向日岳人Happy BirthDay!2013



商店街の電気屋とクリーニング屋で隣同士の俺ん家と、アイツん家は、俺たちが生まれる前から仲のよい『隣家』だ。
゛3キョーダイ”の真ん中で、姉ちゃんと弟がいる俺と、兄貴と妹のいるアイツ。
家族構成も似たようなモンで、家が自営業なのも一緒。
幼稚舎から高校まで、同じ氷帝のエスカレーター式に身を任せて、生まれたときから現在までピッタリ、同じような道を歩んでいる。
覚えてはいないけれど、0歳時に商店街の写真屋で撮られた1ショットは、長らくお店に飾られていてポスターにもなったくらいだ。
幼稚舎では毎日一緒に登下校して、高学年になると亮も加わって3人一緒に過ごすことが多くなった。
テニスを始めたのも同じくらいで、亮がテニススクールに通いだし、面白がって見学しにいったのを切欠に、二人してはまった。

幼稚舎の頃は、身長も体重も似たり寄ったり、勉強や体育の成績もどんぐりの背比べ。
『双子だ』と周りや大人に言われ続け、比較的仲のよい幼馴染だといえただろう。

小学生の時からジローが寝坊しがちで、どこでも寝て、授業中も机に突っ伏して、昼休みは中庭で寝こけて授業に遅れて……と、『眠り』にまつわるアイツのエトセトラは、生まれつきなんじゃないかってくらい、今でも変わっていない。
どこかで寝ているあいつを見つけるのは俺か亮の役割だったし、クラスが違うのにアイツの担任は『芥川どこにいる?』といの一番に、俺に聞いてくる始末。
他の誰にも、あいつのクラスメートや友達連中も見つけられないのに、不思議と俺と亮はジローがどこにいるかがカンでわかるんだ。
根拠や確信なんて無いんだけど、今日は屋上にいそう、中庭にいるだろうな、グラウンド端の木の根元で寝ているかも、美術室かな……とジローの居眠りスポットはたくさんあるんだけど、俺と亮ならすぐに見つけられた。


『なんで向日くんと宍戸くんは、ジローくんの場所がわかるの?』


クラスメートの女の子に言われたとき、俺と亮は顔を見合わせてきょとんとなってしまい、今更ながらに『なんで?』といわれても明確な答えなんてなく、『カン』としかいいようがないと笑った。
アイツはアイツで、嬉しそうに笑顔を浮かべて『がくととりょーちゃんはだけが、オレを見つけらるんだC!』なんてはしゃいでいた小学生の頃。

いつもボーっとしていて危なっかしく、どこでも寝こけて誰ががついていないと、と思わせるあいつ。
そのくせ、興味あることには目をきらきら輝かせて、まるで二重人格のようにハツラツとした表情で畳み掛けるように言葉を紡ぎ、動き回る。
ラケット持たせて強い相手をコートに立たせれば、目を爛々とさせて『ちょーたのC!!』と大ハシャギ。


天才って、こういうヤツのことを言うのかな?


あいつは寝てばかりなのに、幼稚舎高学年の頃には成績はトップクラス、美術や技術、体育も抜群で先生の覚えめでたい生徒になった。
かといって優等生タイプなわけではなく、禁止されている廊下を走り回って先生に怒られたこともあるし、小テストで寝てしまい0点を取っていたときもある。
庇護欲をそそるためか女子連中はこぞって『かわいい!』とマスコット扱いだったし、男子連中も、どこか浮世離れしたところもあるアイツを、憧憬の眼差しで見るタイプもいれば、小さい弟を可愛がるかのようにお兄ちゃんぶるタイプ、一緒になってグラウンドをかけめぐり、ドロだらけになって保健室で先生に怒られるタイプ、とだいたいがこういうジャンルに分かれた。

俺や亮よりも勉強が出来て、短距離はかろうじて俺のほうが早いけど、水泳はあいつのほうが圧倒的で。
長距離は亮が強いけど、球技や器械体操、他の種別はジローがうまい。というかあいつは足もかなり速いし、運動会ではリレーの選手に選ばれる方だし、100m走りで1位になるやつだ。
(俺と一緒だと、俺が勝つけどさ)

テニスも、同じくらいに始めたのに、あっという間にかけあがっていって、すぐに1対1では勝てなくなった。
先にスクールに通っていた亮も追い越して、3人の中で一番強くなっていった。
ただ、アイツは試合に出るとか、勝負とか、そういうことへの執着がなくて、ただただ強いヤツと試合して楽しみたい、というタイプのためか、コーチがどんなに説得してもスクールで試合に出ることは稀だった。
まぁ、エントリーしても結局、試合の日に寝坊したり、会場に着いてもどこぞのベンチで寝こけて試合に間に合わず棄権負け、とか。
ちゃんと試合に出たことが殆ど無いに等しい、スクールで一番強いクセに『幻のエース』扱いされていたけど。


何もかも先をいくアイツだけど、不思議とライバル心を抱いたり、嫉妬したりすることはなかった。


あいつの根本が甘えたで、すぐにこっちを頼ってくるし、あいつを見てると何かしてあげないと、見てあげないと。
面倒みないと、と自然と思わせる、『天然の庇護対象人物』だからだろうか。

あいつに嫉妬するより前に、頼られると心がじんわり温かくなって、俺が何とかしてやんねぇと、と思ってしまう。

それは亮も一緒みたいで、ジローにゲームで負けると悔しそうにするんだけど、それはキツイ感情ではなくて。
ジローとテニスしていると、勝ち負け云々よりもひたすら楽しくて、俺ってテニス好きだなーって思うんだよな。
あいつがめちゃくちゃ元気いっぱいにコート駆け回って、はしゃいで嬉しそうにボールを追いかけるから、あいつの楽しさが伝染するんだろうか?


そんなジローとの関係は中等部にあがっても変わることなく、アイツはある意味天才なんだろうし、それでも面倒みなきゃいけないんだろうし、それが嫌ではないし、おばさんにも『ジローをよろしくね?』といわれて、『任せてよ!』なんて兄ちゃんぶる俺も変わらない。

そう思っていだんだけど……


以降はご存知の通り、氷帝学園中等部では『跡部』というミラクル級のどエライ奴が入学してきて、俺とジロー、亮の関係も少しずつ変わっていった。

3人1セットか、亮がいないときでもジローと俺のコンビは変わらないと思っていたんだけど、中等部ではクラスが増えて、見事に3人ともバラバラに散って。
幼稚舎からの持ち上がり組は多いんだけど、外部生もかなりの数のマンモス校な氷帝学園は、『跡部景吾』という面白すぎるヤツに牛耳られる、特殊な学校になっていった。
それまで俺の隣か、少し後ろをひょこひょことついてきていたジローだけど、中等部になって互いに新しい友達ができて、自然と一緒に過ごす時間が減っていった。

ジローを見つけられるのは、俺と亮だけ。


ただ、中休みや昼休みは、新しいクラスメート、友達と話したり、グラウンドでサッカーしたり、体育館でバスケット…と、どこかで寝ているだろうジローを探すことは無くなっていき、友達と遊ぶことに夢中になっていった。
相変わらずアイツは寝こけてたみたいだけど、どこか閉鎖的だった幼稚舎とは違い、人数も段違いに増えた中等部では各自の自主性を重んじる校風も相まってか、あいつがどこかで寝ていても幼稚舎の頃みたいに先生が血相かかえて『芥川はどこだー?!』と言ってくることもない。
(アイツはアイツで、チャイムがなるとちゃんと教室に戻っていたみたいだけど)

そして、大きなきっかけが、どエライ奴な『跡部景吾』

テニス部に入部してしばらくたち、新部長となった跡部と初めて試合形式の練習をしてから、ジローの中で『跡部景吾』の存在が特別なものになったんだと思う。


跡部とテニスしているときのジローは、目の輝き方が違うように思える。
そりゃ、跡部は中学1年のときから強かったし、あの頃から『跡部様』だったし、ジローが求めること全てに応えられるヤツだから。
なんといってもジローに最後まで付き合えるテニスの強さと、意思の強さ、マイペースでボケっとしているアイツをぐいぐい引っ張っていく強烈な個性。


俺はというと、屋上で侑士と出会い、友達になってから気がつけば一緒にいることが多くなった。
隣にジローがいたのに、中等部になってからは新しい友達がいて、侑士がいて。
『ジローとはクラスが違うから』といいながら、新しい友達と一緒にいることへの言い訳……ってワケじゃないけど、いくら家が隣同士で幼馴染でも、やっぱりクラスが違うと小さい頃みたいに四六時中一緒というワケにはいかない。
こうやって登下校もしなくなるのは自然なことだし、もちろんバッタリ会えば一緒に行くけど、それでも幼稚舎の頃みたいにジローを隣に迎えにいって、一緒に学校へ―ということも無くなった。


俺の隣はいつの間にか侑士になって、ジローの隣には…というか、あいつは相変わらずで授業中は机に突っ伏して、休み時間は図書室で寝こけて、部活のときはボーっとしてるか、試合形式の練習時ははしゃぎまわって。
なのでジローの隣に特定の誰かがいる、という意識はなく、かといってアイツが一人でいる…というワケでもなくて。
さして意識していなかったし、あいつはあいつで適当に、新しいクラスメートと仲良くやってるんだろうし、それか放課後になるまで寝てるんだろうと単純に思っていた。


ジローの跡部への『強さの憧れ』は早いうちに感じていたけど、いつの間に俺の隣に侑士がいたように、ジローの隣には跡部がいることが増えた。
跡部にとってもジローの純粋さと素直さ、芸術肌で天真爛漫。
気分屋だから振り回されることも多かったみたいだけど、それでもそんなジローの一直線なところが心地よかったらしい。

跡部は元来世話好きな奴だし、特にジローのようなタイプだと口や手を出さずにはいられないのだろう。


俺の隣か、ちょっと後ろにはジローがいて、たまに亮がいて、3人一緒のときもあって。
そんな幼稚舎の『当たり前』は、中等部になるとガラっとかわり、
俺の隣には侑士、ジローの周りには跡部、そしてどちらにもたまに亮が加わる。

じきに氷帝テニス部のNo1とNo2、氷帝ダブルスのペア、とのくくりで呼ばれるようになる2組のきっかけは、中学1年のこの出会い。


ジローの隣に跡部がいるようになって、アイツが無条件で頼るのが俺から跡部にスイッチして、何だかモヤモヤするようになった。
そりゃ、俺と跡部なんて比べるまでもない。
勉強は学年1位だし、全国模試でもトップクラスで生徒会長。
世間の誰もが知る跡部グループ会長の直系の孫で、自宅は『跡部ッキンガム宮殿』なんて呼ばれるくらいの大豪邸。
北欧の血が入っているらしくクォーター?なのか、色素のうすい目は青みがかっていて、へーゼルナッツ色のサラサラヘアもあいまって『王子様』『跡部さま』なんてキャーキャーいわれるルックス。
天に二物も三物も与えられた男は例外なく運動神経も抜群で、1年生にしてテニス部部長。
どこまでも俺様で強引な奴だけど、誰よりも練習して努力を重ねて積み上げていったテニスの実力と、日々の自主学習と半端ない授業中の集中力でたたき出している校内模試1位の実力。
確かに恵まれた環境に置かれた奴だけど、それに甘えることなく努力した結果の華々しい経歴は、『天才』と呼べるものではあるだろうけど、それ以上に『努力の男』だということを知っている。
そんな跡部に憧れているジローが、無条件でアイツを慕うのも、『跡部はヒーローなんだ』と嬉しそうに跡部のところへかけよっていくのも、しょーがない。


大事な幼馴染を取られたような、少しの寂しさと羨ましさ、嫉妬心。


跡部がパーフェクトな男だとか、家が凄いとか、そういうことへの嫉妬は無かったけど、ジローが懐いていったことへのヤキモチは確かに俺の中にあったんだと思う。
中等部に入ってジローほっぽって新しい友達やクラスメートといるようになったのは俺なのにさ。

亮も同じ立場な、『幼馴染』ではあるけど、親しくなったのは幼稚舎に入ってからだ。
それに、俺とジローほどべったりいつでも一緒だったわけじゃない。
幼稚舎のときは一緒にいることは多かったけど、中等部ではある程度距離を置いて、つかず離れず。いい位置にいたんだと思う。
何かあったら俺とジローを助けてくれたし、亮も中等部に入ってからは新しい友達と付き合うことが多くて、それでもバランスよく俺やジローともつるんで。

俺もそうやってジローと付き合えば良かったんだと今になって思うけど、中等部にあがるまでが一緒にいすぎた。
『中学生』という響きは大人への一歩みたいで何もかもが真新しかったし、外部生の友達は新鮮で、正直ジローといるゆったりとした時間よりも、新しく出会った友達との時間に楽しみを覚えた。

あいつが跡部といるようになって、取られたような気分になるなんて、なんて自分勝手な感情だろう。
あれだけ『ジローは俺が見てやんないと』なんて言っていた小学生の俺に、ジローのそばにいなくなったのは中学生の俺。

面白くなくて益々ジローと疎遠…まではいかないけど、休みの日もあいつの部屋にいくことが無くなって、半年くらい『単なるチームメート』になっていたときもある。
ジローはジローでボケっとしつつも、そんな俺の態度を気にしていたようで、ある日ついに爆発して大号泣された。


『がくとのばかっっ!!!』


盛大に文句をいい散らかし、泣き腫らした顔で俺を睨んでは、また泣いて。
ついつい俺もカーっとなって言い合いになり、跡部と忍足が止めようとするもノンストップな俺らの間に入り、『いい加減にしろ!!』と怒鳴ったのは、やっぱり亮で。

十分に話し合え、と跡部に言われて久々に二人で下校した。
途中、公園に寄ってブランコに揺られ、あいつはたどたどしく自分の気持ちを話し出して、なんでこうなっちゃったのか、なんで自分を無視するのか、どうして?


『おれ、がくとのこと大好きだし、小学校のときみたいに一緒にあそびたいよ』


本心なんて中々いえない、まどろっこしい思春期に入っている中学生男子の微妙な感情なんておかまいなし。
あいつも同じ中学生男子のはずなんだけど、思春期なんてなんのその。
純粋で、素直で、庇護欲をそそられて、何とかしてあげなくちゃ、と思わせるところ。
どこも変わっちゃいない。

二人きりになって、ストレートに告げられると、一気に小学校の頃の感情に引き戻された。
やっぱり俺にとってもジローは大事な幼馴染で、引っ張ってやらなきゃと思う存在で、大切な友達だ。

ついつい意地で『お前にゃ跡部がいるだろ』なんて口をついてしまったけど、きょとんとした顔で何言ってンだとばかりに告げられた言葉に、すとんと何かが落ちたようにすっきりしたんだ。


『跡部も大事な友達だけど、岳人のかわりなんて誰にもできないよ。岳人は岳人でしょ』


いくら新しい友達ができても、テニス部の幼馴染は俺と亮だけだと言うジローに、跡部に対してヤキモチやいていた自分が何だったんだろうと素直に思えた。
そうだ。
ジローの幼馴染は、俺と亮だけ。

たとえこの先、ジローに仲の良い親友が出来たとしても、『幼馴染』な俺たちの関係が変わるわけじゃない。
互いが互いを大切に思っていて、家族付き合い同然な仲だから、いくら跡部が頑張ってもジローの『幼馴染』になれるワケじゃない。
張り合って勝てる要素が一つもない、と勝手にヤキモチやいて、あげくジローから離れて。

俺って、何やってたんだろう。


ブランコでしょんぼりした顔したジローみたら、半年間の自分を猛烈に反省した。

ごめん、ジロー。


その後は小学生のときのようにベッタリ、というワケではないけど、登下校することもあれば別々の友達と遊ぶこともあり、日曜や休みの日に互いの家に遊びに行くこともあって。
亮が入ってきたり、たまに侑士や跡部、滝ら他の友達が加わることもあって、バランスいい付き合いをするようになった中等部2年の俺たち。


これが、跡部が切欠による俺とジローの半年以上にわたるドタバタ劇の顛末。
侑士なんかは面白がって『跡部事変』なんていって、今でもからかう。

跡部に対して『ジローを取られた』なんて感情抱くことも無くなったし、ジローとのドンパチを経て、仲直りしたその後は『ジロー、跡部にねだれ!』なんて侑士と一緒にけしかけて、跡部に怒られて。
ジローが跡部の後ろをついて歩いても、お互いの絆を実感したからか、なんとも思わなくなった。


平穏無事な日々が戻っていって、幼馴染な俺たちの関係も良好、テニス部内も良好、何もかもがいつもの日常で、相変わらずジローは寝るし、あいつを見つけられるのは俺と亮……に、ひとつしたの樺地が加わって。
樺地もまじすげぇよ。
あいつの野生のカンなのか、ジローがどこにいても見つけてくる。

俺だとジローを見つけても、必死に起こして連れてくるしか無いんだけど、樺地だとジローを抱えて寝たまま跡部のもとへ持ってくることが出来る(荷物みてぇだけどさ)
ジローを探して連れて来るのに四苦八苦するようでは俺も亮も余計な体力使うから、と部活中や遠征、試合の時は決まって樺地がジローを探すようになった。
跡部の『樺地、ジローを呼んで来い』の指パチンで、心得たとばかりに樺地はサっとどこかへ消えて、数分後にはジローを肩にかけたり、おぶったり、ととりあえず寝たままのアイツをつれてくるんだ。

ジローは確かに寝汚いし起きないけど、それでも寝ているところに何かされそうになったりとか、話しかけられれば一応は目は覚めるらしい(起きるかはともかく)
家族や俺、亮らの親しい間柄だと、逆に安心しきって中々起きてくれなかったりする。
本能で『安心できる人』『親しい人』と寝ている脳でジャッジするんだろう。

なのであいつが樺地に抱えられて、それでも寝ていたときは正直ちょっとびっくりした。
それだけ、樺地があいつの中で『安心できる人』であり、意識の無い自分を任せられる絶対的にセーフゾーンだとくくられているんだろう。
ちなみに亮、俺がおんぶしてもアイツはもちろん起きないけど、跡部がやっても同じように寝続ける。
まぁ、あれだけ懐いてるから、わかりきってるけどさ。(もうヤキモチなんてやきません!)


侑士がやると、起きるんだよな。


ジローが起きないことが親しさの表れだ、という話になったとき、跡部は『当然だろ』と得意げな顔をして、樺地は表情は変わらないように見えたけど『樺地も嬉しそうだな』と跡部が言うのだから、そうなんだろう。
それから侑士は何度か樺地のかわりに『ジロー呼んで来い』にジローの居場所を樺地や俺に聞いて、迎えにいっては二人一緒に歩いてコートに来ることが続いた。


『ジロー、俺が抱っこしようとするとすぐに起きるんけど』


抱っことか言ってんじゃねーよ。
あいつがちゃんと起きるんだから、それはそれでいいだろーがと慰めたんだけど、『起きないことがジローの中のバロメーター』となっているからか、何で自分だとジローは起きるんだ?と密かに傷ついている。
別にジローが侑士に対して心を許してないとか、くだいてないとか、そういうワケじゃねーんだよな。

アレは半分からかってて、ジローも面白がって起きてんだよ。

俺や亮、跡部や樺地のときもまるっきり意識が無いわけじゃない。
一応は気づくらしいんだけど、『大丈夫』とジャッジして覚醒までは行かないみたいなんだよな。


ていうか気づいてるなら起きろ!!


何度も俺と亮はジローを怒ったけど、『気づく』のと『覚醒する』のは違う、安心しきっちゃって起きられないんだ、となしつぶて。
ただ、侑士がそのところを気にして起こしにきては樺地のように肩がけや、おんぶにトライしようとしていることを面白がって、侑士のときは寝続けそうな体を奮起させて頑張って起きているらしい。
ジローの中では侑士もちゃんと『安心できる人』で、侑士に起こされると『忍足侑士』と頭ではちゃんとわかっているみたいなんだけど、脳の指令が『とりあえず起きとけ』となるみたいで、バッチリ目を覚ましては侑士をガッカリさせている。


逆に、侑士のことが特別だから起きるんじゃねぇ?


とりあえず精一杯な慰めとして、思ってもないことを侑士に言ってみたんだけど、どこか空々しく響いた部室内でのある日のひとこま。
(準レギュや他の部員が起こしにいってもバッチリ起きて戻ってくるからさ……ただ、そいつらだとジロー見つけられないから、跡部は樺地に行かせるんだ)


そんなこんなで、傍目には良家子女が通う進学校、かつ200人もいるテニス部、特にレギュラーは個性派揃いで近づき難い。
なんて言われもするけれど、クールぶってる伊達眼鏡関西人をひたすらいじめるど天然なふんわり肉食獣、周りで囃し立てる俺ら、スーパー自己中だけど面倒みのいい氷帝のキング。


氷帝学園テニス部の実情は、お笑い系の仲良し集団デス。


跡部事変を経て昔に戻った俺とジロー。
『幼馴染』な関係は崩れることはなく、今後何があっても俺らの友情、家族愛は変わらないし、もうジローが懐くあいてにヤキモチなんてやくはずない。


そう、思っていた。
アイツが現れるまでは。


俺とジローの第二次ケンカ勃発、というか俺のまたしても一方的な感情で、面白くない、ひたすら面白くない……跡部のときは、まだどういうヤツかわかってるから、そこまででもなかったけど、次の『アイツ』に関してはまったくもって知らないヤツだったから、ジローが心配になってヤキモキするも亮には『ほっとけ』といわれて。
あーだこーだ、ヘンな奴に懐いてんじゃねぇ!と言い続けたら、しまいにはジローに『がくと、うるさいC!」と反撃されて、俺も俺でそんなジローがムカついて。


俺がこんなに心配してアレコレ気にかけてんのに、『うるさい』だと?!
もういい、ジローなんて知らねぇよ!!


跡部ん時とまったく同じようなことになって、侑士や跡部には盛大に呆れられて、亮には『お前らなぁ』とため息つかれて。


結末も同じで、ある日突然ジローに殴られて、とっくみあいのケンカして、亮に止められて。
ムカついて文句言おうとしたらジローが泣き出して………泣くなんて、ずるいよな。
いつも笑顔なあいつが泣くなんてめったに無いし、跡部の視線は痛いし。

またしても跡部の『二人で話し合え』の一言でコートを追い出されて、二人とも無言のまま家の近所の公園に行って、またブランコに乗った。
結局はジローの『がくとは俺の一番の幼馴染でしょ…っ』の言葉に、じわっときて俺が謝って終了。
跡部の時とは異なり、『アイツ』に関してはまだ少し思うところもあるけれど、それでもジローが『アイツ』に憧れてキャーキャー騒ぐことに関しては耳をふさぐことにした。
何で俺がジローにフラれたみたいになってんだよ。
慰めてきた侑士を小突いたりして。


俺が『アイツ』をよく知らなかったからなんだけど、その後に試合会場で会ったときにジローから紹介されて、俺もアイツと友達になった。
(紹介、ってのもヘンな感じだけど)

アイツん家も三人兄弟で、俺らと違ってアイツは一番上みたいだけど、ワガママでよく食ってテニスはうまくて面倒みがよくて。
練習試合を組んだとき、どこからかアイツがジローを背負い氷帝側のコートにやってきて、ジローはグースカ寝ていて。
ジローの中のアイツの大きさを悟った。


まぁ、いいか。
ジローがどんなに憧れて、アイツと遊んでいようと俺ん家の隣に住んでることには変わんねーし、幼馴染は俺だし、いざというときに頼られるのは俺であり跡部であり氷帝であって、アイツじゃない。


と言い聞かせるも、中学3年時の選抜合宿では何の因果かアイツとジローと三人同室。
ジローはうきうきしながらアイツにベッタリで、どこへ行くにも食事中のテーブルもアイツの隣。
夜は二人でボレー話に夢中になって、同じボレーヤーでもあるのに話に入れずちょっと寂しい思いもした……時に限ってタイミングよく侑士がやってきてはカードゲームに誘ってくれた。
まぁ、よくよく見ていると普段は跡部や樺地、俺らがしている『ジローの世話』をアイツが一身に引き受けていて、ジローを起こして発破かけて練習させ、へとへとでへばりそうなジローに『これ終わったら、ラリーすっか』の一言でジローは元気いっぱいになってエネルギー充電。


『そんかし、トレーニング終わらせろよ?』
『うん!オレ、がんばる!!』


120%元気になったジローが物凄い勢いでトレーニングメニューを終わらせて、休憩も惜しいのか『アイツ』の手を引っ張ってコートへ向かっていく姿を何度も目にしては、馬ににんじん、ジローに丸井、とからかったものだ。



後に食後談話中、ふとしたことから『跡部事変』の話になって、氷帝生が思い出しては笑っていると、話が最近の『アイツ』にまつわる俺とジローのケンカになっていって。
登場人物に『立海』が入ってきたからか、同じ合宿に参加している立海生も話しに入ってきて、…しかもその話題のテーマが俺とジローの幼馴染ケンカなもんだから、ずいぶん恥ずかしい思いをした。
すでに解決済みだけどさ。

真面目な顔した真田が、『ふむ。丸井の乱、というわけか』なんて言うモンだから、場がシーンとした直後、立海生の壮絶なツッコミを受けていた。
お前はどこの将軍だよ、ったく。
直後に柳生が『ここは第二次ということもありますので、「丸井事変」というべきでしょう』なんて至極まともに言うので、もう何てつっこんだらいいのかわかんねぇ。
侑士なんてよりよい例えを出すどころか、柳生に一票!と頷く始末。
ていうかこれ以上この話題を拡散させないでくれ。


高等部にあがってからも相変わらず氷帝テニス部は仲がよくて、ジローは寝てて、毎週丸井に会いに行って、跡部は過保護で。
俺は亮に倣って程よい距離感でジローとの幼馴染な日々をすごし、侑士とは大親友ってくらいたいてい一緒にいる。
(だってあいつテニス関係以外の友達いねーから)


ジローや亮と一緒にいるのは、確かに小学校の頃よりは減った。
それでも、中等部の頃の『跡部事変』や『丸井事変』を経て、俺らの関係は新たなステージに、というか安定したものになっていったんだと思う。
世の幼馴染な関係がどういうものかは知らないけど、俺らはかなり近い間柄だったから。
兄弟のような、家族のような、親友のような。
かといって姉ちゃんや弟ともまた違うし、侑士とも違うんだ。


ジローが何考えてるかは何となくわかるし、あっちもそうで、俺が体調悪いときに真っ先に気づくのは家族でも侑士でもなく、何故かジローだ。
逆もしかりで、いつものように寝ているジローの顔色をみて、ちょっとおかしいな、と感づくのは俺で、次点で亮。
最近は跡部もわかるようになってきたのか、元からのインサイトが凄いのか、亮と肩を並べつつある。
丸井はどうかわからないけど。


つかず離れずの距離間になった俺らが毎年必ず一緒に過ごす日。
アイツの誕生日は大型連休で祝日かつ跡部が盛大に祝うので、俺はもちろん参加するけど大人数でのパーティみたいになる。
反対に、九月のこの日は平日の場合が多く、普通に学校もあるし部活もある。
たとえ土日で学校がない日にあたっても、丸井や跡部に誘われても、この日だけはジローは絶対に断って、俺ん家にくる。


9月12日

家族に祝ってもらって、夕飯は俺の好きなメニューを母ちゃんが作ってくれたり、レストランで外食したり。
ただ、その後の過ごし方は幼稚舎の頃から一緒だ。

ジローと亮がゲーム機、漫画、雑誌、と色々持ってきて俺の部屋で深夜まで遊んで就寝。
侑士がくっついてくることもあるけど、たいがい3人で過ごすのが定番になっている。

どうせ俺は家族で夕食だから、それまで丸井でも跡部でも何でも遊べばいいのに、この日だけはジローは誘いに乗らず、亮といろいろ準備をしている。
これといって何かをするわけじゃないんだけど、俺ん家に何持っていくだとか、一応プレゼントもくれるので、二人で買いにいったりだとか。
つまりは俺が家族との夕飯を終えるまでは亮と過ごしている。
(昼から亮と出かけて、夕飯はジローん家で食べてから、二人して隣の俺ん家に来るんだよな)

なので9月12日は、芥川家にとって『岳人の誕生日=宍戸が来る日』として、いつもよりちょっと豪華な夕飯になり、俺ん家の隣で『岳人の誕生日会』として祝ってくれているらしい。
去年は侑士も俺ん家来たんだけど、その前の夕飯は亮と同じくジローん家の世話になったらしく、『芥川家の岳人誕生会』に参加したんだって。


今年はいったい誰が参加していることやら。






「「お邪魔しま〜す!」」
「ジロちゃん、亮くん、いらっしゃい」


階下から母ちゃんとジロー、亮の声がした。
時刻は21時。
そろそろ来る時間だと思ってたけど、時間ぴったりだな。


「こんばんは」
「侑士くん。いらっしゃい」


侑士……今年も来たか。
まぁ、いつも侑士には世話になってるし、あいつのマンションにも度々お邪魔させてもらってるから。
(親父とケンカすると、避難先として侑士ん家に押しかけることが多い。ジローん家でもいいんだけど、近すぎて避難にならねぇしさ)


「あらぁ、跡部くん!久しぶりねぇ」
「夜分遅くすみません。今日はお世話になります。これ、宜しければ皆さんでどうぞ」
「まぁ、気を使わせちゃって、悪いわねぇ。ありがとう」



予想外すぎる。
まさかの跡部登場に、母ちゃんの声のトーンがあがった。
手土産に何を持ってきたんだ。

俺の部屋、4人も寝れるのか?
つーか跡部。こんな狭いとこにせんべい布団で大丈夫なのかよ。
(いざとなったらジローと俺がベッドで、3人を床でなんとか…)

生粋の坊ちゃんである跡部が、こんな庶民の狭い部屋で寝泊りできるのか?と思うかもしんないけど、意外と順応性高いというか、何というか。
ジローの部屋で大丈夫だったんだから、俺の部屋でも大丈夫だろ。



コンコン



部屋のドアがノックされ、こちらが出るまえに扉があけられる。
笑顔のジローと亮……の手にはクラッカーが握られている。おい、いま21時だぞ。ヤメロ。


「がくと、17歳おめでとー!」


ジローの声を皮切りに、クラッカーが鳴らされて俺の部屋は紙まみれになった。
跡部はさすがにやらなかったようだけど、……ていうか侑士、3つもいっぺんに割るんじゃねぇよ。


「あーあー、近所迷惑だろーが。ったく」


全員とりあえず部屋に入れたら、亮はさっそくテレビにゲーム機をセットしだしてソフトを入れた。
今年はゲームからか。
ジローからプレゼントを渡されて、『今年は皆で選んだんだよ!』と開けてみたら、前から欲しかったゲームソフト数本。


チラっとテレビ付近にいる亮を見ると、隣にはコントローラーを持った跡部が綺麗な姿勢で座っていて、亮と一緒にゲームを始めだした。
意外すぎるだろ。

ジローは俺のベッドに寝そべりながら漫画を読んでいて、侑士はそのうえから覗き込み一緒に漫画を読みたいらしいがジローに『邪魔!』と邪険にされている。
別の漫画読めばいいのに、最新刊の単行本は侑士の好きな漫画でまだ買っていないらしく、先に読ませてくれとジローに嘆願しているがジローが聞き入れるわけもなく。
読み終えるまで待てばいいのにな。
ジロー、単行本読むの遅いし。


部屋の隅では、クラッカーの後片付けをしている………悪ぃ、萩之介、いたのか。


ジロー、亮、跡部、侑士、萩之介、そして俺。
いつもの3人、たまに4人の9月12日だけど、今年は何と6人も。


…ていうか俺の部屋、全員寝れねぇだろ、絶対。


いざとなったらジローを帰して、跡部と誰かをあっちにやればいいか。
そんなこんなで、今年も9月12日は幼馴染と友達に祝われて、過ぎていった。


寝るときにやっぱり狭くてジローを帰そうとしたんだけど、嫌だって聞かなくて大変だった。
しまいには『忍足と跡部がオレの部屋で寝ればいいでしょ?!』と言い出し、跡部は苦虫踏み潰したようなイヤ〜な顔して


『何で俺様が忍足と一緒に寝なきゃなんねぇんだ、アーン?お前が連れていけ』
『なーんでオレが自分の部屋で忍足回収しなきゃなんねーのさ!今日はぜってぇ岳人んとこ泊まるんだC!』
『だから、全員ここでいいだろうが』
『6人もいると、きっちきちだもん』
『一晩くらい、いいだろ』
『オレは岳人のベッドで一緒に寝るからいーけど、跡部はせまいでしょ?』
『ふっ…まぁ、たまにはいいさ』


あいつら……狭いだなんだって、俺の部屋だっつーの。
侑士は悲しそうな顔をして、部屋のすみで体育座りでいじいじしていた。


結局、ベッドには2人、床に4人ザコ寝になって、いつも通りなら俺とジローでベッドなんだけど、ジローはジローで侑士を苛めすぎたことに思うところでもあったのか。
ベッドは萩之介と俺が使うことになって、床に敷いた布団には残りの4人で適当に寝そべっての就寝。
てっきり跡部の隣に潜り込むと思いきや、侑士の隣に行って『おしたり、ゴミンネ』と可愛らしく声をかけたおかげで侑士の凹んだ気分もあっという間に回復した。
そのまま侑士の隣で眠りにつこうとしたジローを、『腕の中にスッポリ入る、ちょうどいい抱き枕サイズやねん』と構いだしたためか、ジローは毛を逆立てた猫のようにフーフーと不機嫌になって、侑士を足蹴りにしていた。

なにやってんだかな。
そういうことばっかするから、ジローに苛められるのにさ。
侑士も懲りないヤツだよな。


いつもならジローを助け出す跡部だけど、我関せずとばかりに端で布団かぶって見なかったことにしていた。
亮は亮で、侑士とジローのあれこれはいつものことだと、こちらも入ってくることはせずヘッドフォンしながら就寝。
ベッドの俺たちももちろん、面倒くさいから構うことはせず。
ジロー、悪いけど自分で何とかしてくれ。

侑士が本気を出せばジローは振りほどけないだろうけど、そんなことは知ったこっちゃない。
普段いじられている仕返しをする侑士を止めることなんて出来ない……つーか、めんどいから関わりたくない。



ジロー、頑張れよ。


とりあえずはおやすみなさい。





(終わり)

>>目次


**********
翌朝、岳人が目覚めると忍足の腕の中に納まりながらウンウンとうなされるジローがいたんだとか。
跡部サマが忍足に鉄拳をお見舞いして、ジローを救い出しました。

がっくん、おめでとー!
痛恨の1日遅刻……はともかく、何とかアプできましたー。
12日の夜から13日にかけて、怒涛の書き上げです。13日がオフでよかったわー。。
前半はがっくんの独白、後半、というかラストは9月12日の出来事でした。
ジロくんとガックンは生まれたときから一緒の、幼馴染ですから…!



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