「成実様の髪って、美味しそうですよね」
冬の奥州は平和である。
雪に閉ざされた世界に戦はなく、春の太陽が顔を出すまでの休戦期間。
珍しく穏やかな天候となった今日は、久しぶりに縁側で寛いでいた。
まだ弱い冬の太陽が、庭一面の銀世界を照らしている。
「どーゆー意味?」
「そのまんまですよぅ。甘そうで、美味しそうです」
生まれながらにして色の異なる髪をもつ成実。
比較的大人しい髪色が多い伊達軍勢ではあるが、日ノ本全体で見ればそれほど珍しくもないものだ。
「私は真っ黒だから、成実様みたいな美味しそうな色に憧れます!」
「上杉の忍みたいな?」
「かすがさんも綺麗ですよねぇ」
露出の多い衣装に金色の髪の忍を思い浮かべ、月華は一人頷いた。
程よく冷めた茶をすする成実の前で、今度は首を傾げてみせる。
「でも、なんていうか、かすがさんは金色だけど……」
「なに? 何か違うの?」
「美味しそうじゃなくて、綺麗だなって感じです。きらきらーって感じで!」
「違いがわかんないよー」
ケラケラ笑う成実に、月華は不満を全面に押し出して抗議する。
上手い単語が見つからず、悔しげに唸った。
「Hey、何をそんなにむくれてんだ?」
「あ、梵〜」
現れた城主は、いとも気さくに月華の隣に腰を下ろした。
その手に載せられた臙脂色の盆に、二人の視線が集中する。
わかりやすい奴ら、と笑って、彼は中身を披露した。
「わぁ……! あんみつですね!」
「Yes。ちっと寒ぃかと思ったんだが、まぁ今日くらいの気温なら大丈夫だろ?」
「やったー、梵の甘味ゲーット!」
「げーっと!」
料理好きな政宗のお手製甘味を見つめて、月華はふと、動きを止めた。
なんとも食欲をそそられる芳しい香り。日を受けてキラキラと輝くのは黒蜜だ。
甘そうで、美味しそうで。
「……あぁーっ!」
「おわっ、何だよ月華、どうかした?」
吃驚したとぼやく成実にはお構いなしに、月華はその瞳を輝かせて続けた。
「わかった! わかりました!」
「何がだ?」
「蜂蜜です! 成実様の髪の毛は、蜂蜜色なんです!」
疑問符を浮かべた政宗は、成実の説明を受けて納得した表情になった。
なるほど、彼の従兄弟の髪は蜂蜜の色に似ているかもしれない。
あーすっきりした、と喜色満面であんみつを頬張る月華に、微笑ましい気持ちが溢れる。
「じゃあ、俺は何だ?」
「政宗様は鳶色らしいです!」
「らしい?」
「小十郎様が仰ってました。私は、鳶を見たことがないのでわかりませんけど……」
「月華は真っ黒だよねぇ」
「漆黒か……烏の濡れ羽色ってやつだな」
「私も政宗様や成実様みたいな綺麗な色がよかったです」
幼子のようにむぅ、と膨れてみせる月華に、政宗と成実が苦笑しながら顔を合わせる。
言われてもどうしようもないことだ。髪色談義は、ここでおしまい。
おまけ
黙々とあんみつを口にしていた彼女は、やがて、あ、と思いついたように口を開いた。
「でも、返り血が目立たないのは利点ですかね?」
「……お前、たまにおっそろしいこと口にしやがるな」
「さすが阿修羅姫……」
(またオリキャラを設定づけてしまった……)