観覧車の上で、花火をバックに殴り合う成人男性二人。
はっきり言おう。ドン引きです。

赤井さんを追いかけて、観覧車に忍び込んだ私たち。
途中で小さな名探偵を見かけて、バッティングしないように先回りして……そうしてたどり着いた先、観覧車の頂上で見たのが、この光景な訳ですね。
私もヒソカも絶(気配を消す技)が得意な方なので、これっぽっちも気付かれていません。

いくら花火とイルミネーションがあるとはいえ、足下は暗い。
しかも動いてるんですよ?
落ちたら死ぬかもしれないんですよ?
なのに赤井さん、安室さんの二人は、重力を無視したアクロバティックな動きで殴り合っている。
なんなの?! 二人とも人間じゃなかったの!?



「いいなァ、ボクも混ざりたい」

「余計カオスになるから止めて」



うっとりした声を漏らす隣の男にため息一つ。

っていうか、のんきに殴り合ってる場合じゃないんじゃないのかなぁ。
もうすぐ名探偵ここにくるんじゃないの……え、まって、名探偵こんな危険地帯にくるの?



「! ヒソカ!」

「はぁい」



殴り合いの反動か、二人が揃って足を踏み外した。その体は二輪の間、観覧車の内部へ落ちていく。
ヒソカへと声を掛けた私は、飛んで手を伸ばし、赤井さんを掴み上げた。そのまま観覧車の上へと引き戻す。
安室さんは落ちていったけど、ヒソカが追ったから大丈夫だろう。



「っ、セレナ、か……?」

「ちょーっとお話ししましょうか、秀一くん」



にこりと笑って見せれば、赤井さんは気まずげに目を反らした。
逃がしませんけど!



「こんなところで何をしている?」

「こっちの台詞だけど。なんでこんなところで殴り合ってるの?」

「あれは……安室くんが先に」

「子どもか! 結局乗ったなら同罪でしょーが!」



もう、とため息を吐けば、「すまん」と小さな謝罪。
所在なさげな佇まいは普段なら「かわいいなー」で許すところだけど、状況が状況だけにそうもいかない。

やれやれ、まったく困った大人たちだぜ。



「この観覧車にキュラソーが乗ってるなら、組織が狙ってくるのは上からだって思ったんでしょう?」

「……あぁ」

「なら、対処を考えよう。喧嘩してる場合じゃないよ」



小さな探偵くんも来てるしね、と言えば、赤井さんの目が少し見開かれた。
予想外? まさか。想定内・・・でしょうに。
じっと見つめると、赤井さんはしっかりと頷いた。



「とにかく、赤井さんは安室さんと和解……とまではいかなくてもいいから、一時的にでも協力体制を築いて」

「やってみよう」

「それから、名探偵と合流ね。ほんとはこんな危ないって分かってるとこに子どもを来させたくないけど……」



仕方ない。もう来てるんだもん。
深い溜め息をこぼせば、苦笑した赤井さんが私の髪を撫でた。



「セレナとヒソカは、どうする?」

「姿を見せる気はないけど、できる限りの援護はするよ」

「だが」

「言っとくけど、危ないから帰れってのはなしだからね。もうここまで来ちゃってるし。どうしても帰らせたいんなら、秀一くんのことも引きずって帰るけど?」

「……分かった。援護、よろしく頼む」

「話、まとまった?」



足下から声が聞こえたと思えば、ヒソカが登ってきたようだ。安室さんは下で寝かせてあるらしい。
先ほどの話を繰り返せば、ヒソカも笑って頷く。



「ワクワクしちゃうよね」



なんとも楽しげな声に、肩をすくめて溜め息。

ヒソカのワクワクは、周囲にとってはイコールで嫌な予感だ。そして迷惑なことによく当たる。
この状況でワクワクするとか、大爆発待ったなしじゃないですかーやだー。

思わず遠い目になった私の前で、赤井さんのスマホが震えた。



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