爆発と同時に繋いだドア
クレーン車の運転席から自宅玄関へと繋げたそれによって、私の身体は爆音+爆風と共に廊下へと転がり込んだ。
瞬時に体勢を立て直してドアを閉じるも、振り返った先の廊下は風や瓦礫によって悲惨なことになっていた。やっべー、ヒソカに嫌味言われるぞこれ……。



「セレナ!? 何事!?」



突然の爆音に驚いたのだろう、リビングに繋がるドアから顔を出した快斗が慌てて駆け寄ってくる。
念を繋ぐ先を玄関にしておいて良かった……。リビングにしていたら、快斗に怪我を負わせたかもしれない。この廊下の惨状から見ても、大いに有り得る。自分のことながら、咄嗟の判断力を褒め称えたい気持ちでいっぱいだよ。

さて。私の周りであわあわしている快斗は可愛い──じゃなくて、快斗には悪いが、私は東都水族館あっちに戻らなければ。



「ごめん、詳しい説明は後で」



しっかりと目を合わして告げれば、ぱちりと瞬いた後、真剣な顔で頷いてくれる。
いい子だなぁ。



「これだけ聞かせて。……大丈夫?」



聞きたいことは色々あるだろうに、飛び出した質問は一つだけ。しかも、何とも抽象的な問いかけだ。

ぐるり、私の脳内に現状が回る。
赤井さんは恐らく無事。ヒソカは絶対無事だし、ヒソカが動いているから探偵くんも無事。観覧車が止まったのだから、探偵団の子どもたちも無事だろう。
キュラソーも保護したし、彼女が死んだと思わせるための偽装工作もばっちり仕掛けた。うんうん、特に問題は見当たらない。



「大丈夫」

「ならいいや」



先ほどとは一転、けろりとした笑顔に面食らう。この子は、こう、私やヒソカへの信頼が厚すぎるよね……?
なんでかなぁと思いつつ、とりあえず不安にさせるよりはいいかと無理矢理納得する。

快斗に笑いかけて立ち上がると、またまた念を発動。玄関の扉を開ければ、その向こうは喧騒の響く東都水族館だ。



「じゃ、行ってきます」

「気をつけて!」



快斗の声を背に、しっかりと扉を閉めて念を解除。あんな風に言ってはいたけど、追ってこないとも限らないしね……。

出たのは、観覧車から少し離れた売店の入り口。転がっていた輪っかは、煙と共に止まっている。良かった、ちゃんと止められたようだ。
あの煙は潰れたクレーン車だろう、と当たりをつけて、見える位置へと移動する。
その最中、視界に飛び込んできた人影。
声を掛けようと吸った息を、続いて飛び出した人影を見て慌てて止めた。



「待て、赤井ッ!」



鬼気迫る表情でクレーン車に駆け寄った人影──赤井さんは、燃える車体に躊躇なく手を伸ばす。
ジュッ。
人より感度のいい私の耳が、肉の焼ける音を拾った。



「っ、何、を……」



唖然と見つめる、追ってきた人影──安室さん。確執がある相手とはいえ、余りに突飛な行動にフリーズしたようだ。
その間も、赤井さんは己の身に構うことなく、熱せられた鉄の塊から何かを必死に探している。

何を?
──私か!?



「っきゃぁああああ! 車が燃えてる!」



咄嗟に声音を変えて叫べば、はっと我に返った安室さんがいち早く動いた。
ここで野次馬に見つかるのは、彼にとっては避けなければならない事態のはず。人に見られる前に撤退せざるを得ない。



「っ、赤井……!」



険しい目で睨む先、赤井さんは声にも反応せず、ひたすらにクレーン車へと手を伸ばす。
数秒の後に見切りをつけたらしい安室さんが、ギリッと唇を噛んで踵を返し、走り去った。
その後ろ姿を見届けて、私は物影から突進する。



「赤井さんっ!」



聞こえていないのか、手を伸ばすことを止めない彼の正面に回り込む。
焦点の合わない瞳をのぞき込んで、再度呼び掛けた。



「赤井さんっ! 私なら無事だから!」

「……、セレナ……?」

「そうですセレナさんです!」



瞬いたグリーンアイと視線が絡んで、漸く彼の意識がこちらに戻ってきたことが分かった。

存在を確かめようとしているのか、恐る恐るこちらに延ばされる手は震えている。見ていられなくて、こっちから思いきり抱きしめた。



「っ、セレナ……ッ、よかっ、た」

「ごめんね、怖がらせたね。大丈夫だから」



念で脱出したから無傷だ。
……まぁ正直、あのまま脱出せずに爆発に巻き込まれても、死にはしないだろうという自信はある。ハンターってそういう生き物だよ。
何度も説明しているんだけどなぁ。こればっかりは、分からないか。

心配してくれるのは嬉しいけど、それで無茶をされるのは辛い。この辺、ヒソカとも共有できる悩みなんだよね。



「……お前の、強さを……」

「うん?」

「セレナの強さを信じられない俺を、許してくれ……」



ぽつりと零された言葉に苦笑が浮かぶ。
しゃーない。赤井さんは大分信じてくれてる方だよ。

未だ震える彼の手をそっと取る。真新しい火傷の痕が痛々しい。



「……怪我しちゃヤだよって言ったでしょ、秀一くん」



目尻に口付ければ、今度は向こうが苦笑を浮かべた。苦笑できるくらい落ち着いてきたならいい傾向ですね。

よく見れば、火傷以外にもあちこち怪我があるようだ。あの銃撃の雨の中にいたのだから当然か。
早急に治療しなくては、と考えを巡らせる私の意識は、ポケットからの振動によって引き戻された。電話だ。



「ヒソカ、今どこ?」

『海を挟んだ埠頭のトコ。車回収しなきゃいけなかったからねェ。拾おうか?』

「んん、いいや。赤井さん連れてドアから帰る。子どもたちは?」

『探偵くんとそのオトモダチなら、適当に拾って観覧車の近くに置いておいたけど、マズかった?』



ケラケラと明るい声に「上出来!」と笑って告げる。
いやーよくできた息子だわ!



『頑張ったから、何かゴホービ欲しいなァ』

「そうね、全部終わったら何でも言って」



ヒソカが対価をねだってくるのは珍しいが、皆無でもない。今回は大分動いてもらったし、ご褒美が欲しいと言うのなら何でも買ってあげましょうとも。
そう思って気楽に口にしたところ、



『──ほんとう?』



ぞわりと鳥肌が立つほど甘い声で返されて、思わず通話を切った。
おい……アイツいつ興奮したんだ……?
ちょっと早まったかもしれない、とは思うが、全部終わったらと約束したのでひとまずいいだろう。
いいと思う。

……いい、よね……?



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