仁王雅治Happy BirthDay!2014



いつも飄々として、何を考えているのかわからない笑顔。
言っていることが到底本心とは思えない、捉えどころの無い言動は果たして生まれ持ったものなのか、それとも全て演技か。
もしかして彼自身も、何が本当で何が嘘なのかわからなくなっているんじゃないか?
そう思えるほど『仁王雅治』という人物は、はっきりと『こういうタイプ』と言い切れないところがある。

けれど、周りを取り巻く女性たちは、そんな彼を『ミステリアス』と称し憧憬の眼差しで頬を染める。
テニスという繋がりで苦楽を共にした彼のチームメートたちは、意外と単純なヤツだとアッサリ詐欺師の仮面を外させ彼をからかう。

芥川にとっては彼のチームメートらと同じく『テニス』という繋がりで知り合ったとはいえ、彼の近しい同校生ほどの距離感ではなく、かといって女の子たちのソレとはもちろん違う。彼とペアを組んだことのある跡部や大石ならともかく、試合で対戦したことも無ければペアを組んだこともも無い。何度か話したことはあるけれど、間には誰かしらがいたし、どちらかといえば『親友・丸井ブン太のチームメート』という印象でそれ以外は特に思うことは無し。丸井と一緒にいるときに、まとめてからかわれることはあってもあくまれソレは『丸井ありき』。

それが、中学時代の芥川にとっての『仁王雅治』だった。



「………まじ?」

「こんなん、冗談で言わんよ」



何が切欠で話すようになったのか芥川はうろ覚えだけれど、コート上のペテン師いわく中学三年時のU17合同合宿だったらしい。
合宿中は仁王の好む場所と芥川のお昼寝スポットがかぶることがあり、施設屋上で鉢合わせた経験もある。だいたい芥川が先に寝ていて仁王が後からくるパターンか、影に座っている仁王に気づかず、フラフラやってきた芥川が日当たりのよいところで寝転がる。
つまりは芥川のみ気づいていない中で同じ空間にいた二人なのだけど、一見他人を寄せ付けなさそうな立海生はグースカいびきをかく氷帝生を邪魔だとは思わず、度々観察していたようだ。対極的に明るく笑顔が眩しい寝ぼすけが、自身のお気に入りスポットにいようが意外と気にならず、むしろじっと見ていて飽きないものだと感じたときから、仁王の中で『丸井のファン』から『芥川慈郎』として、しっかり意識するようになったのだという。

氷帝学園で仮にもレギュラー、二番手、などと呼ばれていても当時の立海大付属中の強さは圧倒的。全国準優勝とはいえそれまで二連覇を果たしている強豪テニス部のレギュラーからすれば『まだまだ』なのかもしれないが、それでも一個人ではなく『丸井のファン』としての認識だなんて心外だ。

そう返せば、面白そうに口角をあげにやにや笑を浮かべた。
その顔が何だか馬鹿にされているように思えて、ドスっと腹部に右ストレートをお見舞いしたら、ピヨ、との謎のうめきとともに前かがみになり、苦笑して『悪い。からかったんと違うんよ』と謝られた。その時の表情が、普段の何考えているかわからない、捉えどころの無いものではなく年相応の少年のもので、丸井たちの言う『意外と単純なヤツだぞ』のイメージと合致した。


自分こそ『丸井のチームメート』としてだけでカテゴライズしていて、彼個人をしっかり見ていなかったのではないか?


そう感じて『仁王………雅治だったっけ』と素直に話したらお互い様だったと返され、二人見合い、思わず声をあげて笑ってしまった。


その日から。
お互いを『芥川慈郎』『仁王雅治』と、ちゃんと個人としてみるようになって、付き合い方が変わっていった。
丸井や他の人たちがいなくても、どちらからともなく声をかけて過ごすこともあれば、合宿の休憩中に肩を並べて休憩することも増えた。それでも合宿が終われば他校同士。学校帰りに『偶然会う』距離でもないので、プライベートに二人きりで会うことは無かったが、丸井を含めて数人で遊びに行くときに仁王が来ることもあれば、大会や練習試合で顔を合わせる機会も多々あったので、丸井ほど近い友達ではないけれど、顔見知り以上の友達、とでも言おうか。
かといって『他校のテニス部』だけでくくるには違う気がするし、丸井といるときのようにずっと喋っている仲ではないものの、二人きりでいても沈黙が苦ではなく、一緒にいると不思議と心地よさを覚えることもあった。

二人で出かけることは無かったけれど、複数の友人らと遊んでいるときに、何気なく二人になる瞬間というのは多かった気がする。

ファーストフードで席取り組とカウンター購入組に分かれると、たいがい丸井や切原、向日らは頼むメニューが決まっていてもカウンターへ行きたがる。対する芥川は『何でもいい派』なため、手馴れた様子で向日が芥川の財布を受け取り、買ってくることが多い。

『ジロー、席とっとけ』
『は〜い』

こんなやり取り、この二人にはいつものことなので、慣れてくると丸井含む他校組も芥川に対して同じように接するようになり、セリフサービスの店では自然と芥川がテーブルにつき、彼の同行者が買いに行くという流れが出来上がっていた。
最初の頃は芥川が一人で席につき、その他がカウンターへ行っていたのだけれど、いつからか立海生一人も『席取り組』として財布を皆に預け、芥川の隣に座るようになった。
立海の面々は、そんな仁王へ『面倒がるんじゃねぇよ、ったくしょーがねぇな』と言いながらも財布を預かり、彼に頼まれたものや『何でもいい』といわれた日には適当にセットメニューを購入し、時にはセットドリンクを彼が苦手とするものを頼むというイタズラをしかけたりもした。
立海生同士で部活後にファーストフードに寄ると自ら買いに行く彼が、他校生を交えて遊ぶときは何故かテーブルについて動かないことを不思議に思う立海生もいたものの、仁王本人にはぐらかされればそれ以上突っ込みはしない。
特に『ほ〜れ赤也、500円やるからトリプルチーズバーガーセット、コーラで買うてきんしゃい』と言われ続けた後輩は『全然足りねぇッスよ、仁王先輩!!』と金額アップさせるも結局はパシリに使われ続けれ、次第に立海メンバーだけの時とは違う仁王を気にすることもなくなったという。
向日や丸井に財布を預けて待っている芥川と、同じく待機組とし席に座る仁王の間では、寝だす芥川と黙って携帯をいじる仁王だったり、他愛のない会話を交わしたりと、何でもない時間を過ごしていただけ。


格闘ゲームで対戦しあう丸井と切原のゲーム画面をしばらく眺め、ふらふらっとクレーンゲームコーナーへ行き、妹の好きなキャラクターのぬいぐるみを見つけてトライするも撃沈。残念そうにぬいぐるみをジトっとみる芥川の隣にやってきては、100円を投入し一発で取り『うわっ!まじまじ、一発!?仁王、すっげーC〜!!』と喜ぶ彼の胸にぬいぐるみを押し付け、丸井たちのところへ行く仁王、なんてこともゲームセンターに行く度にあった。


出題範囲とテキストは違うが夏休みの宿題会で一緒に集まったときも、古典でうなっていた芥川の隣でわかりやすく教えていたのは、得意科目が国語の丸井ではなく何故か仁王。丸井いわく『人の勉強みれるほど余裕無い。仁王はもう終わってっから、ジロくん、教えてもらえ』だそうで、なにゆえ宿題を終えている仁王が『宿題会』に参加しているのかの説明は無かったが、家庭教師役としてわざわざ参加してくれているのだろうと芥川は純粋に感謝し、教えてもらった。その後も冬休み、春休みと同様のことが続き、家庭教師役として数人いる中でも芥川の国語を見てくれるのは仁王になることが多かった。古典の解説をしてくれる彼を眺めながら、何でいつも仁王なのだという疑問は抱かず、これまた素直に『国語がよほど得意なのだ』と理解して、ありがたいと感謝の気持ちを述べる芥川の図、というのもよく見られたシーンの一つ。



「…いつから?」

「U17選抜合宿」


―それは、芥川を『丸井のチームメート』ではなく『芥川慈郎』と認識した切欠、ではなかったのか。
合宿を経て個人として見るようになっただけでなく、そこから別の想いを抱いたとでも?


「合宿…」
「別にすぐこういう気持ちになったん違う。話すようになって、徐々に」
「あ、そうなの……って」
「思う存分考えんしゃい」
「いや、考えろと言われても」
「この告白がお前を困らせるなら、悪いが俺にとっては嬉しいコトやけん。悩んで、悩んで、考えてくれ」


(困るっていうか、びっくり。けど、悩めって……いきなり)


―本当に?
彼のこの言葉は、予想外で仰天するものだったのか?


仁王の言葉に戸惑いながらも、そこまで驚いていない自分の方が驚きだ。
そう思わずにはいられない芥川だけど、思い返せばたくさんの思い出の中に、……特にここ一年は何れも『仁王雅治』という人物が関わっていることに今更ながら気づいて、その光景の数々が目に浮かんできた。



氷帝学園の文化祭に、何人かの立海生とともに遊びに来たこと。

立海大付属の海原祭に芥川を誘ったのは丸井だが、お菓子大会の連覇がかかっていると忙しい彼に代わり、校内を一緒にまわったのは仁王と柳生だったこと。

全国大会男子個人の準決勝、勝ち上がった芥川の試合をわざわざ見に来たこともあった。それも、同時刻に開始した別コートでは立海大付属の選手が戦っていたというのに。

皆でご飯食べているとき、プチトマトを丸井の皿に入れようとしたら、ヒョイっと口に運んでくれて、それ以来何だかんだで仁王の皿に入れるようになった。


―なんだ、言われて見れば伏線なんて山のようにあったのか。


(あー……そっかぁ、そういうコト、か)


「オレの苦手なもの、食べてくれるのっていつの間にか丸井くんじゃなくなってたね」
「別にプチトマトもピーマンも嫌いじゃなか」
「うそ。ピーマンあまり好きじゃないでしょ」
「……」
「フードコートで切原が買ってきた仁王のチンジャオロースランチセット、すっごい嫌そうに食べてたし」
「…その日はピーマンの気分じゃなかったのかもしれんぜよ」
「そう?」


そんなわけがない。

甘いモノはそんなに好んで食べないくせに、丸井と芥川のケーキバイキングに参加したこともあった。
フルーツを使ったスイーツに定評のあるケーキビュッフェで、ひたすらパスタやピザといったスイーツバイキングにおける『副菜』ばかりをプレートに盛る姿に、お前は何しに来たのだと丸井に呆れられていたことも。その時のシーンがやけに鮮明に芥川の脳裏に浮かんできた。


(優しい、よね。仁王は……いつも、いつも)


最初は大好きで憧れのプレーヤー、丸井に会いに立海へ通っていた。
その流れで話すようになった他の立海生たち。

よく話すのは元気で明るい丸井や切原中心で、どちらかといえば口数少ない仁王とは最初の頃はさほど話すことも無かった。けれど、思い返してみれば中学三年生の冬頃から……それこそU17選抜合宿のあたりから互いを丸井を介してではなく一個人と認識するようになり、変わっていった。高校生の今となってはセルフサービスの飲食店でともに『待機組』になることもあり、二人きりで会うことは無くても『数分間、一緒に過ごす』のは格段と増え、皆で遊ぶときに一緒にいる割合は丸井より多いのかもしれない。



(やけに真剣な顔して、いったい何言い出すのかと思ったら………本気で?)

(何考えてるかわからなかったこともあるけど、最近は丸井くんたちが言う『意外と単純』がわかってきた気がする)

(いつもみたいに『笑って』ないな……もっと、何ていうか。目が、揺れてる?)

(『言葉』はキッパリ、はっきりしてるけど……仁王、震えてる。両手、どっちも…)



どういうつもりなのか真意を測りかねたが、小刻みに震えながら真剣な瞳で見つめられ、次第にこれは彼の純粋で素直な『真実』なのだと直感で思えた。

戸惑いや拒否感、嫌悪感、それら普通ならば少しは感じるであろう一般的な感情は生まれず、ただ『びっくりした』という第一の感想と、それに続くのはどこか気恥ずかしいような、ちょっとした『戸惑い』。
それは嫌悪が絡むものではなくて、自分はどうしたらいいのだろうという思いと、さりげなく気を配ってくれたり、手を貸してくれたりと今まで彼が見せてくれた『優しさ』の数々。それらは『友情』というよりも『愛情』といわれたほうがすんなり納得できて、実際に一緒にいるときはまったく気づかなかったけれど、明確な言葉で伝えられた今、彼の行動に込められた意味がわかった。


それは、甘い甘い感情で、どこかくすぐったくて、照れくさい。
同性の友達には決して抱かない想いだろうけれど、手を震わせながら告げた彼に、冗談でやり過ごしたらいけないと察した。
真剣に考えて、真摯に向き合わなければならないのだ。

でも、なぜ自分は決してマイナス感情ではない『戸惑い』に加えて、照れくささを感じているのだ?

全身を襲ったのは『困る』ではなく、今までを思い返して『優しい、いつも助けてくれる、ありがとう』という思い。



「あの、仁王―」



どう応えるかなんてまとまっていない。
『悩んで、考えろ』との彼に、もちろんこのまま家に帰ってもいいのに、何かを言わないとという気持ちだけが勝ってしまって。整理されていない頭から出てくる言葉なんて、後々後悔するかもしれないのに。まったく考えていないのに一体自分は何を言おうとしているのか検討がつかないまま、それでも『ありがとう』という素直な言葉は、彼に伝えなければならない気がした。

きっと彼の震えは止まり、表情を崩して年相応に笑うだろう。
彼の緊張がこちらにまで伝わってきそうで、そんな仁王なんて見たことが無く珍しいのだけれど、震えを止めてあげたいという思いが湧き上がってきた。

つらつらと思うがままの気持ちを仁王に伝える中で、頭の中でまとまらない感情を一つずつ吐き出して、浮かび上がってきた一つの感情。



―そうか、自分は“嬉しい”のか。



ただ感じたことを述べている芥川の一言一言を黙って聞いている仁王に、ここまで来たら最後まで伝えてすっきりしようと決めた。自然と感じた『嬉しさ』を伝えたらどう捉えられるのか、傍から見て自分は何を言っているのか、そんなのまでわからない。

悩め、と言われたのだから。

素直な思いを伝えるだけ伝えて、最後まで考えがまとまらないままなら『でも、わからない』で帰ってしまおう。


―悩んで、悩んで、考えます。


そう言い逃げすることにして。





(終わり)

>>目次

*********************
仁王くん、Happy Birthday〜♪

仁王くん、突然の告白。そこから数分間における芥川くんのお話でした。
こういうものを経て、ラブラブカップルになるのでしょうね。きっと。

そんな彼らの10年後……かしら?
即興劇場・2014仁王雅治の冬の話(`v´)

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