流石は連休真っ只中、東都水族館は大変混み合っていた。
もう夜だけど、イルミネーションを見にこの時間から入園する人も多いみたいだ。
「セレナ、こっち」
ここまで来たものの、どうやって合流しようかと頭を悩ませていたとき、背後から呼ばれて振り向いた
少し離れたところで、ヒソカがひらりと手を振っている。よかった、連絡する手間が省けた。
しかし、近くに赤井さんの姿はない。てっきり一緒だと思ったんだけどな。
「赤井さんは?」
「観覧車に上っていったよ」
「一人で? 一緒に行動してるかと思ったのに」
言えば、肩を竦めるヒソカ。
「危ないからお帰り、って言われちゃった」
「何でそこで大人しく引き下がったの……」
ヒソカが危ないような事案だったら、赤井さんその他は瞬殺だよ……。
むしろ、危ないからこそ連れて行ってほしいのに。そこんとこ今までも何度も話してるんだけどなー、もー!
声に出さない心情を理解したらしいヒソカは、苦笑しながら観覧車に視線をやった。
「無くなる前に、ボクも一回乗っておきたかったなぁ」
「縁起でもないこと言うのやめてくれる?」
ほんとに無くなりそうだから!
ライトアップで一際目を引く二輪式の観覧車。キラキラ綺麗ねー、なんて感想より、苦い思いが沸き上がるのが惜しい。
「セレナはどうする?」
「赤井さんのそばに行きたいけど……あんまり近付くと目立つかなぁ」
赤井さんだけでなく、安室さんもあそこにいるはずだから、あまり大っぴらには動けない。というか、動きたくない。
ここに来るまでにヒソカから電話で聞いた、組織の動き。
ノックの疑いが掛けられたバーボンとキールだが、あわやと言う場面で助けが入り、バーボンは窮地を脱した。ヒソカから連絡を受けた赤井さんが現場に急行したからだ。
キールは奴らに拘束されたままだが、組織はひとまずキュラソーの奪還へと動き出したらしい。
キュラソーは公安がここの観覧車へと売れ出した。それなら当然、安室さんもここへ来るはず。
「安室さん、もう来てる?」
「シューイチと先に来ちゃったから分からないけど、来てるんじゃない?」
ヒソカも同意見のようだ。まぁ、だよね。
私はただの女子高生……え、ただの女子高生だよね?
探偵でもないし、警察関係者でもないし、もちろん組織側の人間でもない。うん、やっぱただの女子高生だよね。
そんな私が、こんなところで目立つ訳にはいかないんだよなぁ。
「せめて目立たない格好ならなぁ」
「そう言うと思って、着替え持ってきたよ」
ヒソカが差し出してきたのは、確かに私の服だった。
黒一色のそれは、いわゆる仕事着。まあ、そのー、あれですね。
ちなみにゾルディック家御用達の仕立屋に頼んだ一品で、超動きやすいんです。
とまぁ、それはいいとして、
「なにこれ、取ってきたの?」
「いい仕事してるでしょ」
褒めて、とニコニコされたので、すごいすごいと褒めておく。
なんか本当に嬉しそうなんですけど。ヒソカさん、キャラ迷子ですよ。
今日、こんなことになるとは思ってなかったから、普通にお出かけ着でしたからね。この後の展開を予想するに、動きやすい服に越したことはない。だって絶対何かあるもん。
しかも目立たないとなれば、これ以上のものはないな。
「どっかで着替えてくるから、そしたらなるべく近くまで行こう」
「了解」
パチッとウインクしたヒソカを後に、着替えを片手に近くのトイレに駆け込んだ。