部活が始まる前の、部室でのまったりトークタイム。 皆が揃う前に自主練を、なんて意気込む部員がいないのは、今が1月で吐息が白くなる外へはなるべく出たくないという至極まっとうな心理だろう。 部室での過ごし方がまるで女生徒のようだと一部の部員は揶揄するものの、仲良しテニス部では肩を寄せ合ってのチャットはお馴染みで、くっついている理由もまた『外よりマシだけど部室も寒い』からなのだとか。 そんな、四天宝寺男子テニス部、本日のテーマはというと― 「お題、5つとも壮大な感じやわぁ」 「今回も何か縛りあるんスか?学校内とか、異性とか」 「せやねぇ。この心理ゲームは同性向け、異性向けいうくくりは無い、でええんよね?銀さん」 「クラスの女子の話やと、先週テレビのバラエティでやってたらしい」 「何や師範のお題なんすか。珍しい」 「最近の部内テーマが心理ゲーム言うたら、クラスの女子が提供してくれてな」 「ほな師範は答え知ってるから、出題側っすか」 「ワタシも銀さんに全部聞いてもうたから、今回は出題側やねぇ」 「となると、謙也さんと部長の二人か」 「あら、光きゅんも参加やろ?」 「俺、師範のクラスメートが言うてるバラエティ、多分見ました」 「海と〜、雨と〜」 「空、砂、ってヤツやろ」 「なんや光きゅん、知っとったん?ほな、今回は謙也くんと蔵リンだけで行くで」 「小春はん。縛りは無しでええんか?」 「せやねぇ〜せっかくこの二人なら〜」 「縛りアリにしますわ。テニス部でどうです?」 「部内?狭いんちゃう?」 「他校含めて、交流のあるテニス部。何ならU17選抜合宿で一緒だった連中で」 「あら、男ばっかりやで?」 「『せっかく』謙也と白石やから、いうことやな」 「さすが師範。わかってますやん」 「あら〜ん、とんでもない名前が出そうやねぇ」 「ほな、これで決定ですね。顔見知りの男子テニス部縛りで」 「謙也きゅん、蔵リン、準備はええかしら〜ん?」 「行くで、謙也、白石」 「何やお前ら、やけに気合入ってへんか?」 「おい財前、お前のニタニタ顔は何やねん!?」 ―今回の出題者は石田銀。回答を知っている金色、財前は同じく出題側へ。 対する回答者は忍足、白石の二人。 ちなみに他のメンバーは日直、委員会、などの理由でまだ部室には来ておらず、本日の部室トークはこの五人で繰り広げられることになった模様。 それでは部内トークテーマ、心理ゲームのスタートです。 その@海を連想する人は? 「海といえば海水浴、砂、カキ氷……夏で思い浮かぶ人っちゅうことか」 「謙也きゅ〜ん、海は夏だけちゃうやろ」 「せやけど海言うたら泳ぐやん。泳ぐイコール夏っちゅう話や」 「海で夏しか思いつかん貧相な想像力と体験の乏しさ言うことやな」 「何やて財前!」 「どうどう謙也。ホンマの事やねんから」 「白石ィィィ!」 「こういうんは直感。謙也が海から連想するものが夏の海なら、それで考え。白石も、思い浮かぶものをあげればええ」 「U17選抜合宿に参加した他校もいれて、テニス部全体で、か。海、海ね。誰かなぁ〜」 「桃城!俺、決めた。桃城でファイナルア○サー!」 「(ファ○ナルアンサーて)…古いっすわ。遺跡レベル」 「青学の桃尻きゅん?」 「おう!合宿中の海言うたら、桃城と遠泳で勝負したしな!」 「縛りが合宿参加のメンバーなだけで、別に『合宿中の海水浴』で選ばなアカンわけちゃいますよ?」 「海で思い浮かんだのが桃城やねん」 「(どこまでも単純な先輩やな…)謙也さんは桃城ね。部長は?」 「海か、せやなぁ〜幸村くん、やな」 「ほう、白石は立海の幸村か。そういえば幸村は合宿で同室やったな」 「青学の不二くんもな。皆、植物が好きで毎晩話したなぁ」 「部長のは植物、というか……」 「毒草も立派な植物やろ。あんだけ魅力あって、調べても調べても新たな発見のある奥深い―」 「あーハイハイ、毒草談義は校内新聞だけにしてくれます?」 「けど、『海』で何で幸村きゅんなん?」 「謙也が桃城と勝負した海水浴で、俺ら海辺の植物を観察しててな。そこで幸村くんと話が盛り上がった」 「結局、謙也サンも部長も『合宿中の海水浴』から思い出す人、てことか」 「「何や財前」」 「別に」 「ええやないの〜。ほな、謙也くんは桃尻きゅん、蔵リンは幸村きゅんね」 そのA雨を連想する人は? 「雨か。雨より晴れが好きっちゅう話や」 「誰もそんなこと聞いてません。心理ゲーム言うとるやん」 「あんなぁ謙也きゅん。お題から浮かぶ言葉とか、そのお題が好きか嫌いかとか、そういうはええのよん?」 「直感で、そのテーマから思い浮かぶ人をあげればええ。あまり考えんと、ぱっと浮かぶ人物」 「銀さんの言う通り。そのテーマがあーだこーだは後でええから、ぱぱっとあげてや」 「『雨』は、不二くんやな。雨も滴るいい男、ってな」 「俺のイメージする『雨』は財前、お前や」 「へぇ。俺なん?謙也先輩」 「お前は晴れよりも雨やろ。白石の『水も滴る不二』とは違うけどな」 「不二サンが滴ってるとは違うでしょ。ま、ええわ。雨が俺。自分のことようわかっとるやん」 「何や財前。雨が何なん?俺にとっての財前が、雨……土砂降りっちゅうことか?!」 「どこの心理テストに『雨』に込められた深層心理がまんま『雨』そのものな答えになんねん。アホな先輩や」 「くぉら財前ッ!!」 「あーハイハイ、こんなんやってたら部活始まるまでに終わらんわ。ぱぱっとあげろて、師範も小春先輩も言うてますやん」 「お前が茶々いれせな、次のテーマ言ってるっちゅう話や!!」 「突っ込まずにはいられんほどアホなこと言うんで。さすがにスルーできんっしょ」 「何やて!?」 「謙也、財前、止めや。小春、次のテーマ」 「ほらほら、次いくで?銀さん、3つめ頼むわ〜」 「白石の『雨』は青学・不二で、謙也は財前やな。ほな次は―」 そのB空を連想する人は? 「金ちゃん。でっかい太陽背負って、青空が似合うのは金ちゃんしかおらんな」 「ま、金太郎さんは雲ひとつない快晴ってイメージ、ぴったりやねぇ」 「部長は遠山、と。…で、謙也先輩は?」 「空、青空。せやな、空なら、芥川」 「というと、氷帝の芥川クンか?」 「おう。元気やし、いっつもコートでハイテンションで、明るいやん?」 「「「……」」」 (へぇ、芥川サンね。予想通り言うか、期待通り言うか) (すごいわねぇ、謙也きゅん。芥川きゅんで即答やったで?) (白石も芥川はんの名前出す思うたけど、謙也だけか) (蔵リンはまだ気づいてないんちゃう?) (『砂』で誰が出てくるか、見物ッスね) (次が『砂』やな。ほな、次いくで) そのC砂を連想する人は? 「侑士」 「侑士クン?イトコか」 「ぱっと見がサラっとしてて、捉えどころなさそうやん」 「まぁ、イメージ的に合ってそうやな」 「中身はネチっこいしサラサラどころかドロドロやけどな」 「そうなん?イトコ想いで、ええ人やん。侑士クン」 「アイツは外面がええねん。身内には暴君やで」 「へ〜」 「お前の『砂』は?ぱぱっと答えなアカンねやろ。ほら、砂」 「砂か、せやなぁ」 「パッと、思いつく人な」 「芥川クン」 「へ?」 「「「……」」」 (ここにきて芥川サンですか。これは予想外) (はぁ〜、蔵リン、砂で芥川きゅんなんねぇ) (結果を知った時の謙也が騒ぎそうやな) (確実っスね。面倒なことになりそうっすわ) (謙也きゅんの『空』が芥川きゅんで、蔵リンの『砂』も芥川きゅん。面白いことになったわねぇ) (謙也がおかしな顔になってるで) 「し、白石。何で芥川が出てくるん?」 「お前も『空』で芥川クンやったやん」 「ま、まぁ、せやけど…」 「『砂』で侑士クンの名前、あげたやろ?」 「お、おう、侑士な」 「『捉えどころなさそう』やと、俺にとっては芥川クン」 「そうなん?」 「お前が言うように、テニス中は明るいし、元気いっぱいで一緒にいるとこっちまで楽しなってくる子やけど」 「…やけど?」 「結構な割合でコート外では寝てるし、食堂でも半分まぶた閉じてぼーっとすること多くて、風呂なんて沈む寸前やったで?」 「卓球ん時はめっちゃ元気やったやん」 「あーせやなぁ、テーブルテニスな。ラケット持つと変わるんやろか…って、それは青学の河村クンやな」 「河村のアレは二重人格っちゅうヤツや」 「オン、オフの切り替えが激しく別人。ビックリ箱みたいで、捉えどころ無い。芥川クンが俺にとって『砂』」 (言い切りましたね、部長) (蔵リン、どこまで考えて言うとんねやろ) (ある意味興味深い。一方通行な矢印) (うまいこと言いますね、師範) (ほな矢印の先、金太郎はん言うことになるで?) (そろそろ他の部員も来る時間、やな。最後のお題に行くか) 「謙也くんの『砂』は侑士きゅんで、蔵リンは芥川きゅんね。いよいよ、最後やで〜」 そのD雪を連想する人は? 「白石」 「謙也」 「「……」」 「俺?」 「お前こそ、俺か?まさか苗字の『白』で、雪―とか言うんちゃうやろな」 「よおわかったな。『雪』といえば白、白といえば、白石、お前や!!」 「「「「……」」」」 (ここまで単純やと、人生楽しいんちゃいます?) (けど蔵リンも、雪で謙也きゅんなんねぇ) (二人とも、互いが『雪』か。仲がええいう結果やな) 「お前こそ、俺を『雪』言うん、この前の第5回どすこい雪合戦で俺が優勝したからやろ?」 「翌日、謙也だけ熱出して寝込んで、忘れられん第5回合戦やったな」 「アレは最後の遠山がアカン。あんな雪だるまレベルの大きさぶつけられて、頭おかしなったっちゅう話や」 「金ちゃんも反省しとったやん」 「どこの世界にボーリングより大きな雪玉作って投げるアホがおんねん。しかもめっちゃカタい」 「よおあの短時間で、あの大きさの雪玉を何個も作れたな。さすが金ちゃん」 「どんだけ親ばかやねん。お前がそうやって甘やかすから、あんなエグい雪玉せっせとこさえて、アホみたいな力…しかも俺ばっか狙うてどないやの」 「お前が一番逃げ足が早いから、金ちゃんのターゲットになった。それだけのことやん」 「せやからって」 「金ちゃんはハンター……ちょこまか動くモンを狙わずにはいられないだけや」 「アホぬかせ!」 (この二人は相思相愛、でええのん?) (深層心理では互いにいがみあってるか、ウザイ思ってるんちゃいます?) (どうあれ、切っても切れん縁言うやつやな) 「えー、では、今回の心理ゲームの答え合わせを行いま〜す」 「結構おもろい結果ですよ、先輩がた」 「ほな、最初の『海』から行くで、謙也、白石」 「「おう」」 <答え合わせ> 海―あなたに影響を与える人 雨―あなたの欠点を指摘してくれる人 「別に桃城に影響受けるモン、無いけどな」 「おー、俺は当たってる。幸村くん、博識で色々な植物の新発見させて貰たわ」 「んで、俺の欠点を指摘するのが財前?」 「謙也、当たってるやん。何だかんだ財前がお前のことよお見てるし、知ってるし、ベストペアっちゅう―」 「アホなこと言いなや白石!」 「部長、キモいこと言わんでくれます?誰がこのヘタレ先輩をよぉ見てるて?こんなん、見んでもわかりやすい人やろ」 「くぉら財前!」 「なんや、やるんか?謙也先輩」 「おー、外に出ろや!」 「まだ部活開始ちゃうやろ。始まったらコートで相手してやりますよ」 「キィィィイイイ!」 「やれやれ、始まったわねぇ……で、蔵リンは不二くん」 「全国準決勝のシングルスで、色々と気づかされた点も多かったん違うか?白石」 「ま〜、勉強になった。自分のアカンところも見えてきたし。そういう意味では合ってる、といえるんちゃう?」 「ではでは、次の空と砂、いくわよ〜ん」 「これもある意味、今回のメインイベントになりそうやな」 「…何やねん小春。銀も。何でにやにやしとん?」 「うふふっ、いやぁ〜蔵リン。楽しみにしとって?謙也きゅんがあばれるかもしれんけど」 「??」 空―あなたが一番好きな人 砂―あなたのことを好きな人 「「……」」 「「「ぷっ!」」」 「あっはっは、片思いが続く結果やなぁ。どうなん?謙也先輩」 「す、す、好きな、人」 「結果的には〜、謙也きゅんが好きな人が―」 「芥川はん、言うことやな」 「な、な、な、おい銀!小春も、何を言うとん!?」 「ただの心理テストっすよ、先輩」 「その芥川クンが好きな人が、俺っちゅうことか」 「何言っとんねん、白石!!」 「落ち着けや謙也先輩。ただの心理ゲーム言うてますやん」 (顔真っ赤やな、謙也先輩) (あまりに素直すぎて、見てるこっちが照れるわぁ。蔵リンもにやにやしてはるし) (白石も、ホンマのところは…?) (そうねぇ〜、合宿中は謙也きゅんがわかりやすすぎたけどぉ) (アレは問題外っすわ。せやけど、白石先輩も何だかんだで氷帝勢と出かけるとき、毎回行ってましたよね?) (表向きは謙也の保護者やけど、白石一人で芥川はんと買出しに行ったこともあったで) (あ〜アレね。帰ってくるまで謙也きゅんが百面相でウロウロして、大変やったわ〜) (あの後、小一時間グチグチうるさくて、侑士サンがめっちゃ宥めてましたね) (財前は逃げたんやったな) (ちょ、師範。逃げたんちゃいますよ。謙也先輩のいじけっぷりがハンパなくて、面倒くさいことこの上ないから適任の侑士サンに任せただけっすわ) 「んで、俺の『空』は金ちゃん……てことは俺は金太郎が好きなん?」 「よ〜当たってるなぁ。親馬鹿。誰がどうみてもピタリ」 「ほ〜。よ〜当たってる心理ゲームか。ならお前の『空』もピタリ、やんな?」 「な、な、なっ」 「謙也の『空』が、氷帝のあくたー」 「だー!!終わり、終わり!!」 「砂が侑士クン。お前のこと一番好きな人は、侑士クンか。あかん、近親相姦やで」 「アホなこと言いなや、白石!ただの従兄弟愛、親族愛やろ」 「侑士クンが謙也を好きなんやな?」 「おー、アイツの愛情は日に日に感じるっちゅう話や」 「そんで、お前は『空』が好きなんやな?」 「ああん?空?おー、空も雲も太陽も、晴れなら何でもええわ!」 「お前は『空』が、す・き、でええねんな?」 「何べんも言わすな。青空が嫌いなヤツ、おらんやろ」 「アホなのか鈍いのか、紙一重……どっちや?財前」 「両方ッスわ」 「財前、白石!何やねんオマエら」 (あらぁ、『空』が大好き言うたわ〜) (何も考えてへんのか、深層心理をそのまま叫んでるのか、これこそ紙一重、か?小春はん) (そうやねぇ) 「「『空』が好きなんやろ?」」 「何やねんお前ら、声揃えて」 「いや、謙也が『空』が大好き言う話や」 「謙也先輩、いつから『空』が好きなんです?」 「?いつからって。空やろ」 「なぁ謙也。今まで何やってた?」 「は?」 「5問終わりましたね。海、雨ときて」 「?銀のお題の、心理ゲームやろ」 「おー、話が戻ったな」 「こんなに早よ『空』の認識を変える謙也さんに、ある意味衝撃っすわ」 「まー、根が単純やしな」 「根っこどころか、全体的に単純でしょ」 「くぉら財前、白石!だから、心理ゲームが何やねん!?」 「謙也の『空』、誰やったっけ?」 「へ?」 「謙也先輩の大好きな『空』、誰でしたっけ?」 「は?空が、何っ…」 「『空なら芥川!』で、即答やったなぁ、謙也先輩」 「『元気でいつも明るいやん』言うてたな。それが芥川クンの好きなところ、か?」 (光きゅん、生き生きしてるわねぇ) (白石も、やな) 「な、だ、誰がっ…」 「いや〜謙也は素直やなぁ」 「まさかこんな心理ゲームで、ズバっと芥川サンを出すとは。さすが謙也先輩、期待を裏切らない。さすがッスわ」 「ヘンなヤツに騙されんよう気ぃつけや?謙也」 今回の四天宝寺男子テニス部、部内トークは『心理テスト』 半数以上が答えを知っていたので回答者は仲良しコンビ、もといクラスメート同士の白石と忍足。 出題者側三人は『空』で面白い答えが出そうだと予想はしていたけれど、まさか見事に氷帝の彼の名が出るとは思いも……よらないことは無く、予想通りすぎて思わず笑ってしまった。忍足は『確定』で、白石は『微妙』だったものの、続く『砂』で彼の名を出した白石も、ひょっとしてひょっとすると…? 何かを感じずにはいられない小春と銀。でも、今はそっとしておくだけ。 先のことはわからないけど、皆がハッピーなら言いわねぇ。そういい残して、ウェアに着替えてコートに向かう小春、それに続く銀さん。部室に残るは顔を真っ赤にしてぎゃあぎゃあ騒ぐ忍足と、彼をからかう両サイドの財前、白石の二人だった。 (終わり) >>目次 |