冬も近いのに温かいなぁと思っていた矢先、グッと寒さが増した本日。
ぶわっと吹き抜けた風の冷たさに、思わず「寒ッ」と声が漏れた。
早くマフラーを出してこなきゃ、なんて考えながら、帰宅の足を早める。なんで女子高生ってスカートなんだろ。しかも生足なんだぜ。若いね!
「ただいまー」
「おかえり」
今日も今日とてなぜかリビングで寛ぐ赤井さんに、普段なら多少なりとも思うところがあるのは事実。だが、今日に限ってはいてくれてよかった。
小さいながらも暖房器具を既に出しているリビングは、彼によって暖められている。ありがたい。
「うああ寒かったよー……」
「木枯らし一号だそうだ」
「あー。どうりで……冬がきてるなぁ」
納得して頷く。
そこでふと、普段なら手を洗えだの上着を掛けろだの言ってくる保護者のような男の声がかからないことに気付いた。
……しかしあの子、いつの間にそういうポジションになったんだろうね。
「ヒソカは?」
「快斗と出掛けたぞ。泊まってくるらしい」
「えっ珍しい」
マジックつながりか仲の良い二人であるが、泊まりがけで出掛けたことはなかったはず。
ヒソカは大体一人でふらふらしてるし、快斗はキッド関係で寺井さんといることも多いしね。
聞けば、今回は二人でマジック合宿らしい。快斗、前からヒソカにマジック教えてって言ってたし、そのために場を設けたのかしら。
「明日休みだからかな」
「あぁ。だから今日にしたんだろう」
「となると、今夜は二人かぁ……あ、お仕事行く?」
仕事前に立ち寄っただけかもしれない、と思って聞いてみると、赤井さんはぱちりと瞬いて笑った。
徐にスマホを取り出すと、その場で電源を落としてみせる。
なぜ!?
そんな私の疑問に、笑みは益々深くなった。
「せっかくセレナと二人なんだ。野暮な呼び出しを受けたくないだろう?」
最初からお泊まりコースのつもりですね……。
赤井さんのことだから、ちゃんとお休みの手続きみたいなものはしてあるんだろう……してあるよね……?
お仕事いいのだろうか……私は別にいい、というか、お泊まりも歓迎、いや違うな何て言うか……うれし、でもなくて……ええと……
「……夕飯はあったかいものにしよ!」
ええい何でもない!
とにかくお泊まりですね分かりました!!
自分の考えに頭振っていると、何やら察したのか、赤井さんがクツクツと喉で笑う。
「ヒソカが鍋を用意していったぞ」
「鍋?」
言われてキッチンを覗けば、コンロの上に土鍋が一つ。蓋を開ければ、ふわりと唐辛子が香った。
「お、チゲ鍋!」
いいねー!分かってる!
さすが主夫(仮)。寒い日への配慮もピッタリですね。
ほくほくした気持ちで火をつけ、食事の用意。
「赤井さーん。ごはんにしよー!」
いただきます。
ごちそうさま。
我が家で食事をするときは、手を合わせるのがルール。
今ではすっかり慣れた赤井さんも、こちらが言う前に手を合わせている。また一人染めてしまったぜ……。
そのまま、まったりタイム、お風呂……と済ませて、さて寝ますかーとなった今、
「何この状況?」
風呂上がりで上半身裸の色男に押し倒されています。
何なの?
残念ながら動揺するでも恥ずかしがるでもない私の態度だが、髪からぽたりと滴を垂らす赤井さんは楽しそうに口角を上げている。
髪を!拭きなさい!!
「今日は何の日か、知ってるか?」
今日?
今日は11月22日だけど、なにか────え、まさか。
「
は……謀ったなーーーーー!?!?
悪戯が成功したように無邪気な赤井さんの顔から察する。これヒソカも快斗もグル!?
最初から今夜、二人にするつもりだった!?
二人で仲良くさせる(意味深)つもりだった!?
「……セレナ」
ちぅ、と触れるだけのキスが一つ。
ぽたりと落ちる水滴が冷たい。
「嫌か?」
少し眉を下げ、グリーンアイが気遣うように細められる。
くっ……私がその瞳に弱いと知っての行動なら策士すぎるぞ秀一くん……!
こうして抵抗せずにいる時点で答えは分かっているはずなのだが、こういうとき、言わせたいタイプなんだから厄介だ。
「……明日も休みなんだよね?」
学校は休みだが、赤井さんの職場が休みとは限らない。そう思って確認してみると、赤井さんはふっと笑って見せた。
予定を聞く=この体勢を受け入れた訳じゃないんだからね?!
「呼び出しがない限り、休みだな」
あなたのスマホ、夕方から電源切ってますよね?
思わずじと目で睨み上げるが、赤井さんは楽しげに笑ったまま。
……ま、いいよ。
どうせあのスマホ以外にも連絡手段はあるんでしょうけど、呼び出されるような案件はなさそうだという判断なんでしょう。
緊急事態になったら例えそういう行為の最中だろうと出て行くだろうしね。むしろ私が追い出すわ。
明日は、互いに(多分)休み。
今日は……いい、夫婦の、日。
「……しょうがないなぁ」
くるりと体勢を入れ替え、突然の動きに瞬く赤井さんに多い被さる。
ぺろりと唇を舐めれば、その瞳に情欲の色が灯った。
「理由なんてなくたって、お誘いしてくれてもいいのよ?」
「それは嬉しい、が」
隙を突かれ、再び体勢を入れ替えられる。
む、やるな。
というか何マウント取り合ってるんだ私たち。
「今日という日に、セレナ、お前を抱きたい」
真っ直ぐ見つめられて、思わずごくりと喉が鳴った。
じわり、じわりと熱くなる。
いつになくストレートな物言いは、いとも簡単に私の心を射抜いてしまった。
長い夜が始まる。