柳生くんの仁王くん対処方法



本日の立海大付属高校男子硬式テニス部、活動内容は『各自任せ』で、基礎トレーニングや一連のメニューはあるものの、メインの練習内容は個人で自由に組んでよい、いわゆる『自主練』に近いもの。
毎日練習内容が細かく決められている立海テニス部においては珍しいことではあるが、シングルスでの試合が多い選手は個人メニュー、ダブルスの割合が高いタイプはペアでの練習に時間を割いており、サボって帰ってしまうような部員は皆無かつ部の長や参謀が目を光らせているため内容が厳しいことには変わりない。


「やぎゅ、暑いナリ」
「今日は曇りですが」


ウォームアップとしてコート周りの軽いランニングを終えて、次はラケットを手にコートに入ろうかというところで、立海大付属高校テニス部2年生レギュラー、本日はダブルスの練習を選んだ男子高校生が、タオルを頭にかぶったまま呟いた………ところで、間髪いれず『暑いほどではない』と曇天を差して返したのは、彼のペアたる同じ2年生。


「じめじめして体力奪われとる」
「まだランニングしかしていませんが」
「疲れたから休憩してくる」
「待ちなさい」
「グェッ」


暑いところが大の苦手で、色素も薄く色白で細身。
いわゆる『ひょろひょろ』と称される、立海テニス部レギュラーの一人、仁王雅治。
影へ影へと日の光を避ける傾向にあり、普段の登下校も遠回りしてでも日陰を好んで歩き、それなら帽子でも何でも頭部を守り長袖を着るなどの日光対策をすればいいものの、それ以上に暑いのが嫌だと試合中も帽子をかぶらない。

中学時代は太陽の光を長時間浴びすぎて倒れたこともあり、実は太陽光と関連のあるアレルギーや病といった類の症状持ちで、小学校高学年あたりからあまり出なくなったようだが幼い頃はそれで苦労していたと聞き、部員皆で本人を叱ったほどだ。
持病に関する詳細は本人が頑なに口を閉ざしたのだが、参謀と柳生によってご家族へのヒアリングが行われ、だいたいのことがバレてからは日中は帽子をかぶれ、長袖を着ろ、と細かい指示が入った。しかし、仁王本人が『暑いのが苦手なだけ。日光は今はもう平気じゃけん』と帽子も肌を隠すことも嫌がり、中学に入ってからは殆ど症状も出なくなり医師の診断も『問題なし』なので大丈夫、と彼の母親も姉も笑顔で彼を送り出していると確認ができたので、一応は本人の意を汲んで『無理しないこと。負担に感じたら休憩すること』と言い聞かせて体調管理は本人に任せている。

そのためか、たまにふらっといなくなってしまう彼に関する咎めも、他の部員よりは甘くなってしまうようだが、実際に彼がいるところは必ず日陰なので、自分なりに体温調整・管理をしているのだろうと皆、目を瞑っている。

太陽が燦々と輝いている日は特に、体力を使わないように極力無駄な動きをせず、ストイックに練習に励む仁王がフラっと休憩に出る頻度があがることはあるけれど、本日のように太陽が隠れてしまっているときはどんなに暑くても『暑さ』で体力的に不可と判断し休憩に出ることがあまりない。
やはり彼は暑さよりも太陽の光の方を気にしているのだろうと、ペアの柳生としては感じる……が、今のように平気なはずなのに休憩に行こうとする、いわゆる『サボろうとする』癖は中学時代から相変わらずで、当初は色々騙されたものだが何年も付き合えばだいたいのことがわかる。

そうはさせぬと首もとを掴めば、蛙が潰れたようなうめきとともに反論の声があがった。


「え、襟足を掴むのは反則じゃろ。首が絞まっ……痛い!」
「ギャースカ言うんじゃありません。まだ休憩時間ではないでしょう」
「水分補給せんとキツイ」
「ドリンクボトルならベンチに置いてあるでしょう?コートを出て行く必要はありませんが」
「パートナーなら察しんしゃい。今はスポーツドリンクじゃなくて―」
「食堂前の自動販売機にあるデカ○タCが飲みたい、と?」
「さすがやぎゅー。わかってるのぅ」
「運動直後です。炭酸ではなくスポーツドリンクか水にしなさい」
「軽いランニング程度じゃけん、問題なか」
「適度な休憩はもちろん必要ではありますが……軽いランニングというのならコートに入りなさい」
「休憩の時間言うとるじゃろ」
「いいから入りたまえ!」


ポンポン言い返せるようになったのは、中学三年間の友情の賜物か。
あーでもないこーでもないと屁理屈をこねる仁王にも対応できるようになってきたし、中学三年あたりから返り討ちで黙らせることにも多々成功、その度に『くすん…っ…やぎゅう、厳しいけん嫌いナリ』などと凹ませることも多数。
その都度『仁王くんがそのように思われるなら仕方ありませんね。しばらく距離を置きましょうか』などと倦怠期のカップルのような返しで問いかけ、仁王から『ごめんなさい』の謝罪を受けて仲直り、なんていう半ばパターン化されている一連の流れにまで付き合うようになったので、一部の部員からは『SとM』だの『漫才か』だの、ちゃんとコンビになっていると囁かれてもいたりする。

軽いウォームアップ後に筋力トレーニング、フットワーク、バランス力をあげるトレーニング、と細かな調整を経てコートで1セット行い、後は様子をみながら決める。
以上が本日の柳生・仁王ペアの予定練習内容で、ペアの仁王は毎度『やぎゅーに任せるナリ』のため柳生が参謀と相談しながら主に内容を決めていったものだ。
しかし、本日の曇り空と暑い湿気に、この後の細々としたトレーニングが嫌になったのだろうか?


「やぎゅー」
「?どうしましたか」
「海までランニングにせん?」
「次は筋力アップのトレーニング予定ですが」
「コートの景色に飽きた」


珍しく柳生の決めたものに異を唱えてきたが、理由を述べよと次の予定メニューを告げつつ促してみれば、ある意味予想通りの答えが帰ってきたため、仁王を見つめる柳生の双眸が鋭くなる。


「飽きたって……毎日見ているでしょう?」
「たまには気持ちいい海風あびてジョギングしたい」
「ついこの前、潮風がベタベタで気持ち悪いから海辺のランニングは行きたくないといって断ったの、どこの誰ですか」
「今日の天気はコートより外に出たい気分じゃけぇ」
「…貴方は南の島の大王ですか。そして繰り返しますが、今日は曇天です」


普段は意外と真面目に練習に励むタイプで、フラっと休憩に出てしまうことはあるけれど、授業はともかく部活をサボることは無い。
けれどもこうやってああいえばこういったり、気分屋のように以前とまったく違うことを言ってきたり、というイタズラな部分、面白がる性質は中等部からお馴染みで、ある意味彼のアイデンティティとも呼べる部分でもある。


「けど暑いぜよ。うーみー!」
「どこのお子様ですか。まったく仁王くんは」


駄々をこねるのも一応は相手を選んでいるので、立海生の中では柳生くらいにしかこういう面は見せない。
といっても他の皆の前ではやらないというわけではなく、主に柳生に対してこのような物言いを行うというだけで、たとえ他のメンバーの前だとしても柳生がいれば子供のような一面を躊躇せず見せては『しょーもねぇなぁ、仁王は』などと丸井含むほかの同級生に笑われたり、『面倒くせぇっス、仁王先輩』と後輩に呆れられることもある。


「この前のとき、俺、海辺ランニングせんかった」
「行きたいのですか?」
「おう。紫陽花のつぼみがいっぱいあったんじゃろ?」
「ああ、そういえば海に出る前の沿道で、少しだけ咲いていましたね」
「今なら満開」
「……それが見たいのですね?」
「あそこの沿道、帰り道ちゃうもん。海辺ランニングやないと、中々見れんし」
「部活中ですよ?」
「ちゃんと最後まで走る」
「当たり前です」


以前、一部メンバーによる長距離ランニングで海まで出た際に、そういえば仁王は『海風が気持ち悪い』と別のコースを選び、町内ジョギングで同距離のランニングを済ませていた。
同じように別コースを走った者も数人おり、そのうちの一人・丸井ブン太はというと海がどうたらではなく、町内コースのルート上にあるたい焼き屋で買い食いしたい、という彼らしい理由だった。
一緒に走っていたため、ノリでたい焼きを購入し歩きながら食べていた仁王(ちなみにカスタード)と、つぶ餡、チーズ、カスタード、うぐいす餡…と一種類ずつ購入し次々に平らげていく丸井。
部活中とは思えないほどほのぼのとした光景だったのだけど、レギュラーメンバーたる二人が歩きながらたい焼きを頬張っているところに、海岸から戻ってきた海辺組と遭遇し、皇帝の怒号が付近に鳴り響いた。


「なー、筋力アップは明日にまわすし、1時間で帰ってくるけん、海辺ランニング!」
「……」


それぞれ鉄拳制裁を受け、さらに学校に戻ってからは神の子により『仁王と丸井、ロブあげて?』と微笑まれ、レギュラーメンバーのスマッシュ練習の相手をつとめ滅多打ちにされていたことも良き思い出。
帰り際に部室で、海辺ランニング組の部長筆頭に『沿道の紫陽花』話が出て、それが今まで頭に引っかかっていたのだろう。屋上の庭園でよく日向ぼっこ―といっても日陰で寝ていることが多いのだが―をしており、季節の花々を携帯カメラにおさめては『黄色いの、キレイじゃった』などと毎度感想を述べ、丹精に手入れを行っている幸村部長を喜ばせている。
仁王本人はさほど草花の種類や名前に詳しくは無いようだが、眺めるのは好きらしく『青の隣に白いのがあるほうがええ』などと子供のような言い回しだが、色彩感覚とセンスはあるためか幸村からも『今度植えようと思うんだけど、どっちがいい?』なんて意見を聞かれることもあるらしい。
そのためか神の子の『沿道の紫陽花が満開になれば凄く綺麗だろうね』の一言と、今頃は花開いているであろうタイミングに、是非見たくなったに違いない。


「なー、お願いナリ。今日のメニュー、後半はランニングでもええじゃろ?」
「ダブルス練習における自主トレーニングなので、双方の合意が必要ですが」
「で、俺らのトレーニングは海辺ランニング希望」
「……」
「希望」
「……」


いつもは練習メニューにあまり口を挟んでこないので、このように『海辺ランニングに行きたい』と主張してくるのは珍しい。理由は明白で紫陽花なのだけど、それでもあまり走りこみが好きではない仁王が、コート練習よりランニングを希望しているので、さてどうしたものか。


「お願いします」
「……」
「ちゃんとやる。サボらんし、途中で逃げんし、一緒にコート帰ってくるけん」
「逃げないのもさぼらないのも当たり前です」


柳生としても、この調子じゃおそらく自分が折れて『海辺ランニング』になるだろうことは予想できているが、果たして仁王が真面目に走るかどうか。紫陽花スポットで足を止めるだろうことは想定内で、それくらいならば別にいいのだが、肝心の海まで出ずに沿道の紫陽花ロードに着いたらそのまま引き返しそうでもある。


「なー、なー、ええじゃろ?」
「この前の坂道トレーニングのように、途中で逃げてカフェでアイスコーヒー飲んでたら、許しませんよ」
「アレは反省文提出したし、悪かったって謝った!」
「『つい出来心だっちゃ』の一言の、どこが反省文ですか!まったく」
「あんなん、もうせんし」


校外での練習中にフラっといなくなった仁王が、皆の予想していた『日陰での休憩』ではなくどこぞのカフェのテラス席で悠々と冷たい飲み物を楽しんでいた1シーン、なんていうこともあった。
本人曰く坂道トレーニングを終えて暇だったからと、たまたまいつもの日陰休憩ではなくカフェで休憩していただけだと言い放ったが、無論そんな主張が通るわけも無い……のだけれど、幸い鬼の副部長と部長が不在だったため、お優しい参謀による『仁王。ほどほどにな』の一言でお咎めなしだった。


「なぁ、だめ?海辺ランニング」


いつもなら却下し続けると諦めるか、または一人でフラっと行ってしまうのだけど今日は珍しく引かない。柳生と二人で行きたいのか、はたまた一人で行きたくないのだろうか?それとも、一応は『ダブルスの練習』で二人で同じメニューを取り組むという本日の趣旨から外れないようにしているのか。
どうであれ、柳生が『是』かまたはキッパリと『否』かを示さないと、この場に留まり『海行きたか〜』が止まらないだろう。真面目に海というゴールまで走りきるよう目を光らせておけば問題ない、か。


「…仕方ないですね」
「!!」


何だかんだ言いながらも仁王には甘いので、結局はいつも彼の言うことに頷いてしまうのだ。


「きちんとペースを計って、タイムとっていきますよ」
「俺がストップウォッチ持つ」
「紫陽花で立ち止まらず、進みますからね?」
「りょーかいナリ」
「では、柳くんにメニューを伝えていきましょう」
「もう伝えとる。参謀もオッケーした」
「いつの間に…」


いつどこで柳と話す時間があったのだろうか。
着替えて部室から出て、軽いウォームアップをこなすまでずっと一緒だったはずなのだが。
ここで突っ込んでいたらまた余計な時間を割いてしまうので、あまり細かいことは聞かずにひとまず海辺ランニングへ出ることにした。途中の沿道、紫陽花ロードでやはり立ち止まった仁王に小言を発しつつも、そこは見事に咲き誇っていた紫陽花を前に頑なに駄目とも言えないところが柳生の優しさ。
ただ、いつの間にポケットに忍ばせていたのか携帯電話を取り出してパシャリと何枚も収め、案の定『目的は果たした。もう満足、帰るぜよ』なんてほざいたため喝を入れて、海まで走らせたけれども。

さて、走り終えて戻ってきた立海大付属高校テニスコートの入り口では、コートに入ろうとした柳生の背後から『疲れたー、もう終わり、終わり』とやる気の無い一言が…。


「まだ部活終了まで時間がありますが」
「あと全部休憩にせん?」
「しません。今日ほとんどコートで打ってないでしょう?」
「残り時間はクールダウンで終わりだっちゃ」
「帰りはゆっくりとしたペースで来ましたし、汗も引いています。クールダウン不要では?」
「じゃあボール磨く」
「1年生が毎日やっています」
「コート整備」
「まだコート使用中です」
「コート使用中なら俺ら使えん。ということは打てないということで―」
「柳くんが合図しています。あそこのコートが空きますよ」
「こういう自主メニューの時くらい、1年にコート使わせてやりんしゃい」


帰りたいのかと思いきや、ボール磨きだのコート整備だの言い出しているので、あまり動きたくないのか、はたまた単純に休みたいのか。それにしても海から戻ってくるまでは軽く流す程度だったため疲労もさほど無ければ、仁王の体力的にもまだまだやれるはずなのだが。
いや、きっと日差しや疲労、暑さなど関係なくただ休みたいだけかもしれない。といってもこういう場合に柳生が折れることはなく、何でもかんでも仁王の言うことを聞いているワケではないのだ。


「その意見には賛成ですが。……そうですね、それなら後輩の相手になってあげますか?」
「え?」
「ちょうどいい。1年生も先輩相手のほうが練習になるでしょう」
「やぎゅー?」
「私はBコートの佐藤くんの相手になりましょう。仁王くんはその隣の加藤くんに」
「ちょお待ちんしゃい」
「何ですか?1年生のためにコートを有効に使わせてあげたいのでしょう?」
「俺とお前の今日のメニューはダブルス強化」
「そうですね。では、ダブルスで対戦にしますか?私は佐藤くんと組みましょう。貴方は―」
「な、何で俺が1年と組むん?!柳生と組まんと、ダブルス強化にならんじゃろ」
「私たちのダブルス相手だと、1年生が可哀相です」
「ほんなら―」
「つべこべ言わずにコートに入りなさい」
「い、一年と?」


気まぐれな彼は素直にコートに入ることもあるけれど、こうして駄々をこねてああでもない、こうでもないと言い返してくることもある。そういう時は、彼が頷かざるをえない状況に持って行くのがペアたる柳生の役目。そう、本日は『ダブルス練習強化』が中心なのだから、二人で組んで練習せねば意味が無い。


「…わかりました。丸井くんと桑原くんも戻ってきましたから、ちょうどいいですね」
「ブン太たちとダブルス?」
「ええ。ほら、呼んでますよ。行きましょう。それとも1年生と組みたいですか?」
「……」
「どちらかですよ?1年生と組んでダブルスか、私と組んで桑原くんたちとやるか」
「……」


こういえば彼がどう返答するかはわかりきっているので、さて次なる準備をしようか。
コート入り口に立てかけてあるラケットを二本手に取り、青いラケットフレームのPrinceを後ろの彼に差し出して、返答を迫った。


「どうしますか?」


憮然とした表情を浮かべていた彼だけど、ダブルスパートナーが折れないことも知っているからか、渋々ラケットを受け取り、観念した様子で一つため息をついた。


「………やぎゅーと組む」
「はい。ありがとうございます。では、行きますよ」


奥のコートでスタンバイしている丸井・桑原ペアとセルフジャッジでひとまず軽いラリーを、と思いきや1年生の佐藤くんと加藤くんが『是非、審判やりたいっス!』と申し出てくれたので、それならば試合形式でやりましょうということになった。日差しと暑さを嫌がる男は『1セットだけでええじゃろ?』と当初は軽く流すだけを主張していたのだけれど、しばらくしてフェンス越しに『丸井くーん!!』なる対戦相手への明るい声援が聞こえてきたら急に態度を変えて、最近試合で使っているお気に入りのラケットまで取り出してきた。やけにやる気を出して『ブン太にだけは負けとうない』と真剣な表情で告げてくるパートナーは単純といえば単純か。


―好きな人の前では、かっこいいところを見せたいという健気さを応援しましょうか。


「では仁王くん。本気で行きますか」
「1ポイントも取らせん。今日は本気でやる」
「はい。では、始めましょう」


柳生・仁王ペアのサービスゲーム、始まりは仁王のサーブから。
確実に決めるなら手塚のイメージで零式をやりたいところだけど、せっかくならポイントを決めたうえでフェンス向こうの見学者が喜ぶサーブを見せたい。となれば。
高くトスを上げて、上から打ち下ろした速球が丸井・桑原ペアのコートに決まった。


『まじまじすっげぇ〜!タンホイザー!?かっけぇ!!』


丸井・桑原ペアと柳生・仁王ペアが対戦するコートに響き渡る明るい声。
サーブを決めた当人は満足げな表情で、さぁもう一本、と構えだす。


(やれやれ、今日はハードな練習になりそうですね)


相手コート側のボレーヤーは、本気モードでサーブをぶち込んできた銀髪のオールラウンダーに少し驚いてはいるものの、面白そうに目を輝かせながらパートナーと目配せしあい、サーブコースの予測をしながら位置を変えてきた。
その際、相手の銀髪へ牽制をすることも忘れずに。


「ジロくん、よーく見とけよ!」


フェンス越しの他校生に手をふり、バッチリとウィンクなんぞも決めている赤髪。

そんなボレーヤーを一睨みしながらラケットを握り締めている仁王のもとへと駆け寄った紳士が一言『リラックスしましょう』と声をかけたら、対面の相手を睨んでいたはずの彼が少し情けない表情を浮かべたため、奮起させるべくバシっと背中を叩いてやる。
心強い勝利宣言とともに。


「……やぎゅー」
「はいはい。勝ちますよ」


勝つのはもちろん、観客を楽しませるような魅せるテニスをしたい。
そんな仁王の想いはわかっているけれど、それにはまず主導権を握って流れを掴まなければならない。


(とりあえずサービスゲームをキープしましょうか)


パートナーがこのままサーブで1ゲーム取ることを信じて、心の中で声援を送った。





(終わり)

>>目次

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立海小話6人目、柳生比呂士

仁王くんは甘えたで可愛いコなのです。
『ナリ』を連呼させたくなってしまった。





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