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「そーいや、この中で男兄弟がいるのは世良ちゃんだけよね」
学校側帰りの寄り道。
ポアロでパフェをつつく園子ちゃんが、不意にそんなことを言い出した。
期間限定のベリーベリーストロベリーパフェ。大粒のイチゴがゴロゴロ乗っていて、お値段なんと540円。惹かれない訳がなかった……!
同じパフェを前にして、真純ちゃんがぱちりと目を瞬かせる。
「急にどうしたんだ?」
「んー、別に深い意味はないんだけど。ほら、私らの周りって一人っ子多いっしょ?」
「そうなのか?」
言われて、周囲を思い浮かべてみる。
まず蘭ちゃんがそうだし、コナン君も一人だ。同一人物だが、工藤くんもか。光彦くんはお姉さんがいたはずだけど、歩美ちゃんと元太君は一人っ子、だと思う。 確か、西の高校生探偵・服部くんと、和葉ちゃんもそうじゃないかな?
園子ちゃんの言う「私らの周り」には入っていないだろうが、快斗も一人っ子だ。
「確かに、言われてみるとそうかもね」
「でっしょー? 私は姉貴がいるけど、周りで男兄弟がいるってのがなかなかいないのよ!」
「なるほどなぁ」
頷く真純ちゃんは、でも、と続けた。
「兄でも姉でも、そんなに変わらないんじゃないかな?」
「そう? じゃあ何かエピソード教えてよ。“お兄ちゃん”の」
「ええ、エピソードかぁ……」
うーん、と腕組みする真純ちゃん。
隣の私は苦笑を浮かべるが、その実、話の中身には興味津々だ。
だって、真純ちゃんのお兄ちゃんっていうと、赤井さんでしょ? もう一人いるけど……確率は二分の一じゃない?
“お兄ちゃん”してる赤井さんの話、聞きたいよ!
「兄が二人いるってのは話したよな?」
「うん、前に聞いた」
「一番上の兄に初めて会ったのは、ぼくが七つになった時なんだ」
「「「ええ?!」」」
私、蘭ちゃん、園子ちゃんの声が重なる。
えっちょっと待ってどういうこと?
一番上の兄って……赤井さんだよね。話聞きたいとは思ったけど、まさかの複雑な家庭事情って方向!?
「それまで会ったことなかったの? お兄さんなのに……?」
「あぁ。ぼくが生まれる前に留学しててさ。二番目の兄が、写真は送ってくれてたみたいだけど……」
はは、と笑って告げられたのは、衝撃的なセリフだった。
「初めて会った時、『誰だ?そのガキ』って言われちゃったよ」
「ええ〜っ、なんかショックね」
「写真送ってたんでしょ?」
「そういう人だからさ」
すっごくクールで、全然笑ってくれない。
初めて会った兄(らしい)人がそんな反応だったら、嫌な印象とか苦手感とか抱きそうなのに。
真純ちゃんのニコニコした笑顔を見る限り、お兄ちゃん大好きって感じなんだよねぇ。
「笑った顔が見てみたい!って思ってさぁ。いろいろやったよ」
「いろいろ?」
「うん。兄がパラソルの下で寝てたから、登って上からバァッて顔出したり」
「パラソルの上から?!危ないよ……」
「兄にも言われたな、それ」
楽しげに笑ってイチゴを口に運ぶ真純ちゃんを、三人揃って見つめてしまう。
真純ちゃん……いい子……。
笑わない人を前に、「何こいつ」ではなく、「笑った顔が見てみたい」になるなんて。ほんといい妹さんだ。赤井さんは感謝するべきだと思う。
その後、話は園子ちゃんの「パラソルと言えばさー」で海に移り、水着に移り、一緒に新しい水着を買いに行くための約束と計画に移った。
女子の会話なんてこういうものだよね!
「じゃーまた来週の土曜ね!」
「オッケー。でもその前に、明日も学校で会うけどな!」
「あは、確かに」
「また明日ー!」
バイバーイと手を振って、ポアロを後にする。
来週の土曜は皆とショッピング。楽しみ!
女子会を終えて帰宅すると、リビングで赤井さんがくつろいでいた。
またかよこの人。大体ここにいるんだけど、自分の家使ってるのかな……。
「遅かったな、セレナ」
「蘭ちゃんたちとお茶してた」
ポアロでねと続ければ、ホォ、と赤井さんの眉がちょっとだけ寄る。
言いたいことは分かりますよ。安室さんでしょ?
いましたよ、安室さん。パフェ作ってたの安室さんだったし。
パフェを運んできた後はカウンターの向こうで洗い物とかしてたけど、絶対こっちの話聞いてましたよ。
でもまぁ、聞かれて困る話題でもなかったし、大丈夫でしょ。
「ところで、赤井さん」
「なんだ?」
ソファーに座る赤井さんの背後に回り、首筋に抱きつく。ふわりと煙草の匂いがした。
首をこちらに向ける赤井さんは楽しげだ。
「初めて会う妹にガキって言うの、よくないと思うよ?」
ピタッと動きを止めた赤井さんに笑って、首に回していた腕を離した。
思い至ったのか、え、とか、いや、とか狼狽えている赤井さんが可愛い。
ふふん、幼い真純ちゃんの仇!
今じゃ妹のこと可愛くて仕方ないくせにね。若き日の秀一くんったら、とがってるぅー!
ケラケラ笑っていたら、背後から伸びてきた腕に抱き込まれた。解せぬ。
「……誰に聞いた?」
「赤井さんが初めて会った『ガキ』に」
答えれば、抱きしめる腕にぎゅうっと力を込められた。
ちょっと、苦しいんですけど。
「真純ちゃん、いい子だよねぇ」
「……ああ、よくできた妹だ」
「そうだね。よくできたガキだねー」
「勘弁してくれないか……」
まぁ、若気の至りを指摘されるのは恥ずかしいもんだしね。仕方ない、いじめるのもこれくらいにしておこう。
いい加減苦しいし。
降参の意を込めて、回されている腕をぽんぽんと叩いた。
……ちょっと顔が赤いのは、黙っていてあげようかな。
可愛い秀一くんが見れて満足です!