ある晴れた昼下がり。
そよそよと吹き込む風を感じながら、月華は目の前の半紙に目を落とした。
「ここの払いがなってねぇ。あと、ここはきっちり止めろ。それから」
月華の書いた字を埋め尽くす勢いで、朱が重ねられていく。
小十郎の真剣な眼差し。
チラリと見渡せば、あちらこちらに散らばった半紙たち。そのどれもに月華の墨が、小十郎の朱があった。
吐き出したい溜め息を必死に抑え、今なお手直しをする小十郎を見つめる。
「おい、聞いてるか?」
「小十郎様の手はおっきぃですねー」
「どうやら聞いてねぇみたいだな」
はぁ、と、月華が抑えていた溜め息を、小十郎はいとも簡単に吐き出した。
筆を置いた武将の手を、まだ少女と呼べる者の手が包む。
小十郎は眉をしかめた。
彼女だってそれなりに戦場に出ているだろうに、その手は、酷く柔く、脆く思えた。
「おぉー、やっぱりおっきぃ!」
掌同士を重ね、比べて笑う月華に、小十郎の眉間は山脈を増やすばかり。
こうして見れば、普通の女子であるのに。
いったいどうして、普段、政宗や成実と連めるのかが不思議で仕方がない。
「月華」
「なんですか?」
「手習いを真面目に受けると、約束したはずだが?」
「受けてるじゃないですか」
無数に散らばった半紙たちが、それを証明している。
いるのだが。
「お前の字は丸すぎるんだ」
「優しい性格の現れです」
「体格の間違いだろ」
「太ってるって言いたいんですかっ!? 女に向かって失礼ですっ」
誰が女だ、誰が。
言葉にはしなかったものの、小十郎の目は語っていた。
むむむ、と唸った月華は、まだ触れていた彼の手を掴む。胸元にグイ、と押し付けた。
「女以外の何だってんですか!」
勉強部屋に雷が落ちた。
「テメェは、慎みを持てとあれほど言われてまだわかんねぇのか!?」
「最近ちょっとおっきくなったんですよ!」
「聞いてんのか月華!」
おまけ
「なんでそこでエロっちぃ展開に向かないのかなぁ……ねぇ、梵?」
「月華と小十郎だぜ? 期待するだけ無駄だ」
「でもさぁ……」
「成実様だっておっきくなったって言って下さったのにっ」
「……あれ?」
「あーぁ」
「出てこい成実ェエエエエッ!」
「Rest in peace. 成仏しろよ」
「えっ、ちょっ、待てって小十ろギャァアアアアアアッ!」
(うちの成実はいつもこんな役です)