ヒソカがやんちゃしていた、との密告を受け、現在リビングで説教中。
密告主はイルミ。いつもありがとう。
正座するヒソカと、その前で仁王立ちの私。なんか前にもこんな場面になった気がするわ。デジャヴかしら。
ソファーの背越しに、快斗がちらちらとこちらを覗いている。赤井さんも時折こちらに視線をやるところから見るに、結構気になるようだ。
まぁ当然か。騒がしてごめんなさいね。
「で、なにがどーなってそーなったの」
じろりと見やれば、ぷいっと顔を背けられた。
子どもか!
天空闘技場の近くで、ヒソカがとあるハンターをぶちのめした、らしい。どうやら次に当たる予定の相手だったとか。
現場に居合わせたイルミが、わざわざその様子を写真に撮って送ってくれたのだ。その事実に間違いはない。現場は、その……真っ赤でした。
連絡をもらって飛んでいった私は、興奮状態のヒソカを問答無用で伸してその場を去ったのだ。
ひとまず風呂に放り込んで洗って。
適当に着替えさせて。
ヒソカの目が覚めて現在に至る訳ですね。
「ヒソカ」
呼べば、ぴくりと揺れる肩。だが、視線は一向にこちらを向かない。
もー!
何がどうなってそうなったか。
肩がぶつかったからと喧嘩をふっかけた過去がある程度には気の短い息子(仮)だ。
こちらにきてだいぶ落ち着いたと思ったが、まだまだだったのかなぁ。
「ま、まぁまぁセレナ! ヒソカも反省してるみたいだし!」
気まずい沈黙に耐えられなくなったのは、ギャラリーの方だったようだ。
ソファーの背からひょこんと顔を出した快斗が、私へと声を掛ける。その声は若干震えていた。
ちなみに、二人には「ヒソカがちょっと派手に喧嘩してたから怒ってる」とだけ言ってあります。
「反省してる……どの辺が?」
ヒソカは未だ顔を背けている。
どこをどう見たら反省が感じられるのかとじと目で言い放てば、言葉に詰まった快斗がソファーの向こうに引っ込んだ。
赤井さんは苦笑するのみだ。
ふはは残念だったなヒソカ、援軍は引き返した!
「……だって」
根気よく見つめていれば、やっと観念したのか、ヒソカがその重い口を開く。
昔からこうだ。
こちらが黙って見つめ続ければ、最終的にはヒソカが折れる。
まぁ、こんなこと知ってるのなんて私くらいだろうけど。
「バカにされたんだ」
「なんて」
何を言われたのかと聞き返せば、ヒソカはまた口を閉ざした。
あー、もー。
「当ててあげよっか?」
「……当たらないよ」
「そうねぇ……化け物の子とか、キチガイの子とか……あぁ、親の程度が知れるとか、その辺?」
ドンピシャは無理でも、近い所はいってるだろう。
僅かに目を見開いたヒソカを見れば分かる。
「な、んで」
「自分の悪口言われたくらい、アンタにはどうでもいいことでしょ。なら、私かなってね」
自惚れだけど、と付け足せば、ヒソカは居心地が悪そうに座り直した。
やれやれ。
理由があることくらい分かってた。自慢じゃないが、私が育てたのだ。原作ヒソカより随分と常識的なヒソカに育ってますからね!
「セレナを馬鹿にされたから、ヒソカは怒ったのか?」
「そういうことみたい」
「そうか……なら、よくやった、と言っておくべきかな」
少々やりすぎたようだが、と赤井さんが苦笑する。
少々……いや、だいぶ……ま、まぁ、赤井さんたちには相手がどうなったかまでは言ってないから、ね。
言うつもりもないし、ね!
「悪口に暴力で返したって、何の意味もないのよ。それに、試合前のただの挑発でしょ。常套手段じゃない」
「言われっぱなしじゃ悔しいじゃないか。セレナは化け物なんかじゃないし、ボクの……ほんとは、違うのに」
あぁ、そっちか。
うーん、まぁ、向こうじゃそれなりに強かったし、名も通ってると自負してる。ハンターのセレナとしても、ヒソカの母としても。
今更言うまでもないことだが、私が産んだわけじゃない。でもねぇ、中には、ほんとに私の子どもだと思ってる人もいましたねぇ。
普段なんやかんやと好き勝手言いながら、それを負い目に思っているところもあるのだろう。
母思いの優しい息子と思えばいいのか、何なのか……とにかく。
「場所を考えなさい。場外乱闘ダメ絶対。忘れたの?」
昔教えたはずなんだけどなぁ。
「その化け物に育てられた自分はこんなに強いって、試合で示しなさいよ」
「……昔の、キミみたいに?」
「そう。売られた喧嘩を買うなとは言わない。買う場所を選べって言ってんの。誰もいない所でぶちのめしたって、何も証明できないじゃない」
何があったってヒソカは私が育てたことに変わりはないんだし、育て方が大きく間違ってたとは思わない。
ちょっと性格がアレかなーと思うところもあるが、そこは仕方ないよヒソカだもの!
「私の子でしょ。堂々としてなさい」
ピンッとデコピンしてやった。
きょとん、と瞬いたヒソカは、なんだか昔の、子どもの頃を彷彿させる。思わずわしゃわしゃと撫でてみたが、特に抵抗もせずされるがままだ。
乱れた髪から覗く耳が、いつもより少し赤い。
……まったく、可愛い息子だよ、ほんとに。
「セレナ、超お母さん……」
「あぁ。いいお母さんだな」
「所々、会話が物騒だが」という赤井さんの声が聞こえてハッとした。
やっべギャラリー忘れてた!