勢いのまま突っ走る大将を追う内、いつの間にか逸れたらしい道。
気付けば山奥で、地を埋め尽くすほどいたはずの自軍は、自らを含めてたった3人となってしまっていた。

要するに、はぐれた。



「この年で迷子になるたァな」

「政宗様……」

「Oh, sorry. まぁ明日にでもなりゃ誰か探しに来んだろ」

「そーそ。今歩き回るのも危険だし」



空を見る成実に習い視線をやれば、そこには漆黒が広がっている。
小十郎は溜め息を吐いた。

幸いにも雲はなく、月明かりで周囲は見えるが、山を歩くには不十分だ。
政宗、小十郎、成実の3人は、とりあえず寝られそうな場所を探すことにした。



「……なぁ梵、あれ何だろうな?」

「Ah? 何って、ありゃ湯気……Wait, ンであんなとこに湯気が立つ?」



少し離れた所から、湯気が漂っていた。
何故こんな山奥に?



「見てこよっか?」

「待て成実、そう不用意に近付くな」

「大丈夫だって!」



結局3人揃って近付いてみると、湯気の正体は正しく湯であった。
時折拭く風に水面は波打ち、湯気がゆらりと揺れる。

政宗がしゃがみ、指先を浸した。熱過ぎず温過ぎず、丁度良い温かさ。



「Great! 名湯じゃねぇか」

「本当っ、あったかそうですねぇ」

「だろ? 月華もそう思う」



そう思うだろ、政宗は言葉を打ち切った。
ゆっくりと、自身の隣を見やる。



「っ、月華!?」

「えぇっ、月華? なんでこんなとこに……」



泥やら草やらを至るところにつけた少女は、ふはぁ、と笑っていた。
温泉に夢中のようだ。



「……まさかあいつら、月華を先見隊にしやがったんじゃねぇだろうな」

「いや、大方この悪戯娘、俺達の後を追ってたんだろうよ。なぁ?」

「はい?」

「あー、迷子が4人に増えただけかぁ」



がっくりと肩を落とす成実を余所に、政宗は楽しそうに笑った。
1日くらいいいじゃねぇか、滅多に出来ない体験だぜ、と。



「っくしゅ」

「なんだ、寒いのか?」

「え、いいですよっ。小十郎様が寒くなっちゃいますからっ」



上着を貸してくれようとする小十郎を、月華は慌てて引き止めた。
凍死しそうなほどではないのだ。大丈夫。



「……名案!」

「成実、それは案の中身を言ってから言え」

「折角温泉あるんだから、皆で入ればいいよ! 暖まるし!」

「おぉーっ、確かに名案ですねっ」



早速! と着物に手を掛ける成実と月華。
止めたのは勿論、龍の右目。政宗は楽しげにクツクツと喉を鳴らしている。



「お前たちは後で入れ」

「「えーっ」」

「政宗様が先に決まっているだろう」

「それはそうですけど……」

「小十郎、さっき成実は何て言った? 皆でって言ったじゃねぇか」

「は……しかし」



政宗は尚も笑いながら、徐に月華の肩を抱いた。



「嫌ならお前らは後で入れ。俺達は先入るからよ」



温泉付近に雷が落ちた。



「ククク……やりやがったな、小十郎ォ」

「この小十郎、政宗様の正しい教育のためなら修羅にも成りますれば!」

「Oh, 修羅は月華の専売だぜ?」

「政宗様ーっ、成実様が黒こげでーす」



(ヒロインは伊達の阿修羅姫と呼ばれている設定>今更)



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