学校帰り。
蘭ちゃん、園子ちゃんと歩いていた私は、スーパーから出てきたヒソカと遭遇した。
主婦か。主夫(仮)だったわ。



「おかえり」

「ヒソカさん! お買い物ですか〜?」



目をハートにした園子ちゃんが、嬉々として話しかける。ほら、うちの子、見た目だけは爽やかイケメンだから……。

買い物袋を掲げてみせたヒソカは、当たり、と笑った。



「ボク車で来てるけど、セレナ、乗ってく?」



どうしようかな、と、蘭ちゃん・園子ちゃんと目を合わせる。
笑顔の二人が、軽く手を振った。
じゃあ、また明日ね。そう声を掛けようとした時だった。



「おや、こんにちは」



声を掛けてきたのは沖矢さんでした。
貴方は何やってるの……!



「沖矢さんもお買い物ですか?」

「ええ。実は少し時間を持て余しまして、散歩でもしようかと歩いて来たんです」



ニコリと笑って告げたのは、紛れもなく真実だろう。
暇なんですね……。

こっそりと呆れた視線を送ったのがバレたのか、沖矢さんはニコリと笑った顔のままこちらを向いた。
え、なに。



「セレナさん、よければ、ご一緒しませんか?」



なんでだよ?!
なんで“沖矢さん”の買い物に私がご一緒しなきゃいけないんだ?!
心の内で盛大に突っ込んだが、声に出すわけにもいかないので曖昧に笑っておいた。

しかし、なぜか乗り気な人が三人。



「いーじゃないセレナ! 行ってきなさいよ!」

「ええっ?」

「そうだね。ついでにウィスキー買ってきてくれるかい」



ボク買い忘れちゃって☆

てへぺろしてるがお前それ完全に嘘だな?!
酒飲みが酒買い忘れる訳ないでしょうが!



「スバルと一緒ならお酒も買えるでしょ?」

「そりゃ、沖矢さん大人だから買えるけどさぁ……」



蘭ちゃんも何か言ってよ、と振り返った先では、沖矢さんと言葉を交わす彼女の姿。



「すいません、お友達同士の時間を邪魔してしまいましたか?」

「大丈夫です!」



ら、蘭ちゃーん!!!
キラキラした笑顔で頷かないでエンジェル!

セレナ頑張って!と謎のエールを残し、三人は本当に行ってしまった。
これ完全に明日、いろいろ報告を求められるやつじゃん……ヒソカも悪のりしちゃってさぁ。女子高生の恋バナ好きを舐めちゃいけないんだよ?

残された私と沖矢さん。
仕方ないので、共にスーパーへと入りました。



「ほんとに買い物するんですか」

「まぁ軽く。つまみ程度ですかね」



そりゃそうだ。だってこの人、ほとんどうちでご飯食べてるんだもの。
食材なんて余らせるだけだもんね。

酒コーナーでウィスキーを選ぶ。バーボンだった。好きだねバーボン。
おつまみを選んだり、お菓子を選んだり、なんだかんだとスーパーを回っていく。

生鮮食品コーナーを通りかかったときに、ふと我に返った。
沖矢さん……赤井さんが、スーパーで買い物してる。野菜の横をカゴ持って歩いてる。
なんて……なんて、似合わないんだろう……!



「セレナさん?」



思わずふふっと笑いが漏れてしまって、不思議そうな顔をされる。
なんでもないよ、と手を振って、誤魔化すようにカゴにみかんを入れた。

ぶらぶら歩いて、肉コーナーに差し掛かる。



「今日の夕飯は何でしょうか」



うちで食べる気満々ですね。



「何が食べたいんですか?」

「そうですね……何でも美味しいですが、強いて言えばトンカツでしょうか」

「あー、トンカツ……いいですねぇ」



そんな会話をしていたからだろうか。
スーパーによくいる、試食を提供するおばちゃんが、すごくニコニコしながらこちらを見ていた。
なんだろう、温かい目で見られている。



「可愛い新婚さんだねぇ」



おおおおおばちゃーん?!?!

違うよ?! 違うからね?!
よく見て私制服! あいあむ女子高生!
いや、法律的には新婚でもおかしいことはないんだけど、いややっぱりおかしいよね?!
とりあえず慌てて否定したら、あらあらとますます温かい目で見られた。なぜだ!

再度念押しで否定しようと口を開いたところで、ぐいっと肩を引き寄せられる。



「残念ながら、夫婦ではないんですよ……まだ、ね」

「あかっ……沖矢さん!」



何言ってんだアンタは!
思いっきり睨みつければ、楽しそうに笑われる。

お、おばちゃーん!「あらあらまあまあ」じゃないから!

結局、おばちゃんの誤解は最後まで解けないまま。
「仲良くねぇー」なんて声を受けながら、半ば逃げるように沖矢さんを引きずって行くことになりました、まる。



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