Valentine 17

「じゃあ……チョコレート湯煎しよっか」

「「「はーい!」」」



我が家の台所では、お菓子作り講座が開かれていた。
蘭ちゃん、園子ちゃん、真純ちゃんに私。このメンツで講師は私。なぜだ。

ちなみに、ガトーショコラができあがる予定である。



「蘭くんは工藤くんにあげるんだろ?」



チョコレートを溶かしながらの真純ちゃんの言葉に、パッと蘭ちゃんの頬が染まる。
かわいいねぇ……。同じことを思ったのか、園子ちゃんもニヤニヤとしていた。



「べ、別に新一にだけあげる訳じゃないわよ!? お父さんやコナン君のために作るから、余ったら分け前くらいあげようかなって……!」

「またまたぁ」

「はいはい、ごちそーさま〜」

「そういう園子くんも彼氏にあげるんだよな?」

「そ、そうよ! 園子は京極さんにあげるんでしょ!」



話の矛先を自分に変えられて、園子ちゃんは一瞬動きを止めた。
それから、それはそれは重いため息を吐いてみせる。



「あげたいのは山々なんだけどぉ、真さんったら全然帰ってこないんだもん。滅多に連絡もくれないしー! 手作りチョコなんて、渡す前に賞味期限切れよ」

「そ、そっか……」



確かに、京極さんら空手の武者修行のために世界を飛び回っている。バレンタインに合わせて会いに来る……なんて柄ではないだろう。
それに関しては多少吹っ切っている感のある園子ちゃんだが、心なしかしょんぼりして見える。
あちゃあ地雷か、と真純ちゃんと目を合わせ、そっと苦笑した。



「でも、それを言ったら、新一だってそうよ……」



おっと今度はこちらがしょんぼりしてしまった。
高校生探偵・工藤新一は、難事件を追って全国を駆け回っている━━ことになっている。
いくら蘭ちゃんがチョコレートを用意したところで、バレンタインに合わせて渡せるとは限らないのだ。

うーん、どうフォローしよう?
頭を悩ませたとき、そうだ!と明るく声を出したのは、真純ちゃんだった。



「お菓子ができたら、写真を送ってやればいいんだよ!」

「写真を……?」

「そーそー、手に持ってさ。こんなに美味しそうにできたのにあげられないなんて、ここにいないそっちが悪いんだよ〜ってね!」



ニッと笑ってみせる真純ちゃんに、蘭ちゃんと園子ちゃんも笑った。

女の子かわいい……女子会尊い……!
まさしく私の求めていた空間に、心が満たされた。



「My present is me! とでも書いておけば飛んでくるんじゃないか?」

「マイプレゼント……私のプレゼントは、って、ちょっと!」



にひ、と笑った真純ちゃんに、一拍して意味を理解した二人がボンっと赤くなる。
何言ってるのよー!と噛みつくが、マイプレゼントちゃんはケラケラと笑ったまんまだ。

プレゼントイズミー。直訳しても曲解しても、たどり着く意味は一つだ。やだアダルティ!
「男ってそういうのが嬉しいんだってさ」ですって。誰情報なのそれ。ママさん? ママさんなの?



「で、そーいう世良ちゃんは? 誰にあげるの?」

「ボク? そうだなぁ……とりあえず、コナンくんかな!」

「コナン君モテモテだねぇ」



口を挟めば、三人の視線が一斉にこっちを向いた。
え、なに。



「セレナくんは、あの昴って人にかな?」

「え」



にひ、と笑ったのは真純ちゃんだけじゃなかった。
にひひひひ、と園子ちゃんが笑っている。



「やーね世良ちゃん、決まってんじゃないの!」

「いや、いやいや、決まってないから!」

「あげないの?」



蘭ちゃーん!
そんな不思議そうな顔して小首を傾げないでエンジェル!

なんだか心の底から気恥ずかしくて、三人と一緒になってきゃいきゃいとはしゃいでしまった。



「おや、いただけないんですか?」



そんな空間に突如入りこんできた男の声。
バッと一斉に視線を向けると、そこには入り口で佇む沖矢さんがいた。



「お、沖矢さん?」



思わず呼んでしまったのは、単純に不思議だったからだ。

彼が我が家に来るのに、わざわざ“沖矢昴”である必要はない。いっつも素顔でふらっとくるくせに、なぜ今日は沖矢さん?
いやまぁ、沖矢で正解なんだけども……。

ふと、沖矢さんの背後のヒソカに目が行った。ニコリと笑って人差し指を立てる。
慌てて、“凝”。オーラを体の一部に集中させる技だ。今回は目。オーラを目に集中させて、ヒソカのオーラを見る。
思った通り、立てた人差し指の先には、オーラで記されたハンター文字。一筆書きになるから、崩れたり省略されたりはしてるけど、充分判読できる。あんた本当に器用ねぇ……。

ヒソカによると、「玄関で捕獲」したらしい。なるほど、赤井さんで訪れた彼を、パパッと沖矢さんにしたのはヒソカか。正しい。よくやった。



「どうしてここに?」



真純ちゃんの声に、少し険が入っている。
前々からだけど、彼女は沖矢さんに若干厳しい、というか、余所余所しいというか……どうも信用できないっぽい。キミのお兄さんだよー!なんて言えないのがもどかしいな。



「セレナさんにチョコレートを貰いにきました」

「「ええええええ!」」



やめて、ほんとやめて。
ニッコリ笑わないで沖矢さん。きゃぁあ!と黄色い悲鳴を上げないで蘭ちゃん園子ちゃん。
ハッと鼻で笑わないで真純ちゃん……!



「沖矢さん、そういう冗談やめてください」

「すみません、つい」



くす、と笑った沖矢さんに、呆れの溜め息がこぼれる。
で?と軽く睨みつけたのは真純ちゃんだ。



「本当は何しに来たんだ?」

「ヒソカさんに本を返しに来たんですよ。そうしたら、甘い匂いがしたので気になりまして。お邪魔してすみません」



当たり障りのない言い訳だ。実際、ヒソカと沖矢さんは知り合い(の設定)だから、それほど無理はなく話は整う。

本当に覗きにきただけのようで、「では」と言い残した沖矢さんはくるりと背を向けて去っていった。
ヒソカも手を振って、同じく去る。



「びっくりしたね」

「ねー。でも良かったじゃないセレナ、渡しに行く手間が省けて!」

「だから……なんで私が沖矢さんにあげる前提なの……」



不満です、と全面に押し出して唸ると、女の子が三人してきょとんと瞬いた。
代表して、「でも」と口を開いたのは真純ちゃんだ。



「あげるんだろう?」



あげ……ますけど!?


その後、リビングにて



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