丸井くんとは家族ぐるみのお付き合いなんです1





「ただいまーっと」

「あれ?テントもう出来てる。親父らがやってくれたんかな」

「兄ちゃんかも。コレ全部、兄ちゃんのテントだし」

「たててくれたのはいいけど、皆もうロッジ?」

「締め出されちゃったね」

「やっぱり俺らがテントか…」

「しょーがないよねぇ」



5月4日から1泊2日
祝日を利用しての丸井家キャンプ旅行は毎年の恒例行事で、春・夏・秋と季節を問わず、家族の用事がつけば出かけるイベントだ。
小学校高学年になってからは料理は長男・ブン太の担当となっており、中学1年の誕生日に買ってもらったダッチオーブンを駆使して作り上げるキャンプ料理は、家族に毎回好評である。

中学時代に出会い、友達になった他校の芥川慈郎とは、いつの間にか家族ぐるみのお付き合いをするようになった。
決して家が近いわけではないが、お互いの家にしょっちゅう泊まっていたら、互いが互いの家の息子のように扱われるようになり、自然と母同士、父同士も気があったのか、今では2家族で出かけることも珍しくないほど。



「ちぇ。兄ちゃん、ずりぃ」

「じゃんけんで決めるって約束したのになー」

「おチビちゃんたちはしょーがないけどさぁ」

「とりあえずテントはいるか。兄ちゃんのって、一人用?」

「みたいだけど、1.5人?」

「そんなのあるんかい」

「わかんないけど、いっつもそのテントであちこち行ってるから、1人用かなぁ」

「どれどれ。お、…まぁ、狭いけどなんとか2人、平気っぽいかな」



丸井家のキャンプに、芥川家次男や芥川家長女がお邪魔することは今までもあったが、家族全員で一緒に参加というのは初の試みだ。
自営業な芥川夫妻にとってお店を休んで―というのはあまり機会の無いことだったけれど、たまにはいいか、と5月の連休の休みを利用しての家族旅行を決めた。
ただ、部活が忙しい次男と社会人になりたての長男は無理だろう、と近場へ家族でご飯くらいかな?
なんて思っていたら、長男は運良く仕事休みを貰え、次男の学校も連休後半は部活オフとなり、完全に家族の休みが一致した。

かといって、どこへ行っていいやら、、なんてお茶の席で話題にあげれば、仲良しの丸井家奥さんからのキャンプのお誘いで、あれよあれよと決まった小旅行。
日程的に互いの家の都合も考慮し5月4日からの1泊2日となり、芥川家次男の誕生日にぶつかるとなれば、丸井家奥様は『皆でジロちゃんのお祝い、しましょう!』と張り切り、料理上手の息子に『ジロちゃんの誕生日のごちそう』を命じた。



「寝袋は1人用でしょ?」

「う〜ん、どうかな。割と大きいけどな。ジロくん小さいから、二人一緒でも大丈夫っぽい」

「小さいは余計。ていうか丸井くんもたいして変わンないじゃん」

「なんですと?」

「サイズ」

「いんや、俺のが大きい」

「身長なんて5センチくらいしか違わないし」

「俺のが体格いい!筋肉もついてるし!」

「ああ、体重ね」

「!」

「一回り違うもんね」

「筋肉だっつーの」

「どうだか」

「ジロくんが痩せすぎなんだろい」

「丸井くんがぷよぷよなんじゃないの」

「プヨい言うな」



都内から車で2時間半。
さほど渋滞に巻き込まれず着いたキャンプ場は、丸井家がよく訪れるスポットらしく、着いたら即座に手馴れた様子で丸井家の人々は各自準備に取り掛かっていた。

その1.簡易テントをたてる丸井父に、ひとつずつ教わりながらそのお手伝いをする芥川父。
その2.折りたたみのテーブルやイスをセッティングする丸井母に、見よう見まねで同じように組み立てていく芥川母。
その3.キッチンを取り仕切る丸井長男は、車から食材を持って来い、野菜を洗え、ボールをとってこい、と弟’sにあれこれ命じながら調理開始。

芥川家の長男−子供らで唯一の社会人で皆のお兄ちゃんは、マイ釣り竿を取り出し近くの沢へ。
いわく、『イワナを釣ってやるぜ』と腕をぶんぶん回しながらこれまた自前のクーラーボックスを持って消えていった。
丸井家長男の手伝いをしていた次男・三男は、初めての『釣り』に目を輝かせ、兄の手伝いを放棄し芥川長男についていってしまった。
弟’sのうち、上のほうはともかく、下のおチビはまだまだ幼いため丸井家長男は心配したけれど、芥川家の長兄にしてみれば小さい子供の面倒をみるのは手馴れたもの。
チビちゃんたちより幼かった頃の弟・慈郎を連れて海釣りに連れて行ったこともあるくらいなのだから。

『いいか、お前ら。連れてってもいいけど、俺の言うことは必ず聞くこと!』
『イエッサ!』
『あい!』

『川に飛び込まないこと』
『ラジャー!』
『あい!』

『釣れなくてもぶーたれないこと!』
『釣るもん!』
『つる!』

『飽きても俺が終わるまで帰れないぞ?それでも行くか?』
『あきたら寝る!』
『ねるー!』

『お前ら…慈郎みたいなこと言うのな…』
『ジロちゃんのマネ〜』
『まね〜』

『よし。じゃあ慈郎からブランケットもらってこい』
『アイアイサー!』
『あい!』


駆け寄ってきた丸井弟’sは、目をキラキラさせて芥川次男に『つりいってくる〜!ジロちゃん、ぶらんけっとかして!』と、慈郎のマイブランケットと折りたたみの軽量イスを借りて、芥川長男に元へ戻っていった。

芥川長兄の見事な子供の扱いっぷりに『すげぇな〜ジロくんの兄ちゃん』と感心するも、小間使いがいなくなってしまったためどうしようかと隣を見れば、手伝います!とばかりにエプロンをつけた芥川妹の姿。

『よし、じゃあやるか』
『はい!』

『じゃ、まずはこの辺の器具と野菜類、全部洗うぞ〜』
『は〜い。ブン太くん、コレは?』

『カトラリー類も一緒に洗うか。それも持ってきて』
『らじゃー!』


丸井家長男と芥川家長女で、仲良くご飯の準備。
なんだか微笑ましい姿に、『新婚さんね〜』なんてからかう両母に、『なぁに言ってんだ。母ちゃん、ちょっとは手伝え』…と、すでにテーブルセットを終えていつのまにお茶している母に一言文句を言っといて。


『なぁ、そういえば兄ちゃん、どこ行った?』
『お兄ちゃん?釣りでしょ。イワナ釣る〜って』
『いや、ジロくんのほう』
『ジロ兄かぁ〜。いつもならその辺で寝てるんだけど…』
『いないよなぁ』


車の陰、木の根元、木陰…いそうなところに視線を向けても、見当たらない。
少し心配になるも、芥川家の人々はよくあることなのか誰も気にしていない。
彼の妹も同じくー

『いないならお散歩かも。よくフラフラどこか行っちゃうから』
『…大丈夫なんかい』
『へーきへーき。タイミングいい頃に絶対帰ってくるから』

GPSもあるしね!

フラフラ癖とどこでも寝る癖は何ともならないため、せめて居場所を!と持たせた携帯は、幸い肌身離さずいつも持ち歩いてくれている。


『髪に葉っぱつけて戻ってきたら、どこかでいい場所見つけてお昼寝してる証拠で、野菜とか果物、お菓子持って帰ってきたら、フラフラ散歩してた証拠』


いわく、ふらふら散歩中に出会う人々に、高確率で食べ物をもらうらしい。
地元の農家のおばちゃんだったり、同じくキャンプ中のご家族だったり。

そういえば昼寝していて起きたらお菓子が置かれていることが、校内・校外問わずよくあるというし。


『…すげぇな、ジロくん』
『わらしべ長者みたいになって戻ってくるときもあるよ?』


何がどうしてそうなったのか、ムースポッキー一箱持ってふらふら散歩していたはずが、帰宅したときに立派なメロンを2つも抱えて戻ってきたことがあったんだとか。




「しっかしジロくん、すごいよなぁ」

「なにが?」

「わらしべ長者」

「ほぇ?」

「まさか、まじで野菜と果物抱えて戻ってくるとは」



芥川長男と丸井弟’sが、イワナとヤマメが数匹入ったクーラーボックスを抱えて戻ってきた頃、テーブルでは両親らがすっかり落ち着いてお茶タイムに話を咲かせていた。
調理場では丸井長男が腕をふるうなか、芥川妹がちょこまか動きつつ、弟子のようにお手伝いに勤しむ光景。
釣ってきた岩魚は塩焼きに、小ぶりなヤマメはから揚げだ!とのリクエストに、ダッチオーブンで数々のアウトドア料理を猛スピードで作り上げる丸井長男は快諾。
塩焼きはアウトドアに慣れている芥川長男が担当し、下処理を簡単にしてもらったイワナに串をさして、火にくべて焼き上げた。


中学時代、林間学校で評判だった『天才的カレーライス』に更なる改良を加えたカレーに、スキレットで焼き上げたナン。
チビちゃんたち用に、ダッチオーブンでちゃちゃっと焼き上げた真ん丸いミルク入りテーブルパン。
ついでに余ったナン生地と、鍋のカレーをちょっと使ってナンカレーピザも一丁あがり!

先月の自分の誕生日に初めて作り、大好評だったフライドチキンも完成。
家での使い慣れた圧力鍋ではプロ級のうまさだと自負するが、ダッチオーブンではどうなるかな〜と思ったが、美味しそうなにおいとキレイな焼き色に大満足!

(丸井父は、『ブン太…またフライドチキンか』なんて呟いたんだとか)

たまねぎの丸焼きに、お母さん方のために豆腐田楽と、焼き茄子らヘルシーおつまみも用意済み。
キャベツ、にんじん、コーンでコールスローも用意すれば、副菜多数にメインも完成。


丸井家が誇る長男・ブン太の見事な料理が次々と出来上がる頃、ふらふらと戻ってきたのは金髪にあちこち葉っぱをつけた芥川家次男・慈郎の姿。


『ほら、ジロ兄ィ来た。いいタイミングで戻ってきたでしょ』

『葉っぱつけてんなぁ』

『今回は寝てたか…あ、でも何か持ってるよ』


よくよく見ると、両手にビニール袋をぶらさげていて。
旬のアスパラガス、ホワイトアスパラ、パープルアスパラを始め、春野菜に果物をたくさん抱えていた。
(そのアスパラを拝借して、ベーコンとバター、ちょっぴり醤油でもう一品メニューを増やした)



「トイレ行こうとしただけだったんだけどね〜」

「ずいぶん長いトイレだな」

「歩いてたらわき道それちゃって、そのまま全然違うとこ出ちゃった」

「で、野菜と果物もらったって?」

「道きいたおばあちゃん家で草むしり手伝ったんだ〜」




道端で出会ったおばあさんにキャンプ場の道を聞いて、なにゆえご自宅訪問&草むしりになるのか。


ともかくおばあちゃんに旬のアスパラガスを大量にいただき、キャンプ場に向かっててくてく歩いていたら泣いている子供を見つけて。
手を引いて交番に向かえば無事親も見つかり、たくさんお礼を言われて、遠慮したのだが是非もらってくれ、と旬のびわと出始めたばかりのさくらんぼをいただいた。
お礼返し!とおばあちゃんに大量にもらったアスパラを少しおすそ分けしたら、見ていた警官のおじさんが地元銘菓らしいおまんじゅうを二つくれた。

いよいよ戻らねば、と山道を歩いていたら、山菜つみにきていたらしい地元のおじいさんに話かけられ、腰をおろしておしゃべりに付き合うこと30分。
もらったお饅頭をひとつあげて、おじいさんが持参していたポットのお茶を一緒にのんで。
別れる頃、『じじぃの与太話に付き合ってくれてありがとな』と、蕗やうどといったおじいさんの本日の成果でもあるかごの中身を少しいただいてしまった。
またもお礼返しでアスパラを出すと、『あぁ、ババんところのじゃな』と知り合いらしく、山ほどもらってるからそのアスパラは家族で食べなさいととどめられて。

二人の前にとまったトラックからはおじいさんを迎えにきたらしい息子の姿。
ジジィにつきあってくれた慈郎くんでな、と紹介されると、息子さん(といっても慈郎のお父さんくらいだが)はトラックの荷台からなにやらごそごそと袋に詰めて。
『もらってくれ』と渡されたのが、これまた旬のいんげん、そらまめ、さやえんどう、、、といった豆類。(近所で農家をやっているらしい)


といった具合に物語は進み、キャンプ場に戻るころには両手にビニール袋をぶらさげて、中には旬の野菜・果物がぎっしり。

…と、見事に芥川妹が語るとおり『わらしべ長者』っぷりを発揮したんだとか。






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