年末年始の休みを過ごすためステイツを飛び立ち、来年はオフシーズンすべてを日本で過ごそうかなんて考えながら到着した成田空港のゲートをくぐり久しぶりのに日本へ戻った。 プロになってからは各地を転々としていたし、拠点も家もアメリカだったので、毎年来日するとはいえ日本で長期間滞在することは無かった。 手塚さんや切原と違って日本の企業ばかりスポンサーについているわけでもないし、家族が日本にいるわけでもない。 友人、知人はもちろん全国各地にいるけれど、わざわざ日本へ行くよりも、どちらかといえば皆がアメリカに来てくれたし。 その中でも、目の前で蕩けるような笑顔でチーズケーキを租借しながら香りの高いアップルティを堪能しているこの人は、めったに日本から出てくることが無い。 毎年毎年、たった数日間の滞在だけど日本へ来るたびに会う人で、連絡すれば必ず会ってくれるので、今日もこうやって向かい合ってティータイムを楽しんでいる……この人と。 そして、もはや毎年の恒例行事ともなっている俺の質問も、もう10数年目に上ろうとしている。 「いい加減長いよね。いつ別れるの?」 「……まぁたそんなこと言う」 いったいいつから付き合ってるのか最早覚えてないけど、もしかすると中学時代のU17合宿が終わって、俺が渡米してからなのかもしれない。 青春学園の卒業式にあわせて帰国し、卒業してドイツに旅立つ手塚さんと試合して。 そのまま流れて氷帝や立海を始めとする、夏の大会で対戦した学校の人たちが大勢跡部さん家に呼ばれて、盛大な卒業パーティ。 在校生や俺のように学校を離れたやつも呼ばれていた気がする。 そこで再会したこの人の隣には、すでにあの人がいて、……そのまま今もこの人の隣にいる。 「もう飽きたんじゃない?」 「そんな日はきません!」 こうやってこの人をからかうのも毎年恒例なので、まだ続いているのか、いい加減別れたらどうだ? そう切り出すたびに、ヤレヤレと笑って『ありえないから』と返してくる。 「昨日もケンカしたでしょ」 「あれはっ……越前と会うなんて今更なのに、なんかふて腐れて急に『行くな』って言うから」 「毎年会ってんのにね」 「そうだよ。この時期帰国するのも、そのたびにご飯いくのも、毎年のことなのにさ」 「あの人、今年も日本にいないの?」 「どうしても外せない仕事だって。跡部んとこのレストランで出す春スイーツ、新作草案の締め切りが迫ってるって電話で愚痴ってた」 「ふ〜ん、出来てないんだ」 この人のパートナーは、現在パティシエとして国内外で活躍中で、遠くアメリカの地でも名前を耳にするくらい有名だ。 自分の店も持っているけれど、提携店やレシピのみ提供している店、企業とのコラボレーション等、手広くやっていて多忙を極めているらしい。 今は跡部サンのグループ系列で、パリの三ツ星フレンチレストランとコラボしていて、一年間スイーツ関連を担当しているんだとか。 ほんと、昔っから甘いもの、お菓子に目が無かった人だけど、とうとうそれを職業にして大成功するなんて、凄いという言葉しか出てこない。 「そろそろアメリカこない?」 「まったくもう。そういう冗談ばーっか言うんだから」 「本気だけど」 「オレの家はココ(日本)なの!」 「あっちなんて世界中飛び回ってるじゃん。ここ数年、特に忙しいんでしょ?」 「そうだけど…」 この人の十数年来のパートナーは、今や日本一忙しいパティシエといっても過言ではない。 二十代半ばにフランスの権威あるパティシエコンクールで優勝したのを切欠に自分の店を持ち、マスコミには『甘いルックス』『パティシエ界の王子様』なんてむず痒いキャッチフレーズで持ち上げられ、それでも見た目に騒ぐ女たち以上に純粋にあの人の作るお菓子類に惚れたファンの方が多くて。 レシピ提供や企業とのコラボレーションで自分の店にいないことが多くても『本業を疎かに』と叩かれず、そのルックスで『顔だけ』なんて揶揄されることもないのは、それだけあの人の成果と功績、実力が凄いのだろう。 立っている舞台は俺とまった異なるけれど、あの人が自分の世界で切り開いている道と、今まであげてきた功績は、素直に拍手を送るしかない。 かといって。 いくら忙しいから、仕事が山積みだからといっても。 それらがすべて、この人を放っといていい理由になんてならないでしょ? 「着いていかないわけ?」 「え?」 「アンタの仕事、別に日本でなくてもいいじゃん」 「…まぁ、そうだね」 「てっきりどこへでも着いてくかと思ったら、全然日本から出てこないし」 「……ここで、待ってたいから」 出会った頃のこの人は、たった一人だけを憧憬の眼差しで見つめ、全身全霊で追いかけていた気がする。 あの人が一言『着いて来い』といえば、どんな状況にいても迷い無く振り切ってそばに行った。 パティシエコンクール前にフランスで修行中だった二十代前半も、あの人が一言漏らした弱音に請われるがまま、周りの反対も押し切ってパリまで追いかけて、全身でサポートしていたのも、もう7-8年前のことだったかな。 (もちろん俺も反対したけど、この人は全然聞かなかった) コンクール優勝を機に成功の階段をかけあがっていったあの人と、時を止めたようにゆっくりと毎日を一人で過ごすこの人。 なんであの人が行くあちこちに着いていかないのか聞いたら、『必ずここに帰ってくるから、ずっとここで待っていて欲しいと言われたから』だって。 ばっかじゃないの? 結局この人は中学時代からずっとあの人に振り回されてるんだよね。 自分の希望なんて無いも同じなんじゃない? あの人はこの人のことなんて何も考えてなくて、パリで一人で寂しいからこっちに来てくれ、成功したら今度は日本で待っていてくれとこの人を寂しがらせる。 何なの、それ。 『彼が唯一、帰ってくる場所』として、温かい家を守るんだと微笑むこの人を見てたら、昔からだけどなんて我侭で自分勝手なんだとあの人に対する怒りが収まらなくて。 何度も何度も、それこそ帰国するたびに『早く別れなよ』『アメリカに来い』『あんなヤツ、捨てて新しい人生始めてよ』なんて色々言うんだけど、困ったように苦笑されて終わり。 「待ってたい、じゃなくて。待ってろって言われたからでしょ?」 「ううん。オレが、待っていたいんだよ」 「…ったく、いつまでも変わんないし」 「越前も。ま〜いかい、同じこと言ってるし〜」 「ま〜いかい、同じこと言わせないでよ」 まぁね。 周りがどんなにまくし立てて何を言っても、この人とあの人―二人にしかわからないことがあるんだろう。 あの人にどんなことをされても、たとえ何があったとしても、この人はあの人を待ち続けるんだろうし、あの人以外なんて見ないんだ。 そんな一途で素直、純粋で正直、真正面しか見ていないこの人の潔さが昔から好きだし、本音を言えばこの真っ直ぐな瞳をあの人じゃなくて、俺に向けて欲しいとずっと思っていた。 十代半ばくらいから二十代半ばまでは本気でこの人を想っていたんだけど、どうあがいても二人の間に入れないことを悟って、俺の長い初恋は終了。 そりゃ、10年以上自身の色恋沙汰が皆無だったわけじゃないし、遊んでくれたオネーサンやそれなりに付き合ったカノジョもいないことは無かったけど。 それでもいつでも胸の奥にはこの人のキラキラした笑顔があったから、日本へ来る度に会いたくなるし、会ったら会ったで想いがこみ上げてくるし。 きっぱり諦められたのは、この人の揺るがない気持ちはもちろんだけど、我侭放題に見えたあの人の、この人に対する深い想いが十分にわかったからだ。 なんだかんだいっても、あれだけ自分勝手で自信家で、一見傍若無人なあの人が唯一泣きゴトを言うのは、この人の前だけだ。 あれだけのワガママをふっかけるのも、この人にだけだけど。 どんな無理難題を出したところで、この人は笑って全てを受け止めるから、あの人は安心して好きなことが出来て、世界中飛び回ることが出来るんだろう。 じゃあ何で一緒に連れていかないんだ? 俺だったら、最愛のパートナーがどこへでも着いてきてくれて、本人がそれを望むなら、ひと時でも離さない。 そりゃ、『帰る場所』に対する憧れはあるし、愛する人が『HOME』で待っていてくれるなら、どんなことでも出来る気がする。 ………。 まぁ、『帰る場所を守っていて欲しい』というあの人の気持ちも、わかるんだよね。 どんなに別れろと説得しても、言葉をかけても、決して『是』と言わないこの人の強い強い気持ち。 呆れるほどの一直線でぶれない想いを昔からずっと持ち続け、ただ一人だけに向ける揺るがない心。 そんな想いを一途に向けられるあの人が、羨ましい………と思わないことも無い。 悔しいけどさ。 「幸せだよ」 その一言と、優しい笑みで、この人が本心から満たされていているんだとわかる。 結局、毎年毎年、挨拶がわりに『別れろ』や『捨てろ』と声かけても、最終的にノロけられるんだよね。 少しでもこの人の『幸せだよ』に陰りが帯びてきたら、どんなに抵抗してもアメリカに連れ去ってやろうと思っていた時もあったけど、あいにく何年たってもこの人の笑顔は変わらない。 少年時代の俺が恋していたこの人が、あの頃と変わらず眩しい笑顔で迎えてくれることが嬉しいし、ずっと笑っていて欲しいと思う。 そりゃ今も好きだから会う度に軽口叩くけど、あの頃のような激しい想いではなくて、思い出の美化……とでも言うのか。 永遠にこの人は俺の好きな人で、憧れの存在なんだ。 「越前もさ、もういい年でしょ?」 「今日で32歳」 「ハッピーバースデイ」 「どうも」 「クリスマスイブに、オレと会ってていいの?……毎年のことだけど」 「仕方ないじゃん。毎年この時期に日本来るんだし」 「そうじゃなくて。クリスマスだよ?」 「オレ、別にクリスチャンじゃないし」 「…実家、お寺だったっけ」 クリスマスシーズンに来日して、年越してアメリカに戻るのがここ数年の年末年始のパターン。 日本到着の当日か翌日がだいたいクリスマス前日になるし、日本についたらまずこの人に会うから、自然とこの人に12月24日の誕生日を祝ってもらうことが多い。 あの人は自分の店のオープン以来、クリスマスを始めとするイベントの時は店に出ずっぱりで時間がとれず、特にここ数年は海外の仕事でクリスマス〜年始まで日本にいないこともある。 ということはこの人は一人で家にいることになるんだろうし、せめてそういうイベント時くらいは出張に着いていけば?と聞いてみても『仕事の邪魔になるから』なんて聞き分けのいい奥さんみたいなセリフを吐く。 なら、クリスマスから年始までオフで日本にいる俺が、ちょうどいい遊び相手になってあげるよ、ということで今もこうして一緒にいるんだけど。 でも、12月24日は一緒に過ごしてくれるけど、それ以外は『帰りなさい』と言われる。 といっても聞かずに、この人の家に押しかけることもよくあるんだけどね。 クリスマスイブを俺と一緒に過ごすことは、あの人的には『もう諦めた』と眼を瞑っているらしいんだけど、それ以外は絶対にダメだとうるさいんだって。 『バレると大変だし…』 家に押しかけたときに毎回困り顔で呟かれるんだけど、それでも玄関にあげてくれるし、ご飯も作ってくれて、食後のお茶まで出してくれる。 さすがに泊まるのはNGで、しつこく粘っても『それは本当〜にだめ!怒られちゃうし…』の一点張り。 この人のそばにいないくせに、独占欲だけは人一倍激しいんだよなぁ、あの人。 「いいかげん、はっきりさせなさいね」 「?なに」 「桜乃ちゃん」 「……」 「ずーっと待っててくれるんでしょ」 「…別に」 「大事なコイビト、でしょ?」 「……そういうワケじゃ」 「じゃあどういうワケなの。あんなに一途に想ってくれる子、いないよ?」 「……」 (目の前にいるんだけど) 竜崎を出されると何も言い返せなくなるのを知っているので、普段はあまり言ってこない。 けれども、今日みたいに俺がしつっこくあーだこーだ言うと、最終手段として『さくのちゃん』を出してくるんだよね。 「俺、アンタがいいんだけど」 「まぁ〜たそういうことを」 「ずっと言ってるでしょ」 「マジメに。越前だって、ちゃんと考えてるんでしょ?」 「ちゃんと、って」 「なーんで毎年毎年、この時期に帰ってくるんでしょうねぇ」 「そりゃ、アンタに会いに」 「……そういうときもあったかもしれないけど、でも今は違うよね」 毎年クリスマスイブの誕生日をこの人と過ごした後、どこへ行ってるんだとにっこり笑顔で問いかけられる。 …そりゃ、ここ数年の過ごし方は一緒で、日本へ戻ってきてこの人に会って、ご飯食べて。 『また明日来てもいい?』や『泊りたい』に腕クロスさせて『だーめ』と断られるから、仕方なく他の寝床に向かって………、アイツの部屋に世話になって新年を迎えて。 たまに二人でこの人の家にお邪魔して新年の挨拶して。 ニューイヤーに届くようになってるらしい、あの人のスペシャルケーキを一緒の食べたりもして。 仕事で不在の時は、1月1日にケーキが届くように手配されてるんだって。まったく、宅配業者も迷惑な話だよね。 『新しい年に、俺のケーキを一番最初に食べるのは、ジロくんに決まってンだろい』とか言っちゃってさ。 なら仕事オフにして家で作って、この人のそばにいてやれよ。 …と言ってしまうとこの人が困った顔するし、竜崎には『二人のことだから』と窘められるから、面と向かっては言わないけど。 「越前はアメリカで暮らしていくんでしょ?」 「まぁね」 「引退しても、日本には戻ってこないよね」 「わかんないけど……そうなんじゃない?」 「桜乃ちゃんなら、アメリカで一緒にいてくれる」 「引っ込み思案は変わってないけど」 「強い子だよ」 「……まぁ、割と強心臓だしね」 「待ってると思う」 「……」 確かにアイツがずっと、辛抱強く待っててくれていることはわかる。 そろそろ真剣に、ケジメをつけないといけないってことも。 けれど、ツアーが始まれば世界を点々とするわけだし、アイツを振り回すことになるんじゃないかと思ったらそんな考えはふっとんだワケだ。 かといってあの人のように『帰る家にずっといて欲しい』なんて言って、アイツを縛り付けることも出来ない。 プロであるうちは身を固めるつもりは無い。 そんな考えをアイツは理解してくれているし、それでもいいと言ってくれた。 テコでも動かないこの人とは違って、アイツはツアー先に来ることもあるし、仕事で長期休みをとってアメリカに滞在することもある。 『長距離恋愛だ』と周りにはからかわれ、最近はいつ結婚するんだとか何とか、親父も母さんもうるさい。 『お前は32歳の男だけど、竜崎は女の子だろ?』 会社勤めの桃先輩は会えば必ずその話題をふってきて、いかに日本の会社で20代後半を過ぎた独身の女子が周りにあれこれ言われるのか、懇々と語ってくる。 先輩だって独身で彼女もいないと突っ込めば、男は30代後半からが勝負だと開きなおる。 海堂先輩はもう二児の親なのにね。 ていうか日本の会社ってそうなの? ステイツでそんなことしたら、訴えられそうだけど。 「アメリカに連れてっちゃいなよ」 「俺、まだ引退しないんだけど」 「越前の主義はわかるけどさ」 「無責任な約束なんて、できない」 「そんな男じゃないでしょ?リョーマ君は」 「わかんないじゃん」 仮にプロポーズしたとして、婚約したとして。 万が一、大怪我で再起不能になって、グランドスラムと世界ランク1位をとったトッププレイヤーと持てはやされてたのが一瞬にして消えて、どうしようもなく落ちぶれて酒に溺れて何か事件を起こしてパパラッチに好き勝手書かれて、警察の厄介になって裁判おこされて― なんてことをマシンガンのように続けたら、馬鹿なこと言ってるんじゃないとバッサリ斬られた。 「例え怪我しても、不屈の闘志で復活するんでしょ?」 「…まぁね」 「それに、怪我しないように、すんごく気をつけてるし」 「……一応、プロなんで」 「越前のことを全部受け止められる人なんて、桜乃ちゃんしかいないんだから」 「………」 「『まぁね』はどうしたの」 「………まぁ、そうなんスかね」 「そうだよ」 「はぁ」 すっかり冷えた紅茶を飲み干して、伝票を持ってレジへ向かい出したので、慌てて後を追って伝票を取り返そうとするけど渡してくれない。 いくら『俺が誘ったから払う』と言っても、一度も払わせてくれたことが無い。 『年上が払うモンなの』っていうけど、日本ってそうなの? 桃先輩なんて学生時代は奢ってくれたけど、社会人になってからは『昔の恩を返せ』とばかりに素直に奢られるのに。 「さて、買い物にでも行きますか」 「珍し…何か欲しいの?」 何ならプレゼントするけど。 ……なっかなか受け取ってくれないけどさ。 てっきりクリスマスに彩られた街へ、ウィンドウショッピングか本当に買うのかはともかく、この人の『買い物』に付き合うとばかり思っていたら、とんでもないところに連れて行かれた。 「「いらっしゃいませ」」 入り口の脇に、屈強なガードマンみたいな人が立っていて、中からビシっとスーツ姿の男の店員がドアをあけて俺たちを迎えてくれる。 ケースに飾られている石がキラキラ光っていて眩しい…… 「本気?」 「まじ。いい切欠、でしょ」 「……こういう店、入ったこと無いんだけど」 「本気!?」 「まじ」 「そっちのほうが驚きだよ。今まで桜乃ちゃんに、何プレゼントしてたの」 「これといって」 「もぉ〜ダメダメなんだC…」 「はぁ」 「サイズわかるの?」 「Size?何の?」 「……ダメダメか」 ―今日はネックレスと、桜乃ちゃんはピアスあけてないからイヤリング、ついでにブレスレットも揃えちゃおう …は? セットになっているデザインのものを見比べながら、店員にあれこれ問い合わせつつケースから出してもらっている。 どれも華美なものではなく、控えめだけど優美で、ワンポイントの色味が入った可愛らしいデザインだ。 竜崎っぽいと言われれば、確かにそうなんだけど……って、どういうこと? 「指輪もセットで、あとでサイズ直しにきてもいいだろうけど……まぁ、今日はこれだけにして、後日ちゃんと桜乃ちゃん連れてくるんだよ?」 「俺、竜崎にアクセサリー買うの?」 「クリスマスプレゼント。どうせ何も用意してないんでしょ?」 「アメリカの土産は一応持ってきたけど」 「まぁたお菓子じゃないだろうねぇ」 「アイツの好きなクッキーとチョコと、あとよくわかんないけどキャラクターグッズ系」 「……やっぱダメダメだし」 「俺じゃなくて、竜崎が頼んできたモンなんですけどー」 「それ、クリスマスプレゼントじゃなくて、お土産でしょ?」 「兼ねてるってことで」 「恋人にそんなプレゼント、だめだから!」 「プレゼントは気持ちなんスよね?」 「それが許されるのは経済力の無い学生の内だけです」 「ちぇ」 盛大な呆れ顔でため息をつかれ、どうせ自主的に選ばないだろうからと2種類のモチーフを提示された。 赤い石がワンポイントで入っているシンプルなものと、クリスマスっぽい、というか冬? 雪の結晶のような、細かいカッティングが施された―ダイヤモンド? 「桜乃ちゃん、1月が誕生日でしょ」 誕生石のガーネットだと、赤い石を指して説明してくれるんだけど、その石の周りを囲う眩しい輝きは………ダイヤモンド、ね。 「てういかどっちも、すんごい値段なんだけど」 「天下の越前リョーマが、なぁに言ってんの」 ネックレス、イヤリング、にブレスレットだっけ。 3点セット揃えると合計金額凄いことになるんだけど。 女子ってそんなにアクセサリーが好きなモンなの? アイツあまりそういうのつけないし。 ネックレスはともかく、指輪やイヤリング?はまったく見たことが無いと呟けば、今まで一度もプレゼントしたことが無いからだと呆れられた。 「きっと桜乃ちゃん、毎日つけるから」 …そういうモン? よくわかんないけど、この人がこんなに張り切るなんてあまり無いし、忠告してくるときはだいたい正しくて、この人の言うとおりに事が運ぶので、ここは大人しく従っておくほうがいいんだよね、きっと。 指輪が大事だって言うけど、何のために贈るの? サッパリわからないけど、言われるがままイヤリング、ネックレス、ブレスレットの三点セットを買って包んでもらった。 両方ダイヤモンドは入ってるワケだから、赤い石か冬デザインかの違いでしょ? どちらが良いのかなんて正直わからないし、同じように見えるといったら頭を叩かれて、『越前が選ぶのが大事』というので、とりあえず『誕生石』を選んでおいた。 「それ持って桜乃ちゃんのところに行きなさい」 「え、これから?」 「そう。これから」 「もう夜だし、明日でいいんじゃないの?」 「32歳のバースデーでしょ。今年は桜乃ちゃんと過ごしなさいね」 「…アンタと過ごすのが恒例行事なんだけど」 「こーら!いいから行きなさい」 「……」 「さっき連絡したら、家にいるって」 「…いつの間に」 「じゃあ、桜乃ちゃんによろしくね」 「…………しょうがない」 「仕方なくないの!」 こうなったらもう家に入れてくれないからな、この人。 とりあえず例年より少し早いけど、竜崎のトコに行くしかないのか。 「また家行っていい?」 「今日遊んだばっかりでしょーが」 「年内ヒマだし」 「毎年いろんな人から誘い受けてるんだから、たまには顔出してあげなさいね」 「ヤダ」 「まったくもう……」 「ねぇ、家、行っていいでしょ?」 今度はこっちの番で、こう言い出したら何かしら妥協案が出るまで引かない俺のこともこの人は十分知っているので、最終的にはOKをくれるはず。 「桜乃ちゃんと、二人でならい〜よ」 「……」 ここでもそうくるのか。 「ほら、返事は?」 「……」 「うち、来るんでしょ?」 「……」 「今年は年末、たぶん帰ってくるから、何ならフルコースでディナー作ってもらっちゃおうか」 「天下のパティシエが、そんなことしてくれます?アンタのため以外で」 「ウチは二人とも桜乃ちゃんには甘いから」 「……あっそ」 「希望あれば早めにメールちょうだい。イタリアンでもフレンチでも、和食でも。何でもいいよ」 「あの人、アンタの希望以外聞かないんじゃないの?」 「だ〜いじょうぶ。お願いするから」 「じゃあ、和―」 「桜乃ちゃんの意見も聞きなさいね」 「……はーい」 イイコイイコと一回り小さいこの人に撫でられて、拾ったタクシーにそのまま押し込まれた。 窓をあけようとしたら、寒いから閉めておきなさいと首をふられ、バイバイされる。 …イイコなので、言われるがままにしておこう。 アイツの家の住所を告げて走り出したタクシーの中で、携帯を取り出しメールを1本打つことにする。 竜崎? いやいや、すでに先ほどまで一緒にいた人から連絡が入っているだろうから、そこはショートカット。 では、どこへ? そりゃ、年末のディナーの注文、かな。 文句の一つも添えるけど。 だって、そのくらい、……いいでしょ? >>> Happy Xmas どうも久しぶり。 さっきまでジローさんと、毎年恒例のクリスマスイブを楽しみました。 今日も仕事なんだって?ザンネン。 跡部サンによろしく。 今年こそ年末に帰ってくるそうですね。俺と竜崎も世話になるんでよろしく。 ちなみに和食希望。 やっぱり帰ってこれないとか何だかんだいってジローさんひとりにするなら、アメリカに連れてくから。 竜崎が。 丸井サン、いい加減にしなよ?<<<< (終わり) >>目次 |