「見つけたぞ! 今日こそ、そのヤドンを奪ってやる!」
冒険二日目。
まだメレメレ島を出てもいない、どころかまだ最初の街なのだが、またもやスカル団に絡まれる私たち。
どうやら昨日の人たちのようだ。
寝た起きたら再びこんにちは、なんて、思ったより早い再会である。
「昨日ヤドさまに凍らされたのに、また来たの?」
「うるさい! 同じ失敗は二度しねぇのがスカル団だっ!」
私の両側には、モクローを頭に乗せた快斗と、ニャビーを腕に抱いた赤井さん。
スカル団の狙う色違いヤドン……ヤドさまは、私の足下でコテンと首を傾げている。
あざとい……あざといぞヤドさま……。
「行けっコイル!」
「ヤドンを痺れさせてやれ!」
スカル団が繰り出したコイル×2が、その場でくるりと一回転。やる気の現れかな。
昨日と手持ちを変えてきたね。タイプ的には苦手とする相手だが、残念ながら私にもヤドさまにも焦りはない。
快斗と赤井さんにもないようだ。のんびりと成り行きを見守られている。
まあね……昨日、ヤドさまのレベル見ちゃったしね……。
「セレナ、どうする?」
それでも赤井さんが私に声を掛けたのは、やっぱりタイプ相性のせいだろう。
ヤドンは水。コイルは電気。明らかにこちらが不利。
「いいよ、大丈夫。ヤドさまに任せる」
私に任せて、じゃない。ヤドさまに任せるのだ。
The 放任主義。そもそも、私が指示しなくても、この子勝手にやっちゃうんだもの。
私の言いたいことを感じ取ってくれたらしい二人は、揃って苦笑した。私もしたい。
「でもさ、あっち電気だよ? しかも二匹。いくらヤドさまでもさぁ」
「平気、平気。コイルは電気と━━」
「何ゴチャゴチャ言ってんスカ! コイル、“ちょうおんぱ”!」
のんびりした私たちが気に食わなかったらしいスカル団が、先制攻撃を宣言した。
ちょうおんぱ。浴びたポケモンを「こんらん」状態に陥いらせる技だ。
ヤドンを混乱させて、その隙に体力を奪う作戦だったのだろう。意外と考えているようだ。
━━だが、
「な、なんで効いてないんスカ!?」
ヤドさまは目を回すこともなく、相変わらずコテンと首を傾げている。
ふふん、ざーんねん。
見て分からないかなぁ。
「セレナのヤドさま、“マイペース”なんだよね」
「見た目そのままだな」
特性マイペース。混乱状態になりません。
赤井さんの言うとおり、まさにそのままだ。この子がマイペースじゃなかったら何だというのか。
「ええい、こうなったら正面突破だ!」
「タイプはこっちが有利!」
バチバチと電気を纏い、攻撃態勢に入るコイルたち。
ぱか、と口を開けるヤドさま。
さーて、何がでるかな?
「っあっつ! あっつ!」
「嘘だろぉおおおお?!」
“かえんほうしゃ”……。
流石だヤドさま。そうだね、コイルは鋼だもんね。
ぷすぷすと煙を出して倒れたコイルたちを見て満足したらしいヤドさまは、一仕事したぜ、とでも言いたげに私を見る。
うん、ありがとう……。
しゃがんで撫でると、ぱた、と尻尾を振った。
そんな風に、油断していた、から。
「コイル! “ソニックブーム”!」
背後で構えたスカル団に、気付くのが遅れた。
なんで!? かえんほうしゃで瀕死だと思ったのに!
「“がんじょう”!?」
「っ、セレナ! 危ない!」
特性がんじょう。瀕死状態になるダメージを受けても、必ずヒットポイントが1残る。あのコイル、がんじょうか……!
油断した!完全に私のミス!
快斗の叫びが響く中、私は咄嗟に、ヤドさまを抱きしめた。
「アシレーヌ、“れいとうビーム”」
この場にいなかった男の、声。
風を切る音と、冷気が真横を通り抜ける。ゴト、と聞こえた声に振り向くと、氷付けになったコイルが地面に転がっていた。
「うん、やっぱりいい技だね」
にこりと笑ったのは、ヒソカだ。今日はまだ姿を見ていなかった。
れいとうビームでコイルを仕留めたアシレーヌは、ヒソカの隣で優雅に佇んでいる。
……ん?
「なんで一晩でアシレーヌになってんの!?」
昨日までアシマリだったよね?!
驚きを声に出して問い詰めるも、ヒソカはニコニコ笑うだけだ。私だけじゃない、快斗と赤井さんも目を見開いているが、知ったこっちゃないらしい。
「お、覚えてろよぉおおおおお!」
ヒソカの登場で既に存在を忘れかけていたスカル団。ごめんよ。
昨日も聞いた捨て台詞を吐いて、彼らは逃げ足早くこの場を去った。また来るんだろうなぁ。
「ヒソカ、アシマリ進化させたの?」
「一晩でだいぶ特訓したんだな」
「頑張っちゃった」
語尾にハートがつく声音。
どんなスパルタだよ、と思うが、アシレーヌは幸せそうにヒソカに寄り添っているから……ま、まぁいいか。
「俺たちも頑張らないとね、モクロー!」
「ニャビー、行こうか」
二人のやる気スイッチがオンされたらしい。
やれやれ。これ、次にスカル団来ても、今度は御三家最終形態がお相手になるんじゃないかな。
ねー、と声を掛けると、ヤドさまは私の腕の中でぱかっと口を開けた。
……欠伸だった。
>> ぼうけん が はじまらない!