「ほら、席つけ。期末考査返すぞー」 試験期間も終了し、週末をあけたら一斉に結果が発表される。 さすがに廊下に貼り出し−は無いが、各科目の上位10名と総合30名の名前とクラスは、学園内で運営されるネットにアップされ、生徒は誰でも見ることができる。 (校内新聞としてデジタル配信される新聞部の記事でも、大きな試験後は優秀生徒の発表の場となっている) 月曜日1限目、数学の時間。 「じゃ次、芥川」 「はぁ〜い」 「今回も断トツだな」 「ども〜」 返された答案は、左上にサラっと『100』の文字。 解答欄もシンプルに、あまり書かれておらずほぼ答えのみ一発書きな設問も目立つ。 解き方の経過を見れるように大目に余白をとってある問題でも、書かれたのは回答そのもの。 まったく計算をしないのか、それとも頭の中で解いてしまうのか、はたまたかの天才アインシュタインのように設問を見ただけて答えと結びつける脳なのか。 先生的には、天才ってわかんないな、、と早々に芥川慈郎という生徒への接し方をあきらめーあ、いや、察して、というか。 当初は計算式が何も書かれず答え一発書きの彼にあれこれ聞いたり、ちゃんと式を書くよう多々言い聞かせたのだが、芥川本人が先生の言ってることに「?」マークを浮かべ、何を言われているのかがよくわかっていなかった。 わかっていないというか、何というか。 問題を見て瞬時に答えが出てくる彼の脳では、そもそも「計算式」というのが存在しないのか、それすら無意識のうちに一瞬でこなしてしまうのか。 氷帝学園校内新聞、中等部3年科目別数学部門。 1位 芥川慈郎 (C組) 100点 1位 跡部景吾 (A組) 100点 3位 ○○×× (○組) 98点 4位 ××○○ (○組) 97点 5位 忍足侑士 (H組) 96点 ・ ・ 〜中休み時間〜 「すげぇじゃん、ジロー。まずは数学で跡部に勝利だな!」 「えへへ、やったよぉ〜宍戸。これで賭けはオレの一歩リード!」 「今回は総合じゃねぇのか?」 「総合はいっつも負けちゃうからヤダって言ったら科目別になったんだC」 「…相変わらず甘いねん」 「うぉ、忍足。どっから出てきた」 「さっきからおったっちゅーねん」 「オシタリも惜しかったね〜」 「今回はイケる思たんやけどな」 「数学はジローがトップだなー」 「跡部も同率やん」 「えへへ、『一番上に名前があったほうが勝利』だもん」 「……跡部、それでOKしたん?」 「うん。だからオレの勝ちだしぃ〜」 「『俺様が負けるわけねぇ』とか言ってたなー。アイツの顔が見ものだぜ」 「よっしゃ、ほなA組行ってみよか〜」 3人そろって仲良くA組に赴いて、席で携帯をいじっている同率1位のもとへ。 宍戸の手にはタブレット、画面にデジタル新聞の3年数学部門トップ10の名が書かれたページを拡大して。 「あっとべ〜!!」 「あん?なんだ、お前ら」 「数学はオレの勝ち〜!」 「!!なんだと?」 「ほら、一番上がオレだC」 「……ばかな」 宍戸からタブレットを拝借し、嬉しそうに跡部に見せる芥川、とその2人を少し離れた位置で眺める宍戸、忍足。 跡部はというと、心底信じられないような表情でタブレットと芥川を交互に見やって、一番上にかかれた『芥川慈郎』を再度見る。 「なぁ、アレって跡部、わざとか?」 「さぁ〜どやろな」 「同点だったらジローの名が上なの、当たり前なのにな」 「氷帝は同率の場合、五十音順やし」 「クラス順の発表なら名前の順番、逆なのになー」 まず一勝! なんてキャッキャいいながらはしゃぐ芥川と、ショックを受けているのか、何度も順位を見ながら『同じ点数で、ジローが上、だと…?』呟く跡部。 「正確には上や下は関係ねーのにな」 「同点で同率、どっちも1位やん」 「あと7科目か。結局総合で跡部が勝つんだろうけどよ」 「今回は総合関係無いんやろ?科目ごとっちゅーワケか」 「現文と古典はわかりきってるけどな」 「その2つも賭けに入れとん?」 「さぁな。それ除いたとしても残り5つなら、もしかするかもな」 「化学と、英語、第二外国語、社会科選択…せやな」 「理数は同点かジローが勝つだろうし、国語系は跡部が圧勝するだろうからな」 「英語と第二外国も跡部が取るやろ」 「社会科はーあいつらそもそも選択違うから、賭けっつっても微妙だろ」 理数系が強い芥川に対して、オールマイティな跡部なので、総合では圧倒的に跡部の有利。 ただ、今回は科目別で8教科で競うため、多少芥川が落としても、他教科でカバーできるらしく。 「今回何賭けてん?」 「どうせまた食いモンじゃねぇ?」 「あぁ。前の中間はデザートやったか」 「アフタヌーンティな」 「あん時は跡部の勝ちで、ジローが用意したんやろ?」 「一応な。出来合い買うのは禁止って約束させられて、四苦八苦しながらケーキだのスコーンだの焼いてたぜ」 「ケゴたんはジロちゃんに作って欲しかったんやな〜」 「ジローのやつ、丸井んとこ通って教えてもらいに行ってたからな」 「立海の?」 「ケーキ作りが趣味なんだと。すんげぇ上手いらしぜ」 「ケゴたん、ヘソ曲げんかったん?それ」 「今回は『丸井禁止令』出すんじゃねぇ?」 「せやろな〜。でも、ジローが勝ったらどないするん。跡部が作るんか?」 「まさかだろ。飛行機でどっか連れてくんだろーよ」 「あ〜やりそうやな」 「勝ったジローの『ジンギスカン食いたい』に、その日に北海道連れてった奴だぜ」 「跡部様やな〜」 その場にいた宍戸と向日も一緒に連れて行かれ、ご相伴に預かったことを思い出す。 二人はただただ仰天し、…いくら跡部でもここまではー いや、やっぱり『跡部様』だからか、と納得しあった。 ただ、驚くだけの自分たちと違って、芥川は目を輝かせ『跡部、すっげぇ〜!まじまじ、ジンギスカン!!』 『すっげぇ』が跡部にかかってるのか、ジンギスカンなのか微妙なところだが、目いっぱいはしゃいで、跡部を喜ばせた(と宍戸と向日は思っている)。 さて、今回は何を賭けているのか謎なところだが… とりあえずは先手一勝!と、数学は芥川の勝利で終わった。 デジタル新聞では、まだ数学しか発表されておらず、次の昼休みに残りの教科が一斉に出ると思われる。 (本来は一斉に出るところだが、なにやらアップロードに手間取ったのか、他に採点の終了していない科目があるのか) 8科目中、現代文・古典で跡部が圧勝かつ、英語と第二外国語でもおそらく跡部有利となれば、残り4科目を意地でも勝たねばならない。 というか、それに勝ったとしても4-4でイーブンになるのだが… 放課後どうなっていることやら。 休みの終了を告げるチャイムとともに、宍戸と忍足はA組をあとにした。 置いていかれた芥川は、慌てて宍戸の後を追っていった。 次の授業は、他クラスと合同の英語(オーラルコミュニケーション、つまりは英会話)だ。 ここで答案が満点なら、最終的な結果がひょっとするかもしれない。 (跡部はきっと満点なので。英語で勝つには満点を取るしかない) テストの結果は、芥川としては割りとどうでもいいというか、然程気にしない。 だが、跡部と賭けをするようになって、楽しみなイベントの一つとなっている。 いまのところ負けることが多いけれど。 今回は科目別対決なので、勝算は……総合よりはある!と意気込んでいるらしい。 (終わり) >>目次 ******************** ジロちゃん頭イイ設定で理数系に強いんです、と。 テスト設定云々はテキトーです。 中学生の試験科目なんて、覚えてないんだC− |