※赤と黒のクラッシュ前辺りのお話
夜の闇をものともせず、赤井さんのシボレーは疾走する。
回りの景色がビュンビュン飛んで行くが、運転者は片手でかるーく運転していらっしゃるんだから驚きですよ。
最初は怖ッと思ったものだけど、何度も乗ってると慣れるよねぇ。
「まだ先?」
「もう少し、だな」
たまに、無性に走りたくなる、らしい。
車が好きな人にとっては、運転って移動に伴う手段じゃなくて趣味なんだね。
ヒソカも嫌いじゃないみたいだし。
こんな風に連れ出されるのも初めてではない。ドライブは結構好きだよ。
海だったりご飯屋さんだったり、毎回お目当ての行き先があるにはあるみたいなんだけど、着くまで教えてくれないんだよねー。
教えてくれるときもあるんだけど、そこは赤井さんの気まぐれらしい。今回は教えてくれなかった。まぁ夜だし、夜景とかかな、とは思うけど。
「着いたぞ」
促されてはじめて、到着したことに気付く。
だって路肩ですよ。ガードレールの向こうは崖。車通りが少ないのをいいことに、堂々と路駐です。
「おぉ、結構綺麗だね」
見えたのは、街の明かりだった。やっぱり夜景だ。
ガードレールに寄りかかって、きらきらと輝く街並みを見下ろす。そんなに上って来たようには思わなかったけど、意外と高いところまで来たらしい。
「気に入ってもらえたかな?」
「ん、綺麗。よくこんなとこ知ってるね」
「前に、仕事で通りかかってね」
隣に立った赤井さんがカチリとライターで火を灯す。オレンジに照らされた、煙草を咥える横顔が色っぽいです。
吸い始めたってことは、一本燻らせる間はここにいるんだろう。そう判断して、眼下の光を眺めた。
「そういえば、ここってどの辺りなの?」
「来葉峠の、真ん中辺りだな」
「ふーん……」
ら、来葉峠ぇえええ!
絶叫してしまった。もちろん心の中ですが。
その峠知ってるよーやだーこの人ここで死ぬ(仮)んじゃないですかー!
何を思って連れてきたのか知らないけど、近々、ということなんでしょうかね。
赤井さんが名探偵とコソコソしてるのは知ってる。っていうか、
快斗はともかく、私やヒソカにも言わないのは、巻き込むことを考えてのことなのかもしれない。今更なのに、ねぇ?
このまま何も言わず、姿を消すつもりなんだろうか。
ふーん……ふーん。
舐めんなよ?
「セレナ? どうした」
「秀一くん」
「……なんだ?」
ぴくりと反応した赤井さん。
暗闇に浮かぶ翡翠を真っ直ぐに見つめると、逸らされることなく見つめ返される。
「残念だけど、手放してあげる気ないから」
諦めて、と告げれば丸くなる瞳。
私と関わった時点で運が悪かったと思ってもらうしかないね!
胸倉を掴んで引き寄せて、唇を重ねる。
煙草の味がした。
悪役よろしく最後にぺろりと舐めて離れてやれば、返ってきたのは小さな苦笑。
「男前だな」
「惚れちゃった?」
「惚れてるさ」
とっくにな、と零した声は、二度目のキスに溶けた。