烏丸御池の駅を出て目的の雑貨屋に向かうべく歩いていたら間違えて1本別の道を曲がってしまったらしい。 途中で気づくも隣を歩くコイビトは『お散歩』に何だか楽しそうだし、特に急いでも無いのでまぁいいかと思うことにして、ゆっくり歩きながら何気ない会話を交わして、細道を進んでいたら見えてきた一つの看板。 聞いたことのある店名だと思い出してみれば、数日前に実姉から聞いた流行のカフェか。 『メロンのカキ氷がめっちゃ美味しかってん。高いけどな。生姜のカキ氷と珈琲も、まぁそこそこの味。高いけどな』 一緒に銀座にある支店に行った姉の友人はパンケーキにしたといっていたので、何ゆえ自身の姉が数あるメニューの中からカキ氷2種類にしたのか謎ではあるものの、テレビで見たときに何といってもカキ氷が美味しそうだったのでそれにしたのだと言われ、満足顔な割には『高いけどな』を連発していたため、結局トータル的にみて姉のお眼鏡に叶ったのかどうだったのかは不明。 ちょうど看板前を通りがかったときにその話をすれば、キラキラ目を輝かせ『入ってみよ!前テレビで見たことあるお店だ。京都にもあるんだね〜』が出たため、階段を上り2階のお店へ入った。幸い平日の午前中、早めの時間だったので店内も空いており、並ばずに入れたのだけど、女の子たちに大人気のお店なだけあってか男同士の組み合わせどころか男性の姿すら皆無。 一緒にいる連れが、こういう雰囲気のカフェや女子しかいないような店でも違和感のないタイプなので抵抗なく入れているともいえよう。 (抵抗感が無いといえば嘘になるけど、コイビトが楽しみにしていることが第一なので、その前には自身のささやかな葛藤などありはしないのだ)。 メニューを見ながらうんうん唸っているので声をかければ、お店の看板のカキ氷かパンケーキで悩んでいるのだと。 それなら頼みたいものを好きにオーダーすればいいのに『1ドリンク1フード』と返されて、そういうモンなのかと自身もメニューを見ながら考えるも、あまり甘いものは朝から食べたい気分ではないので温かい珈琲だけにしておく。 「苺のカキ氷…う〜ん」 「氷でええんか?」 「パンケーキ……クリームチーズのかなぁ。でもバターのヤツが定番だよね、きっと。普通のにしようかなぁ」 「両方頼めばええやん」 「ダメ。どっちかだもん。けどカキ氷だけってのもな〜」 ―はいはい、1ドリンク1フードでしたね。 本心はパンケーキが食べたいのだろうが、カキ氷も気になるといったところだろう。 それほど『1ドリンク1フード』にこだわるというのなら、助け舟を出してやるか。 「そんなら俺、珈琲ホット。それとバターのパンケーキな」 「!」 「ジロー、氷にしてシェアせん?」 「……甘いのあんま食べねぇのに」 「そんなに悩むほどのモンなら俺も味見してみたいし。言うても量あれへんやろ」 「じゃあオシタリ、パンケーキね!」 「おー」 「オレ、カキ氷とあったかい紅茶」 「苺のでええん?メロン?」 「コーヒー氷」 「苺ちゃうん?」 「オシタリ、珈琲のほうが食べれるっしょ?だから、コーヒーのヤツにしよ」 「……」 ……。 ―苺やメロンがいいだろうに、そんなふうに言ってくれる君が大好きです。 でも、君のために寄ったお店なので、君の気になるメニューを頼んで欲しいのです。 よって。 『ご注文お決まりでしょうか?』 「ダージリンティと7番のブレンド。発酵バターのパンケーキに、苺のカキ氷頼んます」 最後の『苺』に目の前のコイビトが反応してこちらを見つめてきたけど、こっちも君のために『苺かメロン』にしてあげたい。 どちらでもいいけれど、実姉は『メロン』を食べたといっていたので、実家に帰ったら苺の感想を姉に伝えておくかと思い、苺にしてみた。 少し困ったように微笑んで、次の瞬間『ありがと』と満開の笑顔で嬉しそうに言ってくれる君が、可愛くて仕方ない。 結局、苺カキ氷は一口もらってそれで満足。 パンケーキは一応は自身で頼んだものだけど、これもほんのひとかけらでOK。 一口大にカットして、向かいのコイビトに『食べなさい』とかいがいしく取り分けてやると、周りの女の子たちから遠慮なしの視線の嵐とキャアキャアした声があがるも、そんなのまったくお構いなし。 当初感じた『女の子だらけの店に入る抵抗感』なんてもはやサッパリ消えうせて、見つめる先はただ一つ。 美味しそうにパンケーキを頬張り、にっこりと柔らかい笑みを浮かべる君だけ。 10月某日、まだまだ寒さとは程遠い京都のある秋の日。 ―朝から可愛いコイビトの満面の笑顔を見れて、大満足な一日のスタートとなりました。 (終わり) >>目次 |