ちょうど今は南仏への出張帰りに丸井くんのいるパリへお邪魔しました。
二人で芥川くんの準々決勝をテレビ観戦し、勝利者インタビューを見守ったそうです。
ちなみに越前くんも絶好調をキープし準決勝へ進みました。







☆準決勝☆

『―それでは最後に一言、お願いします』
『ここまできたら思いっきりやるだけなので、いつも通りのプレーで、楽しんでやります』
『―連覇のかかった決勝に向けて、越前リョーマ選手のインタビューをお届けいたしました』

「昨日は準決勝オツカレ。はい、紅茶。砂糖なしでいいんだよね?」
「そっちも一昨日は惜しかったね。あ、紅茶どーも。今日はストレートな気分。コレ、跡部さんトコのやつ?」
「お、わかるんだ」
「うん。近年で一番いい出来だって、去年の夏に貰った」
「市場で一番の評価が出たセカンドフラッシュなんだって」
「あー、そういやくれた時そんなこと言ってた。香りがいいし、味も今までのと違うからわかる」
「跡部農園のスペシャルね」
「オーストラリアに持ってきてたんだ?」
「跡部も大会に合わせてメルボルン入りしてたからね。今はシドニー行ってるけど、明日の午前中には戻ってくるから決勝観戦は間に合う」
「そっちも?決勝終わるまでいる?」
「もちろん。決勝観て、優勝パーティ参加して、明後日オランダ移動、かな」
「あれ?次メンフィス出るんじゃないの?」
「オランダ」
「なんだ次も一緒かと思ってた」
「え?越前、次メンフィスオープンなの?」
「はい。俺、去年もオーストラリアンオープンの次、メンフィス出たし」
「なーんだ。そっちも次はオランダかと思った」
「ちなみにその次は?」
「んー、たぶんアルゼンチン」
「クレーか。俺はドバイの予定だから」
「あー、じゃあしばらく会わないかもね」
「ッスね」
「それじゃ、決勝の勇姿を見守るとするよ」
「ジローさんの分まで、ガンバリマース」
「おー、がんばれー」

―オーストラリアンオープンそれぞれの準決勝。
今までの快進撃がピタっと止まってしまい、緊張感が途切れたのか精彩を欠いたプレーで2セットを落とした芥川選手。
どうやら準々決勝までのフルセット、タイブレークなどの接戦で体力を削り、大事な準決勝で思うように回復しなかったようです。
逆側の越前選手は快勝で決勝に進み、いよいよ全豪の連覇が見えてきました。
そんな彼は試合翌日、決勝前日でもある土曜日、ベスト4で敗退した芥川選手のお部屋へお邪魔し、ティーブレイク。
スポンサーの跡部グループ関連企業で扱っている特級紅茶でひとときのお休み、リラックスタイムを過ごしました。







☆決勝☆

「うっわぁ〜、すっげぇ。満員」
「決勝、しかも男子シングルスだからな。最終日で大会のメインだろ」
「相手、地元オーストラリアの選手だし、完全アウェイかと思ったけど、結構日本の旗多いね」
「今大会最大のサプライズで相手が勝ち上がってきたとはいえ、越前はランキング2位だ」
「まー、地力が違うってのはあるかぁ。それに、ここ3年くらい、トップ3からランク落ちないもんねぇ」
「手塚は怪我の影響でランキング大幅に落とすこともあったが、越前は安定しているからな」
「スポンサー様としては、助かるねぇ。毎年必ず四大大会どれか勝つし」
「越前が強いのはプロになってからもずっとだろ。俺は今年、お前に大いに期待しているところだけどな」
「オレ?」
「ああ。今年のクレーは、お前が勝つと思っている」
「わぉ。いつもあんまり、始まる前の大会のこと言わないのに。どうしたのさ、跡部」
「確信だ。怪我をあけても調子はいいし、今、テニスが凄く楽しいだろ?」
「なんでわかるの?」
「お前のプレー見てればわかる。昔の……そうだな。出会った頃と、今コートにたってる時のお前、同じ顔してる」
「出会った頃って……中学?」
「ああ。勝っても負けても楽しそうで、コートに出るのが待ちきれないって顔」
「負けたら悔しいよ〜」
「けど、負けた後のプレーは格段と良くなるし、試合重ねるごとに強くなっている」
「そう?」
「お前もわかってるだろ。去年はついに越前に勝った」
「ようやくね」
「この試合勝てば、越前はランキング1位に復帰だ。お前はベスト4だから、6位まであがる」
「うん。手塚は3位まで下がっちゃうね」
「このままの調子キープすれば、越前は全仏第一シード」
「まだ4ヶ月くらいあるけど」
「お前も第三シードまで入るつもりで行け」
「三位以内って……全仏まで全部優勝してもポイント届くか微妙じゃない?」
「今季お前の年だ。間違いねぇ」
「インサイト……ま、期待に添えるよう頑張りますけれども」
「クレーでいいとこまで行けば、次の芝はもっと強いお前で挑戦できる」
「ウィンブルドン、か。そだね。芝はちょ〜っと勝ててないけど、今は結構、どのコートでも相手が手塚や越前でも、勝てる気がすんだよねぇ」
「気持ちが強くなったな」
「そうかも」
「この次のオランダ、勝てよ」
「ん。今季初優勝飾ってくる。あ、試合始まるね」
「越前は、サーブ選んだか」
「どこまでも強気だなぁ。ほんじゃ、応援しますか」
「大会最短時間で勝つかもしんねぇな」
「相手、今大会最大のサプライズなんでしょ?」
「調子のよかったトップ10のお前をやぶって、まさかの勝利で決勝にきたヤツだからな」
「ちぇ」

―オーストラリアンオープン、男子シングルス決勝。
跡部グループが筆頭スポンサーをつとめるランキング2位、越前リョーマ選手の試合が始まりました。
満員のアリーナを埋め尽くす、地元オーストラリアの人々と、各国から集まる越前選手のファンたち。
コイントスで勝った越前選手は、リターンではなくサーブを選んで、ブリジス○ンのラケットをぐるぐるまわしながらサービスラインへ。
右手に持ち替えたため会場はざわつくも、利き腕が右の相手選手めがけて放たれたのは精度の高いツイストサーブ。
物凄いスピンで跳ね返り、あっという間のサービスエースが決まって、審判のコールがかき消されるほど盛大な歓声があがった。







☆大会終了後☆

「おめでとう連覇」
「どーも。ま、当然だけどね」
「キックサーブなんて、ずいぶん久しぶりのサーブ見せてくれちゃってさ」
「ツイスト?あぁ、せっかく跡部サンも見てることだし、懐かしいショットでも出そうかな、と」
「それで、ドライブボレーね。最近あんなに前でてきてダッシュすることなかったっしょ。会場ざわざわしてた」
「せっかくの全豪なんで、盛り上げとこうかってね」
「見てて楽しかった」
「自分が試合したくなった?」
「んー」
「試合のあと、跡部サンと打ったんでしょ?」
「なんで知ってんの」
「一通りインタビュー終わって引き上げる前にさ、一応スポンサーサマを探してたら樺地さんが来てさ」
「あー、そういや『終わったら俺様のところに来い』とか言ってたっけね…」
「そ。なのにいないから。そしたらジローさんとテニスしに行ったって言うし。夜22時過ぎてンのに」
「ごめ〜ん。どうしても体動かしたくなっちゃって。跡部とやるのもすっげぇ久しぶりだったしさー」
「ふーん。で、勝ったの?」
「う?」
「アンタ、最後まで跡部サンに勝てなかったじゃん」
「コラ」
「ジローさんがプロになる前に、跡部サン、テニスやめてたし」
「今は勝てます〜」
「今勝てなきゃ問題でしょ。仮にもトップ10が」
「仮って何だよ〜」
「早く上位まで上がってきてよね」
「…ハ〜イ」
「全仏、楽しみにしてるから」
「ん?クレー?」
「うん。今年のクレーは結構面白い大会になると思うんだよねぇ」
「面白いって?」
「今回の全豪は、地元オーストラリアの人が勝ちあがって大会最大のサプライズって言われてたけど」
「決勝で越前に蹴散らされちゃったね」
「負けるわけないっしょ。じゃなくて、今度のフランスは、アンタが最大のサプライズになりそう―って予感」
「さぷらいず?」
「いや、そうでもないか。クレーは特に勝率いいし、去年の成績からみてもクレー大会なら最大の優勝候補?でしょ」
「ほ〜」
「今年の全仏の注目はジローさん。ブックメーカーのオッズも、多分一番」
「ん〜。よくわかんねぇけど、とりあえず次のオランダで勝ってくるかな」
「クレーだよね」
「うん。ガンバッテキマス」
「次の全仏こそ、試合やろーね。ハーフ一緒になるかわかんないけど、負けないでよ?」
「手塚が勝ち上がるかもよ」
「手塚サンがきても俺は負けないけど」
「オレも負けないC〜」
「よし、じゃあ対戦は全仏に持越し」
「3月のバリバオープンとマイアミ、今年も出る予定なんでしょ?」
「出るよ」
「オレも出る予定。全仏より早く対戦くるかもよ」
「あー。ま、それはそれで」

―年明け最初の四大大会、オーストラリアを制したのは下馬評通り、優勝候補の越前リョーマ選手。
昨年の全米に続き、見事連覇を果たしハードコートでの圧倒的な強さを見せつけました。
そして次の四大大会の舞台は初夏のフランスへ。
何といっても昨年、クレーコートで越前選手に土をつけた芥川選手に注目が集まる中、いよいよ今年初のクレー大会が迫ってきました。
クレーのプリンスと呼ばれ始めている芥川選手の快進撃が始まりそうです。








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2015/1月末〜2月初旬にかけてのトップ頁即興劇場です。
2014向日誕→宍戸誕→跡部/手塚誕→タカさん誕→2015樺地誕ときて全豪オープンに参戦した模様。

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