「ご注文はお決まりでしょうか?」
「ブレンドを二つ……いえ、やっぱり一つ。あとルイボスティーを」
「かしこまりました」
ウェイターが去ってから、私は目の前の女の子を見つめた。
何か言う前に注文されたのは全くもって構わないが、その内容が内容だ。
「ルイボスティー……」
「苦手かしら?」
「いや、好き嫌いはないよ」
「なら、これにしておきなさい。鉄やカルシウムも多いわよ」
言って、お冷やを口に含んだ彼女は小さく笑う。倣って口を付ければ、ほのかにレモンの爽やかさがあった。
とある郊外の喫茶店。
私がここに彼女━━目の前で優雅にこちらを見つめてくる美女、紅子ちゃんを呼び出したのは、理由があってのこと。
小泉紅子。快斗のクラスメートの、魔女。
この世界で魔女かよ、と思わないでもないが、彼女の力は正真正銘本物。赤魔術、という力の正当継承者らしい。
快斗を挟んでの知り合いではあったけど、こんな風に二人で会うのは初めて。来てくれたことに感謝する。
少し相談してみようかな、程度の悩みがあったのだが、先ほどの注文で半ば解決してしまった。
解決、と言っていいかどうかは微妙だが。
「……やっぱり?」
確認するつもりで問いかければ、その意図を正確に読みとってくれた紅子ちゃんが頷く。
そして不思議そうに、少しだけ首を傾げた。
「どうして私に?」
「同じ高校の子にはちょっと話しにくくてね……あと、紅子ちゃんなら分かるかなって」
「そうね」
クールに返した紅子様は、運ばれてきたブレンドコーヒーに口を付ける。ブラックですよ、大人ですね。
しかし、分かるのかぁ。
そうかぁ、と感心ともなんともいえない息を吐く。
「ちなみに何で分かるの?」
「一人の身体に二つの魂が宿っている理由なんて、そういくつもないわ。一番可能性が高いのが妊娠なだけよ」
魔女って魂とか分かるのか……。
妊娠。
はじめは、そういえば今月は女の子の日がきてないなー、程度にしか考えていなかった。
自慢じゃないが健康優良児だ。児じゃないって? 知ってる。
今更この世界程度のストレスでまいるほど、可愛い性格もしていない。
となると残りはそういう可能性なのだが、ちょっと心当たりもあるだけに笑い飛ばせなかったんです。
「おめでとう、と言っておいてよろしくて?」
「うーん……うん、そうだね……ありがとう」
答えると、紅子ちゃんはにっこりと笑った。美人の笑顔、眼福だなぁ。
なんてことを思いながらルイボスティーに口を付けた私の前で、おもむろにスマホを操作する彼女。操作といっても、指先でトントンとタップし、ロックを外し、途中だったらしい文章をトンッと送信しただけ。
だけ、だったのに。
「ん? 快斗、あれヒソカも……っえ、なに」
スマホが震えたので取り出せば、快斗から、重ねてヒソカからの着信。
続いてイルミ、ジン、ネテロ、ゴン、キルア、キキョウ、シルバ、クロロ、ビスケ、ウィング……えっ待って怖い。何事なの。
困惑しすぎて誰からの着信も出られなかったら、続々と届くラインやメール。
「おめでとう……?」
はて。
セレナ!だの、やったな!だの、テンションの高いメッセージたち。
おめでとうって、なにが……え、ちょっと待てよ。
ハッとなって顔を上げれば、優雅にコーヒーを嗜まれる紅子様。
私の視線に気付いて、再度にっこりと笑った。
「おめでとう」
「紅子ちゃん……っ?!」
さっきのトンッなの?!
予めこの可能性を推測して連絡網作ってたの?!
事実確認が取れたから報告したの?!
紅子ちゃん→快斗→ヒソカ→ハンター世界なの?!
やだ、まだ誰にも言ってないのに何か皆知ってる……!
「その子の父親には?」
「……やっぱ言わなきゃダメですよねぇ?」
「私が父親なら飛んでくるわよ」
━━No.002が承認を求めています
はは、と乾いた笑いが漏れた。
飛んできたわ。
滅多に、というか初めてじゃないかという承認依頼に引きつった私の頬に気付いたのか、紅子ちゃんはクスリと笑った。
「腹を括ることね」
「I must be dreaming! I'll never let you go! You're my everything. I love you. I love you, my sweetie...!」
「赤井さん落ち着いて、日本語どっか行ってる。落ち着いてってば! アメリカがログインしてる、日本語ログアウトしてる!」
「Thank God!!!」
「(あ、ダメだこの人聞いてない)」