ブンジロの日1



いつものように丸井くんをウォッチしに立海までやってきて、フェンス越しに天才的プレーの数々を目で追って一喜一憂。
毎回ちゃんと約束しているわけじゃないけど、練習終了後の丸井くんと合流して駅まで一緒に行くのが恒例になっていて、お腹のすき具合によってはファーストフード、ラーメン屋、牛丼屋、カレー、と夕飯をすませることもある。

練習終了の号令で丸井くんが部室に引っ込んで、着替えて出てくるまでの間、テニスコートのそばのベンチで一人待つ数分間。
そんなに長い時間じゃないんだけど、『寝るんじゃねぇぞ』と言われるので、寝ちゃわないよう注意しようと思いつつもそんな心配は不要だった。
すっごく高度でワクワクするプレーを見せられて、アドレナリンでまくり。

興奮して、どきどきして、家での素振りはその日の丸井くんのプレーをイメージしながらやろう。
朝練は丸井くんの技にトライしてみよう。

そんなことを考えているとあっという間に時間は過ぎて、いつの間に丸井くんがそばにいて『ほら、行くぞ』と声をかけてくれる。



高校生になっても相変わらず丸井くんは強くて、かっこよくて、面倒見がよくて。
オレは中学の時から変わらず立海の練習を見に来て、はしゃいで、練習のヒントをたくさんもらって。
そんでもってまだ丸井くんには勝てていない………けど、年々といい勝負ができるようになってきて、最近では接戦になることもある。
あと一歩、もうちょっと。

普段、勝ち負けはあまり気にならないけど、丸井くんだけは特別なんだ。

勝ったことないからまだ『勝ったときの気持ち』はわからないけど、負けると、丸井くんは凄く強い、さすが!という尊敬のキモチと、ちょっぴり悔しい思い。
やっぱり中学1年の新人戦からずっと目標にしてきた人だから、もちろん勝ちたい気持ちはあるんだけど、同じくらい丸井くんとの試合が楽しい、いつまでも打っていたい、っていう気持ちもすっごく大きい。

普段の丸井くんは小さい弟が2人いるからか、面倒見のいいお兄ちゃん。
よく気がついて、同い年のオレにも色々声かけてくれる世話焼きタイプで―と言ったら、ジャッカルは変な顔して『…まぁ、お前相手だしな』だって。

話すことといえば、やっぱりテニスがメインで、後は最新スイーツ情報とか食べ物系、テレビの話題。
テストが近づくと『試験ヤだなー』という話くらいはするけど、お互いの学校の話をすることはあまりない。
別に意識して話さないわけじゃないんだけど、それよりもテニスやお菓子の話で殆どの時間を使っちゃうから、それ以外の話題までいかないんだと思う。


なので、テニス以外で『立海生』な丸井くんの話を聞くと、すんごく新鮮に思えてついつい聞いちゃうんだよね。
まぁ、話してくれる子は『丸井くんの』というよりも、立海テニス部の学校生活をって感じだけど。


誰って?



最近知り合った、1つ年下の立海の女の子。




>>1月26日ブンジロ記念日・1204キリリク話




『氷帝の芥川慈郎さん、ですよね?』


出会いは突然で、丸井くんウォッチを終えてベンチで待っていたら、急に声をかけられた。
知らない子だし何でオレの名前知ってるかもわかんないけど、ぼーっと見返してたらすんごい早口で自己紹介されて、そんでもってコクハクされた。
女の子にコクハクされるのは初めてではなく、いつもその時に気付かず後になって他の人に『あれって告白だったんだよ』と気付かされることが多い。
けど、その子はそういう面で察しないオレのことも調べ済みだったみたいで、要点をまとめて箇条書きのリストを読み上げるみたいに言ってきたので、説明が終わる頃には『これがコクハクか』とわかった。


知らない子だしよくわかんねぇしで『ごめんなさい』と断り、立海の子にコクハクされた云々は置いといて『箇条書きリスト読み上げコクハク』について岳人に聞いてみたら、『相当変わったヤツだな、それ』だって。

でも、そうでもしないとオレが気付かないから、そういうやり方できたならオレのことをよくわかってる、とも言われた。


あれ?
オレ、自分がコクハクされたってことは言ってねぇのに。

岳人はするどいんだねーってびっくりしたら、『俺でもわかる』と宍戸にまで言われて、そっちのほうが驚いた。


芥川ジローのことをよく知っている岳人と宍戸が、『お前のことわかってんだな』と言うんだからそうなんだろうけど、でもオレはあの子のことぜんっぜん知らない。
『コクハク』に『ごめんなさい』で返事したので、それで終わりだと思っていたら、次の週も、また次の週も、丸井くんを待っている間にやってきては隣に座り、あれこれ話しをしだすあの子に、最初はどうしようかなーって適当に相槌打ってるだけだったんだけど、徐々に話す内容がオレが云々よりも立海の学校生活?になっていって。

オレが丸井くんと待ち合わせてるのを知っているからか、部活始まる前の丸井くんの話をしてくれる。


『丸井先輩って自分でお弁当作ってるんですよ。体育祭実行委員で一緒だったんですけど、当日は委員みんなでご飯食べて、その時にすんごい量のお弁当をちょっと貰ったんです。勝手にプリン持ってかれましたけどね。誰もくれとは言ってなかったんですけど、人が飲みもの買いに行ってるときに、勝手にオニギリとおかず色々置いて……私、コンビニのパンだったから嬉しいっちゃ嬉しいんですけど、でもね?!プリン食べちゃったんですよ?!楽しみにしてたのに!しかも私、パシリですよ?!ジャンケンで負けたから皆の飲み物買いにいってたのにー!!』

『ジャッカル先輩と丸井先輩とは小学校から一緒なんです。あの人、ずっとジャイ●ンなんですよ……まぁ、歌は不本意ながら上手いですけどね。人の顔みればパシらせようとしますし。中学で切原という最高のパシリが出来たから、私はもうのび●ではないんです。切原は類を見ないほど単純なので、うまく引っかかってくれるんです。催眠術に弱いし、雰囲気に呑まれるし。あいつ、高1ながらまだサンタ信じてるんですけど、最近疑い出したのでこの前キッチリ、サンタはフィンランドのロバニエミにちゃんといるんだって力説してやりました。仁王先輩がノリノリでサンタクロース村の話しをし出して、柳先輩が補足してくれたので当分安泰です』

『この前、タッチの差で購買の特大カツサンドデラックスをゲットしたんですけど、相手が丸井先輩だったんです。ひとまず逃げようとしたら捕まって、延々と愚痴られました。朝から特大カツサンドデラックスの気分だったらしくて。でも、勝負じゃないですか。丸井先輩は負けたんです!って言ってやったらすんごい目で睨まれて、1カット奪われました。ほんっと、迷惑なジャ●アンなんです……ムカついたからイチゴオレ奪ってやりましたけど。そしたら教室まで追っかけてきて……ほんっと、暇人です。切原盾にしたら見事にそっちに怒りが向いて、あいつも単純だからそのまま丸井先輩と言い合いが始まりました』

『私、風紀委員なんです。心底嫌だったんですけど、ジャンケンに負けたから仕方ないんです……だって真田先輩がすんごくはりきってて。中学の時から、校門に立つ真田先輩が……怖いワケじゃないんですけど、面倒くさいんです。スカートがちょっと膝上なだけで、年頃の婦女子がなんたるハレンチな格好を―って。私、ハレンチって初めて生で聞きました。いえ、あれでこそ真田先輩なんですけどね。スカートをちょっとあげて、こういうのをミニって言うんだと反論したら顔真っ赤にされちゃって、今度は柳生先輩から「淫らな格好はいけません。女性として慎みを―」って説教です。淫らですよ?ミダラ。でも、ちょうどパンくわえて歩いてる丸井先輩が通りがかって、二人の注意がそっちに向きました。歩きながら食事などとーって。いやぁ、あの時は久々に丸井先輩に感謝しました、心の中で』

『体育でバレーボールがあったんですけど、隣のコートが2年男子で、そっちもバレーだったんです。一応間にボールこないよう天井からネットでおおってるから大丈夫なはずなんです。ジャンケンで負けたので審判やってたんですけど、2年男子側に背を向けてたのであっちの様子は見えなくて。そしたら後頭部に物凄い衝撃ですよ……涙目になりました。思いっきりスパイク入ったんです…どんなノーコンだよって睨んだらジャイ●ンがニヤニヤしてて、本気で殺意を覚えました。そのまま2年男子側のコート乗り込んだら、周りの先輩方が各ポジションについてくれました。ちなみに仁王先輩はセッターです。丸井先輩めがけて木の葉落としかまして成功したんですけど、次に竜巻落としぶち込んだら、ダイレクトスパイクで完全に破られました……鮎原こ●えにはなれませんでした、私」



オレがテニス部だからだろうけど、立海テニス部の人たち中心に色々話してくれて、そのどれもが漫画のシチュエーションみたいに展開があって、ドタバタ劇。
それに、あの子の話し方、口調が独特だからか、聞いてるだけなんだけどシーンが目に浮かぶようで、ついつい聞き入っちゃって、面白い。

小学校が一緒だという丸井くんやジャッカルの話はよく出てきて、そんでもってクラスメートの切原の話題も多めで、委員会で真田、柳生と一緒だったり。
中学1年時に隣の席の切原に果たし状添削を頼まれて、手伝ってあげたら大幅に漢字間違いしてたらしく、二人揃って放課後真田の教室で書き取りさせられたんだって。

緑化週間時はクラス代表に選ばれた切原の巻き添えで美化委員の講義に二人で参加したり(講師は幸村くん)。
基本的に美化委員がメインらしいんだけど、当事の切原が何も委員に入ってないからと幸村くんじきじきに指名されて、一人が嫌な切原が無理やりあの子を引っ張って講習会に参加させたんだとか。

これだけだとテニス部と色々接点があって、皆仲がいいね〜という話なんだけど、あの子の場合はサッカー部や野球部、バスケ部にソフトボール部?
男女たくさんの先輩と、同い年と、後輩と。
とにかく登場人物が多いので、友達が多くて毎日学校が楽しい子なんだろうな、という感想。


氷帝のテニス部はいっつも跡部のファンの子たちが観覧席に大勢いて、氷帝コールや跡部様コールしてるから、テニス部人気は正直言って凄い。
跡部バブル?
まぁ、卒業するまでの身近なアイドル的な感じなのだろうけど、立海は違うみたいで『氷帝は特殊』と言われた。


『氷帝テニス部は、もう、みなさんかっこよくて、異次元です!』


異次元?
立海テニス部だけでなく、氷帝テニス部のこともよく知っていて、跡部はもちろん忍足、宍戸、岳人、鳳、日吉、と色々な名前が出てきてびっくりした。
皆かっこよくて、立海の女の子たちの間でも『跡部様』はアイドルなんだって。

すっげぇな、跡部。


立海テニス部だってかっこいいっしょ?
だって、中学の時のバレンタインチョコ数ランキングで、幸村くん、仁王、丸井くんが立海トップ3だと聞いたことがある。


でも、それはちょっと違うみたい。


『確かにテニス部もモテますけどね。でも、ウチはサッカー部のほうがレベル高いです!すっごくかっこいい人、何人もいます。テニス部はね〜まぁ、仁王先輩と幸村先輩はバレンタインチョコ凄いですし、モテますけど。え、丸井先輩?いやいやいや、あのチョコはほぼ義理ですよ。だってあの人、あらゆる義理チョコカウントしてますし、購買のおばちゃんに貰ったブラックサ●ダーも数に入れたんですよ?!本命チョコだらけの幸村先輩、仁王先輩とは違うんです!』


中学時代のバレンタインの顛末と、丸井くんの数の大半は義理だと力説していた。
あまりにも力が篭っていて、色々な話に丸井くんが出てくるものだから、オレにコクハクしてくれたのがすっかり飛んじゃって、この子丸井くんのことが好きなのかなーと感じたんだけど、それは違ったんだよね。


丸井くんの話だと、オレのテンションが上がって、楽しそうに、嬉しそうに、寝ないでずっと話を聞いちゃうから。


いっつもいつも、丸井くんが着替えて出てくるぎりぎりのタイミングで、あの子は帰っていくので二人が鉢合わせることは無い。
たまに丸井くんより先に出てきた他のテニス部員が通りがかって、あの子と挨拶交わすことはあっても、何故か丸井くんが来るタイミングですっと立ち上がって、『じゃあ、また来週!ですかね。今日もお話楽しかったです』と去ってしまう。

なので、あの子が立ち上がると、もうすぐ丸井くんが来るんだというアラーム、目安にもなっている最近。
気になって一度聞いてみたら、好きな人と一緒にいるところは見られたくないと返されて、一応はフッた身ながらどきっとした。


『あのジャイ●ンに乙女モード全開な私は見られたくないんです。からかってくるに決まってますし。それに、あのジャ●アン、ヤキモチやきなんですよ。私が毎週、数十分とはいえ芥川さんを独占してるなんてバレたら、きっとうるさいですし。小学校の時だって、転校してきたジャッカル先輩を色々連れまわしてたら……いや、家が近所なんです。近所のよしみです。……まぁ、それで遊んでたら、ジャイ●ンが独占欲全開で、ジャッカルで遊んでいいのは俺だけだろい、っておかしなこと言うんです。ジャッカル「と」じゃなくて、ジャッカル「で」ですからね』

『芥川さんの一番は自分だと思ってるんです。そりゃ氷帝のお友達にはかなわないかもしれないけど、それでも立海では自分が一番……いいえ、あのジャイ●ンのことだから、あらゆる角度から芥川さんの一番は俺だと言いそうです。私と和気藹々話してるところなんて見たら、ヤキモチやいて大変です。人のモンに手ぇ出すんじゃねーよって、きっと私、胸倉掴まれるんですよ。あの人、ジャッカル先輩と芥川さんは自分のものだと絶対に思ってます。断言します。ええ、まぁ、ジャッカル先輩と芥川さんへの態度は違いますけどね。ジャッカル先輩には我侭言いたい放題ですけど、芥川さんに対してはすんごくいいお兄ちゃんぶってます。かっこよく見せようという必死さが―』


ヤキモチやくとしたら、オレにじゃなくて、君にじゃない?
話を聞くに連れて、丸井くんとは小学校からの付き合いで仲良し。可愛がられてるんだなーって思った。
可愛がってる後輩の女の子と、友達とはいえ同い年の他校の男。
どう考えても、嫉妬するとしたら同性の友達よりも、異性の可愛い後輩への独占欲?じゃないのかなぁ。


そしたら、丸井くんをわかってないと言われた。そうなの?


『あのジャイ●ンは同性、異性関係ないんです。確かに私は小さいころからの後輩なのでからかったりパシらせやすいのでしょうから、よく向こうから話しかけてきますけど。でも、ジャイ●ンにとっては私も切原も一緒なんですよ。手のかかる、世話のやける後輩って思ってるんです。失礼しちゃいますよね、切原と同列なんて。確かにあの人、ジャッカル先輩以外には明るくて楽しい兄ちゃん的な感じですけどね。元気でよく食べて、面倒見いいし。でも、後輩のプリンを勝手に食べちゃうのは許せません』


オレ、まるいくんにお菓子取られたことないけどなぁ。プリンとか、ケーキとか。
むしろ、初めてちゃんと話した中学二年の時は、期間限定シュークリームくれたくらいだし。

立海見学の帰りに、ケーキ屋さんに並ぶ丸井くんに声かけて公園で二人で話したのはもう3年前のこと。
それが丸井くんとの友達暦のちゃんとしたスタートかなと、新人戦以来の出会いを話すと、あのジャイ●ンが食べ物を無償であげるなんて稀だと驚かれた。


最初は「丸井先輩」って言ってたんだけど、徐々に「ジャイ●ン」になってきて、今ではそっちの名前で呼ぶことが多いので、普段から丸井くんのいないところでは「ジ●イアン」呼ばわりしてるんだろうなーって。


確かに丸井くんは意思が強くて、ぐいぐい引っ張っていく人だけど、それでもオレの意見や希望を聞いて、気にかけてくれる。
ジャイ●ンっぽい印象はそんなに無いんだけどなぁ。


『芥川さんの前では、映画版のジャイ●ンなんです』


映画版………友達思いのいいヤツってこと?


『我侭で自己中で自分一番なジャイ●ンですけど、……頼りがいがあって、面倒見のいい気がきくお兄さんな要素も確かにあるんですよね。芥川さんには後者だけ見せてて、ジャッカル先輩には前者なんです。どっちも丸井先輩ですし、まぁあの人も考えてそうしてるワケじゃないでしょうけど』


一緒にいる時に、丸井くんの「我侭で自己中で自分一番な面」に遭遇しないからか、あの子が語る丸井くんが別の人のようで、なんだか新鮮だった。

確かにジャッカルは丸井くんをよく「わがまま大王」と言っているけど、結局は仕方なさそうに丸井くんのリクエストに答えていると聞けば、丸井くんが甘える唯一の相手なんだなと『ジャッカルは特別』というイメージ。
でも、あの子の言うように『基本はワガママ』と言われると、オレの中の丸井くん像と違うので、『ジャッカルは特別』に加えて『あの子も特別』なんじゃないかなと思うんだけどなぁ。


ワガママを言うのが丸井くんの友情の深さ?
一種のバロメーターだとするとそういう経験のないオレは、丸井くんの中でそこまで仲の良い、深い友達では無いのかも。


…そう考えると、ちょっと、いや、だいぶ寂しい。


これは、オレがジャッカルやあの子にヤキモチやいている、ということになるのかな?

あの子とオレが仲良くすると丸井くんはヤキモチやくと聞いた時は、フツーに友達同士だし、オレはたとえ岳人が誰かと仲良くしてても妬いたりしない。
それは女の子特有の感情で丸井くんやオレには縁が無いっしょ。

と言い切れたんだけど、いざ岳人を丸井くんに置き換えて、オレの知らない丸井くんの話をするあの子やジャッカルを思い浮かべると……確かに、胸の奥がむずむず、何か変な感じがする。

コレが友達への嫉妬心で、こういう感情は男女関係なくある、ということ??


普段、自分の周りにいる男友達で、アイツらにオレより仲のいい友達がいたら―なんて考えたこと無いし、たとえ岳人や宍戸にすっっっごく気の合う友達ができても、オレと二人の関係が変わることは無いだろうし、それが滝や忍足、跡部だとしても一緒だと思う。


じゃあ、何でオレはジャッカルやあの子に、ほんの少しの羨ましさを感じているんだろう。


丸井くんともっと仲良しになりたいし、ジャッカルみたいに頼られたいって思う。
後輩に慕われる宍戸や、皆を束ねる氷帝の顔・跡部みたいに、周りから相談されたり頼りがいのある人になりたい、と思ったことなんて無いのに。


なんで丸井くんだけ違うんだろう。


テニスの強さとプレー、技の数々は憧れて止まない。
ああいう風になりたいし、美味しそうにご飯いっぱい食べるところも、料理がうまいところも、まじまじ尊敬する。
跡部だって勉強も運動もパーフェクトで、試合するのが楽しみだし跡部のことは大好き。
けど、跡部に頼りにされたいとか、甘えて欲しいとか、跡部と誰かが仲いいと気になるとか。そんなのは無い。
まぁ跡部も、いっつも甘えてるオレが急に『オレを頼れ!』なんて言ったら戸惑うだろうし、きっと跡部家かかりつけの医者を呼ばれそうな気もする。


オレは、丸井くんの一番の友達になりたいの?


一番のトモダチって何だろう。
弱みを見せて、感情をぶつけて、何でもわかりあう?

それなら岳人と宍戸がオレの『一番のトモダチ』になる。
二人ともオレが何か悩んでたらすぐ聞いてくるし、隠してもバレちゃう。岳人となんて大喧嘩したこともあれば、オレも二人のことはだいたいわかる自信がある。

弱さを見せてくれないといえば跡部に忍足だけど、それは別に信頼されてないというワケじゃなくて、二人が弱みを見せたがらない人だから。
オレは跡部も忍足も信頼してるし、あっちもそうだと思う。
二人が誰にも弱音を吐かないのかとなるとそれもまた違うだろうし、誰かに愚痴のひとつもこぼすこともあるかもしれない。
ただ、それはオレ相手じゃない。
跡部が頼る相手がいるとして、その人がオレより仲がいいのかと言われれば、そうとは限らない。
仲のよさで役割が決まるわけじゃない。


氷帝の皆が対象だと即答できることなのに、それが丸井くんになると、何故か同じように思えない。


丸井くんがオレにジャッカルみたいな扱いをしないのは、なにもオレがどうこうとか、そんなに感情向けるほどの仲じゃないとか、そういうものではなく氷帝の皆と一緒で、友情の度合いは関係ない。

頭ではわかってるんだけど、あの子の話を聞いているうちに、知らない丸井くんがいっぱい出てきて、どこかもやもやして不思議な感情が芽生えてきた。



これは、何だろう。
友情の独占欲??



友情、について深く考えたことなかったから、芽生えた自分の感情をどうしたらいいかなんて、もちろんわからない。




オレは、丸井くんにとって、どんな存在になりたいの?





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