目の前に並べられた晩御飯。
唐揚げにごぼうとサツマイモのきんぴら、大根の浅漬けと枝豆with塩昆布の和え物、タマネギとお豆腐の味噌汁。彩りにトマトとベビーリーフのサラダ。半熟のゆで卵が添えられているあたり手が込んでる。

言うまでもないですが、我が家の主夫(仮)ヒソカの作です。



「わ、唐揚げだ!」

「今日も美味そうだな」



食卓に着くのは四人。最近は赤井さんが仕事だったり快斗がキッドだったりで、なかなか揃うことがなかった。
みんなで夕飯、久しぶりですね。

手を合わせて、いただきます。
もちろん全員にきっちり言わせますよ。



「ヒソカ、いっつもどうやって献立決めてるの?」

「特別なことはしてないよ? レシピ本見たり、材料が余ってたらそれで作れる料理を検索したり、かなァ」



めっきり主夫だ。
快斗も赤井さんも、すっかりヒソカのご飯に胃袋を掴まれている。ご飯は国境を……世界を、いや、次元を越えるんですねー。

唐揚げにきんぴら、今日のご飯も文句なくおいしい。
おいしい、のだが。



「……ごちそうさま」

「セレナ、もう食べないの?」



いつもより量が少ないことを敏感に感じ取ったのだろう快斗が、不思議そうに瞬いて私を見る。
確かにいつもはもっと食べる。食べるんだけども!



「口に合わなかったかい?」



ヒソカが眉を下げてこちらを見た。
う、やめろ、罪悪感がっ。



「ううん、おいしいよ」

「夕飯前には何も食べてなかったよね?」

「どこか、具合でも悪いのか?」

「え、いや、そうじゃないんだけど……」



三人の視線をひしひしと感じる。
なにこれ、言わなきゃ納得しない感じ?

別に、大したことじゃ、ないのだ。

この間向こうに行ったとき、たまたまゴンに会った。くじら島を出て世界が広がった彼は、相変わらず無茶をしながらも、冒険を楽しんでいる。
ニコニコと話す子どもの話を聞くのは嫌いじゃないよ。
そんな中で、



「……最近ふんわりしたねって、言われて」



そう、ニコニコしたまま、あの子はそう言ったのだ。

ふんわりって!
ふんわりってそういうことでしょ!?
見た目がってことでしょ?! つまり、丸くなったねって! 体型のことだよね!?



「太ったって言われたから、だから、ちょっと減らそうと思ったの」



それだけ!と言うと、男三人は不可解なものを見る目で見てきた。
なんだよ!
どーせ君たちには悩める乙女の心は分からないだろ!

ふん、と拗ねてやると、一番に口を開いたのは快斗だった。



「セレナが、太った……?」

「改めて言葉にしないで、傷付く」

「体重増えてたの?」

「……まぁ、ちょっと」



ここ最近、体重計なんて乗ってなかった。
ゴンの発言にショックを受け、恐る恐る乗ったら……増えてましたよねー!



「太ったか? そうでもないだろう」

「うん、俺もそう思う。セレナはむしろもっと太っていいよ」

「ふんわりしたねって言ったんだろう? それ、雰囲気のことじゃないのかい」



え、なんで私がおかしいみたいに説得されてんの。

雰囲気がふんわりしたってなに、今までの私はツンツンしてたってこと?
ゴンにそう思われてたって? 泣くよ?



「こっちに来てから……正確にはシューイチと仲良くなってからだと思うけど、セレナ、ちょっと変わったよ?」

「うそ……自覚ないんだけど」

「なんていうのかな……あぁ、女の子らしくなった、っていうか」



ちょっとまて。
急に何やら恥ずかしいことになってきた話に動揺する。なんなのそれ!

どう反応するのが正解か分からないでいると、視界の端で快斗がニヤニヤしているのが見えた。



「セレナ」



赤井さんに呼ばれ、視線を上げる。
と、目の前に差し出されたのは唐揚げ。

唐揚げ。

どうしろと、と困惑して視線を彷徨わせると、さらに口元に押しつけられる。
ちょっと! お行儀悪いんですけど!



「体重が気になるなら、食べただけ動けばいい。だろう?」

「そうそう。運動ならボク、いくらでも付き合うよ」



何でもないことのようにいう赤井さんに、ヒソカが笑顔で乗っかる。アンタはただ、人で遊びたいだけでしょーが!

更に乗っかって、はいはーい、と手を挙げたのは快斗。



「俺も、ジョギングくらいなら付き合えるし!」



だから、あーん、と。

……くっ、いっぱい食べるキミが好きってか?!
皆して人をふくよかにさせようってのか?!
上等だ、勘弁してくれって根を上げるまで運動に付き合わせてやるからな!

そんな思いを込めて睨みながら、赤井さんが差し出す唐揚げを頬張った。
……おいしいんだよなぁ。



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