(名探偵視点)

いったん解散、30分後に集合!
博士の掛け声を合図に、ワァッと駆けだした子どもたちを呆れながら追いかける。

博士が、またもやデパートの商品券を当てたのだという。今度は懸賞だそうだ。なんという強運。
子どもたちとレストランで食事を、と出かけてきたのだが、予約の時間より随分と早く着いてしまった。
好奇心旺盛な子どもをじっとさせておくのは難しい。そのためのいったん解散だ。

博士はレストランの前で休憩することを選択したので、俺と灰原で子どもたちを追う。
すると、勢いよく駆けだしていったはずの奴らが物陰に隠れるようにしているのが目に入った。何かを覗いているらしい。
なんだ?
首を傾げて、背後から声を掛けた。



「お前ら、どうした?」

「しっ!」



素早く振り返った歩美に、小さな声で制される。
同様に振り向いた元太と光彦にも、しーっ!とポーズ付きで諫められた。
理由が分からず、灰原と揃って疑問符を飛ばす。

あれ見て、と呟いた歩美に手招きされ、小さな指が差す方に視線をやった。



「あれは……昴さん?」

「セレナさんと一緒みたいね」



歩美がじっと見つめる方向には、二人の男女━━沖矢さんと、セレナがいる。
ちら、と周囲に目をやるも、ヒソカさんの姿はないようだ。とすると、二人か。 



「あの二人がどうした?」

「コナン君、あの二人を見て何も思わないの?」



じっと見られ、はぁ?と声を上げた。
すかさず男児二人に口を押さえられる。お前らなぁ……。

あの二人に思うこと。
そりゃあ、沖矢さんは……あの人だし、セレナはいろいろと不審点が多い人物。思うことがない、わけがない。
ただ、歩美たちが何を思って、隠れるようにして二人を観察しているのかは、心当たりがなかった。



「あれ、デートだぜ!」

「やっぱりお二人は付き合ってるんですよ!」

「はぁ?」

「「「しーっ!」」」



子どもたち三人に人差し指を立てられ、はいはいと口を噤んだ。お前らのがよっぽどうるせーぞ?

歩美いわく、やっぱりあの二人は付き合っているのだと。やっぱりって……。
あれはデートに違いない。気になるから尾行する!少年探偵団出動!ということらしい。

はは、と乾いた笑いが零れた俺は悪くないと思う。



「まあでも、確かに気にはなるわね」

「灰原まで……」

「いいじゃない。時間潰しよ」



見ているだけなら迷惑にはならないわよね?と。へいへい……。
ノリノリな子どもたちを諦めさせるのは難しい。渋々、尾行するのだという一行に加わった。

服屋のマネキンを指さしたり、本屋で新刊を手に取ったり。視線の先で、二人は何かを話しながら歩いている。その距離は、結構、近い。



「何話してるのかなー……」



ここじゃ聞こえない、と歩美が悔しそうに呟く。



「もっと近付くか?」

「ダメよ。あまり近付くと、気付かれるわ」

「あっ、お店に入りますよ!」



アクセサリーショップのようだ。
沖矢さんに用があるとは到底思えないので、セレナのための入店だろう。
実際、あれこれと手に取るセレナを、少し後ろから沖矢さんが見つめている。
男には、ちょっと居心地の悪い空間だよな……。
そう思って苦笑をこぼした、そのとき。



「……あ」

「コナン君、どうかしたの?」

「あ、あぁ……いや、何でもねぇよ」



今、ちらりと振り返った沖矢さんと目があった気がした……が、気のせいか。

店内では相変わらず、二人の距離が近い。
髪飾りを一つ手に取った沖矢さんが、背後からセレナの髪に当てる。
それに気付いた彼女が振り返り、沖矢さんを見上げながら笑った。何かを告げている沖矢さんの表情も穏やかだ。

そのまま、それを持ってレジに向かう沖矢さん。少し慌てて追いかけるセレナ。
買ってやろうとする彼氏に、自分で買うからいいよと遠慮する彼女、というところか。

……なんつーか、



「デートだ……」

「デートね……」



思わず零れた感想が、灰原と被った。

店を出たセレナの手には、小さな紙袋。どうやら沖矢さんが押し切って買ったみたいだな。

そのまま歩き出した二人を追うように、子どもたちも足を進める。



「おいお前ぇら、そろそろ時間だぞ?」

「ええー、もう?」

「もっと追っかけようぜ!」

「博士が待ってるし、レストランの予約の時間が来ちゃうわよ」

「ざんねーん……」



本気で残念がっている歩美の視線は、二人に向いたままだ。
どんだけ興味あるんだよ……。



「あぁっ!」



不意に声を上げた光彦。その視線に釣られて、一斉に前を見た。
そこで目にしたのは、ごく自然に手をつないだ、二人の姿だった。
おいおいおい。

歩美、「きゃー!」じゃねぇよ。
灰原、何が「なるほどね」なんだ。
元太、光彦、ニマニマすんな……!
別に沖矢さんとセレナがどうしてようが何も問題はないが、あれ、中身、あの人なんだぞ!?

照れたように、繋がれた手を軽く振るセレナ。
穏やかに笑って、繋いだのとは反対の手でセレナの髪を耳にかけてやる沖矢さん。

何度だって言うがあれあの人だぞ?!
くそっ、見ちゃいけねーもん見てる気になる……!

って、恋人繋ぎだと?!

動揺しているらしいセレナを余所に、絡め取った手を軽く引いて歩く沖矢さん。
セレナは文句を言っているようだが、強く解こうとしていないところを見ると、満更でもないのだろう。



「見てるこっちが恥ずかしいわね……」



灰原の言葉に大きく頷いて、さて、今度こそタイムアップだ。
目をキラキラさせる子どもたちを引きずって、その場を離れた。さっきからスマホが震えている。博士だろう。

去り際、ふと、視線を感じて振り返った。
繋がれた手はそのままに、店頭で服を眺めるセレナ。
その少し後ろで、後ろを……こちらを、向いている沖矢さん。
スゥッと開かれた目が、確かに俺たちを見ていた。

思わぬ事態に動きを止めた俺に、彼はフッと本来の笑い方を見せる。
そして、人差し指を、そっと唇に当ててみせた。

━━Shhh...

気付いてやがった……!
あの人、全部わざとか?!俺たちがいることを分かった上で見せつけてたのか!?

……大人げねぇー……。
引きつった笑いしか出なくて、そっと踵を返したのだった。



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