高校2年・白石蔵ノ介の2月14日



京都で行われた高校生英語スピーチコンテストなるイベントに、複数の大阪代表の一人として派遣され、壇上でスピーチを終えた二年生の彼。
学校側から打診されたときは多少の面倒くささを覚えたものの、春からは最上級生になり受験生として本格的に勉強の日々が待っていることを思えば、いまは国際化な時代なわけだし英語スピーチの一つや二つ、経験として身になるだろうと承諾した。

比較的序盤で登壇した自身の出番はあっという間に終わり、最後の発表までは時間が空くため他のスピーチを一応聞いておくかと観客席に入り、全国各地の代表によるスピーチをじっくり聞くことにした。
殆どが恙無く終わりサラっと聞き流すことも多かったのだが、終盤に出てきた『東京代表』が見覚えのありすぎる高校生だったため、思わず壇上を見つめる目が釘付けになる。

スポットライトのあたるステージ中央、光が反射して明るい髪色がキラキラ蜂蜜色に輝き、意思の強い大きな瞳と整った顔立ちが浮かび上がる。
彼を実際に見かけるのはいったいいつぶりだろう?

中学時代からの仲で、現在もクラスメートな友人の携帯データ内に、壇上の彼の写真が数枚おさめられており、たまに携帯を眺めてはニヤけている友人の姿ももう見慣れたものだ。
ついでにその携帯画面も見掛けたこともあり、彼の今の姿もさほど久しぶり感はなかったりするのだが、実際に生身の彼を目にするのは一年以上ぶりだろうか?

友人は小まめにメールを送り連絡を取ろうと中3の出会いからずっと奮闘しており、そのしつこさ……もとい執念と粘りは驚愕に値するものではあるものの、肝心の彼は当初は戸惑い、徐々にそのしつこさに辟易していたものの慣れてくるとのらりくらりかわしながら、うまくあしらっているらしい。
最近は友人から彼の名を聞く機会が減ったけれど、それでもたまに思い出したかのように携帯画面を眺めてはため息をついているので、未だ諦めてはいないのだろうか。
ただ、女生徒の呼び出しを頑なに断っていた友人が、ここ数ヶ月彼女たちの誘いに応じたり、たまに一緒に出かけているようだとの噂話が耳に入ってくるようになったので、どういう心境の変化か聞いてみようと思っていた数日前。

下校中に立ち寄った本屋で新刊チェックを終え、併設のカフェでホットドリンクをテイクアウトしようと入りかけた時、奥のテーブルで馴染みの友人をみかけた。
一人ならその向かいに座るところだったのだが、よくよく見てみるとその席には同じ学校の制服着た女の子がいて、そのまま近づいたらなんと学校でも可愛いと評判の女生徒だった。
普段なら『ち、ちゃうねん白石。これは、別に。ただの友達でー』などと言い訳をするのだが、目の合った友人は気まずそうに頭をかき、女の子は店内に現れた高校一の色男に嬉しそうに笑顔を向けた。


『白石くん!どうしたん?あぁ、謙也と仲ええねんな。隣座る?』


下の名前呼びや親しげな様子に、一瞬で女の子と友人の関係がわかった気がした。
いつのまにそんな子を作っていたのか。しかし、高校も同じクラスで割と一緒にいるのに何も言ってくれないなんて、水くさい。


『謙也、おまえー』

『……』


―諦めたんか?

そう続けようとしたが、女の子の手前その場で言うようなことではないだろう。
はっきりと『付き合ってます』と聞いたわけではないが、どう見ても彼氏彼女の放課後デートな一幕としか思えず、あれを『ちゃうねん、ただの友達ー』などとはいえないだろう。
それに、いつもの『ちゃうねん、ただの友達ー』が友人の口から出なかった。

あの時の友人の表情から察するに、完全に東京の彼への想いを断ち切ったわけではなさそうだが、彼女の前で『ちゃうねん、ただの友達ー』と言わないからには、やはり『ただの友達』では無いのだろう。
2年半近くも片思いを続け、白石の前で彼への想いを吐露したり、ある日は惚気て、ある日は落ち込み、こと東京の彼に対することではあらゆる表情を見せてきた友人だ。
確かにこのところ思いつめた表情をしていることもあったが、まさか他の女の子とデートするほど友人の気持ちが変わっていたとは気付かなかった。


芥川慈郎、17歳。
氷帝学園高等部2年生。


中学3年生で知り合った彼とは、テニス部という共通項を除けば接点はまるでない。
会えば挨拶をする仲だけど、それでも彼の住まう東京と自身の大阪では休日に会うにしては離れすぎた距離で、かといって大型連休や夏休み等を使って互いに会いにいくほど近しいわけでもない。

大阪が地元の彼の友達―忍足侑士の里帰りに付き合い、芥川を始めとする氷帝の面子が一緒に大阪へやってくることが何度かあり、その際に時間と機会があえば会って一緒にテニスをして、ご飯を食べるくらいだろうか?
白石が特に何かをしたというわけではなく、『友人の付き添い』に近いもので、『芥川が侑士と一緒に大阪来る!』とはしゃいだ友人に頼まれ一緒に遊んだ、とでも言おうか。


思えば彼と二人きりになったことは思い出す限りない。
壇上で流暢なクイーン・イングリッシュと心地よく耳馴染みのいい声でスピーチを行う彼を眺めていたら、全てが終了し会場を後にする頃には彼を待つ自分がいた。

駅へと向かおうとした足が自然と止まり、同じように出てくる出場者を一人ずつ確認し、出てきたブレザー姿の彼へ声をかける。


「芥川クン」

「…あ、ええと、しらいし?」


なんでこんなところにいるのか不思議そうな顔をされたため、同じくスピーチコンテストの出場者だと告げれば、そんな偶然もあるんだと笑った。


「今日、これからどうするん?」

「え?」

「東京。すぐ戻るんか?」

「そうだね、特に何も考えてなかったけど」

「先生はおらんの?引率とか」

「はは、氷帝はそういうの無いんだよね。新幹線のチケット渡されて、自分で言って来いってスタンス。そっちは?」

「うちの先生らは、京都(隣)やねんから自分で行きや、言うてな」

「まぁ、高校生だしねぇ」

「泊まり?」

「まさか。始発の新幹線で来て、これから適当のに乗るよ。自由席だし。白石は電車?」

「あぁ。30分くらいで着くし、近いねん」


そっちもすぐに大阪帰るのかと質問返しをされたため、京都で所用をすませて電車で戻ると告げる。
京都でスピーチコンテストに参加すると決まったときに、ならばついでに買い物をしてきてくれと妹に頼まれたものを少々。
聞けば大阪の百貨店でもこの時期出店しているためそこで買えそうなものだし、実店舗だとしてもさほど遠くもないので妹自身でも直接来れるだろう。だが、姉と妹にはさまれた真ん中の男ゆえか、『くーちゃん、頼むわ』と言われれば頷くしかない。
しかも、妹だけでなく姉も母も好きなお店だ。

頼まれたものを今日という2月14日に男の身で買いに行くのもどうかと思えるだろうが、白石自身としてはそこにさほどの抵抗が無いので問題はない。
これが件の友人ならば、『なんで男がチョコレート買わなあかんねん!』と絶対に拒否するに違いない。


「おいしーの?そこのお菓子」

「まぁ、俺も好きやで。抹茶トリュフがうまいねん」

「へぇ〜。そんなに遠くない?お店」

「電車ですぐや」

「ふぅん」

「お土産にもええんちゃう?」

「じゃ、オレも行ってみよっかなー」


まだ夕方なので寄り道をして新幹線に乗っても夜までには東京に着く。
さらには本日金曜で今週末は氷帝学園テニス部も練習オフのため、多少京都でゆっくりしたとしても問題は無いらしい。
それならば買い物に付き合ってくれ、ついでに気に入れば家族へのお土産でも買えばいいと提案したら芥川もノッてきたため、一緒に数駅の電車にゆられて西院の駅で降りた。


駅から徒歩10分ほどで着いた店内は、さすが人気店なだけあって売れ行きも上々、特にイベント当日なので売り切れも多数目立ったけれども、いの一番に無くなりそうな冬季限定のお目当ての品は奇跡的に僅か残っていた。
妹に頼まれたチョコレートと、ついでに適当に買って来いと母に渡された予算内で焼き菓子、生菓子を多数購入し袋に詰めてもらう。
見れば芥川も同じように、冬季限定抹茶トリュフを含む数点、『家族へのお土産』として購入していた。

このエリアに他に用事はなく、このお菓子屋さんのみが目当てだったので来た道をそのまま戻り西院駅へと向かった。
途中、購入した『おすすめの冬季限定商品』が気になっていたらしく、歩きがてら紙袋に手をいれてゴソゴソ探っていた芥川が取り出した小さい袋に、家族用のお土産20個入りとは別に同じ商品の2個入りを買っていたことを知る。


「味見してみよっかな〜ってね」

「おー、食うてみ。うまいで」

「はい、どーぞ」

「え?」


差し出されたのは2個入り抹茶トリュフの小箱。
1つはすでに芥川が親指と人差し指ではさんでおり、今にも口に入れる寸前だ。
どうやら2個入りなので片方を白石へくれようとしているらしい。

けれど、普段手に取る一枚100円前後のチョコレートと違い、2つで420円もするお高めチョコなので、気軽に『ありがとう』と受け取るのも躊躇われる。
それにこのチョコを買いに西院まで来て、妹のおつかいとはいえ同じ商品を購入しているし、初めて手にする彼とは違い自分は何だかんだ毎年冬になると食べているトリュフだ。


「ええよ、俺も買うたし。2つとも食べ」

「妹さんの頼まれ品なんでしょ?」

「まぁな。せやけど他の菓子は自宅用やし」

「今年は食べたの?このチョコ」

「そういやまだやな。けど、ゆかり…妹に、一個くらい貰えるかもしれんし」

「貰えないかもしんないじゃん」

「ははっ、そん時はそん時。味見用に買うたんなら、2つとも食べてや。この抹茶チョコ、ホンマにうまいで」

「今年まだ食べてなくて、食べれるかわかんなくて、ホンマにウマイんでしょ?ならなおさら。ハイ、いっこあげる」

「…ええの?高いで?」

「あはは、確かにちょーっと高かったね。でも、『ええよ』」

「芥川クン」

「おいしーのは、一緒に食べたほうがもっとおいしーでしょ?」


そうやって朗らかに笑うので、これ以上断るのも何だし、それにこのチョコが美味しくて白石自身が好きなのも間違いない。
差し出されたチョコレートを喜んで受け取ることにして、隣の彼と同時に口に運んだ。


日が落ちる寸前の京都の町を、東京の彼と肩をならべて歩く。
ほろ苦い抹茶の香りがすーっと鼻に抜け、広がるのは甘さだけでなく上品なお茶とカカオの深い味。

やはりここの抹茶トリュフが一番と納得の味で、家に戻ったら妹に少しわけでくれとお願いしてみよう。気になる人や他の人用のチョコレートならば、今日がバレンタイン当日なことを思えばとっくに用意しているだろうし、他人用のチョコを2月14日当日に、夜帰宅するであろう兄に買いに行かせるとも思えない。
きっと妹からのバレンタインに違いないと思いたいが、それにしては高めのチョコレートなので姉・妹からの合同か、それとも家族用か。
とりあえず焼き菓子だけでなく、抹茶トリュフも家で食べれるだろう。

今貰ったものが今年食べる最初の『抹茶トリュフ』で、3月まで販売しているとはいえ自身で今後買いにいくとも思えない。
となると万が一妹から貰えなければ、芥川からのチョコレートが今年最初で最後のあの店の『抹茶トリュフ』になるかもしれないと思えば、心なしかゆっくりと味わってしまう。


「うん、美味しかった!」

「せやろ?ここが一番やねん」

「おかーさんも妹も喜ぶと思う。いいお店教えてくれて、ありがと」

「こっちこそ。家に帰って、妹がくれなかったら、食べれんとこやったし」

「くれるといいね」

「おにーさまへのバレンタインってな。毎年一応はくれるけどなぁ」

「オレの妹も、毎年くれるよ〜。おかーさんと一緒に作ってる」


互いに妹の話になるとより雰囲気が柔らかくなり、妹バカとでも言えばいいのか目尻が下がるのを双方ともに実感する。
中学生にもなればシャレっ気が出て生意気な口を聞くことも増え、『くーちゃん、早よお茶淹れてや』などと、兄なんていいように使われるものなのだけど、結局はなんだかんだ可愛いらしい。

『おまえらどっちが上だかわかんねーな』なんてお隣の幼馴染に言われる芥川兄妹も、ボーっとしている兄としっかり者の妹という構図が出来上がってはいるものの、いざとなったら前に立つのは兄で、ちゃんと妹の盾になっている。
白石家と異なり顎で使われることは無いものの、おそらくそれは慈郎と蔵ノ介―兄同士の性質の違いだろう。
『ジロ兄ィ、お茶のむ?』と、しっかり者の妹がかいがいしく兄の世話をやく図が芥川家での定番である。


「家帰ったら、おかーさんと妹と一緒に、コレでお茶しよ〜っと」


―妹はチョコレート大好きだし、彼女のためにカラフルなマカロンも買ったのできっと喜んでくれる。


満足げに微笑み、『ありがとう白石』と再度のお礼を述べてくる芥川のふわふわした癖毛が冬の西日に照らされ、数時間前のスピーチ会場壇上のように、キラキラとハチミツ色に輝く。

意思の強い大きな瞳と、寒さゆえかほんのり朱みの差す頬に、綺麗な肌、整った顔立ち。


(…何考えとんねん、俺。謙也かっちゅーねん)


『目がめっちゃキレーやねん。大きくて、キラキラして。ボケっとしとんのに、アレで頑固で意思が強いんやで?』

『白石、どないしよ……風呂で鉢合わせた。露天風呂に芥川も入ってきて……俺もう動けんで、ホンマ財前が来んかったらのぼせてダウンした思うと、何やコワイわ』

『部屋に連れてった方がええんやろか。こんなとこで寝てたら風邪ひくやんな。なぁ、白石、抱き上げてええ思う?これで風邪ひいて合宿去るなんてことにでもなったらー』

『白石、抱っこするで!?ええな?侑士もおらんし、芥川運べるの俺しかおらん………は?いや、白石はええねん、疲れてるやろ。俺は体力あり余っとるっちゅう話や。芥川の一人くらい運べるー』


そういえば数年前の選抜合宿で、寝ている彼を運ぶ運ばないでアタフタし触れた頬の感触にどぎまぎしていた友人が、それ以来彼を語る際に『綺麗な肌』が追加されたのだったか。


可愛い、綺麗、テニスのときのはしゃぎっぷり、天真爛漫、素直、明るい、正直、天性のしなやかで伸び伸びとしたプレー、誰からも愛されて可愛がられる才能。

友人の語る、彼を評する言葉の数々。
日々続くアプローチに困った彼に邪険にされることもあるらしいが、根が優しい子なのだとどんなに断られてもめげずにアタックし続けた友人・謙也。

そんな友人からずっと聞いてきた『芥川慈郎』と、目の前でふんわり優しい笑顔で礼を言う『芥川慈郎』が一致して、すとんと何かが胸に落ちた気がした。
これは、色んなことの切欠になりそうな気がするのだけれど、このまま育てて良い感情なのか、それとも気のせいだときっぱり塞ぐべきなのか。


「最近、謙也とどうなん?」

「どうって…」


―何を今さら。知ってるでしょ?


声にしなくても、芥川の表情で言わんとしていることが察せられる。
中学時代の合宿を経て彼への猛アプローチを始めた『忍足謙也』と、そのアタックをかわし続ける『芥川慈郎』の関係は、テニス関連の一部知り合いの間ではある意味有名だ。
決して交わらない謙也の一方通行 ―なんて揶揄されることもあるが、『男同士』という大前提を置いたとしても芥川本人がその点において特に嫌悪感や拒否を示さないため、諦めきれない謙也の想いは続いて、続いて、そして今に至っている……はずだ。

ただ、芥川本人はそれを指摘されると、同性愛そのものを否定はしないが自分へ向けられる想いは、今のところ男であれ女であれ断っていますと述べている。
それが気になり、以前大阪へ里帰りした忍足侑士へ聞いてみたところ、どうやら芥川は女の子はもちろん男にもモテるらしい。

『男にも好かれるヤツやねん。本気の告白も何回かされてるし、高校の先輩、社会人のオトナ、年下の中学生……俺が知ってンのだけでも、ジローに断れてるやつ結構おるで』

それは中学の頃から変わらないようで、早くからそういう環境に身を置いていたためか、芥川自身の恋愛対象はさておき、根本で『同性愛』への偏見や嫌悪は無いらしい。
親友の惚れた子が、彼へ嫌悪を示したり傷つけるタイプではないと知って当時はホッとしたものだ。


「男だからとか、そういうの何とも思わないけど……でも、忍足をそういうふうに見たこと、ない」


『忍足謙也の親友』を前に、言葉を選びながら、それでもキッパリと自身の本心を告げる芥川に、これ以上友人について何も言えなくなる。
同性も恋愛対象なのかは謎なところだが、性別のハードルは低いにしろ『忍足は無い』と断言されたのだから。


はて、友人は直接、芥川にこのことを言われでもしたのだろうか?


教室のすみで、物思いにふけった顔で携帯画面に映る『好きな人』の静止画をじっと見つめる姿。
どんな誘いも断り一途に『好きな人』を想っていたのに、最近は高校の女の子と出かける姿があちこちで目撃されている友人。
さらには先日バッタリ本屋のカフェで遭遇した、噂が真実だというかのように放課後デートを楽しむ女の子と友人の姿。


『忍足をそういうふうに見たことない』と、笑顔を引っ込めて真剣な表情で白石をじっと見つめる瞳と、友人の最近の不可解な行動。
この二つがイコールで結ばれた気がして、断り続けた芥川がいよいよ最終通告をしたのだと感じた。
関係の無い白石が真相を芥川本人へ聞くわけにもいかないし、聞いたところで何かできるものでもない。

友人を慰める?

いいや、彼はすでに可愛い女の子とデートに行くくらいだ。
長年の想いを切り離そうとしているだろうからここはそっと触れないで、友人から報告や申し出がくるまで知らず存ぜずで貫くほうがいい。
しばらくすれば、彼女ができたと報告されるかもしれない。


白石は頭の中で、『友人は目の前の彼にきっぱりフラれ、振り切るために女の子と出かけている』と忍足の最近の行動を位置づけた。

では、白石自身に芽生えた先ほどの小さな感情は、いったい何なのだろう?
柔らかくふんわりした彼の笑みを向けられて、じわり心の中で灯ったかすかなもの。
今まで、目の前の彼に感じたことのない想い。

ただ単にスピーチ会場で彼を見かけたときから、常に親友の姿を頭の隅に思い浮かべていたから?
友人の長年の想いを知っているから、感情がリンクしたとでも言うのか?

これがもし、友人が1ミリも関係なく自身の奥底から沸いてきた感情だとしても、芥川がヘテロセクシャルならどれほど育てたとて、これ以上不毛な想いは無い。
謙也もその点を測りかねたため、今までずっと想い続けてきたのだろう。


「忍足、カノジョできたんでしょ?」

「え…」

「この前さ、忍足…侑士の方と一緒にいた時に、携帯で話すの聞こえちゃって」

「謙也?」

「うん。電話終わった後、おした…侑士の方が教えてくれた」

「謙也、彼女ができたって?」

「そんな感じ。知ってたでしょ?それなのに、『謙也とどう』なんて聞くからさ」


びっくりしたと苦笑する彼に、変なこと聞いて悪かったと素直に謝り、止まった歩みを再開させ駅まであと僅かな道を歩き出す。

それと同時に、芽生えた小さな想いにどこか後ろめたさを覚えた自身の感情は、打ち消す必要は無いのかもしれないとふと感じた。


忍足の気持ちにはどうやっても応えられないから、彼女ができてよかったと肩をなでおろす芥川に、やはり優しい子なのだと友人の言葉を実感する。
と同時に、やはりアレは彼女だったのかと数日前のカフェでのシーンを思い出し、友人ははっきりキッパリした男なのに何故ちゃんと『彼女だ』と紹介されずに濁されただけだったのかを不可解に思うが、そこは週明け教室で突っ込むことにしよう。





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