ジンから譲り受けた酒(BIKKURI)のせいで、ビックリなことに「目が覚めたら、体が縮んでしまった!」な赤井さん。
ひとまず安堵の息を吐いた私は、大木に縛り付けた奴をそのままにハンター世界を後にした。
「おい放置か?! 放置なのか?!」とかなんとか叫んでいた気がするが、知ったこっちゃない。
「……という訳で、明日を乗り切ったら戻れるみたいよ」
自宅に戻って告げれば、赤井さんは安心したように小さく笑った。
かわいい。
私が向こうに行っている間に揃えたのか、身体にぴったりの子供服を身にまとっていらっしゃいます。かわいい。
「この服、ヒソカが買ったの?」
「そうだよ」
「流石に動きにくくてな」
身体は縮んでも、服は縮まないからね。
シャツをぶかぶかと着てる姿も悶絶するほどかわいかったけど、子供服姿もかわいい。
まずい、かわいいしか言ってない。
「シューイチ、明日はどうする?」
「明日?」
「引きこもってもいいし、せっかくだからおでかけしてもいいしね」
ぱちっとウインクで提案するヒソカは、完全に面白がっている。
仕事面では元から単独行動の多い人だから、一日くらい音信不通でも問題なさそうだ。だから、どうするかは本人の気分次第ってやつかな。
結局、面白そうだからという理由で、明日はお出かけになりました。
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翌朝。
ばっちり子供服で決めた赤井さん。
用意周到なヒソカは、靴まで買ってきてありましたよ。我が息子ながら抜かりないわ。
「さて、赤井さん」
なんだ、と見上げてくる小さい身体。
変わらない翡翠の瞳をのぞき込みながら、真剣に諭した。
「この玄関の扉を出たら、貴方は俳優です。貴方は赤井秀一じゃない。いいね?」
「……なるほど。じゃあ、俺は誰かな?」
「私の親戚の、秀くん」
安直だねぇと笑うヒソカを軽く睨んで、再度いいね?と念を押す。
こくりと頷いた赤井さ……秀くん、のかわいさといったら!
そんなこんなでお出かけになった訳なんですが、いやもうほんとに、家を出る前に諭しておいて良かったと思いますね!
だってね!
「あれ、セレナねえちゃん、その子……だれ?」
はーい小さな名探偵がじっと見上げてきまーす!
なぜだ、どうしてこうも遭遇率が高いんだ……! しかも!
「弟さん、ですか? あまり似ていませんね」
バーボンさんまでいらっしゃいますよー!
なんなの、二人仲良しなの?
ヒソカに見送られ家を出た。少ししたところで名探偵と安室さんに出会い、今に至る。二人とも、私が抱き上げている秀くんに興味津々です。なぜだ。
秀くんは流石に居心地が悪いのか、顔を私の肩口に押しつけている。かわいい。
「親戚の子が遊びに来たんですよ。ねー、秀くん」
「秀くんっていうの?」
「そうだよ。ごめんね、ちょっと人見知りなの」
名探偵と会話をしていると、不意に背後に回った安室さんが、子どもの顔を覗き込んだ。
ぴく、と反応する小さな身体。
こらこら、驚かすんじゃありませんよ。
「目が緑なんですね」
「あー、はい。そうですね」
「まるで、誰かさんのミニチュアだ」
唇を歪めて笑うバーボンさんはほんと拗らせてると思う。拗らせ系男子。
安室さんの言葉に、ハッとなった様子の名探偵が、こちらをガン見してきた。やめて。
「秀くん、ですか。ねぇセレナさん、知ってますよね? あの男も、名前に“秀”が入るんですよ」
赤井秀一、とね。
バーボンさん、目が笑ってません。
名探偵さん、目が怖いです。
なんなの?! この子が縮んだ赤井さんだとでも言いたいの?!
大正解ですよ!
どう言えば誤魔化されてくれるかと逡巡する私を救ったのは、腕の中の温もり。
「あかい……だれ?」
舌っ足らずな、子ども特有の高い声が鼓膜を震わせる。
「セレナちゃんのしってるひと?」
「うー、ん? どうかなぁ」
「だめ!」
ぴっ、と小さな手で口を塞がれて、瞬いた。
だめ?
っていうかセレナちゃんとか!
私の脳内大忙しです。
「セレナちゃんのしゅーくんは、ぼくだけ!」
はい大打撃いただきましたー!
悶絶する私を余所に、ぷんすか怒る幼児に毒気を抜かれたらしい安室さんと名探偵は、小さな秀くんに謝っていた。
すごい、赤井さんすごいよ。俳優だよ!
この姿を見て赤井さんと結びつけられる人、いないよ……!
ばいばい、と小さく手を振って別れて、お出かけの続き。ちなみに、ブルーパロットに行こうとしてるんです。
子ども相手の他愛ない会話を繰り広げ、二人の気配が微塵も感じられなくなった頃。
思わず、感嘆の息が漏れた。
「赤井さんすごい……」
「あれで誤魔化されてくれるといいんだが」
「いや、あれは誤魔化されるでしょ……」
かわいい以外のなにものでもなかったよ?
到着したブルーパロットでは、快斗がキラッキラで待ち構えていた。
一年分のかわいい!を聞いた気がする。
構い倒されて若干ぐったりな赤井さんを腕に、快斗が笑顔でこちらを向く。
「セレナ、俺、弟が欲しい……!」
なんで私に言うの?!
そういうのはお母さんに言いなさい!