樺ちゃんHappy BirthDay!2015

*2014岳人誕→宍戸誕→手塚/跡部誕→タカさん誕、そして2015樺地誕
*社会人跡部とプロテニスプレイヤー芥川選手の未来話設定、慈郎くんと樺地の年明けオーストラリアでのお話です。


眠たいなーと思ったらいつの間にブランケットがかけてあって、寝起きにちょっと喉かわけばさっと差し出されるお水やスポーツドリンク。温かいお茶のときもあるし、ひきたての豆でコーヒーが出てくることもある。
一緒に歩いているときはドアをスマートにあけて先に入るよう促してくれるし、車のドアも一緒。レディじゃないけど、そんな扱いをされている。

跡部の『おい、樺地』に慣れているから跡部の意図を汲んで行動するのに長けているのはわかるんだけど、不思議とオレのことも昔からわかってくれるところが謎。跡部ほどずっと一緒にいるわけじゃないのにさ。だって跡部とは英国にいる時から一緒の幼馴染っていうし、となるとオレと岳人みたいなモンでしょ?
オレも岳人の考えてること何となくわかることあるし、あっちも一緒だから、跡部たちも同じようなものなのかなーと中学の時は思っていた。いいや、オレたちよりもずっとずっと、跡部と樺ちゃんのほうが繋がってるというか、お互いのことをわかっているというか。
幼馴染や家族以上の繋がりがあの二人にはあるんだよなぁ。


「ジローさん。夕飯は、外で予約しています」
「出るの面倒くさいな……ダメ?」
「跡部さんが先に行ってますし、迎えの車も来てますので」
「う〜。樺ちゃんも行くよね?」
「はい。ご一緒させていただきます」


中等部の頃は口数少なくてあまり喋らなかったけど、オレには何となく樺地の言うことがわかった。
寝ている所をよく迎えに来てくれていたし(周りには『回収』と言われてたけど)、跡部のおつかいとはいえオレの教室にもしょっちゅう来ていたから、後輩の中では一緒にいる機会が多くて。樺地の『ウス』も、目で何を訴えているのかも、跡部ほどではないけど徐々にわかってきて、中学三年にもなれば意思の疎通もバッチリで、岳人や宍戸らからしょっちゅう『何でわかるんだ』と不思議がられた。

高校時代、跡部と樺ちゃんが英国に戻ってからは会う機会が格段に減って、オレがテニスのためにアメリカに渡ってからはますます会うことも無くなるんだろうなと思っていた。でも、その数ヶ月後に……何がどうなったのかうまく説明できないけど、とんとん拍子で跡部とこういう関係になってからは、また樺地と会うことも増えた。
もちろん、プロとしてツアーを転戦し出してからは、一緒に住んでる跡部ともあまり会うことないから、いつも跡部と一緒にいる樺地とも同じような状況だけどね。

けど、跡部がオレのツアーにあわせて出張いれたり、試合観に来る時は樺地が全て手配して、こうやって同じホテルを取ってくれるので、ツアー中に跡部、樺地と揃って過ごすときもある。
今回は年明けの全豪オープンにそなえてオーストラリア入りしたところ、何故かアメリカにいるはずの跡部が空港の到着ゲートにいた。溜まりに溜まった有給休暇を年明けから使って、オーストラリアの試合を観に来たんだって。

びっくりした。言ってくれればいいのにさ。

といっても完全に休みにはならず、色々と仕事関連でアポイントをいれて、全豪オープン中は『オーストラリア(メルボルン、その周辺に限る)での仕事』を集中的にいれたのだと樺地が教えてくれた。

『大会が終わるまではメルボルンで過ごせるように、取引先とアポイントを色々と入れています』

いまや優秀な敏腕秘書で、跡部の仕事上で欠かせないパートナーになっている樺地。
時と場合で跡部の代理をこなすこともあるようで、『アイツはただの秘書じゃない。俺の代わりを務められる唯一の男だ』と跡部も絶大な信頼を寄せている。オレも跡部の事は愛してるけど、跡部の代わりは絶対に出来ないしそこは樺ちゃんに任せっきり。

何よりも、オレも樺地がいないとダメなんだよねぇ。
テニスの『試合』関しては、一応プロなのでオレとコーチ、トレーナー、他スタッフでチーム芥川を組んでいるから跡部も樺地も関係無いんだけど、それ以外の部分はかなり頼っている。今のトレーナーを他所から引っ張ってきたのも、樺地が取り仕切ってくれたと聞いたし、遠征時はマネージメント会社(といっても跡部の所のグループ会社)が手配してくれるけど、それ以外に私用でどこか行くときは、樺地に頼んだりしている。
ちなみに9月の全米オープン後に、跡部に内緒で日本に戻る手続きも、樺地に色々とお願いした。……ちゃんと跡部に内緒にしてくれてありがとう。ソッコーでバレたけど。


「どこ行くの?」
「跡部さんが懇意にしている方が、このあたりでレストランを開いたのでご挨拶へ伺います」
「何系だろ。堅苦しい所は嫌だな〜」
「地元野菜と海鮮中心の和風イタリアンだそうで、オープンテラスとカフェスペースもあるので開放的で明るい、と聞いています」
「わぉ、意外。会員制のナントカ高級系じゃないんだ」
「ジローさん、そういうお店よりもカジュアルなレストランが好きなので。跡部さんもそのお店がちょうどいいからと決められて」
「……跡部め」


テニスを本格的にやるためアメリカに行って、コーチの家で『ホームステイ』しながらお世話になった。
普通ならそんなことはしないと寮生活を送っていたアカデミーのチームメートたちに言われたんだけど、渡米を決めかねていたとき、やけにコーチが熱心で、オレの両親に衣食住全て面倒を見るから、どうか自分に預けてくれと熱弁をふるっていた。
テニスは小さい頃からやってて好きだけど、当時のオレは友達と一緒にプレーして、部活の大会て勝ち上がって、いわゆる『部活少年』としての楽しさはあっても、将来の道としてプロになんてことは考えたこと無かった。

もちろんプロの試合を観に行くこともあったし、グランドスラムは皆で集まってテレビ観戦しながらあーだこーだ言い合って、試合みたら自分たちも体動かしたくなって夜中でもお構いなしに跡部の家のコートで打ち合い『お前ら何やってんだ。近所迷惑だ、とっとと寝ろ!』と風呂上りの跡部に怒鳴られたりもした。敷地がかなり広いから、大声だしてもご近所に聞こえることなんて無いのにさ。


学生時代、インターハイ個人で優勝して、その時に今のコーチに声をかけられた時からオレのプロへの第一歩が始まった。


正直言えば渡米したときも、そこまでちゃんと考えていたわけではなくて、何か面白そうだからという理由が大きい。テニスが大好きで、強いヤツと戦うとどきどきワクワクして、インターハイで優勝したときもすっごく楽しかったけど、コーチに『これ以上の世界がある』と誘われて。テレビや観客席で見る側だった立場から、コートでプレーする方に……と言われてもピンとこなかったけど、コーチの拠点のクラブには同年代で強い人たちがたくさんいて、それに比べればオレはまだまだだけど可能性はある、一緒にアメリカでテニスをもっと楽しもうとの言葉に渡米を決めた。トップを目指すとか、プロとか、そういうのと取っ払って、純粋にテニスを『もっと』楽しめるのかな?という興味が勝って、実際にコーチに氷帝学園のコートで練習を見てもらって、昔のトッププロでいまや『レジェンド』扱いされているコーチが今も十分に強い人で、打ち合ったらすんごく楽しくて、その日の夜にお母さんに『アメリカに行く!』と伝えたんだ。

びっくりしてたけど、反対はされなかった。

そこからはハイスピードで渡米の日取りが決まって、色々と整理する間もなく周りが慌しくて。荷物はお母さんが全部まとめてくれたし、学校関連やビザ関連はお父さんとコーチ側のスタッフがやってくれて、オレは何をやればいいかサッパリわからなかったけど、コーチに『ジローは毎日練習していなさい』と言われ、氷帝学園のコートで渡米直前まで練習に励んだ。教室や部室に置きっぱなしの私物は、毎日のように宍戸や岳人に『整理して持って帰れ』と言われてたんだけど、とうとう最後の登校日まで置きっぱなしのままで。
部室のロッカーは日吉と鳳が整理して、教室はクラスメートの女の子たちがまとめてくれた。結構な大荷物になったんだけど、それを家まで持ってきてくれたのは岳人、宍戸、滝、忍足、とテニス部の皆。次の日が渡米で平日だったから、皆は学校に行かなきゃだったんだけどサボってまで空港に来てくれて、見送ってくれたんだ。日吉や鳳含めて後輩たちもみんな来てくれたっけ。

当時、英国で高校生やっていた跡部に『アメリカに行くことになった』といったら、旅行かと思われたけど、テニスしに行くとコーチの名前を出したらかなり驚いたみたいで、根掘り葉掘り聞かれた。お世話になるアメリカのアカデミーのことを調べたらしく、色々事細かに教えてくれて、ホームステイ先のコーチ宅を出るときも、最初はホテルをマンスリーで借りるつもりだったんだけど英国の跡部に大反対されて、そうこうしてるうちにいつの間に跡部がアメリカに来ていた。そこから一緒に住むことになって、樺地とも会う機会が増えた。


言葉少なかった中学時代の樺地と今の樺地はまるで別人のように。
言いよどんだり小声になることはなく、低いイイ声なのは大人になっても一緒だけど、今はすらすらと言葉を紡ぐ樺地は『跡部景吾の秘書』としてバッチリサポートをこなしている。
跡部至上主義なのも変わらないけど、ほんっっっとかっこよくなっちゃってさ。
何も言わなくてもわかってくれる樺ちゃんってのも同じだけど、昔以上に『かゆい所に手が届く』ことをしてくれるよね。

オレのことも察してくれるから、跡部一番だとしてもオレが気が乗らないことは無理にやろうとはしない。たとえそれが跡部の命でも、オレが嫌がれば跡部に断ってくれることもあるから、そんな樺ちゃんが大好きなんだ。
…といっても観察力が高いから、オレが本当に嫌がっているのかを判断する能力は、跡部より持ってると思う。跡部もインサイト凄いけど、ことオレに関しては恋愛ゴトというフィルターがかかっちゃう時があって、あまり強く踏み込んでこないことがあるんだよね。本当は嫌じゃないけど意地になって跡部に反抗してる時とか、オレの本気度を量りかねて躊躇している跡部を見かねて、すぐに『本気じゃない』と悟った樺ちゃんに『ジローさん』と窘められることもあった。オレたちを仲直りさせれくれるのが、樺地。

そんな樺地にはいつもありがとうと思っているからこそ、ちょっと面倒くさいことでも、樺ちゃんのためなら出ようかな、って気持ちになる。
べっっっつに跡部とのゴハンが面倒ってワケじゃないけどさー。


「ジローさん、そろそろ…」
「はーい。手ぶらでいーい?」
「もちろん」
「開店祝いか……お花でも買ってこうかなぁ。ねぇ樺地、このへんに花屋って……もう終わっちゃったか」
「跡部さんからのお祝いは届けてありますが、…そうですね、ホテル1階に花屋があります。手配しましょう」
「ううん、オレが自分で買うから大丈夫。選ぶ」
「けれど、シェフはプロテニスプレイヤー芥川選手のファンだそうなので、ボールやラケットがいいかもしれませんね」
「え、そうなの?んー、といっても練習で使う本数しかここに持ってきて無いしなぁ。試合用と予備はスタッフさんが後から持ってきてくれるし」
「レストランの近くにスポーツショップがありますから、寄りましょうか」
「オレのモデル、ある?出たばっかりだけど」
「アトベスポーツ関連のブランドを置いていただいているところなので」
「そっか。ラケット入荷まだでも、ボールはあるよね。じゃ、そうしよっかな」
「はい。では、行きましょうか」
「おう!」


樺地のスマートなエスコートで部屋を出てホテルロビーへ向かった。
レストランのシェフにはボールにサイン……だけってのも何だかなぁと思ったので、やっぱりロビーのお花屋さんでフラワーギフトを作ってもらって、それを持っていくことにした。
スポーツショップにはあいにく、オレの今年モデルのラケットは置いてなかった。というか、数日前に入荷したばかりだったけどすぐに売り切れてしまって、今入荷待ちなんだとか。

ええと、ありがたいことで。


一緒に食べるといったのに、レストランに着いたら帰ろうとした樺ちゃんを引っつかんで、跡部のいるテーブルまで連れて行ってソファに押し込めた。樺地曰く、せっかくなので二人きりに、と余計な気を遣おうとしていたのでバッサリと『樺地も一緒じゃないとやだ』と言ったら、跡部が微妙な顔をした。

うん?なにその顔。
樺地はいつも一緒だし、跡部にとっても大事な大事な人なのだから、当たり前でしょ?

後で聞いたら、跡部としても樺地と同席するのは当然で、レストランもちゃんと3人で食事をとるつもりだったらしいんだけど、あまりにもオレがキッパリと『樺地がいないとヤダ』と言い切ったから複雑になったんだって。
樺地には、跡部がヘンな顔になっちゃうから今度からこういう気の遣い方は禁止と言っておいた。

……樺ちゃん、苦笑してたけど。


レストランのオーナーシェフはお花とサインボールにすんごく喜んでくれて、さらに奥から取り出してきた自前らしきラケットがオレの今年モデルのものだったので驚いちゃった。ペンを渡され、ラケットにサインを入れたら『店に飾る』と言ってくれて、大会の活躍を応援されたので、全豪大会は少しでも勝ち進めるよう頑張ろ〜っと。

大会終わりまでメルボルンにいる予定を組んでる跡部と樺ちゃんのためにも。


目指せ、全豪オープン優勝。打倒、越前リョーマ。
今年こそ、ハードコートで越前と手塚に勝てますよーに!





(終わり)

>>目次

*********************
樺ちゃん、Happy Birthday〜♪

2014岳人誕→宍戸誕→手塚/跡部誕→タカさん誕 ときて樺ちゃん誕〜的な流れ。>設定的に。
慈郎くんの怪我はバッチリ治って、それどころかより頑丈になったそうな。
今年は大活躍しそうです、芥川選手。
跡部グループがスポンサーを担っている越前選手と芥川選手が、今シーズンのテニス界を牽引する勢い。


[ 115/116 ]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -