「県大会終わったばっかだし、休み欲しいよなぁ〜」 毎日毎日練習練習、部活部活な月〜日の生活。 休みなんてまるでないのは高校にあがっても同じことだが、日曜は半日であがれるので、『日曜が待ち遠しい』状態は間違いない。 もちろんテニスは好きだし、授業中は『早く終われ、早く終われ』で部活に出たい気持ちが強いのだけれど。 まぁ、ただ。 日曜の半日練習後は、毎度コイビドとのデートと決まっている……のだが、来週は夏の総体・関東大会が始まるためいつものように遊んでもいられない。 大方の予想通りかつ本人たちも当然と確信していた通り、何年連続になるのか、立海大付属高校男子テニス部は圧倒的な強さで県大会団体戦優勝を決めた。 個人戦のダブルスとシングルスで1位から4位まで独占したのも立海大付属であり、順調に関東大会への切符をつかんでいる。 関東大会前の週、オン・オフの切り替えを行い本日部活オフなコイビトの高校と、大会連覇のため気を抜かず励め、とより厳しくなるこちらの高校。 相手が部活オフなのだから、きっといつのものように練習を見に来てくれるかもな〜なんて期待とは裏腹に、フェンス越しには他校の偵察部隊と、テニス部に好きなヤツでもいるのか、数人の女子生徒がコートを見つめているのみ。 オレンジのリュックも、ふわふわの金の髪も、元気いっぱいの『まるいく〜ん!!』も、いる気配がない。 ちぇ。 (たとえきていたとしても、今日の部活終了後は遊べないのだけれど) 「丸井!ちゃんと走らんか」 「へーへー」 あと少しで部活も終了ということで、ミニゲームを終えた丸井とジャッカルはグラウンドを軽くランニングしながらクールダウンを行っている。 テンポよく等間隔で歩幅を進めるジャッカルに対し、だらだらと走っている姿に、部員の様子をチェックしていたチームメイトの喝が入った。 「うし、しゅ〜りょ〜」 「ほら」 「サンキュ」 最後の1周を走りきり、先に終えてベンチで給水中のパートナーからタオルとドリンクボトルを受け取る。 ノンカロリーのスポーツドリンクでのどを潤し、チラっとコートを見ると、1年生らがネットを片付け、ボールを拾いコート整備をしていた。 「終わり?」 「俺らで最後だ。他は部室に戻ってる」 「じゃ、あがるか。このあと、幸村くんち直行でいいんだよな?」 「ああ。幸村は準備があるから先に行ってるってよ」 「そっか」 対戦相手が決まり、いよいよ来週行われる関東大会に向けての軽いミーティング……ということで、3年の先輩は不参加だが、2年の一部とプラスアルファで集まることになっている本日。 会場は立海大付属のエース、幸村精市の自宅。 ついでに立海の頭脳、参謀の誕生日とも重なり、県大会優勝オツカレ会かつ関東大会へのミーティングかつ柳蓮二誕生会でもいっちょやりましょうか、という計画になったようだ。 (はたして、何が一番最初だったのか) 『県大会お疲れ会?何を言っとるか!ただの通過点にすぎん。そういうのは全国大会が終わってからにせんか!』 『ち、違いますよ、副ぶ…真田先輩。関東大会のミーティングっす』 『切原くん。ミーティングなら部室でいいのではないですか?』 『そのミーティング、全員参加かのう?』 『え、なになに?出なくてもいーのか?』 『仁王くん。あなた出場選手なのだから、ミーティング出るのは当たり前です』 『ブン太……お前も団体戦と個人戦ダブルス出るだろーが』 『パートナーじゃろ?お前が出とけば問題ないけん』 『おめぇも俺のパートナーなら、俺の分まで聞いとけ』 『あなた個人戦のシングルスも出場するでしょう!!サボることばかり考えないで、ミーティングにでたまえ!』 『真田に俺が鉄拳食らうだろうが。ブン太、不参加なら自分で言えよ?俺を使うんじゃねぇ!』 やりとりを傍観していたエースと参謀はというと。 『…で、結局ミーティングかお疲れ会か、どちらなんだ?』 『お疲れといっても、たいして疲れてなければ、俺は試合もしてないし。 関東大会のメンバーはだいたい決まってるから、ミーティング、いるかな?』 『赤也は出すのか?』 『さぁ、どうしようかな。入ったばかりの新一年部員だしねぇ。応援でもさせようか?』 『精市…』 『蓮二はどうしたい?お疲れ会?それとも、ミーティング?』 『さてな』 『幸村、蓮二!』 『なんだい?真田』 『関東大会のミーティングのことだが』 『あぁ、したいのかい?』 『……するのでは無いのか?』 『そうだねぇ。じゃ、お疲れ会兼ミーティングでもしようか?』 『焼肉』 『○○ホテルのバイキング!』 『寿司食い放題!!』 『焼肉は先週皆で行ったでしょう。今回は違うものにすべきです』 『なんだかんだで肉が一番ええじゃろ』 『それはあなたと切原くんだけです』 『ブン太もいる』 『丸井くんは何でもいいでしょう?』 『おい比呂士、それどーいう意味だ!』 『肉もいいッスけど、今回寿司にしましょ〜よ〜』 『寿司はともかく、食い放題なんてあるのかよ』 『あー、ジャッカル先輩。知らないんスか?前いった焼肉屋の斜めにー』 『お疲れ会、かな?』 『そうだな。この様子ではミーティングといっても』 『たかが県大会突破でお疲れ会などと!』 『息抜きも大事だよ?』 『しかし幸村。我が立海、全国連覇の為ー』 『あーはいはい。ミーティングやって、その後ご飯でも食べにいけばいいだろ?』 『では、月曜の部活終了後にー』 『あー、柳先輩!ストップ。火曜日がいいッス!!』 『火曜日?月曜は用事でもあるのか?』 『そういうワケじゃないけど、火曜にお疲れ会がいいッス』 『火曜……そうか。精市、どうする?』 『4日か。フフ……そうだね、火曜にしようか。蓮二は大丈夫かな?』 『ああ、問題ない』 『じゃあ皆。4日部活終了後にミーティングを行うから』 『承知しました』 『焼肉』 『寿司ッス!』 『ファミレスでいいんじゃねぇか?何でもあるし』 『○○ホテルのバイキングだって言ってるだろい』 『馬鹿者!ミーティングだ』 『さて、どうする』 『蓮二はどっちがいい?』 『?』 『ふふ。今回は蓮二の意見にしてみようかな』 『精市…、俺は別に』 『いいじゃないか。赤也も火曜日じゃないと嫌みたいだしね』 『……』 以上長くなったがこれまでの経緯である。 つまりはお疲れ会?ミーティング?はたまた、火曜日−6月4日に17歳の誕生日を迎える立海の頭脳・柳蓮二の誕生会? 結局は火曜日の部活終了後に軽くミーティングを行い、気心知れたみんなでご飯に行こう、となった。 県大会に出たチームメイトや、関東大会に出るほかの先輩方もいることにはいるが、、、相変わらず部の中心戦力といえば中等部と変わらない面子が揃っているわけなので。 ただ…… 肉!と引かない仁王に、寿司!こちらも引かない切原。 さらにはデザートもついてるバイキングだ!!な丸井の3人は合意することはなく。 エースに意見を求められた参謀はというと、これといって特に希望はなかった。 結果、全てを取り決めたのは立海大付属不動のナンバー1、2年生エース幸村精市。 量も食べるだろうし、ファミレスだとあまりうるさくもできないから……と自宅を提供した。 (リビングは広々としており大きいテレビもあるので映像使いながらミーティングもしやすい。 母親も理解があり、バルコニーでバーベキューも出来るから、ということで) ―それじゃ、肉を焼いて寿司もとって、デザートは……丸井、作ったらどうだい? これでだいたい決まった。 『なー幸村くん。デザート作るのはいいけど、部活早くあがってもいいか?』 『ははは、何言ってるんだい。』 部活最後まで参加して、幸村の家に移動して、そこからバーベキューだ寿司だーというときに、一人デザート作りなんて無理だろい!? とまぁ、文句も言ったようだが、火曜は少し早めに部活を切り上げる算段になっている。 (バーベキューと一応ミーティングの準備があるので。 一部の部員のみ参加となるが、一応『レギュラーミーティング』という名目にしているので、他の部員は各自自主練習に励むだろう) そこにさらなる早上がりなどと! 鼻で笑われた……のかはさておき。 彼が作れ、というからには作らないといけないのはわかりきっている。 神の子の命令は絶対だ。 皆がバーベキューの準備をしている間に作れるデザートはというとー やはり冷やして固める系か? それなら、皆がご飯の用意している間にタネを作って、冷蔵庫に入れておけば時間もかからない。 ただ、友人の誕生祝も兼ねていると聞いたら、やっぱりケーキでしょう!とも思うが、ひとたび『ケーキ』なんぞ口走れば、『じゃあ丸井、ケーキつくりなよ』で、ホールケーキを焼くはめになるだろうし、終わらなければバーベキューに参加させてもらえないかもしれない。 そりゃ困る。 (でも、せっかくだし、ケーキも食いたいよなぁ。俺が) そんでもって海原祭お菓子部門で3年連続優勝しているこの腕をふるわないことには… となれば。 部活は早上がりできないし、朝練も変わらずあるので、頑張っていつもより早く起きた。 いつもかなり早いほうだが、さらに早く起きた。 寝る前に分量を全て量り、器具も全てキッチンに並べて就寝。 起きたら朝食と弁当を作るのはもちろんだが、手馴れた手つきで生地をつくり、型に流し込んで土台を完成させた。 後は幸村宅のキッチンで、デコレーションをちゃちゃっとすませれば問題ない。 このような流れで丸井はデザート担当となり、幸村は会場を提供かつミーティングとバーベキューの準備のため、柳とともに部活終了後すぐに高校を後にした。 残る6人は買出し部隊として、スーパーへ寄ってから幸村宅へ行くらしい。 丸井としては、早く幸村宅でケーキ作業を開始したいところだが、フルーツ等の必要な製菓材料を他の連中に任せることはできないようで、とりあえずは一緒にスーパーへ行くことにした。 >>次ページ >>目次 |