総括『それは甘い未来』-跡部&滝



台湾土産の凍頂ウーロン茶の茶葉をポットに淹れて、適温のお湯をそそぎ蒸らすこと数秒。
最初の一杯目は捨てて二杯目から楽しむらしいので、現地で教えられたままお茶をいれて、生徒会室のテーブル前のソファに腰掛ける黒髪眼鏡の同級生へ差し出す。
そのまま生徒会長専用の机で事務処理を行っている同級生へも同じようにカップと、ちょっとした茶菓子を置いてみた。


「どうぞ。ちょっと休憩したら?」

「ああ。お前も色々と疲れただろう。今日はもういい」

「せやで?滝は生徒会ちゃうし、手伝いもほどほにせんと」

「…忍足。お前はとっとと帰れ」


部活の用事で生徒会室を訪れたはずの滝だったが、来月に控えるイベントの準備で大忙しの生徒会面々、及びあれこれ指示を出し全ての最終チェックを行う生徒会長の多忙っぷりに見かねて、少しの手伝いを申し出た。
(会長本人はスーパーオールマイティなので結局一人で全部できてしまう人なのだとわかってはいるけれど)

一区切りがつき、他の生徒会執行部員たちは帰宅したのだが、会長はまだ詰めるところがあるらしく、それならば少しばかり休憩させようと簡易キッチンのポットでお湯を沸かそうとしたところで部活のチームメートかつ同級生が生徒会室にやってきた。

開口一番『てめぇ、部活はどうした』と一睨み。

サボリは許さんとばかりにクルクルまわしていたペンを入り口の黒髪眼鏡めがけて投げつけたのだが、片手でナイスキャッチされ、…それもそれで会長を不機嫌にさせる要素その1になったといえよう。
いや、現在の生徒会長がかもし出す不機嫌さは、要素1から派生―いや、その後に続いた黒髪眼鏡のお気楽話のせいか。


「冷たいこと言わんと、もっと聞いてや」

「…そんな与太話は向日にでも聞いてもらえ」

「岳人には昼休み含め散々聞いてもらってん」

「ならいいじゃねぇか。それで満足しろ」

「いやいや、こういうええ話は皆に話して共有したいやん?」

「……てめぇの単なる妄想だろうが」



高校を卒業したら大学は医学部に進学し、恋人は学部は違えど同じ大学にエスカレーター式で入学。
医学部は忙しいのはもちろんだが、キャンパスが異なるため同じ大学といえど中々普段は会えない日々―に耐えかねて、恋人の卒業と同時に同棲生活を始め、自身は大学5回生かつ国家試験も控えるので忙しいが、そこは新社会人となった恋人が癒してくれて、数年もたてば熟年夫婦のように……ではなく、いつでも新婚っぷりなラブラブ度で、恋人はいつでも可愛くて大満足です。


―というノロケ?


「大前提としてお前はまだ高校生だ」

「恋人もいないしね」


話しが始まったときから突っ込んでいた生徒会長とその補佐なのだが、黒髪眼鏡はお構いなしに未来予想図?と述べること数分。
せっかくの休憩中の和やかな会話が、何ゆえアホ眼鏡の与太話になってしまったのか。


「まぁ俺様が起業してレストラン経営に乗り出すのもまったく無い未来じゃねぇから、そこは目を瞑るとして」

「跡部のところはグループ企業で飲食もやってるしね」

「そもそもブランチ云々言ってるが、ジローはグリーンスムージーなんて飲まねぇだろ」

「野菜ジュース嫌いだしね。バナナスムージーやベリージュースならともかく」

「それに、あいつはトーストにバターより、ピーナツバター派だ」

「基本的に甘いのつけたがるよねー。ジャムとか、ピーナツバターとか」


忍足の口からぽんぽん出てくる妄想話に適当に相槌打っていたら、出てきた『恋人』が互いのチームメートだったからか、聞き捨てなら無いとばかいに『寝言は寝て言え』だの『お前がどんな夢をみようが構わねぇが、ジローを巻き込むんじゃねぇ』だの口を挟んでいたのだが、一向に止まる気配が無いため好きにさせることにした。

…が、やはり突っ込まずにはいられないのだからして。


「めっちゃ幸せな気分やってん」

「…妄想で満たされるとは、気軽なヤツだな」

「相変わらずネジが一本飛んでるよねー、忍足」


凍頂ウーロン茶で幾分すっきりした気分になれたが、真のリフレッシュ・休憩は、この黒髪眼鏡を黙らせないとやってこないのかもしれない。
とりあえず殴ってみるかと会長専用椅子に深く腰掛けていた体を起こして、黒髪眼鏡がまったりくつろぐソファへ向かった。
大きく振りかぶって、後ろからゴツンとやろうとしたが、突如眼鏡から出た台詞に振り上げた拳が止まる。


「こんな妄想で満ちた気分になるっちゅーことは、……俺って、あいつのコト、好きなんやろか」

「「……」」


そう、ポイントは無意識にみた『夢』ではなく、授業中にぼんやりと考えていたら詳細がどんどん出来上がっていった『妄想』
つまりは自らの希望を織り交ぜて、自分で作り上げた『未来予想図』だということ。


「…なんでもいいが、あいつを巻き込むんじゃねぇ」

「そんなん言うても、アイツめっちゃ当事者やん」

「忍足の妄想のジローと、現実のジローは違うでしょ」


滝の突っ込みもなんのその。
妄想と現実の区別をちゃんとつけているのか、にやにやしながら思いにふける忍足の表情からは汲み取れなかった。
冷静沈着で感情を表に出さないと周囲からは評されている黒髪眼鏡だが、その実アホで妄想マニアなのは彼をよく知るチームメート連中からは周知の事実。
アイドルだアニメだ何だと二次元や夢のまた夢な妄想をよくしているので普段はまったく相手にしないのだが、オンもオフもよく知る中等部からの同級生――自身の次に位置する『氷帝ナンバー2』の名を持つチームメートが出てきたら話は別だ。

アホなことをしでかす前にヘッジをかけないといけないかもしれない。

まず初手として、近づけさせないようにしようと、黒髪眼鏡が『未来の恋人』と称したチームメートの幼馴染2名に、簡素なメールを打っておくことにした生徒会長だった。







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>>短編1『それは甘い未来』を語る忍足と、辟易しながら自身の作業をすすめる跡部会長+補佐の滝でした。

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