2014・即興忍足劇場31-40
☆即興忍足劇場31☆
「お帰り〜。どうだったー?」
「まぁまぁっスわ。あんくらいのレベルやと、中々普段は周りにおらんし」
「切原とー、日吉?あと、神尾?」
「そのあたり全員っすね。海堂、桃城、伊武も鳳も来たし」
「わぉ。同級生揃ったねぇ」
「丸井サンも来ましたよ」
「え、ウソ!」
「ホンマ。午前中、切原と遊んでたんやと」
「じゃあ、そのまま合流??いいなぁ〜」
「あっちもジローさんおらんから、不思議がってましたよ」
「へ?」
「俺がジローさんとこ世話になってんの知ってはったし」
「あー、そういや財前くる日にお茶した」
「そん時に俺とテニスしにいくいう話したんやろ?」
「あ、そうだ。丸井くんは用事でダメって言ってた」
「そんで今日、切原にこれからテニスて聞いて、メンツに俺もいたからジローさん来ると思ったんやと」
「丸井くん来るなんて、聞いてないC…」
「一応電話したんやけど、繋がらんかった。それに、今日ずっと近所ぶらぶらする言うとったやろ。
テニスコートまで電車とバスで結構距離あったし、ついてもあんまプレーできんやろうし」
「そっかぁ…ごめ〜ん、電話、気づかなかった」
「何やっとってん?家にも電話したけど出かけた言うし」
「夕方はー、ぶらぶらして、コンビニ行ってー………あ、そだ。ケーキ屋でお茶したんだ」
「お茶?」
「コンビニでナンパされたんで」
「はぁ?知らないオネーサンとお茶したん?」
「知らなくもないし、お姉さんでもないけどね」
「なんや、知り合いか。友達?」
「う〜ん、どうなんだろ」
「俺も知ってるん?」
「財前の方がよぉく知ってる」
「………」
「けど、二人っきりは初めてかな〜」
「…よぉあの人に誘う勇気があったな」
「すっげぇ大声で、まじまじびっくりしたC」
「大声?」
「コンビニでね『仲良くしてくれー!!』って。顔真っ赤だったC」
「(仲良くて、どこの小学生やねん…)」
「近所のケーキ屋で、オレも大好きなところだったんだけど、忍足全然ケーキ食わないし。甘いもんキライなのかな」
「あの人、甘いのそこそこ好きやけど(…何も食えんくらい、テンパってた、か)」
「でもぜんぜん喋んないしさー」
「緊張してたんちゃうん?いつもどもるやん」
「んー、ていうかずっと携帯いじってた」
「は?」
「こっちから話しかけても上の空?『あー』とかばっかで。下向いて携帯いじってるしさー」
「ずっとそんなんやってん?(何やっとんねや…謙也先輩)」
「途中からはちゃんと話しできたけど」
「…そりゃ何よりっスわ」
―楽しいテニスを終えて帰宅した財前くん。
その日の出来事を話していたら、なんとあのヘタレ先輩のお誘いでカフェデートですと?
しかし顛末と内容を聞いたらアホや…と呟かずにはいられない。
さらにヘタレ先輩が食いついたのが、芥川サンの春の大阪旅行―謙也不在な中、アミューズメントパークでラブルス主導で遊び、京都では銀さん案内のもとお寺めぐり、鶴橋で聖書オススメの店で肉を焼きまくる。
『いない謙也に言うのは可哀相。しかし代わりに侑士がいるから忍足枠は問題なし』
大阪勢の全員一致で謙也の前では黙秘を貫くと決めて早9ヶ月。これは帰りの新幹線がうるさくなりそう……一人で早く帰ってしまおうか。
迫ってくる『大阪へ帰る日』を思い、少し気が重く……いや、面倒くさく感じた財前くんでした。
☆即興忍足劇場32☆
「はぁ〜もう明日かぁ。早いなー一週間」
「帰るの俺やけど、ジローさんのほうが残念そうやな」
「だってさー、楽しかったっしょ?オレは財前が来て、毎日遊べて楽しかったC〜」
「…どうも」
「財前は?楽しかった?東京の一週間、どうだった?」
「買いモンも出来たし、ライブもいけた。同学年のヤツらとテニスもやれて、まぁまぁ良かった」
「ぶー、それ殆ど一人で行ってたヤツだし」
「ふっ……冗談っスわ。連れてってくれた甘味処もめっちゃ美味かった」
「ねー、あそこのおしるこ、おいしかったー」
「ぜんざいやろ」
「う?おしるこだC」
「アレはぜんざい言うねん」
「あーはいはい。でも、また食べたくなっちゃったなー」
「…明日、新幹線乗る前に店行く?」
「行こっか」
「家への土産もそこがええかな」
「あ、そだね。お父さんと、お母さんと、兄ちゃんだっけ?」
「兄貴の嫁さんとチビ」
「おねーさんと、甥っ子で、5人か」
「3時間ちょい…ま、大丈夫やろ」
「冬だしね。それにあそこの店、保冷剤と保冷バッグにいれてくれるから、だいじょーぶ」
「ほな、品川行く前に店寄ってもろてええっスか?」
「おっけー!時間あったらお茶しよ」
「そーっスね」
「あ、そういや忍足と一緒に帰るんだったっけ?」
「………特に約束してるワケやあれへん」
「ふーん。でも、二人とも明日帰るんでしょ?」
「俺は夕方の新幹線やけど、謙也先輩は夕飯後に大阪帰るかもしれんし」
「新幹線の時間、伝えてんの?」
「ま、それは適当に。それにあっちは侑士さん(親戚)と一緒やろ。ぎりぎりまで東京に―」
「いや、財前と一緒に帰るっしょ」
「…勘弁っスわ」
「ぜってぇ品川の新幹線ホームで待ってそうなんだけど」
「いや、改札やな」
「時間教えとくほうがいーんじゃない?」
「それはそれで面倒やねん」
「でも、教えないとずーっと電話かかってきそう」
「…意外と謙也先輩のこと、わかっとんねんな」
「だって忍足のイトコでしょ。忍足もたいがいだし…」
「?侑士さん?そんなシツコイとこあるん?」
「いつもはめっちゃネチネチとしつこいアホ眼鏡だC」
「アホメガネて……そういや向日さんもそんなようなこと言ってたな」
「岳人ネーミングだよ。アホ眼鏡、タコ眼鏡、しょーもないメガネ〜」
「…色んなバリエーションがあんねんな」
―冬休みを利用しての東京一週間滞在。
いよいよ最後の夜となり、この日は夜遅くまで慈郎くんの部屋で喋っていた二人。
しかし日付をまたぐかまたがないかあたりで財前くんの携帯に件の先輩からメッセージが入り、彼が無視していると怒涛のメール攻撃。
さらには深夜にも関わらずコールが鳴り、イラっときた財前くんはマナーモードに切り替えたようです。
すると、今度は慈郎くんの携帯にまで……こっちはアホ眼鏡だった模様。
(もちろん眠いので同じくマナーモードにかえて、就寝です)
☆即興忍足劇場33☆
「はぁ〜…帰りたないわ」
「何やねん、毎日毎日。一週間も滞在して、ジローとも遊べて大満足やろ」
「侑士、年始大阪来るやんな?」
「親父はわからんけど、新年挨拶まわりは毎年2日って決まってるから、来年も多分2日やな」
「俺もそん時に一緒に帰るっちゅうのはどうや?」
「は?」
「『は』や無くてやなぁ。どうせ大阪行くなら、一緒に侑士んとこの車乗っていくっちゅう話や」
「俺んとこは新幹線移動やっちゅうねん。ていうかアカンやん。お前、おばちゃんにど突かれんで」
「…やっぱ無理か」
「無理やろ。年末大掃除どないすんねん。まさか翔太だけにやらすんか」
「兄貴の恋路のためなら、弟は一肌も二肌も脱ぐもんやで!」
「アホか。それと大掃除は別やろ。風呂トイレの水周りはお前の担当やん」
「翔太にやらす!」
「リビング、廊下の雑巾がけに加えてお前の水周りまでやらされたら、あいつキレるやろ」
「なら年明けてから掃除すればええっちゅう話や」
「おばちゃんにシバかれんで」
「白石とユウジ呼んで、手伝わす!」
「どこの世界に友達ン家の大掃除手伝うヤツがおんねん」
「どないせいっちゅーねん」
「大人しく明日帰れ言うとんねん」
「侑士!お前それでも身内かっ!!協力の一つや二つしてくれてもええやろ」
「誰のおかげで一緒にテニスできた思とるん」
「(無視)なぁ、年始に芥川も一緒に連れてきてや」
「アホか。無理言うな。ジローはジローで年始に親戚まわりがあるっちゅうねん」
「ほんなら俺は次、いつ会えるん?」
「知るか!選抜勝ち進めや」
「春まで会えへんのか!?」
「お前が東京来ない限りは」
「大阪来てや!」
「ジローに直接言えや」
「直接言えたらお前にこうやって言うてへん!!」
「えばって言うなや…」
―東京最後の夜。帰りたくないと駄々をこねる謙也の愚痴に付き合っていたらいつのまに深夜に突入。
そろそろ寝ると何度布団をかぶっても、そのたびに隣の布団からあーだこーだ話しかけてくる従兄弟がしつこくて眠れやしない。
あまりに邪険にしていたらようやく静かになったものの、今度はごそごぞとしだした謙也を訝しむものの、携帯をいじっているのだろうと放っておくことにする。
果たして大人しく新幹線に乗ってくれるだろうか。かくなるうえは慈郎にホームまで見送らせれば、いくら謙也でも新幹線に乗るに違いない。
ポッキー10箱とジンギスカン跡部亭でのオゴリを覚悟し、財前見送るついでに謙也に声をかけてやってくれと頼み込むことにした忍足侑士だった。
深夜なので寝ているだろうが、ひとまず慈郎くんにメッセージを送って……お、既読になった。珍しく起きているのか。
それならばと電話をかけてみるものの一向に出ず、しまいには留守電に繋がったので吹き込むだけ吹き込んで、また朝に連絡することにしよう。
☆即興忍足劇場34☆
『また来てね、光くん』
「一週間も寝泊りさせて貰ってすんません、ありがとうございます」
『どういたしまして。ご飯もキレイに食べてくれるし、慈郎の面倒も見てくれるし、こちらこそありがとう』
「ははは、…起こすんはちょっと苦労しましたけど」
『あの子が珍しく夜遅くまで毎日起きてたから、よっぽど楽しかったのね』
「ホンマに?なら良かった……俺も楽しかったです」
『また来てね』
「はい。コレも、ありがとうございます」
『商店街で一番人気のお菓子なの。気に入っていただけるといいのだけど』
「うちのオカンこういうの好きなんで、絶対気に入ります。土産まで貰てしまって―」
『あら、光くんもお母さんからのお土産、持ってきてくれたでしょう』
「俺が世話になるから、当然っス」
『わざわざありがとう。これからも慈郎と仲良くしてあげて?』
「はい(即答)」
『……ところで慈郎はどこに行ったのかしらねぇ。さっきまでリビングにいたと思うのだけど』
「あー…ちょっと用事で、忍足サン家に」
『侑士くん?そういえば光くん、侑士くんの従兄弟の子と一緒に帰るんだったかしら』
「謙也サンのこと知ってるんスか?」
『この前、慈郎や侑士くんたちと一緒に銭湯行ってた子でしょう?金髪の』
「あー…(そういや忍足サン家まで車で送ってくれたんやった)」
『光くん置いて、何やってるのかしらねぇ』
「俺、荷物あるし、一旦品川駅のロッカーに預けてから遊んで、夕方新幹線乗る予定なんスわ」
『あぁ、それで光くんは先に行くのね。じゃあ慈郎とは後で?』
「はい。品川駅で荷物いれたら渋谷で合流予定です」
『侑士くんたちと4人でお出かけね。楽しんでらっしゃい』
「(一緒かどうかわわからんけど……というか、かなり嫌々忍足サン家に行ったしなぁ)はい」
『じゃあ、気をつけて。ご家族たちによろしくね』
「(侑士サンぶん殴ってくる言うとったけど、絶対に渋谷着いたらあの二人いる気がする)お世話になりました。また」
『また遊びに来てね』
―冬休みの東京一週間、最終日。
芥川家の玄関にて、慈郎の母親と最後の挨拶を交わし、商店街をぬけて駅へと向かう財前光。
品川駅のロッカーに大荷物を入れて身軽になってから、渋谷で慈郎と待ち合わせをを予定しているのだけど、果たして彼は一人で来るのかそれとも。
☆即興忍足劇場35☆
「は〜い、ジローくん、いらっしゃ〜い」
「気持ち悪い」
「はいはい、とっとと中入ってや〜」
「眼鏡かちわるC」
「怖いこと言いなや」
「も〜何なの?オレ、忙しいーんだからとっとと用件言う!」
「朝散々言うたやん」
「本っっっ当、いいかげんにしろよ?アホタリ。家の電話にかけんなって言ってるしー!!」
「携帯出てくれへんし。家にかけるしか無いやん」
「人の父親を適当に言いくるめんな!」
「いや〜、ジローんとこのおじさん優しいからなぁ。すぐ繋いでくれて」
「はぁ…ったく、何で朝からおとーさんに怒られなきゃなんねーのさ」
「なんや、携帯出ないから叱られたんか?」
「おめーが緊急の要件で連絡取りたいけど携帯がどうしても繋がらないなんてアホな嘘つくからだC!」
「嘘ちゃうやん。緊急の要件」
「どこがだよ!」
「何としてもジローに伝えんと」
「アホなメッセージ、山ほど読んでるわッッッ!」
「せやなー、既読になってるから伝わったとは思っててんけど、返信が無いから心配でなー」
「何が心配だよ、アホメガネー!!」
「ま、結局はきてくれたっちゅうワケで」
「……で、どうしろっての」
「中でいじけてる男、なんとかしてくれ」
「オメーの従兄弟でしょ」
「いじいじうじうじ、帰りたないって動かへん」
「?今日、財前と一緒に帰るんじゃないの?」
「それがなぁ、誰かさんと離ればなれになるのが寂しいんやろうなぁ」
「(無視)しょーがないじゃん。住んでるとこ違うC」
「そう言わんと。ただ一声『また春に会おう』って言うてやったらええねん」
「春?オレ、別に大阪行く予定ねーけど」
「ええから、『また会える』いうことをアイツにわからせてや」
「??そりゃ会えるっしょ。あっちの高校勝ちあがれば、選抜で戦うかもしんないし」
「そういうこと違くて。やさし〜く、笑顔で声かけようや」
「も〜、ほんと、アホだC」
「アイツを気持ちよく大阪に送り出してくれたら、それ相応のお礼もあんねんけどなぁ」
「はぁ?」
「品川で見送ったら、そのままジンギスカン跡部亭に行こかー」
「…!」
「跡部オススメの特選コース」
「!!」
「ディナーのコース、ソフトドリンク飲み放題」
「っ…で、でも、年末だし、あそこ予約でいっつも―」
「18時2名、忍足侑士で予約済」
「!!!」
「さ。今年最後の高級焼肉で乾杯しよかー」
「……………わかった」
「よし。じゃ、早速頼むわ」
「…また会おうって言えばいーの?」
「おー。アイツ単純やし、それで復活して、サヨウナラってな」
「…ハイハイ、ワカッター」
「笑顔やで、にっこりと。ほら、いつものアホみたいな笑顔浮かべて」
「アホって何だよ、バカ眼鏡!」
「はっはっは!俺の部屋に閉じこもってるから、頼むで」
「〜ったく、しょーもねーしー」
―深夜から怒涛に送られてくるメッセージと着信を全て無視していたら、朝方自宅にかかってきた電話。
運悪く実父が出てしまい、『慈郎。忍足くんから急ぎの電話が入ってるぞ』と受話器を渡されたら、逃げられない。
思いっきりイヤ〜な表情を浮かべたが、父親は『用件があってかけてきてるんだから、ちゃんと出なさい』と『通話』を押すまでは部屋から出て行ってくれなかった。
邪険にすると父親に何を吹き込むかわからないので、ここは相手の用件を受け入れるしかなく………最高に面倒くさいと思いつつ、忍足家まで自転車かっとばして向かった。
本日大阪へ戻る財前は、その間に荷物を駅ロッカーに入れてくると品川駅へ向かうことにしたため、後ほどの合流を約束して別れたのだった。
☆即興忍足劇場36☆
―17:17ののぞみで帰りますけど、どうします?
―今日帰るでしょ?俺は実家で夕飯食うんで、その前に出発するけど
―そっちは夕飯後?
―東京来るとき、帰りも一緒の新幹線言うてたけど、どうしますか?
―どっちでもいいけど、俺は17:17ののぞみ自由席に乗るんで
―オイ、返事せぇや
―既読になってんで
―謙也先輩?
―無視か?ええ度胸っすね
―謙也さんが一緒に帰りたいてウルサイから新幹線の時間、教えてやってんすけど
―おい
―謙也さん?
―何かあったんすか?
―電話しますよ?
・
・
・
―出ろや!
―なんで電話に出ないんすか
―もうええですわ。これからジローさんと遊ぶから誘ったろう思ったけど、無しですね
『帰りたないねん』
―………。
―ジローさんの名前でようやく反応した思ったら、何を今更な。
―明日、実家の大掃除言うてたやん
―とりあえず渋谷駅集合っすから。早よ来てくださいよ
『芥川と?』
―そう。デートっすわ
『何がデートやねん』
―謙也さんが来ないなら、俺と芥川さんの二人っきり
『行く』
―はいはい。じゃ、渋谷駅っスよ。遊んだらそのまま大阪帰るから、荷物も持って
―返事は?
―今日帰らんならそれはそれでええですけど、翔太とおばさんにシバかれますよ?
―大掃除っすよね?
―わかった。好きなだけ悩んだらええねん。けど、ひとまず渋谷集合っすよ
『…ハイ』
―気が変わってそのまま帰りたくなるかもしれんし、とりあえず荷物全部持ってきましょうか
―返事は?ほら、早よせぇや
『……ひとまず渋谷』
―そうです。荷物持って、ですよ
品川駅まで揺られること数十分。
大阪発東京行きの新幹線で「帰りも一緒の新幹線」とシツコイほどぎゃあぎゃあ言っていた先輩のために、仕方ないなと連絡をいれてみたが…
トークメッセージを読んだ形跡はあるものの返事がまったくこない。
『ジローさん』の一言で、ようやく先輩が反応したが、話題が『帰る新幹線』になると返答がこない。
ヤレヤレと思いながらもひとまず芥川との待ち合わせ場所、渋谷に来るのでそこでやりこめて大阪へ連れて帰るとするか。
それにしても今頃、芥川は忍足家に着いているはずなのだが……謙也は忍足家にいないのか、それともまだ芥川と会っていないのだろうか?
朝方芥川家にかかってきた忍足侑士からの電話は、まず間違いなく謙也絡みなのは間違いなく。
イヤ〜そうな、面倒くさそうなしかめっ面で『オシタリんトコ殴りに行ってくる』と自転車かっとばして出て行った芥川を見送ったのだけど…
☆即興忍足劇場37☆
「ええか?にっこり笑顔で」
「はいはい」
「間違っても『めんどくせーC〜』なんて言うたらアカン」
「言わねーって」
「いつものように『何言ってっかわっかんねーけど』も禁止や」
「だって本当に、何言ってるかわかんねーんだもん」
「耐えて」
「はいはい」
「ウジウジ暗くてうっとおしいかもしれんけど」
「?いーっつも元気でしょ。オシタリは」
「無駄にな。せやけど今はどすーんて暗いねん」
「うっとおしいくらいに?」
「…昨日からずっとうじうじして、何度蹴りたくなったことか…ほんま、勘弁してや」
「カンベンしてほしーのはこっちだっての。オシタリは従兄弟なんだし、オメーが面倒みろっての」
「ややこしいな」
「?なにが」
「どっちも忍足やん」
「当たり前だC」
「よし、『謙也』て呼んだれ」
「はぁ?」
「忍足だと、俺か謙也かわからんし」
「今までずっと『オシタリ』って呼んでるでしょーよ。オメーもアイツも」
「ええから、ほら、ドアんとこで『謙也』言うたれ!」
「…あのねぇ」
「名前で読んでやれば、一気にテンションあがっていつも通り」
「ンなわけないっしょ。ただ名前呼ばれたくらいで」
「甘い。甘ちゃんやで」
「きもい」
「キモイは傷つくからアカンて何べん言わすん?」
「うるさいC〜」
「『うるさいC』も禁止!」
「…も〜、わかったから」
「ええか?お前が『謙也』言うことに意味があんねん」
「へーへー」
「可愛らしく、首かしげてからニコッと笑顔で。もしくはキョトンとした感じでもええから」
「オレに何求めてんだよ。ったく」
「可愛げ!」
「あのねぇ、オレももう高校生だし『首かしげて笑顔で』なんてやっても気持ち悪いだけでしょ」
「お前は可愛いからええねん」
「はい?」
「『エンジェルスマイル』言われてる、その人をたらしこむ笑顔を満面に浮かべて、可愛らしく―」
「あーん?たらしこむって何のことだよ、アホ眼鏡!」
「跡部のマネは止め言うとるやん。途端にガラわるなるし…」
「よーし、跡部にチクってやろーっと」
「軽いジョークやん。まぁまぁ。ほーら、俺の部屋に閉じこもってるから、リビングに連れてきてや〜」
「……ったく」
―いそいそとキッチンに向かい、急須に茶葉を入れて熱湯を注ぐ伊達眼鏡を眺めてため息ひとつ。
天岩戸状態の従兄弟を芥川に任せて、のんびりお茶タイムを始めようとしているらしい。
ここはひとつ、とっとと彼の従兄弟をリビングに連れてきて、アホ眼鏡のお茶を奪って飲み干してやろう。
『コンコン』
意を決して、忍足の自室ドアを叩いた芥川だった。
☆即興忍足劇場38☆
忍足家、長男・侑士の部屋の前にて(当人はリビングでにやにやしながらお茶タイムである)
―コンコン
「こんちわ。入っていーい?」
『……!』
「おーい、オシタリー?」
『あ、あ、あく―』
「うん。芥川デス。入るよー」
―ガチャ
「うっわ、くっらいC〜。なんてカーテンしめっぱなし?外、すんげぇ天気いーのに」
「お、おは、おは」
「うん、おはよう。カーテンあけていい?あけま〜す」
「お、俺、開けっ」
「うん?あ、じゃあよろしく」
「お、おう。ま、窓は」
「ちょっと寒いけど、空気入れ替えしよっか。少しだけ開けて」
「あ、あぁ」
「はー、今年ももう終わりだね〜。どうだった?東京」
「え?」
「ちょうど一週間っしょ?」
「……せやな」
「テニスやって、ディ○ニーも行って、遊んでー、けっこう色々やった?」
「お、おう、い、色々、付き合うてくれて、ありがとう」
「どーいたしまして」
「ど、どないしてん?急に来て」
「迎えに来た」
「…え?」
「今日、帰るんでしょ?」
「……」
「財前、渋谷で待ってるC〜」
「い、一緒に、遊ぶ、言うて…」
「うん、そう。これから渋谷行くけどさ。財前待ってるから、一緒にいこ?」
「!(い、一緒、言うた…?)」
「一人で帰るなんて、お互いさびしーもん。財前と一緒に、新幹線乗ってあげて?」
「財前が言うたん…?一緒に帰りたい、て」
「(財前は『回収する』って言ってたけどなー。ま、いっか)うん。後輩の面倒みてあげなきゃ」
「そうか……でもっ」
「?もっと東京いたい??」
「…っ(東京、はどうでもええけど、近くに、いたい…)」
「大阪も東京も、新幹線一本だからあっという間だC〜」
「そうやろか」
「そうだよ。海外よりぜんっっっぜん近い。またさ、今度きたらー」
「こ、今度?」
「(ひゃっ…び、びっくりした〜。急に起き上がって、何?…って、顔、近いんだけど…?)うん、こんど」
「今度て、いつ会えるん?!」
「(だから、近いっ!しかも何で肩掴まれてんの?オレ。痛っ)」
「なぁ、いつ会えるん?大阪、来るん??」
「へ?大阪??(予定ないけど、なんだっての急に……って、泣きそうな顔してる?どーすりゃいいの……あのアホ眼鏡め!何にやにやこっち見てんだよ!シメる!!)」
「芥川、俺っ…」
「あー、うん、そだね。大阪、行こっかな」
「!!ほんま!?」
「おー。今度ね、今度(タコ眼鏡め!なぁにが『謙也に口裏合わせろ』だっての)」
―ドアを開けたら真っ暗な部屋の中で、ベッドにもたれてがっくり肩を落としている謙也くんの姿。
すぐさまカーテンをあけて太陽の光をいれ、換気を行う慈郎くんでしたが徐々に勢いづいてくる謙也くんに少したじたじ。
後ろを振り返ればリビングでひらひら手をふる侑士くんがいて、何やら口をパクパクしており、注意深く口元の動きを追えば
…なになに、『謙也に合わせろ』だって?
謙也くんを大阪へ返したら、ジンギスカン跡部亭のフルコースだけでなく追加注文で高っっい肉と、食後にショコラティエで高級チョコパフェ奢らせてやる!!!
心に決めた慈郎くんでした。
☆即興忍足劇場39☆
―「今の大阪はなー、あべのハルカスいうめっちゃ高いビルがあんねん。
四天宝寺から歩いて10分くらいで、ちょーどええやろ。
春休みに大阪きたら、ハルカスの展望台のぼって―あ、それとも梅田スカイビルのほうがええか?
あそこ空中庭園言うデートスポット的なモンがあんねんて。行ったことないけど、ユウジと小春が騒いでたな。
まぁ、オーソドックスなところ希望なら、通天閣でもええねんけど」
(ねぇ…ちょっと。オレ、なんで大阪行く話になってんの?)
(ええから話合わせて、ほれ、にっこり笑顔!)
(ほんっっっと、眼鏡カチわるC)
(おー、謙也が今日無事に大阪帰ったらなんでも言うこと聞いたるわ)
(言ったね?ぜってー約束だし。破ったら岳人と襲撃するから)
(はっはっは、謙也さえ帰れば平和な日常に戻るし、どうとでもできるってな)
―「ユニバーサルも新しいアトラクションできたし、つ、次の春は、一緒に―」
(ねぇ…オレ、遊園地も行かなきゃなの?)
(ええから話合わせ!ユニバーサルでもひらぱーでも何でも付き合ったれ!)
(てか別に大阪行く予定ねぇし。忍足、なんとかしてよ…)
(謙也が帰ればどーとでもなる言うてるやん)
(これだけ春休みの大阪計画を語られると、大阪行かなきゃ呪われそうなんだけど)
(まー、謙也んちは毎年春休みは家族旅行で海外行くから、その日程にぶつければ何とでも)
―「近場で日帰り京都もええな。あ、芥川が行きたいなら、清水寺とか、野宮神社、上賀茂神社とか、神社めぐりもええなー」
(?京都だと寺めぐりじゃねぇの?しかも清水寺って、ちょー有名どころ…何で?)
(あー…清水いうより、その中の地主神社に行きたいんやろ)
(じぬし?なにそれ)
(地主神社、上賀茂、野宮。全部縁結びで有名なところやな)
(………おめぇも何でそんなの知ってんのさ)
(クラスの子らと女子トークしてると自然に見に着く知識やねん)
(女子トークとか言ってんなよ?アホ眼鏡)
―「俺んちに泊まってもええけど、どうせなら温泉行きたいやんなぁ。
ど、どうせなら遠出して、有馬温泉でも、ど、どうやろ」
(…ちょっと、いい加減出ないと。財前待ってるんだけど)
(せやなぁ)
(せやなぁじゃねー!おいこらアホタリ!従兄弟とめてよ!!)
(お前が一言、『春休み、楽しみにしてる♪』て笑顔つきでほっぺにチューでもすれば黙るで)
(アホなことばっか言ってんなよ?まじまじ、シメるC−)
(痛っ、ちょ、ギブギブ!お前っ、アカンて、そこ、急所やん)
(うるせー!)
(ンな男の大事なとこに思いっきりエルボーて、何考えとん!?)
(タマすり潰すぞ、このヤロウ)
(あー、謙也はお前に夢見てるから、そーいうとこ見せたらアカンで)
(あんだと?じゃあ何、思いっきり下ネタでもかましてやろーか?何なら金的蹴りでもお見舞いしてー)
(…それはカンベンしたって。謙也、引き篭もるかもしれんし)
―何とか侑士くんの部屋から謙也くんを出すことに成功し、忍足家のリビングにてソファに腰掛ける三人。
ひたすら春休みの予定を並べる謙也くんの話を右から左へ受け流しつつ、隣の侑士くんに『何とかして』と視線を送るものらりくらりかわされて。
時間的にもうそろそろ財前くんが待ち合わせの渋谷駅に着くだろうから、悠長にソファでのんびりなんてしていられない。
どうしたもんかと頭をかく慈郎くんでした。
☆即興忍足劇場40☆
「じゃ二人とも、気をつけて。良いお年を〜」
「はい。一週間世話になりました。また来年……ってオイ、謙也先輩?」
「………」
「ほら謙也、早よ乗って席取れや。自由席やろ」
「オシタリ?ええと、……またね?」
「…!」
「謙也さん?もうすぐ新幹線出るし、何やっとん?とっとと乗れや」
「わ、わかってる!」
「先席いってますよ?」
「お、おお」
「ほな芥川サン、侑士サン、よいお年を」
「「来年もよろしく」」
「…謙也、何か言いたいことあるなら早よ言え。もう1分くらいで新幹線出る」
「オシタリ?どしたの。何かある??」
「………ら、ら」
「「ら?」」
「らい、ねん…春」
「「はる?」」
「大阪で、待ってる。絶対に……来てや!」
「!あ、あー、はい。春休みねーええっとー」
(おいジロー、にっこり笑顔で頷け言うとるやん。何躊躇っとん)
(うるせーアホ眼鏡。春休みって言っても、受験前の高2の春休みなんて講習だらけで大阪遊びにいく暇なんてねーっての)
(それ言うたらアカンで)
(どうしろっつーのさ)
(とりあえず今この瞬間は謙也を大阪へ帰すのが最重要ミッションやねん。ほら、『大阪楽しみにしてる♪』って一言!)
(何がミッションだよ…ったく、ほんと、いいかげんに―)
(ほら、鳴った!新幹線出るで!?お前が『行く』言わんと謙也がいつまでも新幹線乗らんで。早よせぇ)
(〜っ、本っっ当、アホタリ!もー、このホームまでの入場券も請求すっからな?)
(おーおー、ナンボでも請求しなさい。いくらでも払ったるわ)
(ったく、いまどき見送りで新幹線ホームまで来ないってーの。しかも身内じゃねーのに)
(ジロー、時間!)
(あ〜〜〜〜〜もう!!)
「オシタリ、また来年。春の大阪、楽しみにしてるね。案内よろしく」
「…っ、あ、あくたが―」
「謙也、新幹線!あかん、出るッ!!乗れ!!」
「うぉっ、侑士、急に押すなや!」
「アホ!さっきから出発音鳴っとるっちゅーねん。ほな、おばさんたちにもよろしくな。来週行くから」
「お、おう。あ、あくたがわ、俺―」
―侑士くんが動かない謙也くんを押して新幹線へ何とか乗せた数秒後に閉じたドア。
何かをいいかけたようですが、無情にも閉ざされたドアの向こうで叫ぶ謙也くんの声は聞こえません。
遠ざかっていく新幹線をホームで見届け、ほっとした様子の侑士くんと慈郎くんは品川駅を後にしました。
一週間に及んだ謙也くんと財前くんの冬休み東京訪問も、ようやく最終日。仲良く大阪へ帰っていく二人でした。
>41話〜ラスト
>>即興目次へ >>トップへ
[ 5/22 ]