「おっ、セレナ来たわね〜!」

「園子ちゃん。お招きありがとう」



いーのいーの、と快活に笑うお嬢様。明るい黄色のミニドレスが可愛い。

駅前の一等地にババーンと建ったホテル「The BT」。BTはBell Tree。鈴木財閥の新しい事業でございます。事業主は鈴木相談役なんだってさ。
オープン記念にパーティーするからおいでよ、と何とも軽くお誘いいただいたので、お言葉に甘えて来てしまったというわけです。


「ふーん」

「な、なに? 変?」

「ううん、大人っぽくて似合ってる!」



上から下まで文字通り舐めるように見つめたあと、にひひと笑った園子ちゃんにひと安心。

一応、パーティーにお呼ばれしたわけですから。今の私、ドレス姿なのですよ。
ワインレッドのシンプルなAライン。胸元を飾る大きめのビジューたちが存在感を放ってます。
買ってきたのはヒソカだよ。毎度思うんだけど、なんであの子、私のサイズぴったり分かるんだろ。

園子ちゃんと会話していると、ざわ、と場がざわめいた。



「あ、いたいた」



ざわめきを割って、男二人が歩いてくる。
園子ちゃんの目がハートになった。

細身の白パンに、ネイビーのジャケット。ストライプシャツにノーネクタイで、髪を後ろに撫でつけたヒソカ。
黒のハイネックの上から白シャツを開襟、ダークグレーのスーツを上品に身にまとい、これまたノーネクタイの沖矢さん。
ん、似合ってますね。

まあ……その、なんだ。ざわめくのも分からなくもないな。なかなか格好いいんじゃないの。



「園子さん、本日はお誘いありがとうございます」

「ボクまで呼んでもらっちゃって、良かったのかな」

「いいんですよ! おじさまがいっぱい呼べーって言ったんですし!」



セレナったら両手に花なんだから!なんてキラキラして、いーなぁと唇を尖らせる園子ちゃん。
その様子じゃ、京極さんは来れなかったみたいね。



「あっ、セレナちゃん、園子!」

「蘭! ガキンチョも来たわね〜」



現れたのは薄ピンクのふわりとしたドレス姿の蘭ちゃんに、タキシードに蝶ネクタイの小さな名探偵。
さすがエンジェル……可愛い……。

きゃっきゃと盛り上がる女子から離れて、名探偵はそそくさと沖矢さんたちの方に向かった。
よく行けるな……シャンパン片手に談笑するあんな大人ゾーン……。

ヒソカもヒソカだが、沖矢さん━━赤井さんも仕事柄、パーティーは慣れているらしい。潜入とか護衛とかあるのかな。
二人ともゆったり寛いだ雰囲気出してますけど……沖矢さん貴方、今は大学院生なんだから……馴染みすぎはよくないんじゃ?

なんてことを思いながらぼんやり見ていれば、不意に視界の端で園子ちゃんがニマニマしていた。



「……なに?」

「セレナったら、さっきから沖矢さんばっか見ちゃって〜!」

「えっ!? ちがうよ!?」

「格好いいもんね、沖矢さん!」

「ら、蘭ちゃんまで……」



違うんだけどな……!
再度否定しようと口を開き掛けた時。

バッと、辺りが闇に包まれた。



「何?!」

「落ち着いて。動かない方がいいよ」



急激な闇の訪れに、会場から悲鳴が上がる。ちょっとしたパニック。
動くのは危ない。そう判断して、蘭ちゃんと園子ちゃんに声を掛ける。二人とも不安そうだ。
見えてますよ? 闇っていっても、部屋の中の照明が落ちただけだからね。ヒソカも見えてるんじゃないかな。



「皆さん、大丈夫ですか?」



腰を引かれ、身体が密着。
おーい、他の人が見えてないだろうからってやりたい放題ですか。っていうか貴方見えてるんです?
見上げた先で、翡翠の瞳が面白そうに細められていた。



「Ladies and gentlemen!」



高らかな声に、皆が一斉にそちらを見た。
照らされたスポットライトの中心に、不適に佇む白い姿。
あれは!まさか!?なざわめきに満ちる会場内で、別のことを考えているのは多分、三人だろう。



「発音よくなったね」

「複数形も正しいな」



重なった私と沖矢さんの小さな呟き。
ヒソカがクスクス笑っていた。



「素敵な夜ですね、相談役。私も呼んでくださればよかったのに」

「キッド?!」

「実は、予告状が届いておったんじゃ……」

「なに?!」



名探偵と相談役がわちゃわちゃやってる。

そう、キッドは予め、今夜の予告状を出していた。狙いはホテルのロビーに展示される予定のビッグジュエル。
ただ、今日は下見、とも書いたはずだ。せっかくのパーティーですから、と。なので、鈴木相談役も深く考えなかったらしい。

白いマントを翻して立つ姿に、会場から悲鳴が上がる。
悲鳴っていうか……黄色い悲鳴、っていうか。
その筆頭は園子ちゃんの「きゃぁああキッド様ぁー!」です。

ほんとに、来たのか。心情としてはそれが近い。

「三人だけずるい!俺も行きたい!」とじたばたする快斗に、「じゃあ予告状出して、くれば?」と軽い気持ちで言ったのは記憶に新しい。
もともとビッグジュエルは狙うつもりだったみたいだし、と思っての冗談だったのだが、こうもあっさりと白衣で登場されるとなぁ……。



「おのれキッド、何をしにきよった?!」

「今夜はただの下見ですよ、相談役。それに……パーティーに余興は必要でしょう?」

「なんじゃと?」



パチン、と指が鳴らされると、それを合図に照明が戻る。
会場内は再び、黄色い悲鳴に包まれた。
なぜって、会場中の至る所にバラの花が飾られていたからだ。照明が落ちている間にセットしたらしい。
うーん、寺井さんお疲れ様です。

先ほどまでキッドがいた場所に、もうその姿はない。一枚のカードがヒラリと床に落ちたのが見えた。
『親愛なる鈴木次郎吉様へ』とかなんとか書いてましたよ、確か。

バンッとドアが開き、



「待て、キッド!」



名探偵が追い掛けていきました、が。
ざーんねーん、キッドここにいまーす!
スーツに早着替えした快斗。目が合うとウインクされた。そのまま人混みの中に消えていく後ろ姿。
ご馳走食べたら早々に帰ると思うよ。ほんと何しに来たのあの子。

ざわつく会場も、徐々に落ち着きを取り戻している。



「ボクたちも楽しもうか」



にこりと笑ったヒソカに手渡されたグラス。これノンアルコールでしょうね?

っていうか沖矢さん。
いい加減、腰から手どけてくれます?!



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