―どうやったらもっと俺んことでいっぱいになってくれるん? 『あなたたちはお付き合いされているのでしょう? 何を不安に思うことがあるのですか』 ―練習みにきてもブン太のことばーっかり 『いつも仁王くんが着替え終わるまで待っていてくれるじゃないですか』 ―俺はついでやもん。ブン太がおらんと来んときもあるし 『そうでしょうか?私が覚えている限りでは、仁王くんのプレーも真剣に見ているようですが』 ―ブン太と俺が打ちあいしよったら、まるいくーんて言うし 『それは仕方ないのでは?中学の頃からそうでしょう』 ―俺のモンじゃろ?やのに、なんでいつまでもブン太 『物、とう言い方は感心しませんよ。所有物では―』 ―ごめんなさい 『はい。物、だなんて思っていませんね?』 ―ん。俺の大事な人。 『それで宜しいかと』 ―そんで、なんでアイツは俺んことほっぽって、ブン太? 『おや。そんなことありましたか?』 ―この前、練習後に校門いったらおらんくて、校内探したらブン太とコートんとこでゲームしてた 『あれは仁王くんを待っている間、丸井くんが付き合ってくれていたのでしょう?』 ―いつも待ち合わせは校門て決まっとうもん。コートで待ってるなら、なんで俺にそう言ってくれんの? 『その後で芥川くん説明してましたね。仁王くんがすねてましたから』 ―すねとらん!説明だって― 『してました。丸井くんも補足してくれていたでしょう?』 ―ブン太なんて知らんもん 『昼寝してしまってコート横の木のところで寝ていた芥川くんを、たまたま着替終わって先に出てきた丸井くんが見つけて起こしてくれたんですよね?』 ―知らん 『もうすぐ仁王くん出てくるからと芥川くんはそのままそこで待つことにして、丸井くんがそれまで付き合ってくれて、待っている間共通でやっているゲームをしたというだけでしょう?』 ―ブン太とおらんでもええのに、なんで 『だいたい部室出て、コート脇の木のところはすぐに見えるでしょう。それなのに気づかなかったのは仁王くんですが』 ―くっ… 『私も、柳くんも、真田くんさえ気づきましたよ?コート横の丸井くんと芥川くんを…そういえば桑原くんもですね』 ―………待ち合わせは校門やもん 『ですから、芥川くんは仁王くんがすぐに出てくるだろうから、そのままそこで待っていたのでしょう?』 ―……でも 『デモもストもありません。丸井くんに感謝こそすれ、文句を言うなんてスマートじゃありませんよ?』 ―ストて……言い回しが古っ 『なんですか?』 ―何でもないです 『よろしい。……で、アナタは何をやっているんです』 ―なにって、何ね? 『今日はデートでは?遊ぶのでしょう』 ―約束は13時じゃけぇ、まだ時間ちゃうし 『昼食は?』 ―どっちでもええけど、駅前で13時やし、まだ時間まである 『そうですか。では芥川くんは特に用事で新横浜に早くきているというわけではないのですね?』 ―は?なん、それ 『なにって、芥川くんです』 ―なんで新横浜……俺、待ち合わせ場所言ってたか? 『私がいま新横浜にいるからです』 ―?芥川、おるん?? 『ええ、いますねぇ』 ―柳生、いまどこにおんの? 『駅前の喫茶店です』 ―あぁ、待ち合わせ場所、その近くの大時計の所じゃけぇ、見えるんか。まだ時間まで40分くらいある― 『一緒にいます』 ―は? 『喫茶店に入ろうとしたらちょうど芥川くんとお会いしまして』 ―なんじゃと? 『いまランチ中です』 ―っ!? 『ですから一応、昼食は?とお伺いしたのですが、仁王くんが「どちらでもよい」というので、芥川くん、先ほど食事を頼んでしまいましたよ』 ―な、い、いつから一緒に!?てかなんで、今、電話っ 『ええ。喫茶店に入って座ったあたりで仁王くんの電話をとった、といったところでしょうか ―そ、そんときから、芥川っ 『いましたよ。ちなみに仁王くんの声がいつもより大きいので、会話が全て聞こえてしまっているようですが』 ―な、な、なんっ!? 『笑ってますねぇ。「しょーがないC〜」だそうです』 ―か、かわってくれん!? 『少々お待ちください』 「…と言っておりますが」 「えー?かわらなくていいよ〜。待ち合わせは13時だもん。ゆっくりきなよって言っといてー」 「泣きそうになってますよ?仁王くん」 「時間的にお昼一緒かなーって思ったけど、『どっちでもいい』なら別にいっかー。オレ、おなかすいたしー」 「まぁ、とりあえずランチにしましょうか」 「うん。仁王との約束は13時だから、それまでは柳生とデートってことで」 「それは光栄ですね」 「んじゃ、もう電話切っていーんじゃない?」 「そうですね。サラダとスープも来ましたし」 「いっただっきま〜す」 『聞こえました?』 ―………。 『13時まで、お預かりしますね。あくまで芥川くんの時間つぶしのお付き合いですから、怒らないでくださいよ?』 ―……一緒にランチ 『仁王くんもどこかで食べてきてはいかがです?』 ―やぎゅ〜 『この前の丸井くんと一緒です。あなたが来るまでの芥川くんの待ち時間に、お付き合いするだけですから』 ―すぐそこ行く 『今自宅でしょう?仁王くんの家から新横浜だと、急いでも20分はかかりますし、到着するまでに食べ終わってしまいますね』 ―やぎゅ、酷いナリ 『言っておきますが私はもともとこちらで昼食の予定でしたから。たまたま芥川くんとお会いしただけですよ』 ―急いで行く。 『では、芥川くんに伝えておきますね。急ぎすぎて転んだりしないようご注意ください』 ―子供か俺は。 『はいはい。では、喫茶店でお待ちしてますね』 ―ん。着くまで、芥川とおって 『いいのですか?ご一緒しても』 ―やぎゅうなら構わん 『それはどうも』 ―けどブン太はダメ 『ここにいませんのでご安心を』 ―ん。ほんじゃ、また 『はい。また後で』 「…ということで、仁王くん、すぐ来るそうです」 「待ち合わせは13時なのになぁ」 「早く会いたいのでしょうね」 「……ま、いっか」 「待ち合わせ、午前中にすれば良かったですね」 「え〜?だっていつも午前中、練習でしょ」 「ええ。珍しく本日は無しですが」 「毎日練習なんだから、久しぶりのお休みくらいゆっくりしたほうがいいでしょ」 「…だから、午後なのですか?」 「べっつにぃ。本当は遊ぶ予定無かったもん。けどアイツ、遊ぶっていって聞かないし。オレんとこ来るっていうからさー、間とって新横浜にしただけ」 「十分仁王くん寄りな場所だと思いますけどね」 「でも、柳生相手だとやっぱぜ〜んぜん違う」 「?そうでしょうか」 「そうですー。あーんな甘えるのなんて、柳生に対してくらいだよ?」 「はぁ。そうですかねぇ」 「中学より酷くなってない?仁王。柳生にだけデッレデレ」 「確かに小さな子供のような面もありますが、どちらかといえば芥川くんとお付き合い始めてからでは?」 「ちっがうC〜。元々だよアレは。そんで、高校になってもっと柳生に甘えるようになってんの」 「はぁ」 「たまには突き放して、叱ってやってね」 「…よく注意はしていますけどねぇ」 「それで落ち込んでくら〜くなってんでしょ?丸井くんが言ってたー」 「丸井くん、ですか」 ―その『丸井くん』を、一番気にしてるんですけどねぇ。 なんて思いながらも人様の色恋沙汰に口を挟むタイプではないので、相槌をうちながら、たまに相方フォローをはさみつつ13時までのデートタイムを過ごした柳生比呂士であった。 (終わり) >>目次 |