ジロたんBirthDay2013*仁王雅治の計画1




気づけば、登下校の道沿いに見事に咲き誇っていた桃色の花も緑の葉をつけだしていた。
今年の開花は早かった、と3月のテレビであちこち放送されていたし、実際に満開になったときも桜並木のそばを歩いて登校していた。
意識していたわけではないけど、当たり前に身近にありすぎていたので、いざ『桜』といわれても、他の皆ほどその存在に関心があるわけでもなく。
そういえば何だかんだで、毎年、彼は部活のチームメイトらとともに『花見』をするんだと笑っていた。
それも、部の長の実家、かの有名なアトベッキンガム宮殿の庭の一角に植えられた、見事な桜の下で。


『仁王と一緒にお花見、したかったな〜』


氷帝恒例行事らしい、4月の花見を終えた彼から零れたひとこと。
だが、季節ももう4月も残すところわずか。
都内どころか、少し遠出をしたとしてもほとんど散っていて、桜を見つけるには難しい。


いやいや、何とかしてみせましょう。


もうじき彼の誕生日―は、5月5日という祝日。
しかも、連休が重なる、出かけるには素晴らしい日程となっている。
幸い連休後半は部活もオフで、彼の方も完全オフかつ予定も空けておいてもらっている。



さて、桜、さくら。



さりげなく夕飯時に姉に聞いてみたところ、北の方ではこれからが花見のシーズンとのこと。
彼の誕生日あたりに満開になると思われる、見事に見頃を迎えるエリアのめぼしをつけて、移動手段・宿泊…と調べていく。
が、1週間も切ってから探し出すのは時すでに遅し?

インターネットで探すホテル、民宿、旅館……いずれも『満室』の文字ばかり。
飛行機も、『空席待ち』
そして、新幹線は自由席ならどうとでもなるが、目的地への路線は全席指定。
いい時間帯は全て『×』しるしとなっていて、特に帰りの新幹線は全席満席か?というくらいの混雑状況。


さぁ、どうしようか。



彼の保護者 ― といっても過言ではない、かのキングに一言頼めば、文句を言いつつもなんだかんだ揃えてくれるだろう。
でも、おんぶに抱っこというのも…
金髪の彼は慣れているかもしれないけど、自分としては全て頼り切って用意してもらった旅というのは、無条件で受けいれ難い。
借りを作ってしまうのも嫌だしな。


移動は何だったら電車乗り継いで、…すごく時間がかかるだろうが、何とかなるだろう。



問題は宿だ。




5月3日〜5日、2泊3日の小旅行。
高校生同士で宿泊OKなところ。
宿が決まってから、移動手段を探す。



やることは決まった。
インターネットの予約サイトでは軒並み×だらけだったので、ピックアップしたホテル、宿らすべてに直接メールで問い合わせることにする。
怒涛のメールラッシュで返信を待つ間、日曜の昼に珍しく家にいる姉に相談してみよう。
なんせ、出版社勤務で現在の部署が旅行雑誌・ガイド、かつ趣味が旅行なので穴場の旅館やメディアに出ていないとこも多数知っている。


「姉ちゃん、ちょっと助けて」

「どうしたん?」

「5月3日から2泊、どうしても泊まるとこ、押さえたい」

「場所、どこ?」

「北」

「北て…この前言ってた、桜?」

「うん」

「アンタ……もう1週間切ってるし、どこも満室でしょ」


あそこはこの時期が一番混むと眉を寄せる姉に、どうしても行きたいのだ、と強くいいきる。


「なぁに?彼女?」

「そんなようなモン」


―彼氏だけど。

なんてことは黙っておくとして。


珍しく真剣な表情で、普段は自分に頼ったりすることも無い弟が、旅行ガイド片手にお願いしてきている。


―親になんて言うん…アンタはいいとして、お相手の親御さんに。。


と思いつつも、せっかくの弟の計画をかなえてあげたい気もするので『しょーがないわね〜』と頷き、リビングに置きっ放しのノートパソコンを開き、慣れた様子でキーボードを叩く。
過去の取材で好印象だった旅館、ホテルをいくつかピックアップし、さらに『花見のシーズンでも少し部屋が余るんですよね〜』なんて取材時に聞いたホテルもいくつか。

(せっかくなら温泉ついている旅館がいいわよね〜ただ、そういうところほど混んでいるでしょうけど。
というか、アンタ、費用どうすんのよ)

バイトもしておらず、月の小遣いだけの弟が旅費を全て捻出できるとも思えないが。
まぁ、いざとなったら貸してあげることにするか。

社会人の姉らしく見守ってあげることにして、一緒に探してあげよう!とパソコンでちゃちゃっとリストアップする。



弟と同じく、取材でお世話になったり、自身おすすめのめぼしいホテル・旅館にメールを送り、返信を待つことにする。
電話をかけてもいいのだけれど、他にもやることがあるので時間が惜しいし、メールの送信先はいずれも宿泊処が公に出しているアドレスではなく、個人的に親しくなり交わしたメールアドレスなので、通常よりも返信は早いだろう。
その間、会社の先輩にも助言を仰ごう、とメールを打ち、ふだん交流を持っている旅仲間のサイト掲示板に書き込み、色々な情報収集を開始。
なんせ、明日から取材で出かけるし、自分にとってはゴールデンウィークのお休みなんて無いようなものだ。
今日しか弟の協力を出来る日が無いのだから、できる限りのことはしてあげたい。



それよりも移動手段のほうが大変な気もするが、弟は『宿さえ確保できれば、移動は何とでもなる』と断言しているので、そこは気にしないことにした。

―お姉サマが頼りになるってこと、見せてやろ〜じゃないの。


(お、さっそく先輩から返信きた!)


携帯をチェックすると、メール問い合わせをしていない旅館情報。
ああ、そういえばそこは庭に大きな桜が植えてあって、露天風呂からの眺めも最高の場所。
ロケーションがちょっと離れているから行き辛いところだけど、駅まで送迎サービスもある。
見逃していたな……と、リストに加え、さっそく問い合わせをしてみる。


「ちょっと雅治。予算は?」


そうそう、大事なことを聞いておかないと。
空室があっても、露天風呂つき旅館でグレードも高いと、一介の高校生が支払える額でもないだろう。
そして、高校生同士で泊まれるのかどうかも謎だ。
いくら弟が大人っぽく、大学生に見えるとしても。

―まぁ、いざとなったら自分が保護者として予約し、同意書も記載してあげればいいだろう。



弟から額を聞きだし、意外とその額の高さにびっくりしたけれど、聞けばコイビトの誕生日だとのこと。
そりゃ頑張るワケだ…と察し、それじゃ何が何でも取ってあげなきゃね、とキーボードを叩く手も軽快になる。



17歳の誕生日ね〜いい思い出になるといいわね。


なんて微笑ましい気持ちになる……が、あれ?
そういえば、よく家に遊びに来る弟の友人も、同じような時期が誕生日じゃなかったか?

金のふわふわした髪に、笑顔がチャーミングな可愛らしい男の子。
前にとまりに来た際に、お土産として桜の枝を持ってきてくれた。
いわく、部活の皆で花見をしたと笑い、そのときのことを面白おかしく話してくれたっけ。

桜の枝も、家主の許可を得て少しわけてもらったとのことで、綺麗な桃色の花弁に母が喜んでいた。
しばらく仁王宅のキッチンに飾られていた花を思い出して、なにやらふと、あれれ?まさか??いやいや。
多様な考えが頭をよぎったが。


まさか……ね。


『ジロくん、子供の日が誕生日なんだね』

『そだよ〜』

『なんか、ぴったりって感じ』

『どういうこと〜?』

『ジロくん、兄ちゃんよりオレと同い年みたいじゃけ』

『なんだとぉ〜?』


ついこの前、うちのもう一人の弟とこんなやりとりをしていたな…


デジャブ… 
姉の……いや、女の感か。


まさか…と思いつつも、もしそうだったらどうしよう。
うう〜ん。


よく遊びに来る彼は可愛し、いい子だし、何といっても笑顔がステキで、こちらまで温かい気持ちにさせてくれる太陽のような子だ。
父も母も気に入っているし、自分だって実の弟よりも可愛いと常々いっている。
だが……



いやいや、考えてもしょうがないことだ。
というか、ありえない。


単なる妄想…と自分を納得させ、弟とそのカノジョのために、尽力しようとサーチを続ける。




そうそう、姉の偉大さを見せるのよね。
今日中にフィックスさせないと。



弟、まだ見ぬその恋人 ― 連休中に誕生日を迎えるらしい『彼女』―のために。





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