いちばん寂しかった日1-1



ここ数年はずっと『猛暑』といわれ、9月後半に入っても夏の暑さは和らぐこともなくクーラーの欠かせない日々が続いていた。
ただ、月末になるとガラリを表情をかえて急激に気温が下がり、肌寒くもなるのだからここ近年の気象は読めないものだ。

氷帝学園高等部では毎年この時期に大規模な校内模試を行う―秋の中間考査のようなものだが、10月の第二週目に2日間かけて行われる模試は、受験生である最上級生はさることながら、二年生にとってはある程度方向が定まっている各自の進路を、さらに絞るにあたり最適な指標ともなる。

都内でも有数の進学校のため、9月も末にもなると普段は賑やかな生徒たちも休み時間には机にかじりついて復習している姿があちらこちらで見かけられる。
はなっから勉強以外で入学してきたスポーツ特待生、進学校にも僅かながら存在するドロップアウト組、そして生徒会長含む一部な優等生は、試験前も関係なく普段と変わらない学園生活を送ってはいるのだが。

そしてここ、氷帝学園高等部では唯一無二の有名人が中等部から進学してきたときから、女子生徒たち注目の日が秋の考査前に訪れるのである。




10月4日




― Invitation Letter / Keigo Atobe 17th Birthday Party : 04/Oct/2013―




跡部家の一人息子の誕生パーティは、毎年彼の実家の大豪邸で開かれる。
グループの会長直系の男孫で、現在父親は系列の証券会社役員ではあれどもうじき社長就任、はたまた別会社へ出向し社長就任かと囁かれており、行く末はグループ企業のトップに立つことが約束されているような立場である。

その息子はまだ高校生とはいえ、学問では全国模試でトップクラスに入り、英語・フランス語・ギリシャ語・ドイツ語・スペイン語……と複数言語をあやつる頭脳。
そして所属するテニス部では全国大会常連かつ彼個人も各学年の全国選抜に選ばれ、Jrの大会で成績を残しプロテニス界への期待もかけられた逸材だ。
加えて北欧の血が入ったクォーターで、青い瞳に薄茶色のサラサラヘアと泣きホクロが印象的な、いわゆる100人が100人美形と認める眉目秀麗な容姿。
180を超えた長身に、日々のトレーニングで鍛え上げられた体は綺麗な筋肉がついており、パワーも相当で体力、持久力、忍耐力、と強靭な精神力。


つまりは『ミスター・パーフェクト』な跡部景吾の誕生日が考査前の金曜日にあたり、その日ばかりは全女子生徒が集まるんじゃないかというくらい『跡部様』あてのプレゼントが山積みになる。
混乱するため生徒会室にダンボールが複数用意されており、花束用、食べ物、、、と各種仕分けされているらしく、その殆どが支援している孤児院含む施設に寄付されているんだとか。
(バレンタインしかり)


例年とおり誕生パーティの招待状を受け取った彼の同級生の面々 ―主に普段ともに過ごすことの多いテニス部に集約されている― は、金曜放課後、各自正装を用意し跡部家へと向かう。

『勉強が必要な奴は不参加で構わねぇ』との言葉に頷くチームメートは一人もおらず、さらに試験前で部活もオフなことから例年招待される氷帝学園テニス部生徒の出席率は抜群だ。

財界人が多く出席―といっても跡部少年の幼少期から付き合いのある、仲の良い人たちに限られているらしいので、面子としては豪華ではあるが堅苦しさはさほど無いと跡部家の面々は言うけれど、中等部から参加している行事といえどまだ高校生の同級生にとっては十分すぎる『堅苦しいパーティ』ではある。

ただ、神経の図太さと堂々たるふるまいは同年代の中では群を抜いているのか、物怖じするメンバーはおらず、料理を大盛りによそい味わう者、クラシック演奏に飛び入り参加し来場者を楽しませる者、かなりの腕のマジックを披露する者も出るため、今では『景吾さんのご友人による高度なパフォーマンス』として密かに来賓の楽しみの一環ともなっているらしい。



たとえばその@忍足侑士のバイオリン演奏と鳳長太郎のピアノ伴奏

たとえばそのA滝萩之介のマジックショー(助手に日吉若)

たとえばそのB向日岳人のジャグリングショー



ちなみに昨年の跡部景吾16歳誕生パーティで一番歓声のあがった『同級生パフォーマンス』は、当人・跡部景吾のピアノ伴奏にあわせて歌う芥川慈郎の『When You Wish upon a Star』だった。



…とまぁ、昨年までの様子は置いておいて。



今年の10月4日もあっという間に訪れて、校舎は朝からソワソワと音が聞こえるくらい、女の子たちのわくわくした高揚、期待感、便乗してはしゃぐお祭り感で充満していた。
この日ばかりは男子生徒たちは一様に、普段は雲の上のような扱いをしている『跡部様』に同情する輩も数十人、いや数百人。
なんせ朝から下校まですれ違う生徒たちに『お誕生日おめでとうございます』とお祝いの言葉をかけられ、律儀に『ああ』だの『ありがとう』だの返しているのだから。
まったく知らない生徒に違いないと彼の周りの友人らが思っていても、『俺様は生徒会長だ。知らない生徒なんていねぇよ』とのたまう台詞は真実か否か。

授業休みには複数の女子グループが彼のクラスまでやってきて、口々に『おめでとうございます』の言葉とプレゼントを手渡し― しようとして、周りを固める生徒会の面々に『会長へのプレゼントは生徒会室で受付ています』と鉄壁のガードをお見舞いされ、ランチ時のカフェテリアでは一目会長に挨拶を!と上級生、下級生含め普段足を運ばない生徒らで増えてごったがえし、一年で一番混雑する日となる。
(その日ばかりはテニス部の面々はカフェテリアでの昼食を断念し、各自学食や屋上、中庭、教室……と分散するようだ)



今年の10月4日、氷帝学園高等部2年生テニス部レギュラーの昼食タイムはというと―

@屋上で滝とお弁当+そのまま昼寝の芥川慈郎
A中庭でコンビニのパン&購買のパンな向日岳人&忍足侑士
B教室でクラスメートとお弁当+グラウンドでサッカーな宍戸亮
C屋上で慈郎とお弁当+図書室で物色な滝萩之介


尚、主役の跡部景吾はというと、いつものテニス部面々にいくら連絡しても誰もでず、捕まらないためカフェテリアの生徒会長特等席でスペシャルランチコース、側には樺地というガードをおいて。
一番混んでいる日だとわかってはいてもファンサービスの一環なのか、あえて見世物になることを覚悟、いや、自らか?
…とりあえずはカフェテリアで生徒たちの前に堂々とそのお姿を現し、半ば見世物としての昼休みを過ごした。


普段は跡部と一緒に昼食をとることも多いのだが、A〜Cは『今日なんて一番混んでるし、跡部のそばにいないほうが正解』とあえて寄らない選択をしている。
どうせ夜は跡部家で誕生パーティで、参加するのだからそれまであわなくてもいいだろう、とのことで。

ただし、@は例年通りならA〜Cと同じく、『10月4日の跡部のそばは大渋滞だから寄りたくない』としていたが、今年に限っては少し心境の変化が出てきたようだ。



というか、先日、昨年までの10月4日を振り返って、気づいてしまった。
『大渋滞だから寄りたくない』のではない。
『近くに行きたいけど大渋滞のおかげで行けない』ということに。





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